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2016.02.09
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カテゴリ: 中国
図書館で『疾走中国』という本を手にしたのです。
2011年時点では、中国取材はここまでできたのか…
でも、スパイ疑惑で外国人記者を追い出すというハリネズミのように過敏な今では、こんな旅行は無理ではないかと思うのです。



疾走

ピーター・ヘスラー著、白水社、2011年刊

<「BOOK」データベース>より
【目次】
第1部 長城/第2部 村/第3部 工場
【著者情報】
1969年、米国ミズーリ州生まれ。プリンストン大学卒業後、オックスフォード大学で英文学を学ぶ。1996年、平和部隊に参加し、中国四川省の長江流域の町にある地方大学で2年間、英語教師として教鞭をとる。2000~07年、『ニューヨーカー』北京特派員。2008年、“全米雑誌賞”を受賞。現在はフリージャーナリストとして活躍

<読む前の大使寸評>
2011年時点では、中国取材はここまでできたのか…
でも、スパイ疑惑で外国人記者を追い出すというハリネズミのように過敏な今では、こんな旅行は無理ではないかと思うのです。

rakuten 疾走中国

この本は読みどころが多いので、(その2)として読み進めたのです。

シルクロードの雰囲気が出ているあたりを見てみましょう。
シルクロードシルクロード

p97~99
<第1部 長城>
 甘粛省で故障した李のトラックには綿花が積んであった。李は新疆から江蘇省まで、3000キロ以上走る。シルクロードとして知られる北西部の道をたどり、甘粛省の河西回廊やオアシスのある新疆中部の町々を通るルートだ。綿花を東部へ運び、工場のある都市で降ろし、帰りには衣料品を運ぶ。これが李の錬金術だった。

 「安物衣料だよ。中央アジアの貧しい国に輸出すんだ」。李は年に5万元近くも稼いだ。中国では申し分のない年収だ。最近は見習いを一人雇い、三人一組で運転している。李が戻ってくるまでの4日間、ほかの二人は「巨能王」トラックに乗って待ち続けることになる。トラック運転手の最大の悩みは、警察に支払う罰金を別にすれば、盗難であろう。「あいつらは荷台に乗り込んできて、なんでも手当たり次第に盗んでいく。走っている最中だっておかまいなしだ。最悪なのは河南省で、泥棒を見つけて警察を呼んでも、来やしない。河南省は走りたくないね」

 安遠駅で私は李と彼の燃料ポンプを降ろした。ポンプの油がシティ・スペシャルの床一面に漏れていた。李がしきりに謝るので、キャピタル・モーターズの王さんに電話すると「大丈夫ですよ」と言ってくれた。

 私は河西回廊へと旅を続けた。甘粛省のこの細長い一帯は、東は砂漠、西は山地に隣接している。回廊の中央部は西の高峰から流れてくる雪解け水のおかげで土地は肥沃だ。昔から人が住み、交易ルートが自然に開けていた。この地域一帯を隊商が通り、彼らの運んだ物品はやがて中東やヨーロッパまで行き着いた。19世紀、西欧の地理学者や歴史家はこの地域の交易ルートをシルクロードと呼びはじめた。

 シルクロードとは、実際には網状につながる数十ものルートのことで、多くの地点を結び、さまざまな産物を運ぶネットワークなのだが、「シルクロード」という呼称は使われ続けた。これは、外国人が想像力を働かせて単純化した呼び方だ。多くの防壁がいまは単に「万里の長城」として知られるように、シルクロードという外国人の概念も中国で浸透し、いまでは「スーチョウチールー(絹の道)」という呼び方が一般的だ。

 この二つの概念は甘粛省の312号線沿いで交わる。河西回廊の中心部を走る現代の自動車道を西北へ進むと、右側に明の時代の長城跡が見えはじめた。人の背丈ほどの高さの土盛の防壁が何キロも切れ目なく続いており、防壁に抱かれるようにして村が点在する。一度、幹線道路から降りて泥道をたどってみた。

 少し行くと下口という村に行き当たった。ここでは長城はまだ村人の暮らしの役に立っている。長城に沿って羊小屋が並び、羊たちが明の遺物を前足でひっかいていた。町はずれの、水道の通っていない地区の住民は長城を掘り抜いて屋外トイレに使っていた。万里の長城の名声ももはやこれまでだ。下口村の長城は臭かった。

