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2024.08.29
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カテゴリ: メディア
「内田樹の研究室」の内田先生が日々つづる言葉のなかで、自分にヒットするお言葉をホームページに残しておきます。
内田

最近は池田香代子さんや、関さんや、雨宮さんなどの言葉も取り入れています。
(池田香代子さんは☆で、関さんは△で、雨宮さんは○で、池田信夫さんは▲、高野さんは■で、金子先生は★、田原さんは#、湯浅さんは〇、西加奈子さんは♪で区別します。今回表示分は*)

*「パンとサーカス」解説
*共感ベース社会の陥穽
・死ぬってどういうことですか?
・2024年度寺子屋ゼミのテーマは
・箱根の温泉で感じた中国のリアル
・『本の本』あとがき

・『街場の米中論』を読んで
・月刊日本インタビュー「ウクライナとパレスチナ」
・高校生に言いたかったこと
・宮﨑駿『君たちはどう生きるか』を観て
・平川克美『「答えは出さない」という見識』(夜間飛行)書評
・「怪物」公式パンフレット解説
・白井さんと話したこと
・3.11から学ぶこと
・韓国の地方移住者たちに話したこと
・生産性の高い社会のゆくすえ
・ウクライナ危機と反抗

・「街場の米中論」まえがき
・図書館の戦い
・村上文学の意義について
・統一教会、安倍国葬について他
・安倍政治を総括する

・無作法と批評性
・徒然草 訳者あとがき
・勇気について
・病と癒しの物語『鬼滅の刃』の構造分析
・「アウトサイダー」についての個人的な思い出とささやかな感想
・コロナ後の世界 
・格差について
・『コロナ後の世界』まえがき
・紀伊田辺聖地巡礼の旅
・成長と統治コスト
・『日本習合論』中国語版序文
・日本のイデオクラシー
・後手に回る政治
・倉吉の汽水空港でこんな話をした。

(目次全文は ここ )

(その69):「『パンとサーカス』解説」を追記



2024-08-27 「パンとサーカス」解説 より
 僕の(頼りない)文学史的知識に基づくなら、『パンとサーカス』は『愛と幻想のファシズム』以来40年ぶりの「日本で革命が起きる話」です(「それ、オレも書いたぞ」という方がいたらお詫びします)。
 寵児と空也とマリアが仕掛ける政治的動乱の目的は「アメリカの属国身分からの脱却」、そして「国家主権の奪還」です。
(中略)

 そもそもの大前提として、アメリカは決して中国との戦争には踏み切らない。アジア太平洋地域における軍事的影響力が一気に低下し、ハワイまで奪われかねず。その損失は計り知れないからです。」(223-224頁)

 米中戦争にかかわるミュートのこの見通しに僕は全面的に同意します。アメリカは米中戦争をする気がありません。全面戦争になれば核戦争になります。核戦争をすれば米中共倒れになることが確実である以上、アメリカが選択できるのは中強度の通常兵器による戦闘までです。
 人民解放軍は中越戦争以来、45年間実戦経験がほとんどありません。海戦経験はほぼゼロ。装備はハイレベルですが、実戦能力は不明。やってみないとわからない。でも、そんなリスクの高い賭けにアメリカは応じられません。ですから、台湾に中国が軍事侵攻してもアメリカがコミットしないという可能性はかなり高い。現に「台湾のためにアメリカがリスクを取ることはない」と公言する政治家、政治学者はアメリカ国内には少なくありません。

 それに、米中戦争の帰趨はどう転ぶか分かりません。いささか旧聞に属しますが、2017年にランド研究所は「妥当な推定を基にすれば、米軍は次に戦闘を求められる戦争で敗北する」というレポートを発表しています。同年、ジョセフ・ダンフォード統合参謀本部議長も「われわれが現在の軌道を見直さなければ、量的・質的な競争優位を失うだろう」と警告を発しています。つまり通常兵器による戦争ではアメリカは中国に敗けるかも知れないということです。もちろん「このままでは大変なことになる」という軍人からの警告は多少割り引いて聴く必要があります。リスクを過大評価して、国防予算の増額を要求するのは軍人の本務の一部ですから。

 それでも、「中国と戦ったら敗けるかもしれない」とシンクタンクや軍高官が明言するというのは、かなりシリアスな状況だと考えてよいと思います。アメリカは「対中戦争はできるだけしたくない」と思っている。それは確かです。
 とはいえ、中国が台湾に侵攻した時にそれを放置すれば、西太平洋におけるアメリカの軍事的優位も外交的信頼も失われます。日本と韓国は、アメリカが台湾を見捨てれば、アメリカと自分たちの間の軍事同盟も「実は空文かもしれない」と思い始めるでしょう。日韓の信頼を失うことがもたらすリスクと、中国との全面戦争にコミットすることがもたらすリスクのどちらが「致命的」であるとホワイトハウスは考えるでしょうか。ことは信義の問題ではなく、損得の問題です。そして、算盤を弾いた末に、アメリカは米中戦争を回避することを優先させると僕は思います。

