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2021.03.20
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カテゴリ: 気になる本
図書館で予約していた『夢見る帝国図書館』という本を待つこと1週間でゲットしたのです。
冒頭をちょっと読むと・・・
年上の友人・喜和子さんの、常識人とはかけ離れた、気ままで圧倒的な迫力に引き込まれるのです。






中島京子著、文藝春秋、2019年刊

<出版社>より
「図書館が主人公の小説を書いてみるっていうのはどう?」
作家の〈わたし〉は年上の友人・喜和子さんにそう提案され、帝国図書館の歴史をひもとく小説を書き始める。もし、図書館に心があったならーー資金難に悩まされながら必至に蔵書を増やし守ろうとする司書たち(のちに永井荷風の父となる久一郎もその一人)の悪戦苦闘を、読書に通ってくる樋口一葉の可憐な佇まいを、友との決別の場に図書館を選んだ宮沢賢治の哀しみを、関東大震災を、避けがたく迫ってくる戦争の気配を、どう見守ってきたのか。

<読む前の大使寸評>
冒頭をちょっと読むと・・・
年上の友人・喜和子さんの、常識人とはかけ離れた、気ままで圧倒的な迫力に引き込まれるのです。

<図書館予約:(3/09予約、副本15、予約0)>

rakuten 夢見る帝国図書館


この本は、25のエピソードを挿入する構成になっているが・・・
その最後のほうのエピソードを、見てみましょう。
p377~382
夢見る帝国図書館・24 ピアニストの娘、帝国図書館にあらわれる>
 帝国図書館は、敗戦の年から2年と数ヶ月の間だけ、「オキュパイド・ジャパンの帝国図書館」として存在した。これはそんな、占領下の図書館の話だ。

 昭和21年2月4日、1台のジープが上野の山を上ってきた。ジープは帝国図書館の前に停まる。運転手と車を待たして、若い女性が一人降りてきた。つややかな黒髪に、彫りの深いエキゾチックな顔立ちをしていた。

 彼女は、当時日本にいた約20万人のアメリカ軍人のうちの一人で、その20万人のうちのたった60人の女性軍人の一人でもあった。前年のクリスマスに来日し、民政局に配属されたばかりだった。

 「憲法関連の本を探しているのですが」
 GHQ職員であり、アメリカ人であり、女性でもあるそのカーキ色の制服の人物の登場に、すっかり恐れをなして固くなっていた図書館司書は、彼女が正確で聞き取りやすい日本語を話していることに目を丸くして、ますます固まった。

 「急いでいるんです。ここで見つからなければ、他も回らなければならないので、日比谷図書館と帝大にはもう行きました。憲法に関する書物なら、何語で書かれていても構いません。英語はもちろん、フランス語、ドイツ語、ロシア語でも。アメリカ独立宣言もお願いします。イギリスのものに関しては、マグナ・カルタから始まる一連のものを探してください。ワイマール憲法に関するものも必須です。…ちょっと」

 彼女は少しいらいらして、語気を強めた。
 「聞いてくださってますか? わたし、急いでいるんですけど」
 司書は同僚と顔を見合わせて、それから、はじかれたように蔵書の検索を開始した。一人の若い司書が、恐る恐る顔を上げた。
 「スカンジナビア諸国の憲法は、どうしますか?」

 彼女は表情のこわばりを解いて、22歳の娘らしい快活な笑みを浮かべて言った。
 「ありがとうございます。お借りしたいと思います。書庫に入らせていただける?」
 帝国図書館にもし心があったなら、このとき、はっと思い出したかもしれない。ああ、この娘をたしかに見たことがあると。
 図書館は記憶を遡らせるかもしれない。まだ、日本が中国とも戦争を始めていないころに。時は大正から昭和になったばかり。

 帝国図書館と東京音楽学校は隣同士にあったから、音楽学校にピアノを教えに通う背の高いユダヤ系ロシア人が、時折その小さな娘の手を引いて上野の公園を歩いている姿を眺めたのを思い出すかもしれない。

 その背の高いユダヤ系ロシア人の名前は、レオ・シロタといって、ウィーンを拠点に活躍し、リストの再来と謳われたピアニストだった。演奏旅行でこの極東の島国にやってきた天才は、だいじそうに楽譜を抱えて熱心に演奏会にやってくる聴衆の多いこの国に好意を持った。

 まさか、ヨーロッパから遠く遠く離れたアジア人ばかりの国に、こんなにまじめに西洋音楽を聴く人々がいるとは思わなかった。クラシックだけではなく、日本人たちは当時の現代音楽も理解した。

 シロタを日本に呼んだ東京音楽学校教授の山田耕サクは、日本に滞在して学生たちにピアノを教えてもらいたいと熱心に訴えた。天才的な演奏家だったにもかかわらず、自分が演奏するよりも、教えるほうが好きだったシロタは、ピアノ科の教授になることを引き受けて、ウィーンで暮らしていた妻と小さな5歳の娘、ベアテを連れて来日したのだ。契約は半年の予定だったが、結局レオ・シロタはその後17年をこの国で生きることになる。ナチスがオーストリアを併合してユダヤ人迫害が始まり、ウィーンへは帰れなくなったのだ。
 小さかった女の子は15歳になり、戦争が激しくなる前に一人でアメリカに留学した。そしていままた一人で、両親の住むこの国に帰ってきたのだった。連合国軍最高司令官総司令部に勤務する職員として。帝国図書館は、22歳になったベアテをその懐に受け入れた。(中略)

 この日、ベアテ・シロタが東京中ジープを駆って回って借り出した本たちが、その日からの9日間を作った。日本国憲法の「GHQ草案」を準備する運命の9日間だ。
 その日の朝、ベアテはGHQ本部の民政局の一室で、これから、民政局に所属する25人で、日本の新しい憲法を作るのだと聞かされた。それはトップシークレットだったが、ともかく大至急取り掛からなければならない難題だった。

 弱冠22歳のベアテは、人権に関する委員に任命された。極秘指令を書きとったメモを後ろ手に隠すようにして部屋に戻ると、同じ委員会のロウスト中佐に声をかけられた。こっそりと、耳元で囁くように。
 「あなたは女性だから、女性の権利を書いたらどうですか?」
(中略)

 日本国憲法は、大日本帝国議会での審議を経て、昭和21年11月3日に公布され、翌年の5月3日に施行された。日本は帝国ではなくなった。帝国図書館は、政令254号をもって、国立国会図書館と改称された。


『夢見る帝国図書館』1





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Last updated  2021.03.20 15:18:26
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