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2013.08.20
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カテゴリ: 気になる本
小田さんの伴侶は在日の人であり、その姑にあたるオモニとの交流をつづったのがこの本「オモニ太平記」であるが・・・

それに、オモニの家は神戸の長田区にあったそうだが、長田区といえばドングリ国内である。
ということで、土地勘もあり、大使のツボにヒットする本でした。



オモニ

小田実著、朝日新聞社、1995年刊(表紙写真は講談社文芸文庫のもので代用)

<「BOOK」データベース>より
20歳下の在日朝鮮人の妻と4歳半のひとり娘は、いま「人生の同行者」だ。そして、済州島生まれの海女と船頭だった義母と義父。…世界を駆ける作家・小田実が慈しみ深く描いた「わが家族の肖像」。

<大使寸評>
ま~「オモニ語」、済州島語、関西弁の日本語が飛び交い・・・言語学的にも面白いお話です。 
それに、オモニの家は神戸の長田区にあったそうで、長田区といえばドングリ国内である。・・・・ということで、土地勘もあり、大使のツボにヒットする本でした。

amazon オモニ太平記


小田さんの伴侶、玄順恵さんが次のように語っています。
『オモニ太平記』人間力から紡ぎ出された言葉


この本から、思想家、「オモニ語」のあたりを紹介します。

<ヤクジャと思想家> よりp25~30
 思想家(ササンガ)は、朝鮮にあってはインテリことばではなく、チマタの人のことばだ。そして、そのことばに―ことばが言いあらわす人間存在に畏敬の気持ちを持っている。たとえば、わが村に本ばかり読んでいるいっぷう変わった男がいる。そういう男を、キチガイ扱いする度合いは日本の村落においてのほうが朝鮮の村落よりはるかに大きいにちがいないし、また逆に彼を「ササンガ」として尊敬する度合いは朝鮮の村落において比較にならないほど大きいだろう。その「ササンガ」尊重の村落においてキチガイ扱いされずに、逆に「ササンガ」として生きていたのが、まぎれもなくオモニのアボジだった。
(中略)
 昔の日本人はいざ知らず、今の日本人は、どうやら「思想」なんてものには何の価値も見出していないのかも知れない。いや、それはそもそも昔ながらのことで、「思想」にかかわっての日本人の心の動きを考えてみると、あんなものには何の力もない。したがって、価値はない。ゆえに尊敬するどころか、思想の持ち主、つまり「思想家」を軽視、無視どころか、軽蔑あるいはキチガイあつかいする。
(中略)
 しかし、もちろん、この人物が何をかくそう、どこかの大学の先生であったとすると、たちまち、あれはえらい人だということになる。
 ここで少し脱線しておくと、世には大学教授であって「思想家」でない人は山といる。いや、そっちのほうがふつうだ。いつかインド人の友人の小説家が日本に来たとき、わたしは彼を知り合いの大学教授に会わせようとした。彼、即座に言ってのけた。「そいつはただの教授かね、それとも知識人か」これには参った。彼のその「知識人」ということば、オモニ流になおして言えば「ササンガ」だ。

「昭和」の何年かに芥川賞の候補になった金史良が書いた作品に、妓生(キーセン)と彼女の息子を主人公にした大衆小説がある。お母さんが妓生をしながら、健気に利発な少年の息子を育てるというよくある筋書きの話だが、なかに、お母さんが息子に、大きくなったら、何になりたいかを訊ねる場面がある。利発な少年の答えは簡単、「ササンガになります」。では、なぜ、なるのか。「思想はトラにも勝ちます」。
 言うまでもなく、朝鮮はかつてトラが猛威をふるった土地だ。トラがもっとも凶暴で、力ある存在だったと見てよいだろう。そのもっとも凶暴で、力ある存在のトラに勝つ。
 日本人には、そんな考え方はないだろう。思想はいつでも力弱くて、風にそよぐアシののようなものであって、だから、強権の発動、あるいは流行によって簡単に「転向」できるのだ。世の中で力あるものは、権力、金力、武力であり、それを手中にした者であって、「思想」なんてものには、その思想を持つ、それしか持つもののない「ササンガ」なんて人間には何の力もない。これは早い話、日本の学生運動と韓国の学生運動をくらべてみるとはっきりする。日本の学生運動でばらまかれるビラには、難解で、ひとりよがりで、何を書いてあるのか判らないのが多い。どだい、ビラの文章の力、「思想」の力によって、人を動かそうとする気持ちなどないようだ。韓国の学生運動のはちがう。彼らはビラの文章の力によって、人びとに訴え、動かそうとする。彼らは「思想」の力を信じる。