 昔ここは軍の駐屯地だった。いまでもこの行政区の名は「老軍郷」だ。駐屯部隊はこのルートを通る商人を守っていたのだろう。「おれたちが子供のころ、まだラクダの隊商が通っていた。いまでも覚えてるよ。新疆に向かう人たちだった」と一人の老人が言えば、別の老人がうなづいて付け加えた。「商人一人につき、ラクダが10頭かそれ以上いたよ。みんなめいっぱい荷を積んでた。商人は大方が中国人だったが、なかにはウイグル人もいたよ。解放後はラクダもあまり来なくなった。そのころからトラックを使いはじめたんだ」
(中略)

 老人たちは消えてしまったほかの建物について、名前やあった場所を思い出した。その多くはまだ宗教が一般的だった時代に建てられた寺院だが、文革時代の反迷信運動ですべて破壊されてしまった。「子供が欲しい人は子宝の女神の寺に行くし、老人は道教の寺で祈る。昔はそんなふうだった。学者なら科挙の前には学問の寺にお参りしたもんだ。農家の人なら龍王様の寺で雨乞いだ」

 こうした寺はいまや記憶の中にしか存在しない。壊れかけた塔のあるこの交差点でさえも、すでに役目は終えている。現代のシルクロードは下口村を通らないからだ。新しい312号線がこの村から西方に3キロ離れて建設されたことが、とどめの一撃となった。誰もこの村を通らなくなったのだ。村の人口はいまやわずか400人。

 改革開放政策の始まったときから半減したわけだ。若い人は中学校を終えると、さっさと村を出てしまう。ここでは、手入れの行き届いた唯一の建物といえば中学校だった。その夜どこか泊まれるところはないかと訊くと、村人たちは中学校に案内してくれた。

このレポートによれば、河西回廊あたりの光景は昔の面影を残していないようです。
西域に憧れる大使であるが・・・憧れのままにしておくのがいいのかも?♪

現代(2011年当時)の過酷な就職状況がレポートされています。
p276~278
<第3部 工場>
 王社長は大型の金属プレス機を操作する男手が必用だった。プレス機で大まかなリングの型を作り、それをリング製造機のラインに乗せて最終製品を仕上げるのだ。だが、もっと採用したいのは女性工員だ。工程の大部分は技術も力もいらない。アンダーワイヤーを選別し、製造ラインを点検し、できあがったブラジャーリングを箱詰めにする、それだけの仕事だ。工場経営者のご多分にもれず、王社長も雇うなら若い女性に限ると言っていた。

 「女の子は我慢強いし、扱いやすい。男は扱いにくい。けんかっ早くて、すぐに問題を起こすんだ」と言う。どんな人を雇いたいかと訊くと、若くて未経験の子がいいと言う。「よそで働いた経験があれば、高い給料を払わなくちゃならない」のだ。同じ理由から、正規の教育をあまり受けていない人が好まれた。身なりがいい子や目立つヘヤスタイルの子は要注意だし、顔立ちの整った子も避けたほうがいいと言う。「ごく普通の目立たない子がいいんだ。生意気に『やりたいと思ったら、やり抜く』なんて考えを持っている子は、おれは採らないよ」。

 就職面接で王社長が訊く質問の一つに、趣味に関するものがある。「カードゲーム」とか「友達と過ごすこと」などという答えは、王社長は気に入らなかった(ふまじめだ)。「趣味は読書」と答える子は怠け者だ。暇な時間にインターネットを使う子ときたら、いちばん始末が悪い。「家族と一緒に過ごすとか、母親の世話をするとか、そんな子がいい」と王社長は言っていた。「田舎の普通の子はそんなふうに過ごすものだよ。我慢強い子がいいんだ」

 中国の工場町では、冬の終わりに職探しシーズンが始まる。帰省して春節を祝った出稼ぎ労働者たちが、バスや列車で都市の開発地区へと戻ってくるこの時期、人びとはそわそわと落ち着かない。村を出る、転職する、ほかの都市へ行くなど、それまで長い間温めてきた計画を、このひと月でついに実行するのだ。

