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2021.05.28
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カテゴリ: アート
図書館で『芥川龍之介 杜子春』という文庫本を、手にしたのです。
この著名な作家の作品をほとんど読んでいなかったので、読んでみようと思い立ったわけでおます。





芥川龍之介著、KADOKAWA、2017年刊

<「BOOK」データベース>より
金持ちの息子、杜子春が財産を使い果たし途方に暮れていると、見かねた仙人に大金を授けられる。しかし、金の有無で態度を変える人間に嫌気がさし、仙人へ弟子入りを志願した。そんな彼に課された条件はたった一つ。「決して声を出さないこと」。虎や蛇、地獄での責め苦にも、決して口を開かない彼だったが…。青年が平凡に生きる喜びを見つけるまでを描く「杜子春」ほか、「女」「南京の基督」など全十七篇を収録。

<読む前の大使寸評>
この著名な作家の作品をほとんど読んでいなかったので、読んでみようと思い立ったわけでおます。

rakuten 芥川龍之介 杜子春



「杜子春」の冒頭の語り口を、すこしだけ見てみましょう。
p175~177
<一>
 ある春の日暮れです。
 唐の都洛陽の西の門の下に、ぼんやり空を仰いでいる、一人の若者がありました。
 若者は名を杜子春といって、元は金持ちの息子でしたが、今は財産を費いつくして、その日暮らしにも困るくらい、憐れな身分になっているのです。

 なにしろそのころ洛陽といえば、天下に並ぶもののない、繁昌をきわめた都ですから、往来にはまだしっきりなく、人や車が通っていました。門いっぱいに当たっている、油のような夕日の光の中に、老人のかぶった紗の帽子や、トルコの女の金の耳環や、白馬に飾った色糸の手綱が、絶えず流れて行く容子は、まるで画のような美しさです。

 しかし杜子春は相変わらず、門の壁に身をもたせて、ぼんやり空ばかり眺めていました。空には、もう細い月が、うらうらとなびいた霞の中に、まるで爪の痕かと思うほど、かすかに白く浮かんでいるのです。

「日は暮れるし、腹は減るし、その上もうどこへ行っても、泊めてくれる所はなさそうだし・・・こんな思いをして生きているくらいなら、いっそ川へでも身を投げて、死んでしまった方がましかもしれない」 

 杜子春はひとりさっきから、こんな取りとめもないことを重いめぐらしていたのです。 するとどこからやって来たか、突然彼の前へ足を止めた、片目すがめの老人があります。それが夕日の光を浴びて、大きな影を門へ落とすと、じっと杜子春の顔を見ながら、
「お前は何を考えているのだ」と、横柄にことばをかけました。 
「私ですか。私は今夜寝る所もないので、どうしたものかと考えているのです」
 老人の尋ね方が急でしたから、杜子春は眼を伏せて、思わず正直な答えをしました。

「そうか。それはかわいそうだな」
 老人はしばらく何事か考えているようでしたが、やがて、往来にさしている夕日の光を指しながら、
「ではおれがいいことを一つ教えてやろう。今この夕日の中に立って、お前の影が地に映ったら、その頭に当たる所を夜中に掘ってみるがいい。きっと車いっぱいの黄金が埋まっているはずだから」
「ほんとうですか」
 杜子春は驚いて、伏せていた眼をあげました。ところがさらに不思議なことには、あの老人はどこへ行ったか、もうあたりにはそれらしい、影も形も見当たりません。その代わり空の付きの色は前よりもなお白くなった、休みない往来の人通りの上には、もう気の早い蝙蝠がニ、三匹ひらひら舞っていました。

<ニ>
 杜子春は一日のうちに、洛陽の都でもただ一人という大金持ちになりました。あの老人のことばどおり、夕日に影を映してみて、その頭にあたる所を、夜中にそっと掘ってみたら、大きな車にも余るくらい、黄金が一山出て来たのです。

 大金持ちになった杜子春は、すぐにりっぱな家を買って、玄宗皇帝にも負けないくらい、ぜいたくな暮らしをしはじめました。





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Last updated  2021.05.28 09:11:11
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