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2021.02.07
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カテゴリ: アート
図書館で『回転木馬のデッドヒート』という本を手にしたのです。
村上さんの初期の短篇小説集であるが、これはいい本に出会ったぜィ・・・
図書館めぐりの役得というか、一期一会なんでしょうね♪





村上春樹著、講談社、1985年刊

<「BOOK」データベース>より
現代の奇妙な空間ー都会。そこで暮らす人々の人生をたとえるなら、それはメリー・ゴーラウンド。人はメリー・ゴーラウンドに乗って、日々デッド・ヒートを繰りひろげる。人生に疲れた人、何かに立ち向かっている人…、さまざまな人間群像を描いたスケッチ・ブックの中に、あなたに似た人はいませんか。
【目次】
はじめに・回転木馬のデッド・ヒート/レーダーホーゼン/タクシーに乗った男/プールサイド/今は亡き王女のための/嘔吐1979/雨やどり/野球場/ハンティング・ナイフ

<読む前の大使寸評>
村上さんの初期の短篇小説集であるが、これはいい本に出会ったぜィ・・・
図書館めぐりの役得というか、一期一会なんでしょうね♪


rakuten 回転木馬のデッドヒート


「今は亡き王女のために」のラストシーンを、見てみましょう。
p97~100
<今は亡き王女のために>
「僕はさっきも言ったようにとても現実的な人間です。それから人が死ぬということに対しても、小さい頃から十分に慣れています。僕の家はどういうわけか事故死の多い家系でしてね、いつも何かしらそういうことはあったんです。だから子供が親より先に死ぬというのは、とくに珍しいことではありませんでした。そりゃ親にとって子供を失くすくらい切ないことはありません。こればかりは経験したことのない人にはわかりません。でもそれでも、いちばん大事なのはあとに残されてた生きている人間だと僕は思います。僕はずっとそんな風に思って生きてきたんです。だから問題は僕の気持ではなくて、彼女の気持の方でした。彼女はそういう感情的な訓練を一度も受けたことがなかったんです。彼女のことはご存じでしょう?」
「ええ」と僕は簡単に言った。

「死というのは極めて特殊なできごとです。僕はときどき人の生は、かなり大きな部分を他の誰かの死のもたらすエネルギーによって、あるいは欠損感と言ってもいいんですが、そういうものによって規定されているんじゃないかと感じることがあります。でも彼女はそういったことに対してあまりも無防備でした。要するに」と言って彼はカウンターの上で両手をあわせた。

「彼女は自分のことだけを真剣に考えることに慣れきっていたんです。それのおかげで、他人の不在がもたらす痛みというものを、彼女は想像することさえできなくなっていたんです」
 彼は笑って僕の顔を見た。
「結局のところ、彼女はスポイルされきっていたんです」
 僕は黙って肯いた。

「でも僕は…うまい表現が思いつけないな、とにかく僕は彼女を愛していました。たとえ彼女が彼女自身や僕のまわりの何もかもを傷つけまわったとしても、僕は彼女を手放す気はありませんでした。夫婦というものはそういうものです。結局そのあとの1年ばかり果てしのないゴタゴタがつづきました。救いのない1年でした。神経もすり減らしたし、将来の見とおしといっても何ひとつとしてありませんでした。でも結局、我々はその1年を乗り切りました。我々は赤ん坊の存在に結びつく全てのものを焼き捨て、新しいマンションに越しました」

 彼は二杯目のオン・ザ・ロックを飲み干し、気持良さそうに深呼吸をした。
「たぶん今の家内にお会いになってもうまく見わけがつかないんじゃないかと思いますよ」と彼は正面の壁をじっと睨みながら言った。
 僕は黙ってビールを飲み、ピーナツをつまんだ。

「でも僕は個人的には今の家内の方が好きです」と彼は言った。
「もう子供は作らないんですか?」と僕はしばらくあとで訊いた。

 彼は首を振った。「たぶん駄目でしょうね」と彼は言った。「僕の方はともかく、家内はそんな状態じゃあないんです。それはそれで僕としてはどちらでもいいんですが」


 バーテンダーが彼にウィスキーのおかわりを勧めたが、彼はきっぱりと断った。
「そのうちに女房に電話をしてやって下さい。彼女にはたぶんそういった刺激が必要だと思うんです。だってまだ人生は長いですからね。そう思いませんか?」

 彼は名刺の裏にボールペンで電話番号を書いて僕に渡してくれた。おどろいたことに市外局番から見ると、彼らは僕と同じ区域に住んでいた。しかし、それについて僕は何も言わなかった。
 彼が勘定を払い、我々は地下鉄の駅でわかれた。彼は仕事の残りを片づけるために会社に戻り、僕は電車に乗って家に戻った。

 僕はまだ彼女に電話をかけてはいない。彼女の息づかいと肌のぬくもりとやわらかな乳房の感触はまだ僕の中に残っていて、そのことで僕はまだ14年前のあの夜と同じように、どうしようもなく混乱しているのだ。

ウン 大使が小説でも書こうと思ったのは短慮だったかも(笑)。

『回転木馬のデッドヒート』2 :今は亡き王女のために
『回転木馬のデッドヒート』1 :はじめに





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Last updated  2021.02.07 00:14:38
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