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2018.12.27
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カテゴリ: アート
図書館に予約していた『ぬかるんでから』という本を、待つこと5日でゲットしたのです。
著者初めての短篇集とのこと。『イラハイ』を出している著者だけに、期待できそうである。


【ぬかるんでから】


佐藤哲也著、文藝春秋、2007年刊

<「BOOK」データベース>より
「これは奇跡に関する物語だ。」-洪水に苦しむ人々を救うため、愛する妻が“亡者”と交わした取引とは?鮮烈な余韻を残す表題作ほか、謎の圧死をとげた伯父の家での不思議な邂逅を描く「やもりのかば」、裏の空き地で少年が体験する不条理「夏の軍隊」など、美しく奇想天外な13の物語。

<読む前の大使寸評>
著者初めての短篇集とのこと。『イラハイ』を出している著者だけに、期待できそうである。

<図書館予約:(12/13予約、12/18受取)>

rakuten ぬかるんでから


短篇のなかから「ぬかるんでから」のさわりを、ちょっとだけ見てみましょう。
p14~16
<ぬかるんでから>
 妻がどうやって生き延びていたのか、わたしにはわからない。水も食物も一切を拒んで石のようにうずくまり、身動きをまったくしようとしなかった。不安に駆られて傍によって肩を抱くと、妻の身体は暖かかった。吐息を漏らすこともあった。不思議なことに誰もが干涸びて死にかけていたのに、妻の肌には艶があった。誰もが痩せ細って息絶えようとしていたのに、妻の肌には張りがあった。妻は死者のように振る舞いながら、死からもっとも遠いところにいたのだ。

 疑いを抱いて妻を調べようとした者がいた。食料を隠して夜の間に食べているのではないか、その男は声高にそう言った。それはないと確約する者がいた。すでに調べた者がいたのだ。ではなぜ息だけで生きているのか。よろめく足をどうにか動かし、周りにひとが集まってきた。近寄って妻に触れようとする者もいた。鼻を近づけて嗅ごうとする者もいた。わたしはその連中の目論みを阻んだ。

 動かない妻のために、できることを夫がしたのだ。秘密を教えろと迫る者もいた。秘密はない、とわたしは言った。目の前にあることがすべてだ、これは奇跡かもしれない。その奇蹟によって、その女だけが生き残るのか。そう叫ぶ者もいた。そして我々は死ぬのか。そうなるだろう、とわたしは言った。ひとりの女が石を拾おうとしていた。ゆっくりと身を屈めて少しでも急げば命が縮まる。まるでそのような仕草で地面に向かって手を伸ばし、小石をひとつ拾い上げた。わたしは女を睨みつけた。女が石を捨てるまで、そうしていた。

 三週間目を迎えるまでもなく、すでに事態は深刻だった。大半の者が動けなくなっていた。かれらが妻と違っていたのは、確実に死につつあるというその点でだった。そしてその点では、わたしもまったく同じだった。十五日目の夜明けまでに三人ノ者が決断を下し、救援を求めて丘を下りた。知らぬ間に出発したのだ。必ず戻るとの書き置きがあったが、期待する者はひとりもなかった。わたしたちは生き延びた者の数から、さらに三を引いた。

 わたしたちがかつて知っていた世界では、町がひとつ泥に沈めば必ず翌朝には救援があった。もしそれが来ないのであれば、ほかにも沈んだ町があるということになる。待っていれば順番が来る、必ず来ると考えていたんおは最初の二日ほどだった。その翌日には沈んだものは町ではなく、国なのだと考えるようになっていた。次の二日間はその考えを打ち消して過ごし、7日目が過ぎる頃には滅んだものは国ではなく、この世界だと考えるようになっていた。

 災厄の翌日に爆音だけを聞いたあの飛行機は、着陸する場所を見失っていたのかもしれない。地平に見えたあのきらめきは、泥に流される文明の残骸だったのかもしれない。だとすれば期待を持たせた音と光は、どちらもいまはぬかるみの下に埋まっていることになる。救いはない、それがわたしたちの結論だった。二十日目の朝を迎えるまでは。

 二十日目の朝、そいつはやってきた。いや、やってくるのを見た者はひとりもいない。陽に乾いた泥を突然破り、立ち上がって現れた。亡者だった。のけぞるようにして高らかに笑い、自分の口でそう言ったのだ。
「どうだ驚いたか、おれは亡者だ。偽りのないこの姿を見るがいい。髪は抜け落ちて残りはわずかだ。また伸ばそうにもこの頭には皮膚がない。目は目蓋を失った」



ところで、その『イラハイ』という本が積読になっているので・・・
年越しを機に、読んでみようかと思ったりするのだが。

【イラハイ】
イラハイ

佐藤哲也著、新潮社、1996年刊

<「BOOK」データベース>より
婚礼の日にさらわれた花嫁を追って、波瀾をのりこえて駆ける青年の冒険の物語…。「贅沢な遊び、これこそがファンタジー」と絶賛された新古典。第五回日本ファンタジーノベル大賞受賞作。

<大使寸評>
面白そうな本であるが・・・
とにかく、この本は改行のない文体なので、イラチな大使にとって、読みづらいのである。
で、途中ストップで積読状態にあるのだが、暇になれば読もうと思っている。

Amazon イラハイ





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Last updated  2018.12.27 12:04:48
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