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2019.08.01
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カテゴリ: 中国
図書館で『長く高い壁』という本を手にしたのです。
日中戦争当時の大事件を通じて兵隊たちの日常が語られるのであるが、元自衛隊員でもある浅田さんの筆致はまさに真に迫るようです。






浅田次郎著、KADOKAWA、2018年刊

<「BOOK」データベース>より
1938年秋。流行探偵作家の小柳逸馬は、従軍作家として北京に派遣されていた。だが、突然の要請で前線へ向かうこととなる。検閲班長の川津中尉と共に、北京から半日がかりで辿り着いた先は、万里の長城、張飛嶺。そこで待っていたのは、第一分隊10名が全員死亡という大事件だった。なぜ、戦場に探偵作家が呼ばれたのか。10名は戦死ではないのか!?分隊内での軋轢、保身のための嘘、軍ならではの論理ー。従軍作家の目を通し、日中戦争の真実と闇が、いま、解き明かされる。「戦争の大義」「軍人にとっての戦争」とは何かを真摯に捉え、胸に迫る人間ドラマ。

<読む前の大使寸評>
日中戦争当時の大事件を通じて兵隊たちの日常が語られるのであるが、元自衛隊員でもある浅田さんの筆致はまさに真に迫るようです。

amazon 長く高い壁


この小説の語り口を、ちょっとだけ見てみましょう。
p100~102
<8>
 痴愚もしくは魯鈍。そうではなくとも成績きわめて不良。体力の著しく劣る者。そればかりか、さまざまな事件事故を起こして、軍法会議に送られただの、重営倉にぶちこまれただのという前科持ちの兵隊は、すべて残留組なのです。

 一言でいうなら、出戦不堪者…戦闘に堪えざる者、であります。自分は大隊事務室で人事係をしておりましたので、兵籍簿や功績簿のほかに、この「出戦不堪者」の名簿も管理しておりました。よって、一目瞭然であったのです。

 だにしても、千人中の三十人というのは、まさしく選りすぐりの不良兵であります。体力知力に多少なりとも劣るという程度の者は含まれません。たとえば小銃を分解したら最後、組み立てられないとか、残弾が数えられないとか、あるいは日ごろから上官に反抗的で、実包を持たせたら何をするかわからないとか、脱走歴があるとか、要するに足手まといというよりも、実害がありそうな連中を残すことにしたのです。

 冷酷非情の准尉殿も、さすがにこの残留部隊の小隊長は誰それと決められない。そこで、戸田見習士官に教員の経験もある青木伍長を付け、軍曹に上げて先任下士官ということでよかろう、と。

 大隊の戦力を最優先とすれば、まずは妙案であるとも言えましょうが、いやはや大変な役目を押しつけられたと思ったものでした。

 事変に際して急ぎ動員された部隊は、もともと質が悪いのではないでしょうか。思えば十年前に現役入営した歩兵三連隊は、弱兵などひとりもいない精鋭部隊でありましたし、上海事変の動員も召集兵こそ多かったが、軍紀は厳正であったと思います。だが、この独立ッ歩兵大隊はまったくの寄せ集めでありまして、兵の軍歴も出身地もてんでんばらばら、師管区は同じ東京なのに、なぜこんなふうになるのかと首をかしげることしきりでした。そうした独歩を次々と編成していけば、質がいよいよ低下するのも当然でしょう。

 自分が生れた東京近郊でも、古くからの農家と新興住宅地の住民とでは、なかなか反りが合わんのです。小学校の児童などは、明らかに一線を画してうちとけません。また、事変下の増産体制でずいぶん工場も建ちまして、その職工の子供らなどは、家庭環境もそれぞれの気性もよくはわからんのです。
 もしかしたら、自分はそのような愚痴を准尉殿にこぼしたかもしれません。娑婆の身の上話など、軍隊で口にしてはならぬという好例であります。

 はい。張飛嶺守備隊はこの編成表の通りであります。自分が書いたものでありますから、まちがいはありません。
 総員三十名。三個分隊、各十名。指揮班等はありません。すなわち、小隊の編成には満たない員数合せであります。
「規定ノ任務ヲ全ウスルニ足ル最小限ノ兵力」という軍命令に順えば、こういうことになるのでしょう。





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Last updated  2019.08.01 06:26:47
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