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2015.08.03
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カテゴリ: 気になる本
図書館で借出し予約していた『イスラム国』という本を手にしたが・・・・
「イスラム国」の自爆トラック作戦に、クルド人部隊も苦戦しているようです。
今後のシリア戦線の行方は、展望が開けるのか?



イスラム国

ロレッタ ナポリオーニ著、文藝春秋、2015年刊

<「BOOK」データベース>より
対テロファイナンス専門のエコノミストが放つまったく新しい角度からの「イスラム国」―。多頭型代理戦争の間隙をつき、領土をとり、いち早く経済的自立を達成した「イスラム国」は、テロリストがつくる史上初めての国家となるのか?


<読む前の大使寸評>
「イスラム国」の自爆トラック作戦に、クルド人部隊も苦戦しているようです。
今後のシリア戦線の行方は、展望が開けるのか?

それにしても、ネットを駆使する多頭型代理戦争とは・・・・アラビアのロレンス時代には考えられない様変わりである。

<図書館予約:(2/25予約、7/29受取)>

amazon イスラム国


<はじめに>からイスラム国の特徴を見てみましょう。
p26~27
<世界の多極化を熟知しその間隙をつく>
 この組織が、冷戦期も含めて先行するどの武装集団とも決定的にちがう点は、その近代性と現実主義にある。この二点はまた、少なくとも彼らの立場からしてこれまでのところ大成功を収めてきた理由でもある。「イスラム国」の指導者は、グローバル化し多極化した世界において現代の大国が直面する限界を、驚くほど明確に理解している。たとえば、リビアやイラクで行われたような国際的な協調介入がシリアでは不可能であることを、他の組織に先駆けて鋭く嗅ぎ付けていた。そこで「イスラム国」の指導者は、ほとんど誰にも気づかれないうちに、シリア内戦を自分たちの有利になるように巧みに利用した。

 シリア内戦は、武装集団に多数の国や組織が金を出す、おなじみの代理戦争の現代版と言える騒乱である。シリアの体制転覆を狙うクウェート、カタール、サウジアラビアは、多数の武装組織に気前よく資金援助を行っており、「イスラム国」もそうした組織の一つにすぎなかった。ところが「イスラム国」はスポンサーのために戦うことをあっさり放棄し、その資金を使って、シリア東部の油田地帯など収入源となりうる戦略的な地域に本拠地を築いたのである。

 これまで中東の武装組織の中で、金持ちの産油国から資金提供を受けた挙句に自ら新しい地域支配者を名乗るにいたった集団は、一つもなかった。

<多くのスンニ派の人々にとっては頼もしい政治運動と映っている>
 タリバンの荒々しい主張とは対照的に、また敵に対する残虐行為とは裏腹に、「イスラム国」がムスリムに向けて発する政治的なイメージは、ある意味で力強く魅力的だ。カリフ性に回帰しよう、これこそがイスラムの新しい黄金時代だ、という呼びかけである。中東が混乱に陥っているまさにこの時期にこのメッセージが発されたことに、大きな意味がある。

 シリアとイラクは戦渦に巻き込まれ、リビアは内戦再燃の危機にあり、エジプトは事実上軍が支配する不穏な状況で、イスラエルはまたしてもガザ地区で戦闘中だ。こうした状況でのカリフ性国家の再興と新カリフの登場を、多くのスンニ派の人々は、新たな武装集団の出現とは受けとめていない。数十年におよぶ戦争と破壊の末にとうとう頼もしい政治主体が誕生したのだと感じている。

 この「イスラムの不死鳥」が具体的な行動に出たのは、断食と祈りのための聖なる期間である2014年ラマダンの第一日目だった。この事実から、「イスラム国」」は、ムスリムが国民の多数を占める57のイスラム諸国すべての正統性に疑義を呈したと理解すべきだろう。


イスラム国の戦士の報酬やモチベーションを見てみましょう。

<シリアにおける最初の偽装国家の建設>
「イスラム国」は、テロをビジネスにして経済的自立を図る過程で、偽装国家がカリフ性国家の再興という野望の実現にとって、じつに具合のいいモデルであることに気づいたようだ。偽装国家は、一つの都市圏程度に小さくてもいいし、通常の国家と変わらないほど大きくてもいい。それに、政治的統合を果たす必要はないので、建設も管理も容易だ。

 偽装国家の建設に理想的な環境は、戦争で荒廃し、あらゆるインフラが破壊され、中央の政治権力が届かないような孤立した地域である。そのような地域では、偽装国家の支配者は政治権力を独占できる。あとは、民主的に住民のコンセンサスを得ればよい。こうしたわけで、偽装国家の建設では政治より経済が優先される。そして偽装国家には、安上がりだという利点もある。経済は基本的に戦争経済とテロ・ビジネスに限られているからだ。軍事費以外の支出は必要最低限に切り詰められ、住民には最低限の必需品さえあてがっておけばよい。

 過去の偽装国家モデルでは、戦争が唯一の収入源だった。「戦争は人生そのものだ」―アフガニスタンのショマリ平原から来たという反タリバン組織「北部同盟」の戦士は語っている。たしかに、戦闘員が手にする報酬は一般市民よりはるかに高い。対照的に、カリフ性国家の経済は征服戦争にのみ依存しているわけではないし、傭兵のような雇用形態のジハード戦士たちにしても、高い報酬だけが目当てではない。それどころか、戦士の忠誠心を高める必要があるにもかかわらず、「イスラム国」の報酬はシリアやイラクの労働者階級よりも低いのである。

