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2018.12.29
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カテゴリ: 気になる本
図書館で『いしいしんじの本』という本を、手にしたのです。
巻末の著者略歴を見ると、京大仏文科卒で、織田作之助賞を受賞しているということで、変り者なんでしょう・・・ということで借りたのです。

図書館が正月休みに入るので、年越し本として追加して借りたのです。




いしいしんじ著、白水社、2013年刊

<商品の説明>より
小説家いしいしんじは読む。とにかく読む。青年時代に没入した漱石や宮沢賢治、ブラッドベリから、小川洋子、小島信夫、辻原登、莫言、グレアム・スウィフト、ゼーバルト、マンガレリといった古今東西の作家たちまで。ジャンルの分け隔てなく読むのも、いしい流読書の魅力。写真家鬼海弘雄や絵本作家荒井良二、現代美術家大竹伸朗、漫画家ほしよりこなど、著者が語る本は、どれもみななんと面白そうであることか。なにより読んでいる本人が心の底から、身体の底から、本の時間を味わい、楽しみ、生きている。

<読む前の大使寸評>
巻末の著者略歴を見ると、京大仏文科卒で、織田作之助賞を受賞しているということで、変り者なんでしょう・・・ということで借りたのです。

amazon いしいしんじの本


この本の目次を見てみると、著者の広い守備範囲が見えるわけで、まさに読ませるエッセイ集となっています。
エッセイの一つを、見てみましょう。
p13~14
<韓国のひとたちへ>
 韓国のみなさんへ。はじめまして、いしいしんじと申します。ぼくの本を手にとっていただいて、たいへん感謝しております。韓国語といううつくしいことばで、ぼくの文章がみなさんの目にふれるなんて、まるで夢のようです。出版社のかた、翻訳家のソ・ヘヨンさんには、感謝のことばもありません。

 ぼくの小説は、日本において、たいへん珍しいものと受け止められているようです。「現代の社会問題を鋭くえぐること」とか「現代人のこころの傷をあきらかにすること」などとは、まったくかけはなれた、他愛のないはなしばかりだからです。たとえば、動物と会話ができるとおもいこんだ、木の上で暮らす少年。空から無数のねずみがふってくる港町。呼ばれれば「にゃあ」とうたう、ねこという少年がいる田舎の吹奏楽団。こんなやつら、世界のどこにいるんだよ、と自分の作品ながらいいたくもなります。ある意味、現実ばなれしている、といわれて、しかたないかもしれません。

 ただぼくは、こどものころに熱中して読んだ本は、本のなかだけ、現実があったようにおもいます。ごはんだよ、と呼ばれても、学校にいく時間がきても、ただ本のなかにはいりこんで夢中でページをめくる。こういう体験は、日本であろうが韓国であろうが、こどもならきっとやっているはずです。おとなになったわれわれは、あのころの没入した時間を忘れがちでいます。ただ、あの興奮はまちがいなく、胸の奥でちいさな炭のように燃えつづけている、と信じています。

 ぼくはいま、その小さな灯りに照らしながら、小説をかいています。はじめておはなしをかいた四歳半のころから、このやりかたはかわっていません。どんなはなしが作りたいですか、とひとにきかれると、ぼくはいつでもこうこたえることにしています。
「百年前のイヌイットのこどもでも、二百年後のアイルランドのおじいちゃんでも、おもしろいな、とおもってもらえるはなし」
 トリツカレ男はこうして、韓国のみなさんに読んでいただけることになりました。おもしろいな、とおもっていただければ、そして本のなかの時間に一瞬でも没入していただければ、こんなに嬉しいことはありません。

                 『トリツカレ男』韓国版刊行によせて 2002年9月


エッセイをもう一つ、見てみましょう。
p18~21
<みさきのすきま>
 三浦半島の突端、三崎の一軒家にひっこししてまる二年が過ぎた。はじめのころ、地元のひとびとはずいぶん距離があった。三崎になんのゆかりもない、顔色のわるい男が、タオルをのどにぐるぐると巻き、昼ひなかから露地や埠頭をあてどなくさまよっている。これは怪しまれて当然だろう。家に近隣のこどもが遊びにくるようになってから、「あれはどうも無害だ」とあたりに知れ、一枚ずつカードをひっくりかえすように、ご近所のみなさんと親しくなっていった。

 夏には揃いのはんてんを着て神輿をかついだ。きのうは隣のおじいさんと草むしりをした。ぶどうをもっていったお返しに、はすむかいのスナックから、手製のさんま寿司をいただいた。今朝、米屋さんに酒瓶をもっていくと、夕方ししとうをもらった。

 ぼくと三崎の距離はずいぶん縮まったけれど、その「すきま」がなくなることは、これからもないだろう。すきまというとどこか寂しげだけれど、すきまがあいているからこそうまれる笑いや美しさもある。南へひらけた港町、三崎には、昭和の中期にまぐろ漁で大もうけしたせいか、陽気なひとが多い(なにか冗談をいわないひとをぼくはひとりも知らない)。ただその笑いは、自分たちを外から笑いとばすような、どこかシニックな気配をふくんでいる。

 祭礼行事がさかんで野良猫が多く(みな餌をやる)、百歳近い老人とかくれんぼの小学生が路上で話しこんだりしている。この港町自体に、目にみえないしきまを大切にする気風があるようにおもう。

 多和田葉子さんのエッセイ『エクソフォニー』を読むと、すきまに立つときにこそ、人は豊かな表現をうみだし得るのだと気づかされる。ドイツ語と日本語のあわいに見をおきながら、多和田さんはことばがことばになる以前の暗がりへ、そっと指を伸ばし、その大きな塊をゆっくりとなぞる。エクソフォニーとは、みずからの表現手段として、母語以外の「外のことば」を選びとった状態のことで、亡命者や被圧政者だけでなく、外国へ移り住んだ作家、外国語をすすんで習得した小説家、もっといえば、自分の使用することばに「外的に」意識的な作家たちも、このなかにふくまれる。

 詩人はすべてエクソフォニーであるべきだし、現代小説家もしかり、と多和田さんはおっしゃっている。日常の薄皮一枚むこうに、不気味かつ愉快なエクソフォニーの世界がひろがっていることは、三崎の老人と幼女のあいだでかわされる、ふしぎなことば遊びをきいても明らかだ。
(後略)                「ことし読む本いち押しガイド2004」2003年10月





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Last updated  2018.12.29 11:48:41
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