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2016.06.06
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カテゴリ: アート
図書館で『和子の部屋』という本を手にしたのです。
阿部和重が和子さんとなって、目ぼしい女性作家すべてと相談するという企画(実際は雑誌での連続対談)がいいではないか♪
・・・でも桐野夏生の相談に応じるのは、ちょっと怖い気もする。



和子

阿部和重著、朝日新聞出版、2011年刊

<商品説明>より
小説家にまつわる秘め事を、ぜんぶ明かしてしまいます!いま小説家は何に悩んでいるの? 阿部和重さんが「和子」となって、当代きっての女性の書き手10人(角田光代さん、江國香織さん、川上未映子さん、金原ひとみさん、朝吹真理子さん、綿矢りささん、島本理生さん、加藤千恵さん、川上弘美さん、桐野夏生さん)の切実な人生相談に答えます! 小説家が「人生を語る」と「小説を語る」ことになるという、いまだかつてない対話の数々。小説家になりたい人にとっては実践的な創作論として、小説家を知りたい人にとっては本音が垣間見えるガールズ・トークとして、一冊で二度おいしい対談集が、ついに発売!

<読む前の大使寸評>
阿部和重が和子さんとなって、目ぼしい女性作家すべてと相談するという企画(実際は雑誌での連続対談)がいいではないか♪
・・・でも桐野夏生の相談に応じるのは、ちょっと怖い気もする。

rakuten 和子の部屋


この本のキャッチコピーが「小説家になりたい人にとっては実践的な創作論」となっているので・・・大使も腰を据えて読んだわけでおます♪
p254~257
<ブラックホール状態> より
桐野:では、私の実人生は小説という仕事に吸い取られているということですか?だったらどうやって、小説のなかで生きればいいの?

阿部:「小説家の人生相談」という看板を掲げる「和子の部屋」にとっては、これ以上に小説家の相談にふさわしい内容はないような気さえします。そもそも僕自身も直面しつつあり、もしかすれば、小説を書いている人間全体にとって切実な問題なのかもしれない。それゆえに、この時間内には答えに至れないかもしれませんが(笑)。まず手っ取り早く思いつくのは、「小説家をやめちゃえばいい」という結論。しかし何年も小説を書いてきた身としては、もはやそんなレベルでは解決できないぐらい、思考のパターンそのものが毒されています。

桐野:「毒されている」という言葉はまさにぴったりですね。

阿部:僕も、フィクションの形式性があたえる受け手の意識への影響とか、フィクションにとらわれた心理状態に無関心ではいられず、映画評論なんかでもそうした問題にまつわることを書いてきたつもりです。

桐野:いま映画の話になりましたが、私は映画館に行くと映画そのものより、とにかく客席のまわりのことが気になって仕方ないんです。電車でも隣の座席にいる人の話に耳を澄ませて、「別れ話の出ていそうなカップルだ」とか物語を発動させてしまう。「お母さんはどこに行っても人の話を聞いているね」と娘に言われる始末です(笑)。このあいだも、近くのおじさんがすごく目薬を差すので、思わず20回、21回と数えてしまった。

阿部:それはヤバい。そのときご自身の心境はどんなふうなんですか?

桐野:空っぽのブラックホールに、ぼぼぼぼっといろんなものが押し寄せてくる感じかな。

阿部:あっちこっちからやってくるたくさんの他人の物語をダイレクトに受け止めて、そのあいだもご自身の意識を普通に保っていられるというのは、桐野さんはお強いですね。他人の物語にまみれきっていくと、極端なうっとうしさを感じるか、自分自身の意識がそちらに引っぱり込まれませんか。

桐野:自分自身の幹は、どんどん希薄になります。うちはいま、夫と私のふたり暮らしですが、かように落ち着いた変化の少ない生活だからこそ、いろんなものが受け止められる。逆に自分自身にいろんなことがあって、外から来るものを跳ね返すのは疲れるでしょう。いまはブラックホール状態だから、強いというより、穴が広がっている感じです。

阿部:方々にお出かけになられていろんな情報が入り込んでくるけれども、ご自宅に戻られるとそれらが自分自身の意識に馴染んでくるという感覚ですか?

桐野:そうかもしれません。フィルターでよほど面白いもの・・・たとえばルーカス・グローバーはガシッと引っかかるけれども、ほかのものはあいまいなまま深いところへ沈んでいくんです。小ビビを残しながら。もちろん微小な電波がくることもいやじゃないです。

阿部:ラジオでチューニングしているとブブブッと音が入ってくる、あの感じですね。とにかく電車でも映画館でも、外部情報をほとんど自動的にどんどん吸い込み、ブラックホールの奥に落としておく。これが桐野さんの思考の部品になっているわけだ。

桐野:ところが以前は、書いているとぱっと穴からなにかが引っぱり出されて、創作に使えたりしたのですが、最近はよほど意識的にメモなりしておかないと、穴に溜まったままです。

阿部:それ以前はメモもなにもせずに思い出せたというのは、すごいですね。

桐野:もう15年ぐらい前までの話ですよ。そういうことはなかったですか?

