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2021.12.09
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カテゴリ: メディア
「内田樹の研究室」の内田先生が日々つづる言葉のなかで、自分にヒットするお言葉をホームページに残しておきます。
内田

最近は池田香代子さんや、関さんや、雨宮さんなどの言葉も取り入れています。
(池田香代子さんは☆で、関さんは△で、雨宮さんは○で、池田信夫さんは▲、高野さんは■で、金子先生は★、田原さんは#、湯浅さんは〇、印鑰さんは@、櫻井さんは*、西加奈子さんは♪で区別します)

・「アウトサイダー」についての個人的な思い出とささやかな感想
・コロナ後の世界 
・格差について
・『コロナ後の世界』まえがき
・紀伊田辺聖地巡礼の旅
・成長と統治コスト

・日本のイデオクラシー
・後手に回る政治
・倉吉の汽水空港でこんな話をした。

********************************************************************
(目次全文は ここ )

(その40):『「アウトサイダー」についての個人的な思い出とささやかな感想』を追記



2021/12/06 「アウトサイダー」についての個人的な思い出とささやかな感想 より
 1956年、コリン・ウィルソンが『アウトサイダー』で劇的なデビューを果たしたまさにその年、アルベール・カミュは史上最年少でノーベル文学賞を受賞し、ヨーロッパ中のメディアを賑わしていた。英国の少なからぬ数のジャーナリストや批評家たちが『アウトサイダー』のうちに『シーシュポスの神話』とのスタイル上の近似を認めたがったとしても、誰がそれを責められよう。

 現に、独学者には固有の「書き癖」があり、カミュにもウィルソンにも、それは共通していた。それはただ一つの鍵概念(カミュの場合は「不条理」、コリン・ウィルソンの場合は「アウトサイダー」)を手にして、古今東西の文学者・哲学者の仕事を「一つのものさし」でざっくりと類別してしまうという豪快な手法である。

 多くの人が指摘しているように、『アウトサイダー』はカミュの『異邦人』の英訳タイトルをそのまま借りている。そのことを勘案しても、コリン・ウィルソンがカミュを「ロールモデル」に擬していたということは十分吟味するに値する仮説だろう。二人とも下層階級の出身で、野心と反骨精神にあふれた貧しい若者である。それが大学教授たちの講壇哲学をおのれの拳ひとつで叩き壊そうとしている。

 だが、『シーシュポスの神話』と『アウトサイダー』の相似点はそこまでである。
 まず、カミュの本は残念ながら「現代哲学の学習指導要領」には使えないからである。引用が少なすぎるのである。カミュは自説の傍証として何か他人の言葉が必要なときには、書棚から適当な哲学書を選んで取り出し、ぱらりと開けばそこに自分がまさに読むべきことが書かれているはずだと思っていた(それくらいに自分の直感力を信じていた)。カミュはノートをとりながら哲学書を読むタイプではない。

 でも、コリン・ウィルソンは逆だった。彼は本職のアカデミシャンを知識量で圧倒する道を選んだ。やり方としてはウィルソンの方が手堅い。結果的にコリン・ウィルソンの本は引用の宝庫となった。

「アウトサイダーをめぐる」中心的な命題だけをまとめれば50頁で終わったはずの書物がその十倍の量になったのは、彼が実に多くの書物から大量の引用を行ったからである。それだけではない、コリン・ウィルソンは小説についてはそのあらすじを、人物についてはその伝記を実に細かく記してくれた(複雑な小説のあらすじをさらさらとまとめる技術と印象的なエピソードをつなげて立体感のある略伝を書き上げる技術においてコリン・ウィルソンは紛れもなく例外的才能の持ち主である)。おそらく彼は図書館で読んだ本の重要箇所をこまめに「抜き書き」したノートを作り、それを蔵書に代えていたのだと思う。その膨大な抜き書き作業に投じた時間に対する愛着が彼の書物を「引用の宝庫」にしてしまった。

 おかげで、『アウトサイダー』は「その一節を引用しさえすれば、その本全部を読んだことになるくらいに著者の思想とスタイルのエッセンスの詰め込まれた選び抜かれたフレーズ」で埋め尽くされることになった。そのことが、私たちのような、その本を全部読むだけの暇も根気もないが、何が書いてあるかは知っておきたい気ぜわしい若者たちにとってどれほどの恩恵であったかは贅言を要すまい。

 いずれにせよ、『アウトサイダー』は1950-60年代における最高のブックガイドだったと私は思う。私はコリン・ウィルソンの案内によって、その後ニーチェを読み、キェルケゴールを読み、ドストエフスキーを読むようになった。私の同世代の友人たちのあるものはT・E・ロレンスを読み、あるものはニジンスキーを読み、あるものはブレイクを読むようになった。彼らは自分がなぜそのような本を読み始めたのか、理由を告げなかったが、私は彼らの書棚には必ずや『アウトサイダー』があったろうと確信している。