 しかし、よく考えてみると、「思想」には力がない。「ササンガ」は無力な「弱者」だという日本人の考え方は、世界全体から見ると、かえって特殊であるにちがいない。ヨーロッパにおいても、他のどこの地域においても、日本でのように「文弱」の考え方はない。逆に、そこにあるのは「文強」の考え方だ。日本人のほうが、朝鮮人よりもはるかに世界の「常識」から外れている。

 さて、オモニである。オモニも、そこで世界の「常識」人だ。「思想」には力があり、「ササンガ」は強い。そこへもって来て、人格高潔、品性、志高く、知識、理想あって―となれば、娘のつれあいとして申し分ない。いや、まあ、仕方がない。すくなくとも、ヤクジャではない、かわいい娘を売り飛ばすことはないだろう。


「思想家は無力な弱者だという日本人の考え方は、世界全体から見ると、かえって特殊であるにちがいない」という小田さんの思いは、思想家にまで登りつめた小田さんの指摘であるだけに容赦ないですね。


<「オモニ語」と「アボジ語」> よりp34~36
 アボジの例が端的に示しているように、みんな食えないからやって来たのだ。かたい言い方を使えば、たちまち労働の現場に入ったということになるが、彼女の日本語を聞いていると、なるほで、この人たち、日本語を頭でなくからだでおぼえたのだなという気がつくづくとして来る。日本語でどなられたり、わめかれたり、あるいは、自分からカタコトをブツブツ口にしたりしているあいだに身につけて来た日本語だ。学校で習いおぼえた日本語ではない。
 まず、ここでことわっておかなければならないのは、オモニもアボジも字が読めないことだ。カナとか漢字とか、日本で使われている文字が読めないだけではない。朝鮮の文字ハングルも、おそらくろくすっぽ読めない。数字はどうやら判るらしいのは、オモニの手帳、あるいは、それらしきものに娘たちの電話番号の数字がゴチャゴチャと書きつらねてあるからである。もっとも、これは自分で書いたのではない。娘たちが自分で勝手に書き込んでいったものだ。名前も書いてあるが、それは読めない。ただ字のかたちはおぼえていて、あるいは、番号の順番はおぼえていて、それで用を足しているものと見える。

 わたしは、ことばの判らない国、字の読めない国にやまと行っているので、こういうオモニたちのことのありようがよく判る。たとえば、アラブ語の世界に行くと、わたしはまったくお手上げになる。ことばはさっぱり判らないし、第一、字がまったく読めない。道を歩くのにも、バスに乗るのにも、道路標識も行き先を記した文字も、すべて判らない文字だから、教えてもらったりおぼえていたりする文字のだいたいの形で見当をつけるのだ。実際、オモニもアボジも同じようなことをしていて、駅の自動販売機で切符を買うときは、文字のかたちで見当をつけてボタンを押しているようだ。
 オモニはたしかに最初、朝鮮語―と言うよりは済州島語という字引を1冊、頭のなかに持って日本にやって来たのだが、50数年、日本人社会のなかにもまれて来たおかげで、字引は日本語と入りまじったものになってしまった。


日本語社会で苦闘するオモニの思いは、仕事で韓国に渡った大使が英語、日本語交じりでなんとかやり過ごした苦労と同じではないかと、過ぎてしまえば懐かしく思い出すのです(笑)






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Last updated  2013.08.20 00:02:20
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