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2023.09.30
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カテゴリ: 気になる本
図書館で『文学界 5月号』という雑誌を、手にしたのです。
表紙のコピーに特集「追悼・大江健三郎」、特集「ハンチバック」とあるので、借りる決め手になったのです。




雑誌、文藝春秋、2023年刊

<「BOOK」データベース>より
雑誌に付きデータなし

<読む前の大使寸評>
表紙のコピーに特集「追悼・大江健三郎」、特集「ハンチバック」とあるので、借りる決め手になったのです。

rakuten 『文学界 5月号』



特集「追悼 大江健三郎」から横尾忠則さんの大江評を、見てみましょう。
p241~243
<散歩中の会話:横尾忠則>
 画家の谷内六郎さんが生前よくわが家に遊びに来られた。玄関から、いつもプーンとポマードのいい香りをさせて入ってこられると、僕は急にうれしくなるのだった。「今、大江健三郎さんとコオヒー屋で会ったばかりで、その帰りにお邪魔しました」と、あの年齢の方には珍しい長身の谷内さんが、応接間のソファーに身を丸めて座られた。

「へェー、大江さんと谷内さんは一体何の話をするんですか?」
「エッヘッヘッヘ、大江さんは子供の頃の話をされます」
「谷内さんは?」
「僕は政治の話をします」
「エェ―ッ、逆じゃないですか? 大江さんと政治の話なんて、随分難しい話になるんでしょ」
「ハイ、僕はインテリゲンチャーですからね、ハッハッハッハ」

 僕はこんな谷内さんの、大江さんとの意外な出会いの不思議な光景を想像して、イイナーとうらやましい気持ちになるのだった。大江さんはきっと、四国の生地で子供の頃に経験された神話的な世界の話を、また谷内さんも千葉の漁村での、あの絵に出てくるような、子供の楽園的な世界を話されるのだろうか。
 異次元に旅立った健三郎少年と六郎少年が語り合う風景が応接間の天井の辺りに映し出されるのを空想して、再びイイナーと思うのだった。

「横尾さんも大江さんと話されるときっと楽しいですよ」と谷内さんは言うのだが、「僕は谷内さんみたいに政治の話など全く関心がないので、大江さんの好みではないと思うなあ」と、ちょっと淋しくなって話す。「一度試しに会われたらどうですか」と谷内さん。
 そんなことがあって、しばらくした頃、一度も会ったことのない大江さんに電話をしてみた。
「ハイ、大江ですけれど、今は勉強中で、時間がありません」という返事で、電話を切られたあと、僕はしばらく、ボーッとしながら、「勉強中か」と大江さんの言葉を頭の中で反復した。この、「勉強中」という言葉が僕の心に突き刺さってきて、勉強とは無縁の無為な時間を毎日むさぼっている自分を心なしか恥じた。

 大江さんの家はわが家から徒歩で275歩ほどの近さで、自転車でアトリエへ向かう通り道である。大江さんの家の近くで大江さんに会うことはほとんどなく、一度、家族ぐるみのような来客と家の前で楽しそうに歓談されている姿を見たことがあるが、大江さんと出会うのは、ほとんど成城の街角で、鉢合わせするように偶然出合うことが何度かあった。
 谷内さんのように二人でゆっくり会うような場面は空想の域で、もっぱら全く偶然に道でお会いするぐらいであった。そんな時の大江さんは駅に向かう途中であったり、駅で降りて帰路につかれる時で、たまに息子さんの光さんと、肩を組んではしゃぎながらの、実にほほえましい親子の情愛の瞬間に立ち合うことがあった。

 そんな時はなるべく挨拶もしないようにしていたが、人目をはばからない大江親子の瑞々しい姿はそこだけ光のスポットが当たっているようで、その瞬間、何とも例えようのない幸せな気持ちにさせられた。
(中略)

 大江さんと初めて道で偶然会ったのは、成城の今の家に引っ越してきて間もなくのことことだった。多分、その時が初対面であったと思うが、挨拶する間もなく、先に大江さんから声を掛けられた。
「この間の朝日ジャーナルの時評の絵は、まるで三島由紀夫が歩む道を、横尾さんが箒でさっさっさっと掃いて行く感じの印象を受けました。どうも失礼しました」
 このことを早口で話されて、僕の前からさっと去って家の方に向かわれた。僕にとっては一瞬のできごとで、大江さんの中にある記憶の断片が、一気に言葉として発せられるのが、まるでアカシックレコードの中から瞬間芸的に引き出された思考の早技のようで、僕はただ呆然として、その場に立ったままであった。

 大江さんとは成城の街角で、偶然に出合うのが常であったが、会った瞬間にいつも間髪を入れず、いきなり、話の主題から始まる。例えばこうだ。
「横尾さんはアメリカの画家のエリック・フィッシェルをどう思われますか」
 まるで禅の公案を投げられるような衝動にとまどうのだが、大江さんの質問には一瞬に答える必要がある。
「エリック・フィッシェルは現代の病めるアメリカの社会を描いているように思います」
「それを聞いて安心しました。では失礼」
 とその言葉を残して大江さんは、そのまま僕とすれ違いざまに消えていかれる。エリック・フィッシェルは日本の美術家でも誰もが知っている画家ではないが、僕が特に関心を持っている作家のひとりである。



エリック・フィッシェルの1枚

『文学界 5月号』1 :多和田葉子さんの大江評





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Last updated  2023.09.30 01:13:08
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