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2021.02.07
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カテゴリ: アート
図書館で『回転木馬のデッドヒート』という本を手にしたのです。
村上さんの初期の短篇小説集であるが、これはいい本に出会ったぜィ・・・
図書館めぐりの役得というか、一期一会なんでしょうね♪





村上春樹著、講談社、1985年刊

<「BOOK」データベース>より
現代の奇妙な空間ー都会。そこで暮らす人々の人生をたとえるなら、それはメリー・ゴーラウンド。人はメリー・ゴーラウンドに乗って、日々デッド・ヒートを繰りひろげる。人生に疲れた人、何かに立ち向かっている人…、さまざまな人間群像を描いたスケッチ・ブックの中に、あなたに似た人はいませんか。
【目次】
はじめに・回転木馬のデッド・ヒート/レーダーホーゼン/タクシーに乗った男/プールサイド/今は亡き王女のための/嘔吐1979/雨やどり/野球場/ハンティング・ナイフ

<読む前の大使寸評>
村上さんの初期の短篇小説集であるが、これはいい本に出会ったぜィ・・・
図書館めぐりの役得というか、一期一会なんでしょうね♪


rakuten 回転木馬のデッドヒート


短篇の一つを、見てみましょう。
p79~84
<今は亡き王女のために>
 大事に育てあげられ、その結果とりかえしのつかなくなるまでスポイルされた美しい少女の常として、彼女は他人の気持を傷つけることが天才的に上手かった。

 その当時僕は若かったので(まだ21か2だった)、僕は彼女のそんな性向をずいぶん不愉快に感じたものだった。今にして思えば彼女はそのように習慣的に他人を傷つけることによって、自分自身をもまた同様に傷つけていたのだろうという気がする。そしてそうする以外に自分を制御する方法が見つからなかったのだろう。

 だから誰かが、彼女よりずっと強い立場にいる誰かが、彼女の体のどこかを要領よく切り開いて、そのエゴを放出してやれば、彼女もずっと楽になったはずなのだ。彼女もやはり救いを求めていたはずなのだ。

 でも彼女のまわりには彼女より強い人間なんて誰一人としていなかったし、僕にしたところで、若いころはそこまで思いがいかない。ただ単に不快なだけだった。

 彼女が何かの理由で(理由なんてまるで何もないということもしばしばだったけれど)誰かを傷つけようと決心したら、どのような王の軍隊をもってしてもそれを防ぐことはできなかった。彼女はその気の毒な犠牲者を衆人環視の中で手際よく袋小路にさそいこみ、壁においつめ、まるでよく茹でたじゃがいもをへらで押しつぶすみたいに、きれいに相手をのした。あとには薄紙程度の残骸しか残らなかった。今思いだしても、あれはたしかにたいいした才能だったと思う。

 彼女は決して論理的に弁が立つというわけではないのだが、相手の感情的なウィーク・ポイントを瞬時にして嗅ぎあてることができた。そしてまるで何かの野生動物のようにじっと身を伏せて好機の到来を待ち、タイミングを捉えて相手のやわらかな喉笛にくらいつき、引き裂いた。多くの場合彼女の言っていることは勝手なこじつけであり、要領の良いごまかしだった。

 だからあとになってゆっくり考えてみるとやられた当人もまわりで見ていた我々もどうしてあの程度のことで勝負が決まってしまったのかと首をひねることになるわけだが、要するにその時は彼女にウィーク・ポイントをしっかりとつかまれているから、身動きがとれなくなってしまっているのだ。ボクシングでいう「足のとまった」状態である。あとはもうマットに倒れるしかない。

 僕は幸いにして彼女からそんな目にあわされることは一度もなかったが、そういった光景は何度となく目にしてきた。それは論争でもなく、口論でもなく、喧嘩ですらなかった。それはまさに血なまぐさい精神的虐殺だった。

 僕は彼女のそういう面がひどく嫌だったが、彼女のまわりの男たちのたいていはそれとまったく同じ理由で彼女のことを高く評価していた。「あの子は頭がよくて才能があるから」と彼らは考えていて、そしてそれが彼女のそんな傾向をまた助長していた。いわゆる悪循環というやつだ。出口がない。「ちびくろサンボ」に出てくる三匹の虎みたいに、バターになるまでやしの木のまわりを走りつづけることになる。

 グループの中の他の女の子たちが彼女についてその当時どのように考えてどのように評価していたのかは残念ながら僕にはわからない。僕は彼らのグループとはいくぶん距離をおいて、いわばビジターのような資格でかかわっていたせいで、女の子たちの本音をひきだすほどは誰とも親しくなかったからだ。

 彼らはだいたいがスキーの仲間で、三つの大学のスキー同好会のようなものの、そのまた一部分ずつがくっつきあって形成された奇妙な組織だった。彼らは冬休みには長期のスキー合宿をして、それ以外のシーズンには集まってトレーニングをしたり酒を飲んだり、みんなで湘南の海岸に泳ぎにいったりした。

 人数は全部で12、3人というところで、みんな小奇麗な格好をしていた。小奇麗で感じがよくて、親切だった。でも今彼らの中の誰か一人をとくべつに思い出してくれと言われても、僕には絶対に思い出せない。彼ら12、3人は僕の頭で溶けたチョコレートみたいにしっくりと混じりあって、ひとつのイメージとして分離不能になっていて、僕にはもう見わけなんてつかないのだ。もちろん彼女だけはべつだけれど。

ウン 読み始めたら、どんどん引きこまれて止まらなくなるが、これが村上さんの筆力なんだろう・・・大使が小説でも書こうと思ったのは間違いだったかも(笑)。

『回転木馬のデッドヒート』1





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Last updated  2021.02.07 00:07:21
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