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2019.10.24
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カテゴリ: 歴史
図書館で『長江有情』という本を手にしたのです。
ぱらぱらとめくると、カラー写真が満載のビジュアル本であるが・・・
西域に憧れる大使にとって、長江や成都は欠かせないのでおます。





田中芳樹著、徳間書店、1994年刊

<「MARC」データベース>より
青蔵高原のタングラ山脈から流れ出て歴史を懐に秘めつつ中国大陸の腹部を貫く大河・長江。麗しき山域・重慶から瞿塘峡巫峡、大寧河を経て西陵峡の終点南津関、宜昌の街まで、写真と文の旅。鮮烈な自然と懐しい人の営みと。

<読む前の大使寸評>
ぱらぱらとめくると、カラー写真が満載のビジュアル本であるが・・・
西域に憧れる大使にとって、長江や成都は欠かせないのでおます。

amazon 長江有情

三峡下り


三峡が出ている辺りを、見てみましょう。
p24~25
<秦良玉から岳飛への旅:田中芳樹>
■重慶から三峡へ
 長江の旅は重慶から始まり、武漢で終わった。当初は気づかなかったが、この両都は、北方異民族の侵攻に抗した中国史上の英雄ふたりに関係している。重慶は明末の女将軍秦良玉が拠った地であり、武漢は南宋初期に岳飛が活動した主要な舞台のひとつである。

 岳飛については後述するとして、秦良玉はつい先日まで歴史的ヒーローとしての資格が完全ではなかった。ヒーローは歴史上の実像世界と虚構上の虚像世界と、両次元の世界を生きねばならないのだが、彼女は虚像世界と無縁であった。

 つまり最近まで彼女は小説に描かれたことがなかったのである。何しろ彼女が敵として戦いつづけたのは清軍であって、清が天下の主となった以上、小説という形で彼女の功績を称揚することはできなかったのだ。

歴史上文学上の女将軍たち(花木蘭、ボク桂英、梁紅玉ら)に比べてまことに不遇であった彼女が、ようやく虚像世界に席を得ることができたのは、日本人の筆によってである。
「女将軍伝」によって秦良玉の席を虚像世界にもうけたのは井上裕美子さんである。雨に閉ざされた重慶の街を見やって、井上さんの感慨はひとしおであったにちがいない。

 重慶は上古、巴国の土地であった。考古学上きわめて重要な土地である。またアジア近代史においては、1937年から45年にかけて国民政府の所在地となり、外交と戦略の中枢となって、書き落とすことのできない地名となった。当然、近代史に取材した小説の舞台ともなっている。

 だが上古と近代との間がまったく空白である。四川省の地は一般に蜀と呼ばれ、治乱興亡がくりひろげられたが、その中心となったのはつねに成都であった。蜀漢の劉備、前蜀の王建、後蜀の猛知祥、いずれも成都に帝府をおき、南宋の名だたる武門であった呉一族も成都を根拠地とした。

 唐の玄宗皇帝やキソウ皇帝が行在所としたのも成都であった。歴史をつかさどる神は成都にのみ照明をあて、重慶には冷淡であったように思われる。

 わずかに光点がふたつある。ひとつはむろん秦良玉で、いまひとつは後漢末期に名があらわれる厳顔である。史実においてはほんの数行の記述があるのみだが、「三国志演義」というアジア最大の虚像増幅システムによって、その名は多くの日本人に知られている。
「万人の敵」張飛を苦戦せしめたことで厳顔の名は永く残るのだが、彼の個人的な武名はともかく、東方から蜀へ侵入する者は、かならず重慶を通過しなくてはならない。まさに「兵家必争の地」なのである。

 重慶が要害の地であることは、朝天門に立って実感した。朝天門は長江と喜陵江とが合流する地点で、やや古い事典には「朝天嘴」と記述されている。「嘴」とは絶妙な表現で、その先端部に立つと、右手を長江が、左手を喜陵江が、それぞれ流れ下り、鋭角にまじわって大長江となる。合流点は、上空から見ればまさしく東方へ突き出した嘴の形となる。

 そこに立てば長江を往来する大小無数の船がことごとく一望できる。この地を陸上から攻撃しようとすれば、南の長江か北の喜陵江を渡河せねばならず、水上から攻めようとすれば河流にさからって船を接近させねばならない。唯一の攻撃路は西だが、起伏に富んだ地形は迎撃に易い。近代以前においては難攻不落であったろう。

 この要害の地に軍旗を屹立させ、長江の水面をにらんで清軍撃退のチュウ策をたてる女将軍秦良玉の姿を想う。現存の権力者の像を立てて崇拝するのは醜怪だが、歳月を経てほぼ評価のさだまった人物の像はあってよい。そして彼女の像を立てるにもっともふさわしい場所は、朝天門の突端、まさに嘴の先端部であるにちがいない。





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Last updated  2019.10.24 07:44:02
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