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2020.03.09
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カテゴリ: 歴史
図書館で、『スパイス戦争』という本を手にしたのです。
イギリスとオランダの戦いに日本人傭兵もからむという、波乱にみちた南シナ海を描くノンフィクションが、興味深いのである。






ジャイルズ・ミルトン著、朝日新聞出版、2000年刊

<「BOOK」データベース>より
香料残酷物語。アジアの片隅の小さな島々が歴史の流れを変えていく!黄金より貴重なスパイス、ナツメグの支配権をめぐって血なまぐさい戦いを繰り広げるイギリスとオランダ。埋もれた史料から、その渦中にいた人々の勇気と知略、残虐さと陰謀を活写して、英米でベストセラーになった傑作歴史ノンフィクション。

<読む前の大使寸評>
イギリスとオランダの戦いに日本人傭兵もからむという、波乱にみちた南シナ海を描くノンフィクションが、興味深いのである。

rakuten スパイス戦争

国姓爺


日本人海賊の登場あたりを、見てみましょう。
p115~117
第4章 ライオンの爪にかけられ
 傍若無人のマイケルボーンは、こんどは80トンのインド船を待ち伏せて略奪した。成功に気をよくしてバンタム港に入ってゆくと、オランダの巨船が五隻、錨をおろしていた。自分の豪傑ぶりに満足げな笑みを洩らすと、各船長にメッセージを送った。「これから舷側の近くまで行く。こちらに砲口を向ける勇気のある、もっとも誇り高き船に伝える」。マスケット銃一挺にでも弾をこめている船がいたら「沈めるか、それとも舷側を接していっしょに沈んでやる」。

 オランダ船は自分が標的にされているのを知って仰天し、バンタム王に、イギリス人はみなおなじだ、「泥棒で、すぐカッとなる」と訴えている。そして、マイケルボーンの挑発には乗らず、甲板の下に身を低くした。マイケルボーンの船は港内を行ったり来たりしていた。「オランダ人どもはわれわれが行くまではふんぞりかえって水辺を行き来していたのに、いまは物音ひとつ立てず、人影もない」

 マイケルボーンはここまでは幸運だった。彼は豪胆そうにふるまい、虚勢を張っていたが、それを見破るものはだれもいなかった。しかし彼は、このあとまもなく強敵に出会う。<タイガー>がマレー半島沖の穏やかな海をただよっていたときである。見張座からとつぜん叫び声があがった。見たこともない船が近づきつつあった。巨きなジャンクで、甲板に80人以上の男がずらりと並んでいるのが見えた。

 異様な風体の男たちだった。短躯で、ずんぐりして、顔に表情というものがまるでなかった。マイケルボーンは、重装備のボートを偵察に出して、この男たちが敵か味方かを知ろうとした。短いやりとりののち、船は「日本のジャンク」だとわかり、イギリス人は船内に招待されてあちこち見せられた。

 商売は何だ、と訊くと、ためらうことなく答えて言った。そのジャンクは<タイガー>と同じく海賊船で、東南アジア海域で勢力を伸ばしていることがご自慢だった。中国、カンボジア沿岸を荒らしまわり、ボルネオ沖で六隻の船を襲い、戦利品を積んで日本へ帰るところだという。

 全員ぶじ<タイガー>に帰船してから、マイケルボーンはこのあとどうしたものかと考えた。そしてこれまでのつきを信じてジャンクを略奪することにし、動静をさぐるためにあらたに部下の一団を送りこんだ。彼らがジャンクの長所、弱点に探りを入れていることは日本人の目には歴然としていたが、素知らぬ呈でこころよくイギリス人を歓迎し、船倉をはじめどこでも自由に近づくことを許した。

 積荷の中でもとくに貴重な品物を指して教えてくれまでしたので、<タイガー>の連中は、こんな変わった人間は見たことがないと驚いた。「船乗りにしては立派な態度だった」と一人は書いている。「たがいに分けへだてなく、みんなが同輩のように見えた」。イギリス船へもおいでくださいと言うと、断っては礼儀にもとるとでもいうように、いっせいにうなづいた。

 ここではじめてマイケルボーンの経験不足が顔を出した。インド亜大陸の一帯では、日本人は「何をするかわからない、そこかしこで怖れられている人間」だとの評判をとっていることを彼は知らず、東洋のどこの港でも、日本人に上陸を許すときはまず刀剣を取り上げるのが習慣となっていることも知らなかった。デイヴィスも「彼らの謙虚そうな外観にだまされ」た。武器を取り上げる必用があるなどとは夢にも思わず、船を動かしてみるようすすめたり、乗組員同士が仲良くなるのも咎めなかった。日本人たちはつぎつぎと乗りこんだ。乾杯が交わされ、二組の船員が冗談を言い合い、談笑した。

 一瞬にしてすべてが変わった。イギリス人が気づかぬうちに、日本人は、マイケルボーンの言葉を借りれば「私の船を奪うか、それとも命を捨てるか、腹を決めた」。笑顔は消え、笑い声も聞こえなくなった。日本人は野蛮な「悪漢」と化し、イギリス人を突き刺し、滅多切りにした。

 <タイガー>の乗組員がこのような敵に遭遇したのはあじめてで、抵抗する間もあらばこそ、長刀を振りかざし、あるいは振りまわす日本人の群れで甲板はいっぱいになった。まもなく彼らは銃砲室になだれこみ、デイヴィスがマスケット銃に弾をこめようと必死になっているのを見つけた。「彼らは船室に連れこみ、6、7突きで致命的な傷をおわせ、船室から突き出した」。彼は甲板をよろめいていったが、刀傷が動脈を切断していて、出血多量で死んだ。おかの者たちも瀕死の苦しみにあえいでいて、<タイガー>が奪われるのも時間の問題と思われた。

 それを救ったのは、マイケルボーンだった。選り抜きの戦士たちを鼓舞して捨て身の逆襲に出て、「リーダー格の日本人の3、4人を殺した」。日本人の士気は落ち、戦況の不利なことを悟りはじめた。短刀と刀だけの武器では、とうていマイケルボーンの槍兵の敵ではなく、じりじりと追いたてられ、ついには団子状になって船室の入り口に追いつめられた。窮地に陥ったと知り、彼らはおそろしい悲鳴をあげて、船底へと真っ逆さまになだれ落ちた。


『スパイス戦争』1 :プロローグ
『スパイス戦争』2 :探検隊の悲劇
『スパイス戦争』3 :日本人海賊の登場





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Last updated  2020.03.12 09:41:44
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