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VAMPIREEYE109「記憶の楼2」 吹雪と静燕の立ち合いは続いていた。既に35回、吹雪は斬り伏せられている。 「気が入っとらん。むやみに剣をふった所で己にはかすりもせんぞ」 「……」 吹雪はこれまで得た技術を駆使して静燕に挑んだ。父・蔵人の動きや剣術指南の動画で見た動きを真似て会得した剣で挑んだが全て静燕には通じず。 「(当たらないだけじゃない……静燕さまの剣が読めない……)」 「己の剣が速いと思うか?」 「分かりません」 「分からないと応えるあたり見込みはあるな」 吹雪は刺突と斬撃を受け36回目の昏倒。 「そろそろ、嫌になるか諦めるか何かを得るかだな。このまま続けるわけにもいくまい、質問に答えてやろう」 静燕は長い刀を鞘に納めて言った。 「静燕さま、貴女の剣がわたしの剣よりも速く重く威力があるとは感じない、なのにこの差は……なんですか」 「確かに吹雪の剣は速く重く鋭い。だがそれだけだ、そこで終わっている。だから他の道に進んだのだろう。終わるな、自分の剣を見つけろ模索するのだ。道半ばで投げだし脇道に逸れているようでは全てが中途になろうぞ」 「わたしの剣……」 「間合いを操るのが上手い者、踏み込み斬りが得意な者、刺突が得意な者、受け捌きが得意な者、合わせ返しが得意な者、様々な剣の強さがある。そなたはどうだ?」 「そう言われても……」 「己は虚実の剣である。惑わしの牽制の技とは似て非なるもの」 「フェイントではない……と」 「ああ、吹雪の使っている技は惑わしの牽制。己の剣は虚実の剣、牽制ではなく必殺の斬撃である。これが己がたどり着いた剣」 吹雪と静燕の刀身同士が触れた瞬間、吹雪は肩と膝を斬られた。37回目の昏倒。 「ううっ……」 「見えたか?見えたとして、見切れたとして、この虚実の剣は止まらぬ。故に虚実の剣の存在が敵に圧をかけ優位に立てる。己は虚実の剣のみにあらずだからな」 元の位置に戻る吹雪。静燕は正眼に構えゆっくりと近づいてくる。 「さぁ行くぞ吹雪、間合いに入った途端己は虚実の剣を使う。対処してみよ」 「……っ!」 吹雪は下段に構え浜の石を刀身で跳ね上げて静燕に飛ばす。静燕はそれをゆるりと鎬で添えるように捌いて落とす。吹雪はその動きに合わせ超前傾姿勢で踏み込む。刀身を肩に担ぎ倒れこみそうになりながら一気に振り下ろす。 狙ったのは静燕の刀の鍔。鍔ごと小手を叩き込むつもりで全身全霊の振り下ろしを放った。しかし、刀身は触れることなく、逆に振り下ろした吹雪の両腕に静燕の斬撃が食い込んでいた。 「今の一撃は幾分かましになったぞ」 「……っ」 「破壊力が欲しいのだな?それが自分自身に欠けていると考えている」 「そうです」 吹雪は思い出していた。【灰色の軍勢・橡】を斬った時の感触を。あの時自分自身の剣にもっと威力があれば仕留めきれていたはずだと。 「自分自身の剣にもっと威力があれば斃せた敵がいました」 「一撃必殺の剣を入れられる瞬間があった、だが仕留めるに至らなかったと?」 「はい、太刀の状態も良く、間合いも申し分なく。わたしが未熟で逃してしまいました」 「吹雪、お前の剣、目指す所が見えたな」 「え?」 「示唆よ。その場面、どうすれば仕留めきれたのか。自分自身どのような剣を放ちたかったのか見えたのではないか?」 静燕は長い刀を乙の字に動かし空を切る。 「静燕さま、今のは?」 「先ほどお前に入れた虚実の剣の軌道を見せた。これは見えただろう?これが実である」 「??」 「ええい一々説明するのも面倒だな。あの男のように無邪気に真似てくるのも鬱陶しいが……つまりだ、思い描くのだ。強く強く、どのような剣を放ちたいのか。お前も白峰一族なら魔力の操作はできるだろう?剣と魔力を一体化させ思い描いた剣を作り上げていく」 「えっと……静燕は今の動きから天啓のようなものを得て虚実の剣を産み出したと?」 「そう、それだ!己は剣の軌道を絶対に読まれないようにしたかった。あらゆる工夫をしてたどり着いたのが虚実の剣。あの男は虚実の剣にまでは至らなかったが、来ることが解っていても避ける事が困難な剣を会得した。