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2012.09.12
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カテゴリ: 映画
たまたま「中国・台湾・香港映画のなかの日本」という本を図書館で借りたのですが・・・



【恋する惑星】
王家衛
王家衛監督、1994年香港制作

<goo映画解説>より
90年代を代表する映像作家、「いますぐ抱きしめたい」「欲望の翼」のウォン・カーウァイが、香港は重慶マンション周辺を舞台に、ある二組のカップルの出会いをめぐるドラマを独自の語り口と映像感覚で綴った一編。

<大使寸評>
原題は『重慶森林』というこの映画は、まだ観ていないけど、こんど大学図書館でDVDを探してみよう。

goo映画 恋する惑星


この本「中国・台湾・香港映画のなかの日本」の関連個所を紹介します。

<『恋する惑星』>p169~176
 世界に香港映画の存在を知らしめたのがブルース・リーだったとすれば、はじめて世界の檜舞台を踏んだ香港の映画監督は、ポスト・ニューウェーブ世代の王家衛である。デビュー作『いますぐ抱きしめたい』(1988年)がカンヌ映画祭新人賞にノミネートされたのをはじめとして、『楽園の瑕』(1994年)でベネチア映画祭芸術貢献賞を受賞、『ブエノスアイレス』(1997年)はカンヌの最優秀監督賞を受け、2006年には同映画祭の審査委員長をつとめた。2007年の『マイブルーベリーナイツ』はカンヌのオープニング作品に選ばれている。
 王家衛は、1958年に上海で生まれた。名前の「家衛」は、当時中国軍人の心得とされていた「保家衛国」から取ったという。5歳のとき、兄や妹と離れ、父母とともに香港に移った。香港では周囲の話す広東語がわからず、母と映画館に入りびたっては、毎日ニ、三本ずつの映画を見たという。香港では地元の作品だけではなく、中国、台湾、そして日本を含む海外の映画を見ることができた。香港理工学院を卒業し、無線電子台(TVD)のシナリオライター養成コースに合格。その後、ニューウェーブ監督の作品で脚本家として修業したあと、弱冠30歳で監督デビューした。中英共同声明が発表され、返還へのカウントダウンがはじまって以降に作品を発表しはじめた点で、ポスト・ニューウェーブ世代に区分される。
 デビュー作『いますぐ抱きしめたい』は、香港社会の底辺からはい上がれないチンピラを描きつつ、スタイリッシュな映像で注目を浴びた。
(中略)
 1994年の『恋する惑星』は香港金像賞グランプリを受賞した。アーティスティックな要素と娯楽性を兼ね備え、外国の批評家からも、地元香港の観客からも支持された作品である。同年、返還まで3年となった時期の香港を舞台にした、史上最も香港らしい香港映画といえるだろう。その作品に日本が見え隠れする。

 邦題『恋する惑星』の与えるのどかなイメージとは裏腹に、原題は『重慶森林』、英語タイトルは『Chunking Express』だ。Chunkingは重慶のこと。直接的には、映画前半の舞台となる九龍半島の繁華街、尖沙祖の雑居ビル、重慶マンションから取られているが、重慶といえば日中戦争中に国民党政府が移転した内陸の大都市である。(中略)そして重慶は、日本軍が五年あまりで200回を超える空襲をおこない、1万人以上の犠牲者を出した重慶爆撃の現場である。
 したがって、『重慶森林』というタイトルは、少なからざる中国人観客の脳裏で、「重慶―国民党政府―日本軍による爆撃」という一連のイメージを喚起する。王家衛監督が歴史や政治に無関心でないことは、彼が本作製作の前年に設立したプロダクションの名前が、中華人民共和国建国の指導者と同じ「沢東公司」であることからも明白だ。
(中略)
 重慶マンションは東京なら新宿通りにあたる繁華街ネーザンロード沿いに、1962年に完成した17階建て、全900室あまりの巨大マンションだが、実情は世界最大の雑居ビルである。本来は住宅用に開発されたが、安宿としてバックパッカーを受け入れるゲストハウスがたくさんある。インドなど南アジア出身者が集まって住むことでも知られ、安価で本場のカレーが食べられる店やインド服屋も多い。映画の中では、麻薬の密輸に携わるインド人たちが住む場所で、インド人の靴屋やクリーニング店も登場する。香港にインド人が多いのは、香港もインドもイギリスの植民地だったからだ。そして重慶マンションにあふれる南アジアの気配は、かつて国民党政権の首都だった重慶に、当時のビルマからいわゆる援蒋ルート経由でアメリカの支援物資が送られ、金持ちたちの腐敗した暮らしを支えていたことと妙に符合するのだ。

 では、『重慶森林』の「森林」とは、いったい何のことだろうか。これは、1990年代初頭に香港で大流行した「ノルウェイの森」から来ていると考えるのが自然である。王家衛監督は、文革中も上海にいた兄姉の影響でバルザックやユーゴーなどフランスの小説を読んで育ったとインタビューで語っているが、日本文学にも造詣が深い。小説好きの兄のほかにも、上海の有閑階級出身でオペラ好きだったという母の影響を受け、多くの文学作品にふれたのだろう。村上春樹作品にも詳しく、王家衛作品に男性主人公のモノローグや時計のイメージ、数字が頻発するのは、村上の「1973年のピンボール」にふれて以降のことだという指摘もある。「ノルウェイの森」については、日本人評論家のインタビューで、本人がはっきり読んだことを語っている。
(中略)
 王家衛の映画らしく、筋書きはあるような、ないような。しかし、そこに何ともいえない香港さしさが漂う。特に坂道を舞台に不安定な物語が進行する時には。223と663はどちらもひとりの女性を失い、次の女性と出逢った。「ノルウェイの森」の主人公ワタナベ君が、直子を失い小林緑と出逢ったように。それにしても、ふたりの警察官には名前がない。あるのは番号と日づけだけだ。

