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2024.09.30
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カテゴリ: 気になる本
図書館に予約していた『イラク水滸伝』という本を、待つこと8ヶ月半ほどでゲットしたのです。
著者の高野秀行という人は、角幡唯介さんとともに今の日本ノンフィクション界の先陣を走るような人なんですね。
「 探検本あれこれ 」という括りを設けているんですが、高野秀行さんの作品を5作ほど取り上げていて・・・個人的には探検家トップの地位を築いておるわけです♪

*********************************************************



高野秀行著、文藝春秋、2023年刊

<「BOOK」データベース>より
アフワールーそこは馬もラクダも戦車も使えず、巨大な軍勢は入れず、境界線もなく、迷路のように水路が入り組み、方角すらわからない地。権力に抗うアウトローや迫害されたマイノリティが逃げ込む、謎の巨大湿地帯。中東情勢の裏側と第一級の民族誌的記録ー“現代最後のカオス”に挑んだ圧巻のノンフィクション大作!

<読む前の大使寸評>
この民族誌的記録は“現代最後のカオス”ってか・・・ワクワクするでぇ♪

<図書館予約:(1/06予約、副本3、予約86)>

rakuten イラク水滸伝


「第2章 イラン国境の水滸伝」の冒頭を見てみましょう。
p69~72
<1ディープサウスへ>
 真っ暗な庭先に出て、星の瞬く下でひそやかに荷物を三男アサム兄さんの車に積み込むと、私たちは人気のないのを確認してから素早く出発した。吐く息は白い。午前5時前、まるで夜逃げのようだ。

 ガラージュと呼ばれる乗り合いタクシーのたまり場へ行く。アサム兄さんが交渉してくれて、私たちはうさんくさそうな中年男の運転するタクシーに乗り込んだ。バグダード滞在もハイダル君の家(ラダー家)での生活も終わりだ。私たちはアフワールのある「南」へ向けて出発した。

 今回の旅では舟旅まで求めていない。まずは湿地帯をこの目で見ること、舟大工を見つけること、将来的に舟旅ができるかどうか調べること・・・つまり偵察が主目的だ。何もかも手探りなので、ある意味ではこの偵察が最もリスクが大きく、難しいとも言える。

 まず目指したのはマンダ教の舟大工がいるというイラン国境近くの町アマーラである。
 イラクはティグリス川とユーフラテス川という二つの大河が南北に流れている。ティグリス川はトルコ東部を源流とし、イラク・イラン国境の山岳地帯に水源をもつ支流からも水を集めながらイラクの東側を流れる。かたやユーフラテス川は同じくトルコ東部を源流としつつ、いったんシリアを通ってからイラク西部を流れ、イラク南部でティグリス川と合流し、シャトル=アラブ川と呼び名を変えてペルシャ湾に注ぐ。
 アマーラはティグリス川沿いの町だから、私たちはティグリス川経由で湿地帯に向かっているわけだ。ちなみに「メソポタミア」とはギリシャ語で「二つの川の間」を意味し、ティグリス川=ユーフラテス川の流域を指す。そのうち面積で言えば、ざっと八割がイラクで、残りがシリアとトルコだと考えるとイメージしやすい。

 こんな時間帯でもけっこう車は走っている。アメリカ車が多い。その他はヨーロッパ製、韓国製、中国製。日本車は影が薄い。アフワールの玄関口であるアマーラへ向かうハイウェーに乗ると、一般車の大半がアメ車となった。アメリカ以外でこんなにアメ車の多い場所は初めてだ。
 米軍侵攻後にアメリカ産品が無理やり入ってきたのかと思いきや、「昔からそうだった」と助手席のハイダル君は言う。

 ハイダル君!! バグダード滞在後、いったい誰を頼って湿地帯へ向かったものかと思い悩んでいたが、なんとハイダル君が同行してくれることになったのだ。彼は人格と知性が抜群でしかもハンサム。(中略)
 彼によると、中でも人気があるのはイラクで「オバマ」と呼ばれる車。車種まではわからないが、クライスラーのセダンだ。私たちもオバマのタクシーに乗りたがった、見当たらず、似たような、でもGMの車に乗ったのだった。

 しかし、このGMは食わせ物だった。30分あまりでプスプスという景気の悪い音を立てて止まってしまった。エンジントラブルらしい。「こいつはオバマじゃないどころかトランプだ」と罵りながら、車を降りた。しかも運転手は「アマーラまでの料金の半額をよこせ。俺も車が壊れて災難だよ」などと要求するので、しばらく講論。「車だけじゃなくてこいつもトランプだ」と温厚なハイダル君もさすがに怒った。結局、要求の半額ぐらいを支払う。

 東の方の地平線から大きな赤い太陽が昇ってくるのを見ながら、通りがかった別のアメ車を捕まえて、再スタート。ドライバーは無造作にアクセルを踏み込み、速度計の針がぐーんと回る。

 猛スピードでエンドレスに続く平坦な一本道を突っ走っていると、なぜこの国にアメ車がこんなに多いのかうっすらと察せられた。国土の大半が平坦だからだ。車はスピードを出す。アメ車は車体が重くて頑丈なので、舗装状態のよくない道路で150キロ以上出しても安定感は抜群。直線ばかりだから細かいハンドルの操作性は必要ない。しかも産油国だからガソリンが安く、燃費の悪さもあまり気にならない・・・。

 南部の人が住むエリアはティグリス川とユーフラテス川およびその二つの河川が合流したシャトル=アラブ川の流域で、川が1億年以上もかけて運んで来た土砂が堆積した沖積平野である。皇帝さ派ひじょうに少ない。バグダードから海(ペルシャ湾)まで直線距離にしてざっと570キロあるが、標高差はたったの34メートルである。わかりやすく言えば、東京の十階建てのマンションから大阪湾まで水を流したような感じだ。ほとんど流れなどない。そこが湿地帯になるのも容易に想像できるだろう。


『イラク水滸伝』4 :イラン国境の水滸伝
『イラク水滸伝』3 :続き(その2)
『イラク水滸伝』2 :続き(その1)
『イラク水滸伝』1





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Last updated  2024.09.30 00:17:21
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