剣の技の名前に己の名の一字を入れおって」 「静燕さまの虚実の剣に似たのを会得した者が居るのですか」 「ああ、人の身でありながら魔力操作も出来ぬものが己の剣に近づきおった。純粋で裏表のない爽やかな男だったよ。最後はある剣術者との決闘で命を落としのだが……己は止せと言ったのだがあの男は聞かなかった。手段を選ばぬ勝つためには何でもする悪鬼のような剣士など相手にするなといったのだが……」 「静燕さまの剣に近い秘剣を身に着けた男が破れたのですか」 「対手も相当な手練れだったのだ。なのにいつもの悪い癖が出た、楽しもうとした、対手を知ろうとしたのだ。悪鬼の如く剣士はあの男を葬る事しか考えていなかったのに」 「……」 「結果、秘剣を出す前に頭を割られて絶命した。己は遠くから見ている事しか出来なかった、骸が運ばれていくのを只々見つめていた」 「……」 吹雪はある剣士の逸話を頭に思い浮かべた。まさかそんなと考えたが周囲の景色と前に衛星地図写真で見た景色が近いと感じていた。 「静燕さま、勝利した剣士は……もしかして長い木剣を使っていたのでは?」 「木剣に違いないが……アレは長いというか巨大な代物であった」 「え……船の櫂を削り出したような物では?」 「そんなものではない。アレはあの男を葬る為に作ってきた木剣。5尺をあろう長さに女人の胴程もある厚みの木剣。それを肩に担いでおった」 「そんな巨大な……」 「よく考えて作られていた。黒褐色の鉄のように硬いと言われていた木を幾層も合わせあの男の剣を受けても食い込んで離さない構造になっていた。手甲と脇差を装備し、もみあいになった時の事も考えていた。実力は伯仲していたがあの剣士の方が戦上手であった」 静燕は勝利した剣士の姿を鮮明に思い出す。 「剣の道を究めんとする両者。片方は楽しみながら純粋に腕を磨き、片方はいかに勝利するかを突き詰めた。天下無双、その言葉に魅入られた両者。己もかつてはそうであった」 「……」 「勝利した剣士を責める気なかった。あの者もあんな巨大な木剣を使いこなす為に相当な鍛錬を積んだはずだ。あの男を斃すそれだけの為に木剣を用意しそれを使いこなす努力をしたのだ。あの男は対手を見ずにひたすら自分自身の剣を磨いた。その結果だ」 「……」 「話が逸れたな……さてお前が目指す剣はどのような形になるのか。己は剣筋を読ませたくない一心で作り上げた。あの男はそれを真似自分で昇華させようとした。例の剣士は勝利の為に努力を惜しまず鍛錬した」 「わたしは……」 吹雪は考える。形だけではなく自分の目指す剣を。父の剣技に魅入られたが本質を理解していなかった。できなかった事を理由に母譲りの力で補おうとした。 「(こんなのは薄いメッキと同じ……出来ない事を補うのは諦める事ではなく、生かすようにする事。お父さんのような剣に至れないのならお母さん譲りの白峰の力で生かせば良い。魔力操作が得意ならそれを伸ばせばいい、それを剣に生かせばいい)」 吹雪はゆっくりと変形の八相の構えをとる。蜻蛉の構えと言われるもの。左足は前に右手は右側頭部の横に、左手は軽く添えているが鞘を握る指には力がこもっている。 自身の魔力を全身に巡らせ刀身にも送る。刀身に氷の魔力、周囲の温度を下げていく。 「この空間では剣しか使えないはずなのに……出来た?」 「剣しか使えない、それは確かだ。その状態は吹雪お前の剣。魔力で小細工をするものでは無い、だからだ。自分の剣、それが見えたようだな」 「はい。ではよろしくお願いします」 「応!虚実の剣【飛燕斬り】で迎え撃とうぞ」 脱力から一気に力を込めこ魔力を込め剣を振り下ろす吹雪。静燕は見切り数センチの距離で躱す。だが、そこで静燕は異変に気が付いた。振り下ろした吹雪の剣の軌道が青白く残り強烈な冷気を放っていた。躱した静燕の髪は凍結し始める。 「(外した!でも……静燕さまの秘剣は受けてない!)」 「(ほう……凍てつかせる剣か。氷刃を纏わせるといった安易なものではなく、自分自身が剣と一体になり氷刃と化し空を裂き周囲の気をも凍らせるか)」 吹雪を中心に周囲の温度が下がり始める。 「(成程、寒さは思考を鈍らせ体を強張らせ生命力を削る)」 海岸の砂には霜が降り打ち寄せる波は氷片を含んでいる。 「静燕さま、行きます!」 「来い!」 