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2011.12.21
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カテゴリ: 気になる本
<「実戦・世界言語紀行」2>

それから、現在、世界共通語としてのデファクトスタンダードを得た米語に対する思い入れは皆無であり・・・・
「通訳もつれずにやってくる、厚顔の言語帝国主義者たちには、手をやいた」とまで言う梅棹さんの潔さというものが、反米の大使にとって心地よく感じられたのだが、こんな読み方で良かったのだろうか?

「実戦・世界言語紀行」梅棹忠夫著作集・第20巻 梅棹忠夫著、中央公論社、1993年刊

<朝鮮語とハングル>p487~488
 朴仁植君が母国語についての言語学的知識をどこで身につけたのか、わたしは知らない。京都にきて、日本語で生活するようになってからではないかと、わたしは想像する。人間は、母国をでて外国で生活するようになって、はじめて母国のことをよく理解したいという気になるものだ。言語についても例外ではない。われわれ日本人もいちど外国にでて、外国語で生活してみると、日本語の特質もよくわかるようになる。そもそも、外国語をまなぶことの意義のひとつは、そこにあったはずだ。ちがう言語をまなぶことによって、自国語の特質をしり、人類文化の多様性を理解しようというのである。

 当時は朝鮮半島においても日本語が強制されていたような時代であるから、内地で朝鮮語の教科書などは手にはいりようがなかった。ようやく一冊の会話書を手にいれて、わたしはそれで勉強した。
 一般に、外国語の会話書というものは、実地にあたってはあまり役にたたないことがおおいが、この朝鮮語の会話書は、とりわけひどいしろものだった。日常会話の文例が雑然とならんでいるだけで、初学者のための配慮などなにもなかった。結局、わずかな単語とかんたんなフレーズを覚えただけでおわった。

 朝鮮語の文法は日本語の文法とおどろくばかりよく似ているので、まなぶのに困難はなかった。ただ、発音はかなり難しいとおもった。日本語の子音には清音と濁音との対立があるが、朝鮮語には無気音、有気音のほかに、はげしく息をはきだす激音というのがある。これがむつかしかった。文字はハングルのほかに漢字が使われていたが、その発音は日本語における漢字の音のよみから類推のきくものが少なくなかった。たとえば、大学校はテーハッキョウである。

 ハングル、すなわち朝鮮文字はすぐ読めるようになった。この字は子音字母を偏に、母音字母を旁(つくり)にして、語尾の子音を下にそえるのである。これで一字になる。なかなか合理的にできているのだが、どうしてもひろい読みになるので、はやく読むのは難しかった。
 この字の形は、わたしは子どものときから読めないままによくなじんでいた。その当時は、選挙となると候補者の名まえを大書した立看板がならぶのだが、それにはかならずハングルのルビがふってあったものである。朝鮮半島出身者ももちろん日本国民であるので、選挙権はあったのである。



<電話機がこわれる>p556~557
 アフガニスタンでは、もうひとつ別のイラン系の言語を経験した。それはパシトウーン語、またはプシトウー語といわれる言語である。アフガニスタンとパキスタンの国境ぞいに、パキスタン領内に南北にほそながくパシトウーニスタン、あるいはパフトウーニスタンとよばれる地域がある。これの帰属をめぐって、アフガニスタンとパキスタンのあいだにはながく紛争がつづいている。
 パシトウーン人といういうのは、もともとアフガニスタンの主力民族でアフガン族ともよばれ、国名もこれからきた。国内にも地方にも、遊牧民としてたくさんすんでいる。その言語がパシトウーン語である。
 わたしはもちろんこの言語をまなんだわけではないが、聞いたことはなんどもある。ものすごくつよい発音の子音がつづいて、わたしたちの耳には「ギジギジ、ガジガジ」としか聞こえない。カーブルでもときにはこの言語が話されるらしいが、電話でこの言語が聞こえてくると、「ちょっとまってくれ、電話機がこわれる」というそうだ。

 ゴラート地方で遊牧民の王さまという人にあったことがある。その人はパシトウーン語をはなしたが、ファルシー(ペルシャ語)もできた。ただし、ファルシーをパルシーといった。ファラーという地名をパラーといった。パシトウーン語にはfの音が存在しないのである。

 アフガニスタンではもうひとつ、まったく系統のことなる言語を経験した。それはヒンズークシ山脈の北側、いわゆるアフガン・トルキスタン地方におけるチュルク系の言語、とくにウズベク語である。その地方でもファルシーは通用したが、町なかの市場などで聞く言葉は、まったく音調のちがうものであった。わたしはチュルク系の言語を学んだことはないので、もちろん意味はわからない。