<重慶爆撃と「ノルウェイの森」>p177~179
 『恋する惑星』に日本は出てこない。しかし原題の「重慶」と「森林」の間を見えない爆撃機が結び、「ノルウェイの森」と『重慶森林』が響き合っている。
 村上春樹がどれほど中国語圏で影響力をもったかは、1990年代における彼の存在が、1940年代上海の伝説的人気作家、張愛玲に比して語られたことからもわかる。張愛玲は日本軍占領中「孤島」期の上海で小説を発表し、日本軍と通じた汪精衛政権で役職についた文人胡蘭成と一時結婚していたために、戦後の中国ではパージの対象となり、1980年代まで作品も封殺されていた。しかし、台湾や香港では、都会的かつ耽美的な作風に、熱狂的ファンが存在しつづけた。終末感漂う上海租界や戦時下の植民地香港を舞台とした退廃的で繊細な短編が、彼女の小説世界である。そこに上海映画に通じる「政治的曖昧さ」を加えてもよい。村上春樹作品が香港や台湾で「張愛玲の再来」としてブームを巻き起こしたのは、ひとつには共産党による上海の解放後、中国大陸から都市文化が消えていたためである。オールド上海の美意識は、台湾映画では楊徳昌が、香港映画では王家衛が継承した。どちらも上海生まれだ。王が香港という都会を主人公として撮った『重慶森林』が、村上春樹作品と共振するのに不思議はない。

 映画前半の男性主人公を演じる金城武は、日台混血俳優だ。日本では日本国籍であることが強調されるが、台湾や香港では「琉球と台湾のハーフ」と紹介されることが多い。台北の高校時代、バイクの購入費用を稼ごうと、コマーシャルやテレビドラマに出演したのがデビューのきっかけだという。中国語のナレーションに出てくる「彼女は山口百恵だけれど、俺は三浦友和じゃない」という台詞は彼の血統に言及したものだが、なぜか日本で発売されているDVDの字幕ではカットされている。日本のポップカルチャーが香港に浸透していたことを示すだけに残念だ。
 後半の男性主人公を演じるトニー・レオンは、王家衛監督によれば、やや斜に構えてじっと見つめる表情が太宰治に似ているという。みごとな見立てというべきで、そこから「美男子と煙草」を想起するにいたっては、日本の映画監督でもちょっとかなわないのではなかろうか。それだけ、太宰の作品そのものも、人物像についても、深く読み込んでいるということだろう。20世紀末の香港で、日本の近代文学がこのように深く受容されていたことは、ほとんど気づかれていないが。

 『恋する惑星』公開の翌1995年、香港・日本合作で製作された『南京の基督』(区丁平監督)は、芥川龍之介の同名小説をもとに映画化したものだが、作中に小説家本人を登場させ、その役をレオンカーファイが演じた。相手役となる中国人娼婦を演じたのは日本人女優の富田靖子だ。明るさを感じさせるレオンカーファイは、暗い芥川とはあまり似ていないが、不思議と日本人には見える。そして本作の企画は、区監督が芥川ファンだったことによるという。芥川作品の中でも決してメジャーではない「南京の基督」を取り上げている点、「美男子と煙草」同様、日本文学に対する造詣の深さをうかがわせる。
 香港映画は日本人について、ハリウッド的なステレオタイプを繰り返しただけではなかったのだ。『南京の基督』の例は、王家衛監督が例外でないことを示している。

村上春樹がアジアで読まれているとは知っていたが、中国の映画監督が芥川龍之介や太宰治まで読んでいるとはね。
これが領土問題となると、また別の顔が見えてくるわけで・・・・「東アジア共同体」成立は夢のまた夢なのか。

ところで、重慶爆撃を暗喩する映画、文学の世界と違って・・・・昨今の政治、国際裁判の現状は生々しいようです。

9/4 中国国内で日本政府を相手に提訴…重慶爆撃の被害者グループ より
 日中戦争中に日本軍が行った重慶爆撃の被害者らで作る重慶大爆撃民間対日賠償請求団は9月3日、日本政府を相手に戦争被害の謝罪と賠償を求める訴えを起こすことを明らかにした。中国新聞社が報じた。

 重慶大爆撃民間対日賠償請求団に所属する直接の戦争被害者は8人で、7人は被害者の遺族。被害者中の最高齢者は王樹臣さんで91歳。日本軍の爆撃で左足を負傷したという。
 同団の弁護士団の1員であり、西南政法大学で国際法を専攻する潘国平教授によると、戦争被害者が日本政府を相手取り、中国で訴えを起こすのは初めてだ。

 国際慣習法上、国際民事裁判の被告が国家の場合、外国の裁判権から免除される「主権免除」となるのが通常だが、賠償請求団は、重慶爆撃は無差別爆撃で戦争犯罪であり、主権免除の対象にはならないと主張。さらに、国際法の慣例に従い、戦争犯罪に時効は成立しないとの立場をとる。

 原告たちは10日に起訴状に署名し、同日午後2時に重慶市高級法院(裁判所)に提出する予定だ。潘教授は「成功すれば、一連の日本侵略戦争の被害者に、新しい救済の道を開くものだ」と述べた。








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Last updated  2012.09.12 09:34:47
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