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2016.12.18
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カテゴリ: アート
デジタル朝日の(みちのものがたり)伊那路に、つげ義春の漫画「無能の人」に登場した俳人が出ているので、紹介します。

井月
(11/19デジタル朝日(みちのものがたり)から転記しました)




 無類の酒好きがたたって酒毒に侵され、身にまとったものはもはや、ぼろ布としかいいようがなくなっていた。

 1886(明治19)年12月某日の南信州伊那谷。いまの長野県伊那市と駒ケ根市の境にある火山峠の近辺で、男は冬枯れの田に落ち、糞尿をたれ流して行き倒れていた。

 戸板に載せられ人里へ運ばれたが床に伏し、翌春、いまわの際に辞世めいた句をしたため事切れたのだった。

《何処やらに鶴(たず)の声聞く霞かな》

 享年は数え66だという男は俳号で井月(せいげつ)と名乗っていた。
 俳諧師だが、もともとは越後(新潟県)の長岡藩士だったらしい。野をさすらう諸国行脚をへて幕末、伊那谷に現れると、なぜか立ち去ろうとしなかった。ねぐらを持たず、無一物のまま、ひたすら伊那路をさすらっていた。

 誰ひとり、氏素性を知らない。井上克三(勝蔵)とされる本名も定かではない。神のごとく芭蕉を慕い、酔いつぶれながら句を詠み散らし、異郷で往生をとげたのである。

 正直に打ち明ければ、私には俳句の素養など欠けらもない。のたれ死にした流浪の俳人など知るはずはないのに、井月には覚えがあった。その風狂に愛着すら抱いていた。

 つげ義春さん(79)が1980年代に描いた漫画「無能の人」に登場していたのだ。
     *
 シュールでうらぶれた異世界へひきずりこまれる「ねじ式」などの作品で神格化された漫画家は、90年代から休筆している。東京近郊の、とある駅前喫茶店で対面すると、はにかみながらこう語った。

 「私も俳句には疎いのですが、戦前に出版された『漂泊俳人 井月全集』という本を読んで、『何処やらに……』の辞世の句に死の世界で詠まれているような印象を受けました。その一句だけで井月に魅せられてしまったのです」

 30(昭和5)年刊の『井月全集』は、芥川龍之介と親密だった東京・田端の開業医、下島勲(1869~1947)が編者のひとりだった。伊那谷の生まれで、代々、名主格だった生家は、晩年まで井月の面倒をみていた。井月が没後、忘れ去られたのを惜しみ、ちりぢりに埋もれていた句を集めて世に出したのだ。

 「井月は過去を消した蒸発者」だと、つげさんは言う。
 「自己否定し、自分から解放され、別人になって人生を生き直していたのでしょう。この世からこっそりと抜け出して、霞のような『いながらいない』者になりおおせていた。私も蒸発を試みたことがありますから、自分を井月になぞらえたくなるのです」

 つげさんは68年に、有り金と時刻表だけポケットにつっこみ、失踪するつもりで九州へ旅立ったことがある。文通相手の女性を頼り、そのまま住みついてしまうつもりだったが未遂に終わった。「私はまだ、蒸発者のつもりです。どうなっても構わないと思っています。家族がいなければ、とっくに、どこかの修道院に入っていたでしょう」

 虚構の人物のように漂泊した井月はなぜ、超俗の生きざまをまっとうできたのか。

■姿は乞食、書はお公家さん
 伊那谷は、諏訪湖から発した天竜川の両岸に広がる盆地だ。東に赤石山脈(南アルプス)、西に木曽山脈(中央アルプス)が、肩を組んで立ちはだかる巨人たちのように雄々しくそびえている。

 この地で語り継がれた伝説によれば、井月は初め、顔が隠れる深編み笠をかぶり、尾羽打ち枯らした浪人の風体でやって来たという。
 年月がたつにつれ、身なりはみすぼらしくなり、シラミにたかられていたが、かならず袴はつけていた。持ち物は振り分けにした竹の行李と風呂敷包み、腰にぶら下げたひょうたんしかない。

 寡黙だが、酒にありついて上機嫌のときに発する「千両千両」が口癖だった。
 不可解なのは、みずからの正体を、かたくなに明かそうとしないことだった。

 「長岡藩が新政府軍にあらがい、激闘の末に敗れた戊辰戦争のとき、井月は故郷と断絶したまま戦おうとしなかった。ある意味、政治的亡命者のような立場で伊那谷にとどまっていたのでしょう」

 井月の生涯を伊那谷の四季に重ね合わせて描く映画「ほかいびと 伊那の井月」(2011)を監督した北村皆雄さん(73)は、そう解釈する。

 北村さんの推理だと、井月は青年武士のころ、勤王思想に傾いていた。内容が幕府をおちょくっていたため禁書にされた勤王小説を書き写し、伊那谷へ持ちこんでいたらしいからだ。長岡にいられなくなった背景にも、藩内の勤王佐幕の抗争があったとみる。

 過去を消し去った井月は、芭蕉が旅に死す覚悟を詠んだ「野ざらしを心に風のしむ身かな」の句意を体現する心づもりをしていたようだ。しかし、あてどもなく伊那谷をさまよったわけではない。

 俳諧を解する家々を訪ね歩き、句作の指導、添削をする「引墨(ひきずみ)」や書の揮毫をして、一宿一飯のもてなしを受けたり、礼金をもらったりして命をつないでいたのである。

ウーム 漂泊にあこがれ漂泊未遂の前科のあるつげさんであるが・・・井月という先達がいたのか♪

つげ義春女性を語る でも、つげさんをとりあげたところなんで、この(みちのものがたり)伊那路の記事をが気になった次第でおます。

(みちのものがたり)伊那路 長野県「無能の人」に登場した俳人 2016.11.19






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Last updated  2016.12.18 06:13:39
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