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2016.10.28
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カテゴリ: アート
図書館で『人魚はア・カペラで歌う』という本を手にしたのだが…
ペラペラとめくったら「小村雪岱の挿絵」というくだりがあったので、借りる決め手になりました。

丸谷さんの『ゴシップ的日本語論』という本も同時に借りたし・・・・何か短期集中というか、ミニブームの感があるのです。



人魚

丸谷才一著、文藝春秋、2012年刊

<「BOOK」データベース>より
信長が謙信に贈ったズボンから「小股の切れ上つたいい女」の小股って?まで、頭が刺激されて思わず膝をうつ24篇の知的エッセイ。
【目次】
鍋の底を眺めながら/検定ばやり/象鳥の研究/浮気な蝶/007とエニグマ暗号機/敵役について/村上春樹から橋本夢道へ/北朝びいき/人さまざま/槍奴〔ほか〕

<読む前の大使寸評>
ペラペラとめくったら「小村雪岱の挿絵」というくだりがあったので、借りる決め手になりました。

rakuten 人魚はア・カペラで歌う


まず、大使注目の「小村雪岱の挿絵」を、見てみましょう。
p181~187
<小村雪岱の挿絵>
 三といふのが魔的な力を持つ、呪術的な数であるせいでせうか、われわれは何かにつけ三つ並べて喜ぶのが好きです。

 維新の三傑といへば西郷隆盛、大久保利通、木戸孝允である。もっともこれは、中国で漢の瀟何、張良、韓信、蜀の諸葛亮、関羽、張飛をそれぞれ三傑と称したのにならったもので、木戸孝允なんか、三つ揃へるため無理に付け加へた気配がないでもない。薩摩ばかりでは何だから長州から一人といふ気持ちもあったでせうしね。

 三山もあります。大和三山は天香具山、畝傍山、耳成山。出羽三山は月山、羽黒山、湯殿山。熊野三山は熊野本宮、熊野新宮、熊野那智の神社。はじめは熊野三所権現と呼ばれていたが、三山のほうが言ひやすかったのでせう。もちろんこの言ひ方の根のところには山岳信仰がひそんでいる。
(中略)

 などと三づくしから話をはじめたのは、先日、
 鏑木清方
 小村雪岱
 木村荘八
の三人が近代日本の挿絵画家の三絶だといふ落合清彦さんの一文(「名作挿絵全集」5所収)を読み、感銘を受けたからである。まったくその通りの見事な人選だと思ふ。岩田専太郎も加えたらどうかなんてことは、頭に浮かばない。

 ちなみに「唐三絶」といへば李白の詩、ハイビンの剣舞、張旭の草書のことで、これが唐代の技芸で最もすぐれていた。「い篇三絶」といふ言葉がありますが、これは孔子が晩年に易を繰返し読み、紐を三度も切ったという故事にもとづく。読書に熱心なことを言ふ言ひまはしで、当面の話題とは別口であります。それはともかく「三絶」といふのは断固として言ひ切った趣があって褒め上手ですね。気前がよく、景気がいい。

 落合さんはまづ、
 「日本の近代の挿絵画家のなかで、トップ・クラスの位置をしめるのは、小村雪岱だと私はおもう」
 と書いてから、三人の名を並べ、それから、
 「とはいえ、清方は雪岱と逆に、本絵へ行って大成した人だし、荘八は死ぬまで、挿絵と本絵を両立させたいとしていたのだから、やはり小村雪岱はそういう意味でもユニークな人なのである」
 と述べた。なるほどね、とは思ふけれど、しかしわたしの気持ちとしては挿絵専門でなんかなくたっていい。双方かけもちで一向かまはない。かういふ所、わたしはきびしくないたちで、いい加減なのである。

 いい加減かもしれないが、しかし雪岱の挿絵が一番好きだ。
 ここで話は70数年前にさかのぼる。いいですか。昔語りですよ。
 1933年(昭和8年)9月から朝日新聞に邦枝完二の小説『おせん』の連載がはじまり、12月までつづく。挿絵は小村雪岱。