 この時期になると、慎重な人でさえも行動に駆り立てられる。この時期に決めたことは、往々にしてその後の生活を決定づけるのだ。何十年もたってから昔の生活を振り返り、一生の仕事の方向を決めたのは、あの2月の採用面接だったと気づく人もいる。

 麗水市にとってはすべてが初体験だった。2006年はこの開発地区で初めて相当数の工場が操業を始める年で、このニュースはすでに出稼ぎ労働者の間で広まっていたらしい。出稼ぎの人たちが列車の駅からどっとあふれ出てバスターミナルに詰めかけた。

 新しい高速道路を走るのは、ほとんどが職探しの人たちを乗せた長距離バスだ。毎年、出稼ぎ労働人口が推定1000万人ずつ増えている中国には、内陸部の農村から各地へ向かうバス路線が無数にある。出稼ぎの人はたいてい沿海部へ向かうが、なかには麗水市のような、まだあまり知られていない町をめざす人もいた。

 開発地区が始動したあの年、まだ工事中の道路にも、バックを引きずりながら歩いている出稼ぎ労働者の姿があった。まともな道路もない町に到着したばかりで、まだ職はないが、すでに操業を始めた工場もいくつかあるこっと、間もなくほかの人たちが大勢この町に来ることを知っていた人たちだ。早く到着すれば有利な立場に立てるのだった。

 出稼ぎ労働者のなかには麗水市の「職業紹介所」へ向かう人もいる。ここは地域の職探しの中心で、繁華街にあるその建物で目立つのは、求人広告を絶え間なく流し続ける巨大なデジタル表示板だ。若い人たちが仲間と集まり、首を伸ばして表示板を見上げている。そっけない求人用語で語られる仕事口は、一瞬のうちに目の前を通り過ぎていく。

 砕石工募集
 男性、健康で我慢強い方
 月給40元食事付き

 一般従業員募集
 女性 中卒
 容姿端麗、身長155センチ以上

 中国では、身長がしばしば採用条件の一つになる。身長は重大問題なのだ。とくに女性の場合は、容姿がはっきりと就職の条件に挙げられることが多い。



p284
 麗水市のこのあたりに女性たちが現れたことは、開発地区が新しい段階に入ったことを示していた。この未来の工場町を車で通るたびに、何か新しいもの、開発が一歩大きく前進したことを示すものが私の目に飛び込んでくる。私が初めて訪れたとき、ブラジャーリング工場がある遂松路は、ただの泥道だった。

 なぜかバスの停留所だけはすでに設置されていて、その金属製の案内板にはまだ存在もしない目的地がずらりと並んでいた。この地域に公共交通機関が通ったのは、それから1年後のことだ。この最初の訪問時に遂松路で見かけたのは男性ばかり。そのほとんどは工事現場の作業員だったが、起業家の先駆けたちの姿もちらほら目に入った。開拓者たちは、遂松路の西側に、建てかけの工場に面して店を構えていた。たいていは安い軽量コンクリートでできた店舗で、建築資材をはじめ、低賃金労働者を相手に麺や小麦粉、野菜、肉など、ありふれた食料品を売っていた。

 立派な看板と誰でもすぐにわかるブランド品を取り扱う本格的な店といえば、中国移動通信と中国連合通信の支店に決まっていた。新しい工場町には、すぐに携帯電話ショップが現れる。出稼ぎの人は、家に電話しなければならないからだ。

 10月に私が再訪したとき、バス停の案内板はすべて盗まれていた。遂松路では排水工事が進み、店舗や食べ物屋のある西側は大きく発展して、印刷ショップが開業していた。食料品と電話カードと建築資材以外のものを取り扱う小売店の第1号だ。会社の広告板や従業員のIDタグを専門に作る印刷ショップの登場は、この町の機械類が間もなく動き出す予兆だった。すでに看板を出した工場もある・・・美国各電電工、新年ハリ有限公司、富裕安全鋼鉄有限公司。

 1月になってようやく遂松路が舗装された。作業員十数人が路面をならしながら遂松路を進んでいったが、マンホールはふさがないでおいた。新しい工場町では、マンホールは開けたままにしておく。金属板を盗んでスクラップとして売りさばく連中がいるからだ。バス停の金属製の案内板もそんなやからの手にかかったのだ。


『疾走中国』1





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Last updated  2016.02.10 00:28:55
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