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2022.04.26
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カテゴリ: 気になる本
図書館で『銀座界隈ドキドキの日々』という本を、手にしたのです。
中をパラパラと見ると、和田さんの作品(モノクロではあるが)が出ていて素晴らしいのである。




和田誠 著、文藝春秋、1993年刊

<「BOOK」データベース>より
若い才能がジャンルをこえて出会いたがいに刺激しあった時代。そして銀座が街の王様だった頃…。文章と懐かしいデザインでつづる魅惑の60年代グラフィティ。

<読む前の大使寸評>
中をパラパラと見ると、和田さんの作品(モノクロではあるが)が出ていて素晴らしいのである。
rakuten 銀座界隈ドキドキの日々



ベン・シャーンが語れているので、見てみましょう。
p83~87
<8 ベン・シャーンそして・・・>
 ある日会社で仕事をしていると、粟津潔さんから電話がかかってきた。「ベン・シャーンが日本に来てる。会いにいかないか」と言うのだ。ベン・シャーンが来ていることは知っていた。東南アジアを回って日本に寄ったのだ。だがかえうぁ東京の喧騒を嫌い、京都に滞在しているという。

 ぼくは学生時代にファンレターを出したり返事を貰ったりしているのだが、その後ベン・シャーンが大物であることをより強く認識してしまったので、ちょっと会いに行く、という発想は持たなかった。でも粟津さんが行くと言い、せっかく誘ってくれたのなら、行こう、と思った。
 ベン・シャーンを尊敬して、影響されていることについては粟津さんはぼくよりもきっと上だろう。「あちらはぼくたちを知らないんだから、作品を持っていこうな」と粟津さんは言った。それだけでぼくはもうドキドキした。

 京都。ベン・シャーンが泊っているという旅館を訪れた。ホテルでなく、純日本風の旅館だった。アポイントメントをとってから言ったのかどうか憶えていない。いきなり行ってしまったような気もする。とにかくそのときアメリカの偉大な画家は旅館にいて、ぼくたちを座敷に招き入れてくれたのだ。奥さんと二人旅だったが、幸い座敷には日本人の通訳もいた。

 僕たちは自己紹介をし、あなたの作品が大好きであることを言い、イラストレーターであることと作品を持ってきたことを述べた。シャーンさんは終始ニコニコ話をきいてくれ、では作品を見せてくださいと言った。まず粟津さんから作品を見せる。主に芝居のポスターだった。画家はしきりに感心をし、「これを貰っていいですか」と言う。粟津さんが拡げて見せるポスターのほとんどに「貰っていいか」という反応を示したのだ。

 次はぼくの番。いろいろなポスターを拡げる。ドキドキ。粟津さんの作品はあんなに「貰っていいか」と言ったのに、ぼくのにはまったく言ってくれない。次々に見せるが黙っている。田中一光さんのデザインによる劇団民芸の「どん底」のポスターを拡げたとき、やっと「何のポスター?」ときいてくれた。でも「どん底」の英語がわからない。ただ「ロシアの芝居です」と答えた。

 奥さんがベン・シャーンの耳もとで何か言う。奥さんは勘で「どん底」を当てたのだろう。まるで違う題名を言ったのかも知れないけれど、そのときは絶対当ててくれたのだと思った。そしてそのポスターを「貰っていいか」とシャーンさんは言ってくれた。

 作品を全部見せ終わると、シャーンさんは真顔でぼくを見、「東京から訪ねて来たのに傷つけるようなことになっては悪いが、ひと言アドヴァイスをしてもいいですか」と言う。「もちろんです」とぼく。そのときシャーンさんは「個性」という単語を何度も言った。「個性。個性。われわれが求め続けるのは個性です。それなのに君はいろいろな描き方をする。それではいけない。自分のものを見つけなくては」と。

 確かに粟津さんの作品群は当時の粟津カラーで統一されていた。ぼくはといえば、電電公社のポスターは漫画ふう、芝居のポスターは筆太に描き、別の仕事はペン画、というふうだった。クライアントによって描き分けようというサービス精神でそんなふうにやっていたこともあるし、自分もいろいろな手法を使うのが楽しかったのである。

 ぼくは「真面目な仕事もしたいし、ユーモラスなものも描きたいんです」と、ささやかに反論をした。シャーンさんは「それはよくわかるが」と言い、「どん底」のポスターを指して、「こういう手法の中でユーモアを出すことができるんじゃないかな」と続け、ぼくが言葉に詰まって黙っていると、「同意するかい?」と優しい目で言った。ぼくは「はい」と答えた。

 そのあとシャーンさんは「ニュージャージー(彼のアトリエがあった)に遊びにおいで。ニューヨークから近いが庭には山羊も豚も鶏もいるよ」と言ってくれた。ぼくたちは「行きます」と答えたが、ついに実現はしなかった。ぼくたちが飼えるとき、シャーンさんは旅館の玄関まで出てきて、靴を履くわれわれの後ろから「グッドラック」と声をかけてくれた。

 いい思い出である。尊敬する画家からのアドヴァイスも貴重なものだ。けれども今にいたるまで、スタイルをやたら変えるなという忠告を、ぼくは守っていない。矛盾するようだが、ベン・シャーンを尊敬する気持ちも変わっていない。

 このときのベン・シャーンの日本での取材は、第五福竜丸と被爆して亡くなった久保山さんについてであって、それが次の年の作品「ラッキー・ドラゴン」シリーズとして具現したのであった。


『ベン・シャーンの回顧展』 がお薦めです。





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Last updated  2022.05.01 10:13:22
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