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2017.11.06
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カテゴリ: 歴史
図書館で『道半ば』という本を、手にしたのです。
神戸や台湾を描いた陳舜臣のエッセイ集であるが・・・これもミニブームといっていいんでしょうね。



道半ば

陳舜臣著、集英社、2003年刊

<「BOOK」データベース>より
歴史を語りつづける作家が自らの20世紀を綴る注目の自伝エッセイ。ペルシャ、オリエントへの憧憬。歴史のうねりの中で培った豊かな精神。作家としてデビューするまでの若き日々。
【目次】
幼い日々/海岸通の家/中山手と北長狭/進学/水害の前/舞い落ちる旗/太平洋戦争まで/戦いはじまる/海を渡る人たち/上八時代〔ほか〕

<読む前の大使寸評>
神戸や台湾を描いた陳舜臣のエッセイ集であるが・・・これもミニブームといっていいんでしょうね。

rakuten 道半ば


終戦直後の在日の台湾人を、見てみましょう。
p142~146
<戦い終わる>
 8月15日をもって「終戦」とするのが常識である。
 空襲はなくなり、灯火管制をしなくてもよい。戦争が終わったことを、大部分の市民はよろこんでいた。

 焼け跡を再空襲してもはじまらないので、神戸には大型のB29はこなくなっていたが、終戦の前には、ときどき小型のグラマンが飛来した。マリアナ基地から飛んでくるのではなく、それは艦載機なのだ。ということは、日本の近くに、アメリカの軍艦がきていることにほかならない。詰め将棋の最後の局面である。

 玉音放送があるとその日の午前に予告されたときも、
 …最後の力をふりしぼれと、かしこくも陛下が激励なされるのだ。
 という予想のほうが多かった。

 だが、私の目には日本が力尽きたのだとしか見えなかった。
 はたしておうであった。だが、それでもこれはきびしい激励だと解する者もいた。ラジオの受信状態が不良で、雑音が多かったせいでもあろう。敗戦ということを認めたくない人たちが自分勝手な解釈を加えようといたこともある。

 漢文調の文脈が理解を妨げたこともあり、後半はとくに雑音がひどかった。しかし、
 …堪エ難キヲ堪エ、忍ビ難キヲ忍ビ…
 という句は、敗戦を意味するものに外ならない。それだけははっきりときこえ、私は戦争の終了を確認した。

 放送をきいたときは、一般の人たちはまだ半信半疑だったが、放送終了後、人びとは情報を交換し、すぐに状況を把握したのである。
 正直なところ、人びとはほっとしたはずである。ほっとしたあとに湧きあがるものは、人によって大きく異なっているだろう。

  2
 街を歩く人が急にふえた。
 工場などは空襲を受けて、自宅待機の人が多かったが、ぶらぶらいているわけにはいかなかった。それで気分的にも、外出してみる気になったのだろう。

 今までは極端な物資不足だったが、どこからともなくいろんなものがあらわれた。あれほど統制されていた物資も、統制の権威が地におちると、おどろくほど大量にあらわれたのである。
 内地にいる軍隊はすぐに解散した。これらの復員兵のかつぎ出したものもすくなくないだろう。弟の敏臣も豊橋だから、十日ほどですぐに帰ってきた。所持品は毛布2,3枚、乾パン数袋ていどであったように思う。

 奈良と京都が空襲を受けなかったことは、世界的な文化財が救われた意味で、さすがにアメリカは文化国であると評価されている。これはウォーナーの献策による、と日本では思われ、彼は京都、奈良の恩人といわれてきた。
 しかし、彼自身は文化財を救ったとは言ったことはない。アメリカの国策として、空襲地点を決定するのであろう。そのためにいろいろな人の意見をきいたはずで、なにもウォーナー一人の意見ではなかったはずだ。

 アメリカが中国で作戦したときも、文化財の保護には神経を使っている。
 一般市民が生活しているまちを爆撃すれば、どんな影響があるのか、恐怖心、敵愾心の動向などをアメリカは、日本空軍の重慶空襲によって研究したようである。
 同時に中国の学者に文化財の状態をきいたのである。アメリカは中国の奥地から日本占領下の地方を攻撃することを考えていたのである。

 どこにどのような文化財があり、その価値はどれほどかということをリストアップすることを中国の学者は求められたという。アメリカに留学した考古学者梁思永(梁啓超の子息)はその一人であった。

 梁思永は甲骨学者だから、いったん埋め直してつぎの発掘を待っている。安陽の殷墟は是非爆撃しないでほしいと依頼したであろう。神戸の華僑の学校、中華同文学校は梁啓超が創設者であり、1999年に百周年を迎え、梁思永の子息を招待した。その時の話では、彼の父がアメリカから依頼されたのは、アマリカが攻撃を予定していたアジア地区全体の文化財についてであったという。だから京都や奈良は大切な文化財であることも報告したそうだ。その両市が爆撃されなかったのは、自分の報告だと梁氏は信じていたらしい。梁思永氏は中華同文学校にも在学したことがあり、両市に対する思い入れもあったのだ。
(中略)

 台湾から日本に何万人という青年…というより少年の群れが来ていた。働きながら学校へ行かせるといって、15、6歳の子を工場で働かせたのである。彼らは欺かれたと知って、終戦後、あばれだした。給料も出さずに勝手にしろと放り出したのだから、少年たちが脱線したのは当然ともいえる。

 手を焼いた当局が早期送還にのり出した。
 半年以内に台湾行きの送還船が、つぎつぎに就航するという。
 人手不足の戦時中の日本内地に台湾から大勢の人が「徴用」されて来ていた。公学校高等科(高等小学校)を出たばかりの少年が多く、彼らは夜間中学に通わせてもらえるという約束だったが、そもそも学校が工場化あれている時代であった。彼らは神奈川県座間の海軍工廠に、集中的に動員されていた。終戦によって責任者は姿を消し、給料も支給されず、少年たちの家は遠い海の彼方の台湾なので、食わんがために軍や工場の隠匿物資を略奪し、いろんな問題をおこした。

 帰郷をめざしたのは、座間の少年工員たちばかりではない。各地の中小工場に、台湾の大人の工員がだいぶ来ていた。台湾の工員が同じ経歴の日本人と同じ給料をもらえるっと聞いただけで、わっと押しかけてきたのである。これによって台湾における民族差別のはげしさが察しられるであろう。

 大人の台湾工員は「打鉄仔」と呼ばれていた。思い切りのよさと、頭の回転のよさで、戦後の日本社会で成功した人も少なくなかった。彼らのなかで踏みとどまるものもいたし、いったん帰郷する人たちもいた。


『道半ば』1 :過ぎ行く牧歌時代
『道半ば』2 :神戸空襲前後





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Last updated  2017.11.06 08:37:33
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