阿部:僕は全部忘れちゃいます。

桐野:最近は私も忘れるので、夢が面白かったりするとすぐにメモします。

阿部:もはやなににも個別性が感じられないくらいにデータが揃ってしまったのかな。

桐野:しかし、それではこの世界に対して傲慢でしょう? まったく知らないなにかがあると思いたいし、それがないなら、この仕事はできないわけだから。

阿部:見方によれば傲慢かもしれないけれど、まったく知らないなにかなどないと、うすうすわかっていながら、あるはずだと思って探そうとする姿勢は誠実ですよ。


お二人の対談で、桐野夏生の病巣が解明されたようです。
p263~266
<連載が多すぎる?> より
阿部:桐野さんは、水はいまでも駄目ですか?

桐野:水は相変わらず・・・。

阿部:では水はともかく、桐野さんにとって悪印象のあるものをいろいろと見て、そのなかに無理やり自分を投じていくことで、新しい創作の可能性を模索してみるのはどうでしょうか。ルーカス・グローバーに値する存在と、ふいに遭遇できるかもしれません。

桐野:もう物語をつくらなくても、ビビッときますかね?

阿部:気が付いたら、桐野さんが海女になられて、すごいサザエをいっぱい採ってきいたり、謎の深海生物に出会ったり、潜水夫にビビッときいたりされているかもしれませんよ(笑)。

桐野:「海女と尼」ですね。ふふふ、面白い。じゃあ、阿部さんは?

阿部:僕は大量のネズミがいるところへ行ってみようかな。即死しちゃいそうですが。

桐野:いやでしょうね。私も大量のヘビはいやだな。

阿部:あるいは、僕にとってはまだ、「ビビッとこない」ことがそれほど深刻化されていないので、そうなったらそうなったときに考えると、ここでは逃げさせていただいて・・・・。

桐野:それでいいのではないでしょうか。うかつには言えませんが、たとえば鬱病の人の本を読むと、朝に靴下を選べないという話がよく出ていますよね。それはご病気だから違うでしょうけれども、ビビッとくるものがない究極なわけで。

阿部:そういう話はありますね。刺激がないという状態。

桐野:これは一種の精神の退嬰だと思います。そして、楽しければ退嬰してもいいけれど・・・・。

阿部:楽しさもやはりたいていは刺激からきているでしょうしね。精神医学とかの専門家ではないので、これまた無責任なことは言えませんが。

桐野:これも斎藤さんに訊いてみましょうか。

阿部:たぶん桐野さんの場合は退嬰ではなく、データが多すぎることで容量がいっぱいになっているんでしょうね。

桐野:もう1個ハードディスクをつけたほうがいい?

阿部:ハードディスクの問題ではないような気もします。OSを変えてみるとか、WindowsからMacにするとか。

桐野:OSをどうやって変えるかがわからない。でも、心はMacにしたいですよ。

阿部:さっきの話に出た、あえて苦手なものに近寄ってみるとか。あるいは、行動がかなり制限されてしまうのは織り込みずみで、1年とか期間を区切って情報のインプットを極端に減らしてみるのもひとつの手です。

桐野:それはいいかもしれないですね。犬とともに生きる。

阿部:徹底的にひとつのものに付き合ってみるんです。

桐野:ああ、いまわかった!きっと連載が多いことも、自分が多チャンネルに頭を開いているのも理由のひとつですね。常に3本ぐらいあるので。

阿部:そこが桐野さんと僕との違いで、僕は1個のことしかできないんですよ。

桐野:うらやましい。私ももうちょっと整理して、1本をゆっくり書き下ろししたいですよ。そのほうが楽しいから。制限することで、ぜんぜん違う快楽があるだろうことは想像できますね。

阿部:それによって桐野さんの創作環境がよりよくなるのであれば、その選択を支持しますが、おそらく桐野さんを担当する多くの編集者に僕は首を絞められます・・・。

桐野:いや、本当に的確なご意見だと思います。ありがとうございます!

阿部:どうも今回は、桐野さんの掌のなかで僕はシナリオ通りに話していただけではないかという疑念が拭えませんが。

桐野:そんなことはないですよ。すっきりしました。

阿部:そのまことにありがたいお言葉を真に受けておきます。とにかくこれで、最終回を無事終えることができました。それにしても今日は、創作の根幹にも関わるたいへんに濃密なお話を伺えて、とても刺激的でした。






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Last updated  2016.06.06 15:21:52
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