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2021.09.19
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カテゴリ: カテゴリ未分類
図書館で『語学者の散歩道』という文庫本を、手にしたのです。
めくってみると、歴史小説や西洋古典が、英語はもちろんギリシャ語、ラテン語まで引用して語られています。扱う題材は難しいがウィット溢れる語り口がええでぇ♪






沼重剛著、岩波書店、2008年刊

<「BOOK」データベース>より
「賽は投げられた」は、本当は「賽を投げろ」だった?「健全な肉体に健全な精神」のもともとの意味とは?西洋古典学者として高名な著者が放つ、西洋古典が起源の英語のことわざや、意外な英語の語源、語学学習の思わぬ落とし穴など、語学学習にはもちろん日本語を書くうえでも役に立つ、蘊蓄とウィットが満載の楽しいエッセイ集。

<読む前の大使寸評>
めくってみると、歴史小説や西洋古典が、英語はもちろんギリシャ語、ラテン語まで引用して語られています。扱う題材は難しいがウィット溢れる語り口がええでぇ♪

rakuten 語学者の散歩道



ギリシャ語、ラテン語について、見てみましょう。
p204~209
<ギリシャ語・ラテン語を学んで日本語を考える。>
 ギリシャ語やラテン語を学ぶのは、もちろんギリシャ語やラテン語で書かれた文章を読むために決まっている。しかしどんなものでも、何かを学ぶと、たいてはその結果、本来の目的以外の役に立つことがあるもので、私にとっては、ギリシャ語やラテン語を学んだことが、自分の日本語を書くのに役に立ったと、少なくとも自分では信じている。あるいは英語を読むのにもやはり役立っていると思っている。

 話がすっかり飛ぶようだが、かつて、私の英国での恩師であるドウヴァ先生が来日された折、あちこちの大学でなさった講演を日本語に訳しながらはっとしたことがある。

 先生の英語そのものにはそんな言葉はないのに、日本語にすると、文と文の間にどうしても「ですから」とか「ですが」とか「つまり」とか「で」とか、そういうつなぎことばをいれたくなる、あるいは入れないと前の文とのつながりがなめらかにいかない、唐突になる、という箇所がいくつも出てきたのである。

 しかも、原文にない語を日本語で使ったら、原文の意をそこなうかどうかを考えてみると、たとえ原文にはなくても、日本語としては入れた方が、かえって原文に忠実になると思える箇所がかなりあった。これは明らかに、英語と日本語、とくに講義や講演における両者の、文と文の並べかたというか、つなぎかたというか、そういう点に違いがあるということだろう。

 そこに思い至るとすぐ気がつくのは、ギリシャ語の文法でparticle(不変化詞とか小辞とか訳されている)と呼ばれる一群の語のことだ。gar,men,de その他たくさんあるが、ほとんんど単音節の小さな語で、ふつう文の頭から二番目に置かれる。語ではある以上はもちろん意味をもってはいる。

 garならば「というのは」、deならば「そして」あるいは「しかし」というようにだ。しかしそれでいて、例えばdeを「そして」とか「だが」とか訳してしまうと、ギリシャ語原文の中のdeより強くなりすぎる。場合によっては訳さない方がかえって原文全体の意に沿うことになることもある。

 menに至っては訳しようがないが、後続の文の中にdeがあれば、それと呼応して、menを含む節とdeを含む節が、対立とまでは言わないまでも、何らかの対照を意識して書かれていることのしるしととってよい。こういう案配なのだ。

 だからparticleは意味ももっているが、その一語だけを取り出して訳せと言われると困惑する程度の微弱なもので、それよりは、文全体の中に位置を占めて、おの文と前後の文のつながり方が平らかだとか対立しているとか、そういう関係を表す。言い換えれば、語としてのそれ自身の意味よりは、文の姿勢とか気分とかいうものを表すものなのだ。
(中略)

 こういうparticleがギリシャ語には数も多いが、使う頻度もずいぶん高い。これを含まない文というのはむしろ異例と言ってもいい。そういう文、そして接続詞によってつながれているのでもない文のことを、文法家はわざわざasyndeton(結ばれていないもの)と名づけるほどなのだ。考えてみると日本語も、こういう小さなつなぎことば、それ自身としての意味はたいしたものではないが、それがないと文がなめらかにつながらない、という語が多い言語だ。さっき挙げた「つまり」とか「で」とかいう、文の頭に置かれることばがそれだ。

 これに対して、古典語ならラテン語はこれが乏しい言語だと思う。近代語なら英語もそうで、この種の語がほとんどない。particleがほとんど使われていない英語のドウヴァ先生の講演を、particleにみちみちた日本語に置き換えようとしたから困惑したのだ。逆も真なりで、こういうつなぎことばの豊富な日本語を英語に訳す時、文頭の「そして」や「で」や「しかし」や「つまり」がそういうつなぎことばにすぎないことに気がつかずにい、いちいちandだのbutだのという接続詞に「訳」してそれを“native speaker”に見せたりしたら、「接続詞で始まる文を書くな」と言われてしまう。
(中略)

 つなぎことばが豊富な日本語で育ったしまった私には、文と文との関係は、つなぎことばがないとつねに明晰とは言えないように思えてならない。

 このことと関連して是非言っておきたいことがもう一つある。近ごろいわゆるハウ・ツウものの「よい文章の書きかた」というような本を見ると、明晰な文章を書きたかったら文を短くするに限ると書いてある。しかし長い文で言うのと同じ内容を短い文で言うことにすると、文がたくさんできて、それぞれの文と文との継ぎ目がそれだけ余計になって、その都度つながりかたが不分明になり得るということがある。

 それを、例えば従属節に従属節を重ねるようにして書けば、書くのにも読むのにも骨は折れるが、はるかに明晰な文が仕上がる。私に言わせれば、文章の明晰さを保証するのは文の長さではなく、思想の明晰さである。短いよりは長い方が文が明晰になることもあるということを知りたかったら、ギリシャの歴史家トゥキュディデスの文を読むに限る。


『語学者の散歩道』1





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Last updated  2021.09.19 09:58:12
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