 それから45年経って、文庫版の解説のために『アウトサイダー』を再読した。そして、この本から後もコリン・ウィルソンの著作を長く追い続けた結果、彼が網羅的に情報を集めることは好きだが、それらを分析し考察を深めるという仕事には同じほどの情熱を示さない書き手であることを知ってしまった私としては、このデビュー作の完成度の高さにむしろ驚かされた。最初にこれほどのものを書いたのか、と。そして、セールス的にも、文学史的評価においても、ついにデビュー作を超えることができなかった多作な書き手のために一掬の涙を注ぐのである。





2021/09/25 コロナ後の世界 より
 コロナ後の世界では色々な領域で変化が起きます。国際政治、経済、医療、教育、軍事などなど様々なレベルで大きな変化がある。
 まずこれからの議論の前提として、一つだけ全体で共有しておきたいことがあります。それは、今後も世界的なパンデミックが間欠的に繰り返すということです。

 野生獣の体内にいるウイルスが人間に感染して、変異して、それがパンデミックを引き起こすということは、これからも短い間隔を置いて繰り返されます。新型コロナの感染が終息したら、それで「おしまい」というわけではありません。
 人獣共通感染症は21世紀に入って新型コロナで4回目です。SARS、新型インフルエンザ、MERS、そして新型コロナ。5年に1回のペースで、新しいウイルスによる人獣共通感染症が世界的なパンデミックを引き起こしている。SARSでは日本の感染者は出ませんでしたが、東アジアではたくさんの感染者・死者を出しました。

 ウイルスを媒介する野生獣は鳥、コウモリ、豚、ラクダとさまざまですが、本来は人間と接触する機会の少ない野生獣と人間が接触して、野生獣のウイルスが人間に感染して体内で変異することでパンデミックがもたらされるというパターンは同じです。そして、人類が自然破壊を続け、野生獣の生息地がどんどん狭くなり、人間と野生獣の接触機会が増える限り、人獣共通感染症はこれから先も繰り返し発生する。それは専門家が警告しています。アフリカ、南米、アジアがこれからも感染症の発生地になると思われます。

 人獣共通感染症の原因は人間による自然破壊ですが、もう一つ、自然による文明破壊が起きる場合でも、野生獣と人間の接触機会は増えます。野生の自然と都市文明の「緩衝帯」がやせ細れば、そうなります。日本でこれから懸念されるのは、このタイプの「人獣接触」です。

■野生から文明を守る戦い
 野生の自然が「人間の領域」を侵略するというケースは、今のところはまだ日本のメディアでは大きく取り上げられていませんが、僕はこれから先、非常にシリアスな問題になるだろうと思っています。急激な人口減を迎えている地方では、これまで「文明のエリア」と「野生のエリア」の間にあって、緩衝帯として機能していた里山が無くなりつつあり、里山に無住の集落が発生してきています。無住の集落は短期間に廃村となり、山に飲み込まれます。

 21世紀の終わりの日本の人口は厚労省の中位推計で4850万人です。今の人口が1億2600万ですから、80年間に7000万人以上減る勘定です。年間90万人というペースです。日本政府はこの人口減少に対して、国としての基本方針を示しておりません。シナリオは「資源を地方に分散する」か「都市に集中するか」の二つしかありません。

 本来なら、政府はこの二つのシナリオを国民の前に提示して、それぞれのメリット、デメリットを列挙した上で、合意形成をはかるべきなのですが、それをしていない。国策についての国民的議論を回避したまま、「都市一極集中」というシナリオを無言で実践している。これは民主国家においてあってはならないことだと思います。国民の同意を取り付けないままに、「地方切り捨て」を黙って続けて、ある時点でもう地方再生が不可能というポイント・オブ・ノーリターンを過ぎてから、「やはり都市集中しかない」となし崩しに持って行く。政官財はそういう計画でいます。しかし、黙って政策を実行しているので、地方が切り捨てられた場合に「何が起こるか?」ということは議論のテーブルに上がってこない。その話はしない約束になっている。そして、「人口の少ないところに暮している国民は、都市に暮している国民と同等の行政サービスを受ける資格がない」という主張だけが、一部の政治家やメディアを通じて、拡散されています。

 すでに、JRは赤字路線を次々と廃線にしています。その時のロジックは、「人口の少ないところに住んでいる人たちは、そこに住むことを自己決定しているわけだから、自己責任で不便に耐えなければならない」というものです。自分の好きで過疎地に住んでいる人間が「便利な暮らし」を求めて、税金の支出を求めるのはフェアではない、と。


以降の全文は 内田先生かく語りき38 による。





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Last updated  2021.12.09 09:15:22
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