ゆっくりとした動きから瞬間的に加速し蜻蛉の構えから振り下ろす吹雪。静燕は真っ向から振り下ろす刃を鎬で削りながらすり下ろす。触れた瞬間静燕の刃は消え吹雪の腕を下から斬り上げたと思われたが、僅かに落ちた速度が吹雪の反応を間に合わせ回避を成功させた。静燕の刀、腕は凍り付いていた。 「ハッ!」 刺突を繰り出す吹雪。静燕は巻き受けで弾きそこから秘剣【飛燕斬り】を放つ。逆袈裟から右水平斬り。凍結による速度現象の効果でハッキリと吹雪に見えた。あまりの速度に受けきれず皮膚を切り裂かれる。 「ぬ……厄介な剣だな。己が秘剣喰らって立っていたのはお前が初めてだ」 「はぁはぁはぁ……あと3センチ深ければ終わりでした」 「ならば、もう一合やるか」 「お願いします!」 静燕の目つきが変わった。やや下段に構え腰は低い。対する吹雪は蜻蛉の構え。ゆっくりとお互い間合いを詰める。 「ハッ!」「破っ!」 振り下ろした吹雪の剣は弾かれる。その瞬間静燕の体前面から凍結が始まる。速度を落としながらも止まらない静燕の剣は異様な軌道を描く。右手だけを逆手に持ち替え刀身を反転、吹雪の喉を切り裂いた。倒れる吹雪、そしてリセットされ最初に位置に戻る。 「……静燕さま今のは?」 「あの男が完成させた剣よ。己の飛燕斬りを参考に作り上げた剣」 「速度が落ちてなおあの速さ……」 「元々は抜き打ちで斬りつけ予測不可能な角度で剣の軌道を変える【虎斬り】という剣であったと言っていた。己の【飛燕斬り】と組み合わせ自分なりに編み出したのがあの男の秘剣なのだ」 静燕は腰を深く下ろし、右手だけを逆手に刀身を上に構える。その姿を吹雪は見たことがあった。向かい合って武器を構える剣士の像。片方は長い刀を構えもう片方は棒状の物を振り上げている。 「あ……その剣士の名は……」「言うでない」 静燕は吹雪の声を遮るように言った。 「十中八九お前の想像通りの男だろう。違ったとしても己は一向にかまわん。それはそうとして……お前の剣、見事だ」 「手ごたえを感じています。これこそがわたしの剣……」 吹雪は考える。橡と次に対峙する時はこの剣で必ず仕留めて見せると。 「呪に蝕まれていた体はどうだ?」 「そういえば……消えたようなきがします」 「そうか、ならば良し」 静燕は刀を鞘に納める。 「静燕さまが何かしてくださったのですか?」 「斬れぬものを斬る、斬れるものを斬らない。己の剣はそういうものである」 「……ありがとうございました」 吹雪は頭を下げて礼をする。目の前が真っ白い光に包まれ気が付くと蔵の床下に倒れていた。霄と霞の姿は見えない。突入した時の床下とは様子が違っていた。周囲には何も無く石で積まれた壁が見えるだけ。 「……?記憶の楼はどこに?」 *** ―川の近くの廃墟 橡(つるばみ)、皀(くり)、青鈍(あおにび)はサイバネ者たちのアジトを占拠していた。コンクリートの床には攫われてきたであろう女子供と抵抗したサイバネ者の死骸が転がっている。 「どーすんだよ……大将に合わせる顔がねえぞ」 橡は被れたソファに腰を掛けて言った。 「なぁにまだまだ挽回できる……俺は喰いつづけ、橡は呪爪で暴れまわり、青鈍はやり方を変えればいいだけじゃねえか?」 皀はサイバネ者の片腕を食いちぎりながら言った。 「それはそうだが……これまでのようにバラバラでやるより三人組んでやらないか?」 青鈍は砕けた鎧から新しく作り上げた呪の盾を構えて言った。 「それは俺たちの中では無しになったろ?結局大将なしで三人集まれば誰がまとめ役になるかで揉めるんだからよー」 「揉めてる場合でもなくなってきた」 「めんどくせぇ……日替わりでいいんじゃねえか?グレイパワーを授かった順に俺、橡、青鈍でなー」 「それが一番分かりやすいか……それでいいぜ」 「じゃあさっそく俺、皀が言わせてもらうぜ……敵兵を削るのはもうやめだ。大将みたいに敵の拠点と主戦力級の奴を狙っていく。三人なら負けん」 「どこを狙う?」 「病院だ。エクレシアのカラス天狗部隊のやった妖狐と牛鬼らを狙うんだが、どうだ?」 「放っておいても動けない連中に止めをわざわざ差しに行くのか?」 「あの病院は妖関係の者らが利用する所。