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2018.05.15
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カテゴリ: 気になる本
図書館の放出本コーナーで『ぼくの翻訳人生』という新書を、手にしたのです。
巻末の著者来歴を見ると、東大仏文科卒で、共同通信社の記者、ワルシャワ大学の日本語学科講師などを経て翻訳家になったようです。
とにかく、米国留学を中退し、ポーランド文学、ロシア文学を専攻するというヘソ曲がり具合が大使のツボを打つのです。





工藤幸雄著、中央公論新社、2004年刊

<「BOOK」データベースより>
翻訳を手がけて半世紀。著者はポーランド語翻訳の第一人者であり、ロシア語、英語、仏語からも名訳を世に送り出してきた。満洲での外国語との出会い、占領下の民間検閲局やA級戦犯裁判での仕事、外信部記者時代の思い出。翻訳とは、落とし穴だらけの厄介な作業だという。本書は、言葉を偏愛する翻訳者の自分史であると同時に、ひとりの日本人の外国語体験の記録でもある。トリビア横溢の「うるさすぎる言葉談義」を付した。

<読む前の大使寸評>
巻末の著者来歴を見ると、東大仏文科卒で、共同通信社の記者、ワルシャワ大学の日本語学科講師などを経て翻訳家になったようです。
とにかく、米国留学を中退し、ポーランド文学、ロシア文学を専攻するというヘソ曲がり具合が大使のツボを打つのです。

rakuten ぼくの翻訳人生


工藤さんが第二外国語の学習について語っているので、見てみましょう。
p85~88
■万人向けの分野では決してない
 いくつかの外国語を欲張って仕入れたところで、経験に照らせば、大して面白い事件にも、人物にも出くわすものではない。どうしてもと気張る諸君には、外国語はせいぜい二ヶ国語ぐらいに止めておくのが無難だと忠告する。

 はっきり言えるのは、人間には1日に24時間しか与えられておらず、しかもその半分以上は、睡眠と雑事に奪い取られ、せっかくの語学力を十全に発揮しようにも、さほどの時間は残りはしない。まして、三つも四つも頭の中に収めたさまざまな国の言葉を、連日、自由自在に操る余裕に恵まれようなどとは夢のまた夢である。

 この忠告を耳に入れたくない読者がいたら、猪突猛進するがよい。だが、日本人として日本語で読めるもの、読みたいもの、読んでいなければならない基本的な著作物を、犠牲とする危険を冒してまでと、前もって諦めを付けたうえでなら・・・との条件は絶対に忘れないでほしい。

 外国事情・海外文学に通暁するためには、ほぼ翻訳書で間に合う。あくまで原書で読む、などという気を起こさないことが肝要である。この忠告はぼく自身の嘆息・慨嘆の裏返しと疑ってよろしい。1日が短いように、一生は決して長い時間ではない。

 近ごろの語学講座をちらちらと見ての感想を言えば、冗談やら、おふざけで楽しませながら、にこにこと始まり、嬉しそうに終わる。あれはあれで結構だし、文句は言えない。文法だ、動詞の活用だ、格変化だ、例外だ・・・と受講生を尻込みさせる怖い、出来すぎの、秀才才媛の先生方がかつては多かった。あの厳しさ、取っつきの悪さが捨てがたい。半面、言葉のお勉強は楽しいものだと「錯覚」させたがっている最近の講座の運び方に賛成できなくもない。だが、ほんとうのところ、言葉の勉強とは、血の滲む努力また努力の積み重ね・・・にこやかに、すらすらと、左団扇で外国語が読めるようになろうとは、ゆめゆめ夢想してはならない。

 そう考えると、番組に出演の外国人講師の先生方から、却って日本語習得の苦労話をぜひとも伺いたくなってくる。失敗談には笑いもあろうが、おそらくは、よくぞ勉強なさったと感服するばかりの血と涙の物語に違いない。
(中略)

 大学で教えたころ、ぼくは第二外国語にフランス語を選ぶ1年生の講義始めに言ったものだ・・・「これまで英語ができなかった諸君は、まず上達の見込みがないから受講を諦めてください」次に「フランス語は英語と同様に簡単です。なんといっても漢字を覚える必用が全然ありませんから」と。もうひとつ「フランス語だけが発音の美しい言葉ではない。実はどの国の言葉も美しい。その間になんら優劣の差はない」とも説いた。

 Je t'aime.(仏) I love you.(英)Ich liebe dich.(独) 我愛ニー(中国)などなど、どの言葉による告白も真情の籠もる限り、それを聞く男女の耳には、必ずやうっとりとするほど美しく響き、こころ動けば、その場でさっそく同じ愛の言葉で応ずるだろう。
(大使注:ロシア語、ポーランド語も載っているが、その活字が打てないので割愛)

 言わんとするところは、問題は発音・抑揚を含む個人個人の日本語の表現力にある。この点では翻訳文の作成・表記の場合と酷似する。外国語の習得の可能性のいかんは、日本語習得の基礎に左右される。「ちいちいぱっぱ」がしっかりと身に付かない幼児に、どの外国語を押しつけても無駄である。

 本嫌いの子どもが言葉好きに成長するはずはない。音感の優れない男女に外国語のイントネーションを受け入れる耳はない。要するに、外国語を学ぶには、それなりの資格・能力・性格・経歴が要求される。万人向けの分野では決してない。



『ぼくの翻訳人生』2 :翻訳家になる前の就職活動
『ぼくの翻訳人生』1 :フランス文学体験





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Last updated  2018.05.15 01:26:59
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