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2013.08.23
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カテゴリ: 気になる本
図書館で借りた「秘密の本棚」という本を読んでいるのだが・・・・
いしかわじゅんさんがマンガ作家であるだけに、同業者を見る目は鋭いのである。
谷岡ヤスジや諸星大二郎を正しく評価しているのが、個人的には、なんともええ感じである♪

ヤスジ


<天然のヤスジ> よりp278~280
 76年から77年あたりにかけて、ぼくはエロ本の売れっ子になった。そのころ、ヤスジもエロ本でたくさん仕事をしていた。大手でもやってはいたのだが、評価はあまり芳しくなかったように記憶している。かつてメジャーを張ったが、その後急激に面白くなくなってしまった人というような印象があった。
 しかし、ヤスジはそれでは終わらなかった。
 いつの間にか、作品世界が変わってきていた。『ガキ道講座』のころのような破壊的世界観は消え、画面には地平線が広がり、畑が現れ、牛のタロが寝そべり、タゴが鍬を振るうようになった。
 透明な服を着た不思議なキャラクターが現れ、道を横切っていった。女の股間を針で刺すだけの先生がいた。バターを背負って女の股間にそれを塗る犬がいた。
 おそらく、また誰かが囁いたのだ。ここになにかがある。
 最近のヤスジって、なんか変だよな、とみんな噂するようになった。みんなというのは、業界のみんなだ。業界で受ければ、1年か2年後には一般読者も気づくようになる。そうしてヤスジは、80年代に二度目のブームを迎えたのだ。
 もっともブームといっても最初のそれとは違って、もっと静かなものだった。そして、長いものだった。
 ヤスジはそれから晩年まで、同じ世界観を維持した。村(ソン)という絵に描いたような牧歌的世界で、禅問答のような会話を繰り返した。
 どこの連載も同じ舞台で同じキャラクターだったが、特に問題はない。読者はヤスジの新しいギャグや変わった展開を見たかったわけではないのだ。同じ舞台で繰り返しおこなわれる、いつものものを見たかったのだ。先週見たものと同じだが、どこか少し違う。
 ヤスジに計算があったのかどうか、ぼくにはわからない。『ガキ道講座』にはある程度あったかもしれないが、<村>にはなかったような気がする。谷岡ヤスジがそのまま現れていただけではないかと思うのだ。
 (中略)
 ヤスジと親しくつきあったことはなかったが、出版社のパーティ等で多少立ち話くらいはしたことがある。ヤスジは、自分の面白さを理解していないように見えた。作品を褒めたぼくに、ヤスジはかなり見当違いの反応を示した。やはり、ヤスジの漫画は、素のヤスジの面白さだったのではないかと、ぼくは思う。ヤスジの漫画の面白さは、ストレートにヤスジの才能の面白さなのだ。
<天才>という言葉を安易に使うのは好きではないが、ヤスジにはその匂いがした。



<心に残るあの漫画> よりp332~334
 同じ『COM』に諸星大二郎が現れた時には、ぼくはよくわからなかった。
『COM』の売り物のひとつであった新人賞で、『ジュン子・恐喝』という作品でなにかの賞を受賞して登場したのだ。
『COM』は、泥臭い『ガロ』と比べて、都会的な前衛的な作品がよしとされる傾向があった。ぼくももちろん影響を受けてそういう意識があったので、諸星の受賞作のあまりにも泥臭い絵柄と地べたを這うような物語には、かなり抵抗があった。後の不思議な世界を描く作風とは違って、この作品は、現実の人間の心の底を探るような地道な物語だった。
 この作品のよさがぼくには当時まだ理解できなかった。どうしてこんなヘタで泥臭い作品に賞を与えるのかと不満だった記憶がある。ずいぶん後になってそれを読み返し、また集英社の「手塚賞」に入選した作品『生物都市』その他を読んで、ぼくはやっと絵柄の新しさとは違う諸星の革新性に気づいたのだ。 