 ですから、台湾有事になったら、自衛隊の尻を叩いて「存立危機事態なんだから、まずは日本人が戦え」と命じておいて、在日米軍主力はとりあえずグアムまで後退すると思います。
 アメリカにとって必要なのは時間を稼ぐことです。そして、AI軍拡で中国に対してアドバンテージを持つことです。中国はこれから人口減と経済成長の鈍化を迎え、遠からず国力はピークアウトします。それに中国共産党は「海外からの侵略リスク」より「国内における反乱リスク」の方を重く見ています(だからこそあのような徹底的な国民監視システムを構築しているのです)。ということは、いずれ文化大革命や天安門事件のような壊乱的事態が出来するかも知れない(北京はそうならないことを願い、ホワイトハウスはそうなることを願っています)

 いずれにせよ、アメリカにとって必要なのは時間です。日本や韓国を見捨ててもそれで時間が稼げるなら、アメリカにとっては帳尻が合う。
 中国が台湾や韓国や日本に軍事侵攻した場合、かなりの抵抗が予測されます(特に台湾と韓国では。日本ではそれほどの抵抗はないと中国共産党指導部は考えているはずです。というのは日本人は「外国軍隊に蹂躙されることに対して特段の心理的抵抗を感じない国民」だと国際社会からは思われているから)。

 それでも日本を実効支配するためには、長期にわたって数十万規模の軍隊と行政官を常駐させなければなりません。これは中国にとってはできれば負担したくないコストです。ですから、中国は日本を勢力圏に置く場合、直接統治するよりは、華夷秩序以来長い歴史を持つ「辺境の属領には高度の自治を許す」という使い慣れた「一国二制度」を持ち出してくるはずです。「かつての香港」程度の政治的自由を許せば、日本の支配層は簡単に「中国シフト」に切り替えて延命を図ります。日本の「被支配層」は久しく「長いものには巻かれろ」とだけ教えられてきたので、レジスタンスを戦うなどということは思いつきもしないでしょう。「アメリカに支配されるのも中国に支配されるのも、国家主権がない点では変わりがないからね。ははは」と寂しく笑って人々はこの事態をやり過ごすはずです。

 アメリカに見捨てられ、中国の辺境の自治州となった日本は、その後どうなるのでしょうか。「アメリカ憎し」の一念で中国をバックにした「反米の尖兵」となるでしょうか。そんなことはないような気がします。だって、あまりにも愚かで腰抜けだったせいでアメリカに「いいようにされた」だけの話ですから。日本人がいくら「自分たちは被害者だ。日米安保条約ひとつであれだけ日本から収奪しておきながら、肝心のときに置き去りにするなんて・・・アメリカは80年分の『みかじめ料』を返せ」と泣訴しても、日本に同情して、ともにアメリカ批判に加わってくれるような親切な国は国際社会にはたぶん一つもないと思います。国連総会決議(アメリカは日本に謝罪して、金を返せという決議)もたぶん行われないと思います(それって自己責任でしょ・・・と言われるだけで)。




共感ベース社会の陥穽 より
 先日、ある文学賞の選考にかかわっている編集者からこんな話を聴いた。この文学賞では投稿されてきた作品を編集者たちがまず「下読み」をして、候補作を絞り込んでから選考委員会に上げる。何百本も応募作が届くのだから当然である。その「下読み」の時に、若い編集者がある作品について「これは落としましょう」という低い評点を付けた。理由を訊ねたら「主人公に共感できないんです」とこともなげに言ったそうである。
「驚きました」と私に話してくれた人はため息をついた。「主人公に自分が共感できるかどうかが文学作品の質の判定基準なんですよ・・・」すごいですね、と私も応じた。その基準だと『悪霊』や『変身』はたぶん一次選考で落ちてしまうだろう。
 共感できるかどうかというのは個人の気質の問題である。「自分と近い」ということはその作品に「価値がある」ということを意味しない。そんなのは自明のことであるだと思っていたが、いつの間にかそうではなくなっていた。自分とケミストリーが近いかどうかがある時期から「価値」の基準に採用されるようになった。
 今回の都知事選を論じたものの中に、二位になった石丸候補について、「若い人たちの共感を集めた」という分析を多く読んだ。そうだろうと思う。攻撃的で冷笑的であることが生き延びる上では力強い「ウェポン」になるということを経験的に習得してしまった若い人たちが、石丸候補のうちに「自分と同じケミストリー」を感じることに不思議はない。
 左派系の人たちは「若い人たちは情報が不足しているから、こんな選択をしたのだ。事実を開示されたらこんな投票行動をしなかったはずだ」という「啓蒙主義的」総括に傾きがちだけれど、私はこれには容易に同意することができない。投票行動が共感ベースなら情報の多寡は問題にならないからだ。共感ベースなら、石丸候補がいかなる政治的立場を取っているかも、公約が何であるかも関係がない。動画を見て、街宣を聴いて、自分と「同じ生地」でできている人間らしいと感じたら、投票行動を決定する情報としてはそれで十分である。
 でも、「共感」ベースで政治的判断を下すことについては、それがいかに危険なことかはしっかりとアナウンスしなければならないと思う。「共感」ベースで政治的判断を下すということは、理解も共感もできない人たちとのコミュニケーションは初めから放棄するということだからである。
(『週刊金曜日』、7月17日)




以降の全文は 内田先生かく語りき62 による。





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Last updated  2024.08.29 00:09:10
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