 チュルク系の言語は、中央アジア一帯に広くひろがっている。わたしは、その言語の話されている地域をなんどか旅行した。ソ連領では中央アジアのウズベク共和国とトルクメン共和国を訪れているが、いずれもチュルク系の系統の言語である。
(中略)
 中国では、新疆ウイグル自治区のウイグル語がそれに属する。わたしはウイグル族の居住地を二度訪れたことがある。そこにはウイグル族のほかに、ハザック族もいる。これは、ソ連領のカザフ共和国の住民たちとおなじ言語を話している。また、パミールの山中では、キルギス族に出あった。かれらはソ連領のキルギス共和国の住民たちと同族である。
 トルコ共和国のトルコ語も、もちろんチュルク語のひとつである。国立民俗学博物館の松原正毅教授はながくトルコ共和国で遊牧民の研究をしたひとで、トルコ語は自由に話せる。彼によれば、トルコ共和国のトルコ語で中国の新疆ウイグル自治区のウイグル族の人たちと、じゅううんに話が通じるそうである。実際、彼は博物館を訪れてきたウイグル族の人と自由に会話をかわしていた。チュルク系の諸言語の広がりかたに驚かされると同時に、その言語的均質性にも驚かされる。



<クメール語とベトナム語>p567~568
1日文字数制約の関係で割愛




<ディマス神父とフランス語>p568~569
 1日文字数制約の関係で割愛



<コックニー>p625~569
 1日文字数制約の関係で割愛




<おぞましい日本語>p647~649
 外国人に対して自国語の普及を促進するということは、一歩まちがうと自国文化のおしつけになりかねないし、文化侵略という非難をうけかねない。戦前の外国における日本語の普及には、そのようなきらいがあった。現在の状況はとてもそんなことではない。積極的な普及どころか、世界の要望のまえに受け身でたたされて、その需要に応じきれないというのが実情である。
 世界のなかの日本語人口が増加すると、日本語はいずれひとりあるきをはじめるだろう。外国人どうしのコミュニケーションに日本語が使われるようになるのである。日本人は日本語を自分たちの所有物であり、私有財産だと思ってきた。日本語をじょうずにあやつる外国人に対しては、なにか自分たちの聖域をおかされたような気もちを抱く人がおおいのではないか。世界において日本語の使用人口が増大すると、そのような私有物感覚では対応できなくなるだろう。日本語は世界人類の共有財産の一部となるのである。日本人は、日本語を人類の共有に委ねるべく差し出したのである。ちょうど、柔道が世界的スポーツになったようなものである。柔道の起源は日本に発するが、いまや世界人類の共有するスポーツであって、日本人の独占物ではない。
 日本国民の私有物から世界人類の共有財産にうつるとともに、そこでは多分ある程度の改変作用がおこるだろう。柔道が国際化するとともに、体重別の制度が導入されたように、日本語も国際化とともに、なんらかのルールの変革がおこる可能性がある。たとえば、敬語が現状のままで行われるかどうかには疑問がある。それはそれでよいのではないか。
 国際化とともに、日本人には聞きなれない奇妙な表現が外国人の日本語のなかに現れてきても不思議ではない。ときには、かなり聞きぐるしいことも出てくるであろう。わたしはそれを「おぞましい日本語」といっている。日本人は、そのような「おぞましい日本語」を聞くことに耐えなければならないのである。わたしたちの使う英語は、おそらくはイギリス人には「おぞましい英語」であろう。イギリス人は、世界で行われている「おぞましい英語」に耐えて、それを寛容にみとめているのである。言語の国際化とはそういうものであろう。
 現在、国際語と考えられている言語は、いずれもこういう試練をうけて発達してきたものであろう。英語なども国際化とともに、かなり変わってきたものらしい。外国人の手による改変とともに、イギリス人自身が外国人にしようと努力して、作り変えたところが少なくないようである。日本語もその過程をへるのではないか。


<日本語の可能性>p650~651
 以上のような点を考えると、日本語は近代文明を運転するための言語としては、おそろしく未整理なのである。ながいあいだ言語的鎖国状態で、自国民どうしで慣れあいでやっているうちはこれでも間にあったが、国際化が進行しはじめると、このままではいけないのではないかと思われる。
 日本語が不合理な言語であるとは思わない。合理か不合理かといえば、すべての言語は不合理である。それは習慣の束というにすぎないのである。たとえば、ひとつの語がなざそういう形をとっているのか、ということの合理的根拠などあるわけがない。合理・不合理の問題ではなく、近代文明を運ぶために都合よくできているかどうかの問題である。現代日本語はどうも具合の悪い点が少なくないように思われる。
 言語というものは、分かりやすい点もあるが、一面においてひどく保守的なところがある。へんなところや、不都合な部分がいっぱいあっても、なかなかそれはなおらない。日本語も国内の使用者だけでは変革のエネルギーに乏しいのではないだろうか。

 現在進行しつつある日本語の国際化は、日本語の将来に対してなんらかの影響を及ぼすかもしれない。日本語を母語としない人たちによって、日本語の規格化、標準化、安定化は進められて、この言語が世界のなかの国際語のひとつとして洗練されたものになっていく可能性はないものだろうか。

他にも、モンゴル語、バスク語、カタラン等々・・・興味は尽きないが、1日文字数制約の関係で割愛します。(左の「 個人的言語学5 」には削除なしで載せています)

「実戦・世界言語紀行」1






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Last updated  2011.12.27 21:48:37
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