 新しさとは、誰も知らなかった線を引くことだけではない。誰も見たことのなかった背景を描き、驚くような構成を見せることも、もちろん新しさのひとつの形ではある。しかし、誰もまだ足を入れたことのない場所を発見することもまた、間違いなく新しさなのだ。
 諸星は、間違いなく新しい描き手だったのだ。  
 大友克洋は、衝撃ではなかった。
 彼が登場したころは、ぼくはもういっぱしの漫画マニアだったので、大友の登場は、必然だったのだ。誰か、なにか、ここに現れるはずだというような、ぼんやりした期待のようなものが、おそらくあったのだ。
 近代漫画は手塚治虫の登場からこちら、ほぼすべての実験はやり尽くされ、地ならしは済んでいた。あとは、なにかが起こるのを待つだけだったのだ。
 なにも具体的な前触れはなかったし、予兆らしきものもなかったのだが、もうなにか起きても不思議はないと、なんとなくみんな思っていたのだ。
 だから大友が『漫画アクション』増刊でひっそりと登場したのは見逃さなかったし、すぐになにかが始まっているということもわかったが、驚きはしなかったのだ。


ポンちゃんこと山田詠美にもふれているが・・・
エイミーは漫画作家でもあったわけですね。知らなかった。
いしかわさんが小説を書き始めたことに、エイミーも影響を与えたんでしょうね。

双葉

<漫画と小説> よりp338~339
 山田詠美は、山田双葉だった。
 ぼくの大学の後輩というか、正確には、大学漫研の後輩だった。
 卒業してずいぶん経ってから、漫研に顔を出したら、態度の悪い新入生がいた。それが山田双葉だった。
 明らかにクラブの中で、ひとりだけ異質だった。ひとりで孤立して胸を張っていたので仲良くなり、漫画を描きたいというので、どんなものを描いているのか描きたいのかをチェックし、合いそうな編集者と編集部を紹介した。
 とりあえずは、当時ブームの渦中にあった<三流エロ劇画誌>の御三家のひとつ、現在は劇作家になっている高取英が編集していた『劇画エロジェニカ』を紹介したのだが、しばらく描いているうちに、もう少し格下の本からも依頼がくるようになり、またしばらくすると、主婦の友社から出ていた『ギャルズコミック』という新興の少女漫画誌でも連載を持つようになる。
 しかし、ぼくは山田双葉は、漫画家としては続かないだろうと思っていた。根気がなさすぎたのだ。
 漫画は、作品を完成させるためには何度も同じ工程を繰り返さなくてはいけない。シナリオを書き、下描きをし、ペン入れをして仕上げをする。何度も何度も繰り返し同じものを、頭から最後までなぞらなくてはいけないのだ。山田双葉は、シナリオを考えて下描きをしたあたりで、もう飽きてしまって集中力を持続できなくなる。それでは、漫画は描けない。横についていて手を抜くなというと、だって面倒なんだもんと口を尖らせる。気持ちを維持するのも、漫画の才能の一部なのだ。
 後に山田双葉が小説家になったのは、彼女にとって良かったと思う。小説は、漫画よりも工程が少ない。創作に要する物理的時間が短い。飽きる前に終わらせることができる。それに、小説は、考えながら書きながら、どんどん変えていける。しかし、漫画は、一度シナリオを決めてしまったら、変更はきかない。ページ数も厳密に決まっている。体力と気力の要るジャンルなのだ。
 そのほかにも、漫画家と小説家の両方のキャリアを持つ人は多いが、ぼくも、実は小説はずいぶん書いている。賞はなにももらっていないが、ギャグからシリアスまで、中間小説誌から純文学誌まで、かなりの量を書き、単行本も何冊か出している。
 ぼくが小説を書き始めた理由は簡単だ。編集者に依頼されたからだ。

山田詠美が漫画家として挫折する様が面白いですね(笑)それにしても、早目に針路変更する変わり身の早さは評価できるのではないだろうか♪



本棚

いしかわじゅん著、小学館、2009年刊

<【目次】「BOOK」データベース>より
1の秘密 彼らの事情(彼女のストレート/ぼのぼのとSinkの間/森下裕美の冒険 ほか)/2の秘密 やってきた道(謎の人/西風少し復活/ギャグの星を探せ ほか)/3の秘密 描く人々(天然のヤスジ/少年画報の黄金時代/中川いさみの立った場所 ほか)
<大使寸評>
いしかわじゅんさんがマンガ作家であるだけに、同業者を見る目は鋭いのである。
谷岡ヤスジや諸星大二郎を正しく評価しているのが、個人的には、なんともええ感じである♪

rakuten 秘密の本棚


蔵書録1 から、漫画の蔵書を紹介しますが・・・
大使の一押しは、谷岡ヤスジ、西原理恵子あたりになります。







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Last updated  2013.08.26 19:03:39
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