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2017.11.10
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カテゴリ: 気になる本
図書館で『道半ば』という本を、手にしたのです。
神戸や台湾を描いた陳舜臣のエッセイ集であるが・・・これもミニブームといっていいんでしょうね。


【道半ば】
道半ば

陳舜臣著、集英社、2003年刊

<「BOOK」データベース>より
歴史を語りつづける作家が自らの20世紀を綴る注目の自伝エッセイ。ペルシャ、オリエントへの憧憬。歴史のうねりの中で培った豊かな精神。作家としてデビューするまでの若き日々。
【目次】
幼い日々/海岸通の家/中山手と北長狭/進学/水害の前/舞い落ちる旗/太平洋戦争まで/戦いはじまる/海を渡る人たち/上八時代〔ほか〕

<読む前の大使寸評>
神戸や台湾を描いた陳舜臣のエッセイ集であるが・・・これもミニブームといっていいんでしょうね。

rakuten 道半ば


陳舜臣さんの学究時代を、見てみましょう。
p109~114
<上八時代>
 学生時代と研究所助手の時期を含めて、私は上本町8丁目時代と名づけている。最後の1年は空襲によって校舎が焼失して、しかも日本が戦いに敗れるという、劇的な出来事があった。私は自分の履歴を書くとき、このくだりでしばらく迷うのである。

 前に述べたように研究所は外務省の補助によって運営されていた。そして終戦によって外務省は、そのような名目の出費が許されなくなり、研究所は翌年(昭和21年)に閉鎖さえることになった。
 研究所の閉鎖によって職をはなれるという形になったが、澤先生は私に助教授から教授に進むというコースを予定して下さっていた。ところが戦争の終結によって、私の身分に大きな変化がおこった。

 日清戦争によって、我々台湾人は自分の意思にかかわらず、国籍を清国から日本に変更させられた。そして50年後、太平洋戦争の終結によって、再び国籍を中国にさし戻されることになった。これまた本人の意思に関係なくそうなったのである。
 これが私立の学校なら、あまり問題ではなかったが、大阪外語は国立なので、複雑な問題がおこった。

 日本人でない限り「任官」できないのである。外語には大勢の「お雇い外国人」がいて、教授会に出なくてよいが、学校行政に口をはさむことはできない。給料はむしろ任官した正式の教授より多いこともある。

 澤先生はいろいろ調査されて、
「きみ、どうする?」
 と、おたずねになった。

 私は研究生活には未練があったが、人を教えることに、もともと自信はなかった。澤先生も定年までに後継者を養成する余裕がおありだろうし、私もそろそろ潮どきだという気がした。
「ご迷惑をおかけしても心苦しいし、私にもほかにやりたいことがありますので」
 と、返事した。この返事で、学校側もほっとしたかもしれない。

 これで私の5年にわたる上八生活は終ったのである。私は故郷の台湾のこと、そして、中国のことをもっとしらなければならないと思った。帰郷する台湾人を乗せる船が、近いうちに出るという噂があったので、私はそれを待つことにした。

 上八時代はそのときは苦しみの多い日々だと感じていたが、今思い返してみれば、やはり楽しいことのほうが多かったようだ。なによりも可能性の多い、青春の日々であった。空襲、終戦というクライマックスを持った黄金時代といえるだろう。

 研究生活と文学愛好の両立しえた時期であった。このあいだ陳徳仁さんが亡くなった。彼は予定通り卒業後は外語の広東語の講師をしたり、毎日新聞社が出していた「華文毎日」の記者をしていた。だが、終戦によって彼はしばらく華僑社会の世話をしなければならなくなった。

 一時期、彼は華僑総会の会長や中華会館の理事長などを務め、華僑社会にはなくてならない人物であった。このあいだ彼を追悼する文章を頼まれて、いろいろ思い出してみたが、彼とはああんがい文学を語っていることに気づいた。彼は川端康成のファンで、できれば『伊豆の踊子』などの作品の中国語訳を手がけたいと言っていた。

 彼が若くして公職に就かねばならなかったのも、一世代前のリーダーがあまりにも日本寄りで、「華僑挺身隊」などを作って日本の戦争に協力し、いわばパージ状態になっていたからである。彼の川端熱にたいして、私は漱石を再評価しなければならぬと説いたおぼえがある。このころ「文学界」に中島敦が「李陵」を発表したことに私は興奮したが、徳仁さんはむしろ横光利一の「上海」の展開に期待しているふうだった。

 研究所は教授のほかに川崎直一氏もおられた。私はすぐに川崎さんと仲良くなった。河崎さんは30代の言語学者で、この縁でのちに大阪外大の教授となられた。この当時は何か尤もらしい職に就かないと、その筋からにらまれるおそれがあった。川崎さんはアラビア語関係で入られたと思う。アラビア語関係では印度語の先輩の伴康哉さんがおられたが途中で応召された。復員後は学校に復帰し、のちに教授となられ、コーランの翻訳などがある。当時、正式にアラビア語を教えていたのは大阪外大だけで、ユーラシアの歴史研究ではどうしてもアラビア語が必要なので、京大の学生がよく聴講に来ていた。

 その一人が藤本勝次さんで、学徒出陣の前に大阪大学にも挨拶に来られ、そのときに言葉をかわした。復員後、関西大学の教授となり、伴さんとともにコーランを訳された。中央公論の「世界の名著」のなかの「コーラン」は、伴・藤本さんと、のちに大阪外大の学長となった池田修氏の三人の仕事であった。
(中略)

 関西のエスペラントの中心的人物は、石浜純太郎先生であった。石浜先生は東大を出たあと、大阪外大のモンゴル語の選科に学ばれて、縁の深い方である。川崎さんと木曜日になると、よくお宅にうかがった。石浜家は木曜日が面会日であった。なんどか木曜日に行ったが、ふしぎなことに川崎さんと私のほかに客のいたことはなかった。戦争も末期なので当然かもしれない。

 石浜宅での話題で記憶に残っているのは、ニコライ・ネフスキーのことであった。大阪外大のロシア語の教師であるが、それよりも世界的な言語学者として知られ、1929年に帰国してレニングラード大学に迎えられた。だが、まもなく反革命の容疑で逮捕されたらしい。いやもう粛清されたという話もあった。

 「命さえあったらなぁ」と、石浜先生は暗い顔をされた。のちにわかったことだが、ネフスキーは1945年に処刑されている。
 ネフスキーがやり残した西夏語の解読は、大阪外語で私より4年下の西田龍雄君によってほぼ完成したが、これも因縁であろう。


この記事で言及のあったN・ネフスキーについては、著作集を図書館予約カートに入れてはいるんだけど・・・なんか堅い本なので、カート入れっぱなしのままになっています。

【月と不死】
月

N・ネフスキー著、平凡社、1971年刊

<出版社>より
著者は日本民俗学界の異色の存在として知られるロシア人学者で,柳田国男,折口信夫らと親交を結び,沖縄,東北などの民俗を採録した。本書は日本語で発表された論文・書簡を網羅した唯一の著作集。

<読む前の大使寸評>
ロシア人にして、日本民俗学界の異色の存在が気になるのです。

<図書館予約:予約カートに入れて待機中>

heibonsha 月と不死


『道半ば』1 :過ぎ行く牧歌時代
『道半ば』2 :神戸空襲前後
『道半ば』3 :終戦直後の在日の台湾人
『道半ば』4 :2月28日事件





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Last updated  2017.11.10 00:04:33
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