 最近機密指定が解除されたアメリカ国防総省の資料によると、記録をとり始めてから現在までの全期間にわたって、「イスラム国の歩兵の平均給与は月41ドルで、イラクの肉体労働者の給与よりはるかに低い。たとえばイラクのレンガ職人は月平均150ドル稼ぐ。対テロ専門家が以前から指摘してきたように、イスラム国のような組織のメンバーは、イデオロギー的な動機が強いため、志願兵の流出を防ぐために金銭的インセンティブを用意してもあまり効果は期待できまい」

 「イスラム国」の兵士の士気を高めるのが報酬ではないとしたら、何なのか。それは、近代的なカリフ性国家、理想のイスラム国家の建設という高邁な目標である。


イスラム国ではプロフェッショナルなスキルが駆使されているが・・・
有志連合がこれに対抗するには、第三の道を模索するしかないようです。

p166~170
<欧米の軍事介入の行方>
 本書の執筆中、「イスラム国」が中東で火の手を上げる一方で、民主主義を求める若者が「雨傘革命」で香港を麻痺させた。二つの出来事に共通性はあるのだろうか。また、国家を名乗り中東の地図を血で塗り替えようとする残忍なテロ組織と、民主化を要求した「アラブの春」の間には何らかの関連性が存在するのだろうか。

 この10年間の民主化運動の多発とカリフ性国家の出現は、いずれも多極化した今日の世界秩序の産物だと言える。世界の多極化は、冷戦が終わったときに始まった。「アラブの春」と「イスラム国」は、現代におけるヤヌス(双面神)なのだ。つまり、中東の腐敗した指導者という同じ問題に対する二つの答である。では、前者が失敗に終わったのに、後者がいまのところ成功しているのはなぜだろう。

 本書で見てきたように、「イスラム国」はけっして新種のテロ組織ではないが、きわめて今日的な存在ではある。このことが、成功の原動力になっているのだろうか―その可能性はある。欧米とイスラムの同盟国は新しい国際政治環境の出現を認めたがらないが、「イスラム国」はそれにうまく適応し、さらに徹底的に活用した。

 世界が多極体制に移行し、中国を始めとする新興勢力がアメリカのパワーに対抗できるようになると、従来の外交政策は通用しなくなる。中国とロシアが拒否権を行使する現状では、欧米が国連決議を得てシリアに軍事介入するといったことは、考えにくい。仮に、表向きは国際機関のお墨付きを得た大規模な有志連合をオバマ大統領が編成できたところで、「イスラム国」への軍事介入はイラク周辺に限定され、しかも地元の正規軍や民兵組織を援護するという形にとどまるだろう。

 言い換えれば有志連合は、「イスラム国」と地上戦を交える意志を持つ集団であれば、何によらず支持するということである。それは、すでに広い範囲で戦われている代理戦争をひたすら拡大するだけだ。このアプローチは、他の集団による「イスラム国」の摸倣・追随を促しかねない。同じような集団が次々にスポンサーから資金援助を受けて独自の国家を名乗り、中東を一段と混乱に陥れる危険性は十分にあるのだ。

<第三の道はあるか?>
クルド人民兵組織ペシュメルガとクルド労働者党(PKK)は、いまだにアメリカが「」に指定している組織である。しかしアメリカとヨーロッパは、彼らに武器を提供する決定を下した。この決定によって、クルド人が人口の20%を占めるトルコにおける独立派クルド人の戦いの構図は、はやくも書き換えられた。トルコのいくつかの都市では、クルド人とトルコ人の激しい武力衝突がすでに起きている。ヨーロッパ各地ではクルド人の独立を支援するデモが繰り広げられており、欧州議会を一時的に占拠する事態も発生した。

 一方、軍事介入の問題は引き続き有志連合軍を困惑させている。空爆だけでは「イスラム国」の進撃を止められないことは、次第にあきらかになってえきた。となれば、イラクに再び地上軍を投入するかどうかが早急に議題に上がるだろう。結果がどうなるにせよ、外国の軍事介入が中東の不安定化の解決にならないことはあっきりしている。これまでにも解決できなかったし、これからもできまい。したがって、これ以上の犠牲や破壊を食い止めるためには、より現実的なアプローチが必要になる。その際には、この地域に新しいパワーが存在することをまず認識し、代理戦争は結局ブーメランのように我が身に跳ね返って来るだけであることを理解しなければならない。この新しいパワーに対抗するには、戦争以外の手段を模索すべきである。

 多極体制の出現は、ゲームの新しいルールを知り尽くした人間に、これまでにない機会を提供した。「イスラム国」がシリアにおける代理戦争をいかに巧みに活用したかは、すでに本書で述べたとおりである。彼らはまた、強力なプロパガンダを通じて、オバマ率いる有志連合の非現実的な矛盾を鋭く突いてみせた。
(中略)

 「アラブの春」の失敗。「イスラム国」の成功。これ以外に、第三の道はありうるのだろうか。答はイエスだ。第三の道には、教育、知識、そして変化の速い政治環境に対する深い理解を必用とする。だがスマアートフォンを駆使する若い戦士も、グレーのスーツに身を包んだ政治家も、まだこのことに気づいていない。






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Last updated  2015.08.05 09:24:24
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