 邦枝完二は三田文学系の作家で、永井荷風は例によって何かぶつぶつ言っているけれど、序文を与へたりしているからともかく荷風門下。
 大変な美男で、娘さんを連れて銀座を歩くと、女の人たちがみんな振り返って彼を見る。娘さんはそれがとても誇らしかったと語っている。当然の結果、と言へるかどうかわからないが身持ちが悪かった由。このへんも荷風門下らしいね。
(中略)

 今はどうか知らないが、あのころは新聞小説は家族みんなが目を通すものだった。すくなくとも挿絵は全員が見て、いいとか悪いとか、あれこれと論じた。その挿絵の評判でとりわけ記憶に残っているのは、小村雪岱の『おせん』と岩田専太郎の『雪之丞変化』にみんなが興奮したこと、特に母が雪岱の大のひいきだったことである。  

 母は娘時代から竹久夢二が大好きで、そのせいか、イラスト的なものに関心が強かった。ちなみに『雪之丞変化』は三上於菟吉の作で、34年~35年(昭和9年~10年)の朝日連載。おや、こっちのほうは読んでいたやうな気がするぞ。何しろ3年生だからな。読んでいても不思議はないし、それに総ルビと称して全文振仮名つきだから、字をたどることは易しいのである。
(中略)

 70年前の挿絵を思ひ出したきっかけは、「芸術新潮」今年(2010)2月号の特集「小村雪岱を知っていますか?」だった。広告でこの特集を知り、久しぶりにこの雑誌を買って、ずいぶん長いことおもしろがった。あれだけ楽しめば、1400円なんて安いものだね。

 挿絵、装丁、舞台装置の三方面にわたる至れり尽くせりの特集なのだが、やはり挿絵が一等よく、少年時代を懐かしむ思ひといっしょになってかもしれない、うっとりした。

 たとえば『おせん』の女主人公の、こころもち前のめりに歩く腰の線の色っぽさ。雨とたくさんの雨傘の彼方に、ちょうど北斎描く波頭の向うの富士のやうに見え隠れしてある彼女の顔。それから『お伝地獄』の左半分はうつぶせになって刺青を入れられている高橋お伝の白い裸身で、右半分は刺青師の髷と着物の黒のつぶしといふ極端なコントラスト。さらにまた、女二人が橋の上で取組み合ひをしたあげく、片方がとつぜん現れた男によって川のなかに叩き落され、女の白い片脚が、シンクロナイッズド・スウィミングさながらに黒い川水の上に突き出ている、これも白と黒のコントラスト。どれもこれも、今まで何度も見た絵ですが、大きなページで、いい印刷で見るせいか、手に汗握る思ひ。


挿絵1

挿絵2

挿絵3
小村雪岱の画像 より

丸谷さんは、イギリスの挿絵作家ビアズリーを引き合いに出して、雪岱を讃えています。
p189~190
<小村雪岱の挿絵(続き)>
 さうさう、忘れていた。この画集に寄せた山本武夫さんの一文に、雪岱の「ブラック・エンド・ホワイト」は資生堂所蔵のビアズリー画集から生まれたとある。

 これはむしろ当然なので、世紀末のイギリスでビアズリーがはじめた画風は、単にイギリスだけではなく、全世界を席巻した。日本の優秀な新鋭デザイナーがそれに注目するのはごく自然なことだし、単に浮世絵の摸倣で行ったのでは、新しい江戸情緒の創始者となることはできなかったらう。

 これは文学における荷風の場合と同じで、『散柳窓夕栄』その他、江戸に材を取った荷風の作は、さほど成功してはいないけれど、しかし西方の文学に学んだせいで出来あがったものだった。江戸の戯作の糟粕をなめただけでは、あの程度のおもしろさもむづかしかったらう。

 雪岱びいきは一体に西洋嫌ひなやうで、狭い日本美の枠のなかに置きたがるやうである。をかしいよ。第一、ビアズリーだって、オリエンタリズムに学んだからあの画風が成立したのである。


ちなみに、お二人とも 挿絵本あれこれ でとりあげています。
アーサー『アーサー王の死』挿絵(1893)





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Last updated  2016.10.28 06:10:07
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