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2021.02.09
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カテゴリ: アート
図書館で『猫のつもりが虎』という本を手にしたのです。
パラパラとめくったら・・・和田誠さんの挿絵とコラボした構成が絵本のようで、ええわけです♪





丸谷才一著、マガジンハウス、2004年刊

<「BOOK」データベース>より
ズボンとベルトの歴史的背景を論じ、スカートをはいた男の性的放縦に驚く。モスクワの冬のアイスクリームの甘さをうらやみ、テニスの“ラヴ”と“Love”の関係を研究し、そしてグレタ・ガルボの足の大きさについて語る。知的好奇心に溢れた「話の種」が満載。【目次】
ベルトの研究/男のスカート/冬のアイス・クリーム/絵を買ふ/提案三つ/批評の必要/驢馬の耳/ある日のこと/あの大阪の運転手/ガルボ伝説/故郷の味/四十八手/ポルトガルの米料理/歴史的抒情/夜中の喝采/エジプトの女王/日本デザイン論序説

<読む前の大使寸評>
パラパラとめくったら・・・和田誠さんの挿絵とコラボした構成が絵本のようで、ええわけです♪

rakuten 猫のつもりが虎


相撲の「四十八手」を、見てみましょう。
p102~106
<四十八手>
 元文芸春秋の専務、半藤一利さんは相撲が大好きである。そして夏目漱石の親類である。そのせいかどうか、漱石についての新説を立てた。彼の作品とりわけ『我輩は猫である』には相撲の比喩がすこぶる多いから、漱石はよほど相撲好きだつたに相違ないといふのだ。

 なるほどねえ。なんとなく納得がゆくし、おもしろい。学問的な手つづきとしては、ここで本に当つて調べなければいけない所だが、面倒だからそれはよして、感心だけして置くことにしよう。

 ところで先年、その半藤さんと野坂昭如さんとわたしの三人で相撲放送を批評する座談会をおこなつた。と言つても、わたしは相撲を知らないも同然だから、横でお酒を飲んでゐるだけだが、二人は、どちらが相撲に詳しいかといふ対抗意識に端を発して、つひには、少年時代どちらが相撲が強かつたかを競ひ会ひ、すごいことになつた。

 終わつてから銀座のバーへ行つても、興奮さめやらず、相撲の話ばかりしてゐる。一方が弓取りについて薀蓄を傾ければ、他方はショツキリを論ずる。前者が脛相撲で新人作家に勝つた話を披露すれば、後者は社員旅行のとき座り相撲大会で優勝したことを自慢する。

 わたしもつきあはなければならないやうな気持ちになつて、こんな話をはじめた。
「相撲とほんの少し関係ある話なんですがね。このあひだ筑摩書房から『本居宣長全集』の第何次かの刊行をするんで推薦文を頼まれて、引受けたんだ。まづ、その論旨を紹介しなくちやいけないな」

 そこで話の順序として、その推薦文のあらましをしやべつた。なに、四百字二枚くらゐの短いものだから、時間はかからない。
「題は『本居宣長の一生』といふのでね。全生涯を要約した。えーと、宣長つて人はごく若いころから『新古今』の和歌が好きで好きでたまらなかつた人なんです。大変な熱愛ぶりだつた。彼の書いた『古今』評釈と『新古今』評釈とでは文章が違ふ。惚れこみ方の差が口調に出るんですね。はつきりと。従つて、これは当たり前のことですが、『新古今』みたいな和歌を詠みたいと思つてゐました」

 つまり『サラダ記念日』を愛誦してゐる少女が俵万智さんのやうな短歌を作りたいと思ふやうなものである。あるいは、チャンドラーの熱心な愛読者がフィリップ・マーロウによく似た私立探偵が出て来る小説を書きたくなるやうなものである。

 もちろん宣長は、ああ『新古今』みたいな歌を詠みたいものだなんて、書いてませんよ。しかし彼の願ひの筋は、文学的想像力がほんのすこしでもあれば、手にとるやうに明らかなのである。
「ところが、さういふ歌は出来なかった。これは無理もない話で、第一に式子内親王や藤原定家みたいな詠み口はむづかしい。北原白秋だつて真似できなかつたんだもの。第二に、宣長は歌の才能がまるでない人でしたからね」

 本当にかはいさうだつた。どんなにひどい腕前かは、例の一番有名な歌、「敷島の大和ごころを人とはば朝日ににほふ山桜花」を見ればわかる。

「そこで宣長は考へた。『新古今』の歌人はみな『源氏物語』を読んで勉強したんだから、おれも一つ、と思ったんです。それでせつせと勉強して、この『源氏』研究はじつに立派なものだつたが、歌は相変わらず下手だつた」

 ただただ同情するしかない。

「しかし宣長は努力家ですからね。かう考へました。『源氏』は古代的なものを底に蔵してゐる。それがもう一つよくわからないから、おれの歌は駄目なんだ、と。そこで『古事記』研究の志を立て、すばらしい仕事をしたけれど、歌は依然としてひどかった」

 ああ。


『猫のつもりが虎』1





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Last updated  2021.02.09 02:09:47
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