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2019.05.18
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カテゴリ: 気になる本
図書館に予約していた『極夜行』という本を、待つこと5ヵ月でゲットしたのです。
昨年末のETV特集『極夜 記憶の彼方へ~角幡唯介の旅~』を観たのだが、壮絶な内容であった。
…で、イラチな大使はこの本の図書館借出しを予約していたのです。





角幡唯介著、文藝春秋、2018年刊

<「BOOK」データベース>より
ひとり極夜を旅して、四ヵ月ぶりに太陽を見た。まったく、すべてが想定外だったー。太陽が昇らない冬の北極を、一頭の犬とともに命懸けで体感した探検家の記録。

<読む前の大使寸評>
昨年末のETV特集『極夜 記憶の彼方へ~角幡唯介の旅~』を観たのだが、壮絶な内容であった。
…で、イラチな大使はこの本の図書館借出しを予約していたのです。

<読始めの大使寸評>
このドキュメンタリーは連れ合いの出産場面から始まるのだが、予想が外れるわけで異色である。
なるほど命がけの探検のプロローグとしては、繋がっていると言えるのかもしれないですね。どちらも光に注目して描いています。

<図書館予約:(12/02予約、5/06受取)>

rakuten 極夜行


「最北の村」の続きを、見てみましょう。
p27~30
<最北の村>
 もちろんシオラパルクは世界最暗の村なので、極夜は私だけの問題ではなく、ここに住む村の人にも大きな生活の障碍として横たわっている。

 私が到着したのは11月7日、その頃はまだ極夜が始まったばかりの時期で、太陽は南中時に地平線の近くまで昇ってくるので昼間はうっすらとした明るさにつつまれる。しかしそれもまもなく終わりになる。冬至に向かうにつれて太陽はじわじわと地平線の下に沈み込んでいき、そのうち村は24時間の闇に閉ざされる。

 そうなったら狩猟はいちじるしく制限を受ける。そのため村の男たちはまだ残るわずかな光量を頼りに、浮き氷の危険があるにもかかわらず、最後の追い込みとばかりにモーターボートでセイウチを追いかけていた。極夜という長い夜を乗りこえるために、最後の食料の備蓄にはげんでいるのだ。

 村に来て数日後、全身羽毛服で身を固めたヌカッピアングアの奥さんが私の借家にやってきた。
「ヌカッピアングアが帰ってきたよ。セイウチを獲ったってさ」

 私は急いで防寒衣を着こんでカメラをもって浜に向かった。浜辺ではねっとりと粘つく重苦しい闇の中で、ヘッドランプの白い光だけが激しく交錯していた。ヌカッピアングアはこの日、同世代の村人とコンビを組んで狩りをおこない、首尾よく2頭のセイウチを仕留めていた。

 男たちは興奮しながら縄で船を浜に揚げていた。猟をしていない男たちも家から出てきて手伝っている。陸揚げは単なる力仕事なので私にもできる。過去に村に長期滞在した経験がある私は、この作業を手伝えば自分も狩りの共同作業の一端の、そのまたかなり隅っこの際のあたりを担ったとみなされ、肉のおこぼれに与る可能性がでてくることを知っていた。

「せいの、よいしょー」
 私は精いっぱい虚勢の声を張り上げ、渾身の力を込めている姿勢をよそおいつつ、ロープを引っ張った。

 揚船作業が終わると、今度はセイウチの引き揚げ作業がはじまった。セイウチは体重1トンにも達する巨獣で、彼らは仕留めた獲物をロープでボートにくくりつけて村まで引っ張ってきていた。
「イン、トゥ、サイ!」

 セイウチの陸揚げも単純な肉体労働である。みんなで声をあわせて引っ張った。セイウチを浜に揚げると、男たちはまず皮を剥ぎ、そして骨と骨の間に巧みに大きなナイフを入れて矢継ぎ早に肉の塊を切りわけていった。

 男たちの口や鼻から荒い息が立ちのぼり、解体されるセイウチの肉からも白い湯気が湧きあがる。その白い湯気がヘッデン(ヘッドランプ)や街頭の灯りに照らされ闇の表情のなかに皺が刻まれ、浜は血と脂と、巨大な獲物を仕留めたときに特有の、人間の精神の原始的な部分に根差す奇妙な熱気につつまれ、昂揚した。

 足元にメスセイウチの頭部がごろんと転がった。閉じた目は優しくも眠たげで、人間の表情と何ら変わらないようにも見えた。力仕事を手伝った私は犬の餌用に大きな背骨とあばら肉をもらい、目論見通りおこぼれに与ることに成功した。

 今回の旅ではフリーの映像ディレクターである亀川芳樹さんとカメラマンの折笠貴さんという二人の取材班がシオラパルクまで同行して、出発までの準備を撮影した。
(中略)

 村に着き、私はまず自分の犬を引きとりにいった。犬の名はウヤミリック。地元の言葉で<首輪>という意味だが、イヌイットは犬の名前を適当につけるので、<首輪をはめられた動物として従順に生きて欲しい>みたいな意味があるわけではない。人懐っこいことにかけては村一番であるこの犬は、暗闇のなかから私がライトをつけて近づいてきたことに気が付いた途端、尻尾をぶるんぶるん揺らし、再会の喜びで白く長い毛を震わせて、推定体重40キロ近い巨体ごと私によりかかり顔をべろべろと舐めまわそうとした。

「デカいですね」亀川さんが犬を見て言った。どうやらまたぞくぞくしているようだった。「それにもののけ姫の狼みたいに凛々しい」

 そういわれると気のせいか1年前より身体がひと回り大きくなったように見える。ちょうど3歳の働きざかりなので筋肉が以前より盛りあがったのかもしれない。


『極夜行』2 :イヌイットとのファーストコンタクト
『極夜行』1 :東京医科歯科大学附属病院分娩室





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Last updated  2019.05.18 20:36:45
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