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2014.07.07
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カテゴリ: アート
図書館で『TIN TIN タンタンの冒険その夢と現実』という大型本を借りたのですが・・・
世界中で愛されているタンタンについて、大使が個人的に惹かれるところを紹介します。
上海の共同租界で日本軍が出てくる傑作「青い蓮」が興味深いのです。


<青い蓮> p50~59より
青い蓮

 同じくオリエントを舞台に描いたその2作目は、傑作だ。シリーズ最初の傑作だと一般に言われており、最良の作だと評する声もある。これがシリーズの転換点をなす作品であることには、異論がないだろう。初期の一連の作品では、まだつぼみだった様々な資質が、ここにいっきに花ひらいている。
 「青い蓮」によって、初めて物語は注意深くしっかりと構成されることになった。プロットは継ぎ目なく進展し、結末までゆるみがない。エルジェはもはや、毎週その場の思いつきでストーリーを作ることをしなくなった。「ファラオの葉巻」では、エルジェは自分の手に負えなくなる方向に、物語が進みだしたとはっきり感じた。その反省から、「青い蓮」は、前もってもっとよく話が練られ、行き当たりばったりではなく、しっかり現実に根ざして着実に進んでいく。自分がどのようにして向かっているのか、エルジェにはわかっていた。

<中国人学生と知りあう>
 「ファラオの葉巻」の物語展開に、エルジェはいらだったからだけではなく、ブリュッセルでエルジェが中国人の美術学生と幸福な出会いをしたことから、その後の変化は起こった。
(中略)
 1934年、ゴセ神父はエルジェに、ブリュッセル美術アカデミーの有望な彫刻科の学生で、エルジェと同じ27歳のチャン・チョンジェン(張充仁)を紹介した。ふたりはたちまち仲よしになった。
 ふたりは長く話しこみ、エルジェは新聞の切り抜き資料がまたらすよりずっとはるかに真実な中国のイメージを得た。チャンによって彼は、それから生涯にわたる中国の魅惑に目ざめたのである。その複雑な歴史、広大な土地、ことば、文学、哲学に宗教―そのすべてが吸収力の高いエルジェのまえに見えてきた。

(中略)
 さらに「青い蓮」が優れているのは、政治的な正確さと予見であり、複雑な当時の時事状況をよくとらえている。1934年は世界戦争へ風雲急を告げていたが、迫り来る危機を見通していた者はわずかしかいなかった。
 ヨーロッパでは、第一次大戦でフランスや英国の側だった大日本帝国は、政治的にうさんくさいロシアにかつて戦った国として、好意的に見られており、日本のアジアでの戦争行為はほとんど無視されていた。
 中国の政治的状況の混乱ぶりから、日本が満州の大部分を占領しているが、それはその地域に安定をもたらすのではと、西側では考えられてもいた。西側の新聞は、はるか極東の事情については、なお主として日本に同情的だった。

<国際事件をとりこむ>
 しかしチャンのおかげでエルジュは遠いアジアの政治状況と日本のむきだしの帝国主義的野心に目をひらかされた。タンタンの中国の冒険は、そこに描かれたように、日本が挑発行為を続けているさなかの1934年の8月に、「プチ20世紀」に連載が始まった。
 エルジェは柳条湖の満鉄爆破事件を物語にとりこみ、日本人にやとわれた工作員たちが鉄道を爆破するのを、タンタンに目撃させている。事件は中国人のしわざにされ、日本の軍事介入の口実にされた。これは政治的風刺の見事な例だが、燕尾服を着た日本の外交官が中国大陸への軍事派遣を正当化し、実際に後に日本は国際連盟から脱退する。
(中略)
<宿敵と再会する>
 「青い蓮」のなかで、エルジェの最も強い風刺と批判にさらされたのは日本の帝国主義だが、共同租界が、必要なら日本軍と妥協してもひたすら私腹を肥やすというように、芯まで腐敗堕落していることも示されている。当時のヨーロッパでは、そうした見方はとても一般的ではなかったが、チャンのおかげでじゅうぶんの情報を得ていたエルジェは、思い切った視点をさしだし、後の歴史上の事実は、それが正しかったことを示した。そうした視点が1930年代のカトリック系新聞の子ども向けの付録のなかに表れるのは、ひかえ目にいっても驚くべきことだった。


この子ども向けマンガに、これだけの政治性が裏打ちされていたとは驚くばかりです。
作者ジョルジュ・レミ(筆名エルジェ)の完全主義の一面が表れているのでしょう。
この本の著者マイクル・ファーが「序」で、ジョルジュ・レミを次のように紹介しています。

<序Introduction> より
 ジョルジュ・レミの子ども時代は、本人のことばによれば「おそろしく灰色」だった。小学校の4年間(1914-18年)は、偶然にも、ブリュッセルがドイツ軍に占領されていた4年間に相当する。当時から絵を描くのに熱心で、教科書の余白は、どこにでもいて圧倒的なドイツ兵のいたずらがきで飾られていた。
(中略)

 若きジョルジュ・レミは、堅苦しく退屈な中産階級のしつけと生活から、ボーイスカウト活動をするときだけ解放された。子ども時代の灰色の思い出は「ボーイスカウト活動のときだけ、輝きと色彩があった」と彼は語っている。夏の合宿で彼は初めてベルギーを離れ、スペイン、オーストリア、スイス、イタリアへ行った。旅行は彼の重要な関心事、情熱にすらなった。その先入観と熱意、姿勢はエルジェのものだったが、すぐに新聞記者であると同様、多分にボーイスカウト的なタンタンとして体現された。
(中略)
 子どもは、タンタン物語に冒険の興奮や笑いを見て、とりこになる。さらに、おとなは、そこに政治的風刺やパロディ、ことば遊びや予見性を見つけて楽しむ。最も熱心なタンタンノロジスト(タンタン学者)は、何度もくり返し同じ冒険を読み続けてきて、なお新しい発見をするだろう。タンタンはいくらでも再読に耐え得る。その冒険物語は、主人公と同じく、すり減ることはない。




TIN TIN

マイクル・ファー著、ムーランサール ジャパン 、2002年刊

<内容紹介>より
本書では「タンタン、ソビエトへ」から未完成の最後の物語「タンタンとアルファアート」までの物語を 順に解説しています。 現実世界を想像の世界に取り込んだエルジェのクリエイティビティ、 完璧なものへの彼の追求など、エルジェの創作のすべてを語っています。 慎重なリサーチが もたらす各ストーリーの詳細の正確さは、エルジェの作品の大きな特長です。 実際にエルジェが参考にした資料写真とその反映されたシーンを対比させながら 解説されているので、より深く「タンタンの冒険」の世界を知る事が出来ます。

<大使寸評>
上海の共同租界で日本軍が出てくる傑作「青い蓮」が興味深いのです。
この子ども向けマンガに、これだけの政治性が裏打ちされていたとは驚くばかりです。
作者ジョルジュ・レミ(筆名エルジェ)の完全主義の一面が表れているのでしょう。

Amazon TIN TIN タンタンの冒険その夢と現実


「タンタンの冒険旅行」シリーズの各分冊が Les aventures de Tintin「タンタンの冒険旅行」 で見られます。

「青い蓮」の画像

ところで、上海の共同租界といえば・・・

当事者であった若き日のJ・G・バラードは、ジョルジュ・レミとは違った感性で共同租界を描いていましたね。

「太陽の帝国」予告編





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Last updated  2014.07.07 00:08:30
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