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2021.06.20
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カテゴリ: 気になる本
図書館に予約していた『生まれ変わり』という文庫本を待つこと3週間ほどでゲットしたのです。
以前読んだ短篇集『紙の動物園』が良かったので、図書館予約していたのです。





ケン・リュウ著、 早川書房、2021年刊

<「BOOK」データベース>より
異星からの訪問者トウニン人と共生することになった人類は、悪い記憶を切除し新しい自分に「生まれ変わる」ことが可能になった。トウニン人の恋人をもつ地球人の特別捜査官が謎の殺害テロ事件を追う表題作、アジアの田舎の靴工場で女工として働く少女の不思議な体験を描く「ランニング・シューズ」など、現代アメリカSFの最重要作家のひとり、ケン・リュウの単行本第三短篇集『生まれ変わり』から12篇を収録した傑作集。

<読む前の大使寸評>
以前読んだ短篇集『紙の動物園』が良かったので、図書館予約していたのです。

<図書館予約:(5/26予約、副本1、予約1)>

heibonsha 生まれ変わり


短篇「生きている本の起源に関する、短くて不確かだが本当の話」の語り口を、ちょとだけ見てみましょう。
p217~221
<生きている本の起源に関する、短くて不確かだが本当の話>
 昔、本は変化しなかった。
 これははるか昔、お話ロボットや自動電子作家やアルゴリズムが、観察したり見本を作ったり、活用したり考えたり、好感を持たせたり好印象をあたえたり、区別したり違う評価をしたり、楽しんだり祈ったり、からかったり揺れ動いたり、チクと鳴ったりタクと鳴ったりする前の話だ。

 かつての本は、人間が柔らかいどろっとした生身の脳と指を使って書いていた。ある者は言葉をつむぐピアノをカタカタ鳴らし、画面に一文字ずつ打ちこんで、電子を大ざっぱなかたまりに並べることで本を作成していた。またある者は、インクを含んだ金属のペン先をセルロース製のページに走らせながら、野生の雁の群れが飛び立ったあとの葦の生える湖に残された波紋のように、ぽつりぽつりと思考を絞り出していた。

 またある者は、機械に向かって小声で口述することで本を書いていた。その機械のなかでは小さなマクスウェルの悪魔が働いていて、空気の振動のエネルギーを情報に変換し、魔法の指令をあたえられると偶像から声を再生した。

 だがいずれの場合も、本は本であり、本にすぎない。言葉はレーザーや磁石を使って木の繊維でできたシートに貼りつけられ、そのシートは冊子や書籍となって書店に出荷されていた。化石化した思考の残骸が積み重なって堆積層を成していくようなものだ。地図に描かれた土地がすべてで、地図の端を越えた先に、“未知の土地”はなかった。

 しかも、人々はそういった本を買い、家に持ち帰り、蝋燭や蛍光灯や太陽の明かりのもとで(あるいは明かりがなくても)読んでいた。だが、何回読んでも、本に書かれた言葉は消えることもなければ、さらなる仕上げが施されることもなかった。文章の向きが変わったり曲がったりすることもなく、段落があこがれたりよろめいたりすることもなく、登場人物が反乱を起こしたりどんちゃん騒ぎをしたりすることもなく、筋書きが変わったり順番が入れ替わったりすることもなかった。
 本は生きていなかったのだ。

 legible(ラテン語のlegerより)という言葉と、legal(ラテン語のlex・legisより)という言葉は、同じインド・ヨーロッパ語族の“leg-”を語根に持つ。“leg-”とは、集める、収集する、見つけだす、選ぶ、列挙する、といった意味だ。同じ語根から派生したほかの言葉には、次のようなものがある―legion(兵士の集まり)、lignum(木、あるいは集まってできたもの)、electio(選別すること)、lecture(暗い森のなかでパン屑をたどっていくように言葉を選びながら、聴衆を楽しませること)。

 読書とは、本のなかから意味を選んで集めることだ。本とは言葉の集まりであり、言葉とは法則に従った解釈であり、法則とは規則の集まりであり、この場合の規則とは物語と記号論に関する決まりのことだ。

 しかし当時でも、本は単なる動かない文字の連なり以上のものだった。急速に変わっていく界隈にのびる道のように、読書経験は読者が本の世界を進むたびに変化した。不吉な森に建つお菓子の家とオーブンの番をする魔女の物語は、読者が4歳なら、恐怖と楽しさを覚える。だが14歳になれば、反抗期によって、魔女を支配的な母親と考えるようになる。そして44歳では、甘く苦いノスタルジアと、何千年も続く親の物語の重みを受け入れた苦く甘い気持ちに変わる。

 本は変化しなかったが、読者は変化した。命を持たない道を、命を持つ人々が歩いていたのだ。地図にはすべての土地が載っているわけではなく、ページのなかには収まりきらなかった。それぞれの読者は行間に何かを書き残した。道路沿いの案内標識に“〇〇参上”といった反抗的な落書きをするようなものだ。

 本に命を吹きこもうという最初の個々おロ見には、選択肢があった。二人称で語られ、主人公である読者に、物語の重要な箇所で好きな筋書きを選べるようにしたのだ。選択を求める箇所で物語は枝分かれし、分岐し、二股に分かれ、分裂していく。次々にパラレルワールドが生れるようなものだ。

 この方式は手が込んでいた。原始的なコンピュータを使い、画面をスクロールして読めるように本を加工していたが、その後、より洗練されたグラフィックとアバターとアニメーションが付加された。読者に生き物と交流している幻想をあたえるため、祖先が“人工知能”と呼んでいたものが追加された。人工知能が読者の質問と指示を理解し、読者の精神的仮足による探索に応える話を組み立てていくのだ。

 とはいえ根本的に、こういった本はたくさんの本を1冊にまとめただけにすぎなかった。可能性は限られている。曲がりくねった小道の迷路を探検したあと、読者はすべてが似たり寄ったりであること(あらかじめ決められた結末の閉ざされた集合体であること)に気づく。

 文章と読者の関係に思考する機械を導入したことで、読書と、技術と、かつては想像もつかなかった文章構成に、新しい可能性が生れた。
 ヴァネヴァー・ブッシュという人物が、Memexという装置を発明した。これは個人の脳が連想をおこなう仕組みを具体化し、それを織り上げて世界規模のネットワークを作る装置だった。文字列はデジタル化され、小さな断片に分割され、読者が文字列に触発された隠喩的あるいは換喩的な連想を通して、それらをリンクさせる。

どこからSFになるのかと、期待しながら読んだのだが・・・SFではありません。
とにかく、著者は本の過去・未来について語るのが好きなようですね。

『生まれ変わり』1 :生まれ変わり





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Last updated  2021.07.06 02:05:32
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