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2019.05.26
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カテゴリ: 気になる本
図書館に予約していた『日本三文オペラ』という文庫本を、待つこと20日ほどでゲットしたのです。
泥棒集団“アパッチ族”については、小松左京が先に出版し、当時かなり売れたことを記憶しているのです。
また、山本太郎主演で『夜を賭けて』として映画化されたアパッチ族である。
(山本太郎議員の若き日の姿が、カッコイイのである)

…ということで、かなり遅れてしまったが、開高健の描くアパッチ族が興味深いのである。





開高健著、新潮社、1971年刊

<「BOOK」データベース>より
大阪の旧陸軍工廠の広大な敷地にころがっている大砲、戦車、起重機、鉄骨などの残骸。この莫大な鉄材に目をつけた泥棒集団“アパッチ族”はさっそく緻密な作戦計画をたて、一糸乱れぬ組織力を動員、警察陣を尻目に、目ざす獲物に突進する。一見徒労なエネルギーの発散のなかに宿命的な人間存在の悲しい性を発見し、ギラギラと脂ぎった描写のなかに哀愁をただよわせた快作。

<読む前の大使寸評>
泥棒集団“アパッチ族”については、小松左京が先に出版し、当時かなり売れたことを記憶しているのです。
また、山本太郎主演で『夜を賭けて』として映画化されたアパッチ族である。

…ということで、かなり遅れてしまったが、開高健の描くアパッチ族が興味深いのである。

<図書館予約:(4/30予約、5/18受取)>

amazon 日本三文オペラ


アパッチ部落の歴史を、見てみましょう。
p38~43
<三>
 この廃墟のなかを城東線が横断していることはさきにいったが、その線路に沿って猫間川という名の運河がある。これは深くて、へりがほとんど崖といってもよい急勾配をもち、兵器工場時代には誰もちかづくことができなかった。この猫間川は城東線に沿って荒れ地のなかを横断し、もうひとつの平野川という運河にT字型にまじわっている。平野川のふちは崖にはなっていないが、そのかわり底知れないほどの泥がよどんでいる。フクスケが部落から出てガス管をつたってわたったのはこの川である。

 この川をこして対岸の兵器工場跡へわたるためには、ガス管をつたうか、伝馬にのるしかない。弁天橋という橋がひとつあることはあるが、これは造兵廠の正面にあたり、財務局の分遣所である詰所があって警官や守衛が監視しているから、一応、使用できないということになる。が、ガス管をつたうことも伝馬にのせることもできないような、ジープの車輪をくっつけた“特車”をゆうゆうと部落からひっぱりだして対岸へもぐりこんだ連中もいることはすでにかいま見たとおりだから、弁天橋が使用できないというのは、あくまでは“一応は”ということにとどまりそうである。

 ところで、部落だが、これもかなり奇怪なものである。いまの湿布部は平野川をわたる城東線の鉄橋の脚部から発生して、荒地の対岸の岸辺一帯にほぼ100軒、人数にして800人前後の人間が鶏小屋のような土の腫物のなかに住んでいる。もっとも、この部落の人口というのは、定数ではない。なぜなら、かなり多数にのぼる定住者もあることはあるが、さらに多数の人間は前科者、浮浪者、失業者、密入国者などであって、たえず風のように来ては水のように去ってゆき、外からみたのではなにがどうなっているのかまったくわからない。

 管轄の東警察署と城東警察署の担当刑事の調書を読んでも、部落の内部事情についてはほとんど詳細が記されていないのである。部落の住人は刑事が入ってくるとたちまち警戒するし、工場跡で古鉄を盗んでいる現場を捕らえられて訊問されてもみんな黙秘権を行使するから、なにひとつとして知ることができない。そういう意味では、ここは“大阪のカスバ”ということができよう。が、住人の気質のなかには、飢餓線上の放浪者であるにもかかわらず定住者ではないから、横の連帯関係が発生する沈殿や腐敗の痕跡が見うけられることはあるまいという予想が当然生まれるが、これもおいおい観察していくこととしよう。

 この苔のような部落が、いつごろ発生したのかはよくわからない。ずいぶん人を食った挿話がひとつつたわっているが、これもどこからどこまでほんとなのか、うそなのか、さっぱりわからない。が、それよりほかに説明のしようがないので書いてみる。まだこの界隈が戦後間もなくて、猫一匹住んでいない煉瓦と草の荒地だった頃、どこからか虫のような老婆がひとりやってきて虫のように住みはじめた。いまの住人は彼女のことをオキク婆さんと呼んでうわさする。しかしそれは、かりにオタキであってもオハナであってもべつにかまわないような婆さんであった。

 婆さんは城東線の橋脚のしたにたたずんで、平野川の対岸の35万坪のぼうぼうとした日光と草と空を見たとき、すっかり無主物占有観念にとりつかれてしまった。彼女は古藁のような手足をつかって、そのような手足を入れるにじゅうぶんなだけの小屋を建てた。そして、たまさかの通りすがりの人間にむかって郷愁を訴えはじめた。何人かの人間がうんずくのを発見して、彼女はそれをくりかえすうちに、どうやら自分でも信じこんでしまうようになった。すくなくとも聞いた人間が彼女の言葉につよい確信を感じて、彼女の言葉を金にかえるようなところまで、彼女の表現は高まった。
「…わても戦前はここでなァ」
 と彼女は嘆いた。

 行き場所に窮し果てて影のように町をうろついていた男たちはオキク婆さんの屋敷跡と彼女のしっかり者の亭主の工場跡に住みつくこととなった。彼女は一坪いくらなどとけちなことはいわず、とにかくひとりの男が住みたいと思うだけの場所を何坪でもかためて千円ぐらいから売りはじめ、ついにさいごは二万円というところまでせりあげた。口説いて、せりあげて、値切る相手をほどよくあしらって金がたまると、彼女はそれをもって、ある夜、消えた。まったく人を食った話である。

 土地台帳の権利者名に署名捺印していた製薬業者の男が戦後数年の四苦八苦をどうやらきりぬけてもとの土地に帰ってきてみると、そこにはすでにどうにもこうにもこれ以上てんらくしようのあい、惨憺たる男や女や子供が、フジツボのようにみすぼらしいがしかしガッチリと土にしがみつき、おしあいへしあい尿と汗の匂いをたてて暮らしていた。
(中略)

 ガンとなぐった男が鉄橋をわたって部落へもどってから、部落の住人800人、子供から老婆までひとり残らずが泥棒になるまでは、あまり時間がかからなかった。子供がドンゴロスの袋をもって屑鉄をひろいにいき、2時間ほどしてもどってきてから古鉄仲買人の仕切り屋のところへもっていくと、一貫が60円で売れた。部落民たちは守衛と警官と財務局と法律の存在を知りぬいていたが、一日に一食かせいぜい一日にニ食、それも眼が映るほど薄く心細いおかゆしか食べられない胃袋、何回経験をかさね、何度闘争しても、いつまでたっても慣れることができず、新鮮な、痛烈な傷口をひらく飢えを35万坪の物量のまえでだまらせておくこよはできなかった。

 彼らは自分たちの不法行為を無主物占有観念で支え、官僚への不信で裏打ちし、すみからすみまで精神と道具で武装して荒地へかけこんだのである。



『日本三文オペラ』3 :川太郎(がたろ)の実態
『日本三文オペラ』2 :アパッチ部落への侵入
『日本三文オペラ』1 :冒頭の語り口





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Last updated  2019.05.26 06:55:35
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