そこを潰せば奴らに大打撃を与えられる上に護衛している奴らを始末できる」 「なるほど、お前は喰い放題、俺は下僕を作り放題、橡は弱らせ放題って事か」 「俺が弱らせ雑魚は皀が喰い、使えそうな奴は青鈍が下僕に変える流れか?」 「いいねぇ、それで行こう!!」 「だが長居はしない。奴らの増援まで相手はしない」 「この街の奴らは侮れんと知ったからな」 「俺たち各自の計画の遂行はどうする?」 「これも三人で一つ一つこなしていくのが良いだろうな」 「大将に後六日で成果を出さないといけない。確実な方法だ」 三人に近づく人影。廃墟への侵入を許すまで気が付かない。 「君たち」 その声に反応し飛びのいて即座に変身する三人。高級ビジネススーツを着て筋骨隆々、均整が取れつつも巌の如くほりの深い顔立ち鼻の高い男が立っていた。 「誰だテメェ……」「ただ者じゃない」「この圧……何者か」 「大天狗・長門顕彰(ながとあきら)だ。まぁ落ち着いてくれ、話をしに来ただけだ」 ゆっくりと近づく長門顕彰。ゆっくりとソファに腰を下ろす。 「君たちも座ってくれないか?私が偉そうにしているみたいじゃないか」 「長門顕彰……エクレシア(教会)のトップが何の用だい?」 橡は恐る恐る向かいのソファに腰を下ろす。皀、青鈍も続く。 「大体の事は君の上司、神名と相棒の葛野に聞いている。雑用は部下の飯田に任せてある。ただ待っているというのも手持ち無沙汰なのでな」 「で?」 「君たちをエクレシアに迎えよう。その方が話が早い、断るというのなら……解るね?」 続く
Aug 22, 2021
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VAMPIREEYE108「記憶の楼」 魔力の鎖が砕け散りゆっくりと床下の扉が開かれる。光を吸い込むような漆黒の空間が三姉妹に緊張を走らせる。 「何も見えない」「新月の夜でも見えるのに」「どうなってるの!?」 漆黒の空間に髪で作った針を落とす霄。 「おかしな感じだ。落としたはずの髪が地面についてない」 「なんでなんで?」 手を伸ばす霞、漆黒の空間に触れた瞬間姿を消す。 「霞!!」「霞!?」「霞お嬢様!?」 飛び込む霄と吹雪。数秒間の浮遊感のあとゆっくりと石畳の敷かれた地面に着地した。 「あ、お姉ちゃんたちやっと来た!」 「ん?」「やっと?」 霞が消えてすぐに飛び込んだはずの二人は違和感を覚える。 「ここは……お墓かな?」 霞に言われて二人は周囲を見渡す。小さな石柱が目の前の壇上に並べられている。 「墓は市内の別の場所にあるがここは一体……石柱に刻まれているのは名前だな」 「沢山ある……」 『穢れた体でここに来るとは礼儀知らずの一族の子だな』 声がした。石柱の一つが青く光を放っている。石柱に刻まれて名前は静燕。「誰?」 吹雪は身構える。霄と霞には声が聞こえている様子はない。 『己(おの)は白峰静燕(せいえん)。名乗れ娘』 「白峰……吹雪」 「吹雪どうした!?……誰だ!!」「お姉ちゃんたち何?……え?誰か呼んでる!!」 三姉妹はそれぞれ棒立ちとなりそれぞれ別の石柱から語りかけられる。 『吹雪……ここがどのような場所か知っているのか?』 「知らない」 『ならば思いがけずここに来たという事か。まぁよい、すぐに帰したのではつまらん』 「ここはどういう場所です?」 『記憶の楼。白峰の者たちが死後一族の為に己の記憶を石柱に刻みつける場所。今お前と話している己はただの記憶の残滓、影法師のようなもの』 「静燕……さま、何故貴女がわたしに?」 『知らん、お前が己を引き寄せたのだ。お前の心の奥底で求める何かが己を呼んだ』 「わたしが……」 『細かい事はよい、時間がもったいない。己と接触できる時間はお前自身の魔力量による。己ができる事と言えば剣のみ、場所を移すぞ』 吹雪の意識が体を離れ静燕と共に飛翔する。暗闇を突き進むと海に囲まれた小島に着いた。目の前には長い太刀を携えた袴の女性。吹雪は少し自分に似ていると思った。 「あの……」 『話はもうよい、構えろ』 吹雪はいつもの戦闘服に愛刀を持っていることに気が付いた。 『さぁ吹雪、全力でかかってこい。案ずるなここでは死なん』 スラリと長い太刀を抜く静燕、白刃が輝く。刀身を後ろに脇構えに。 「……」 愛刀を抜く吹雪。右八相に構える。 「ハッ!」 砂浜を抉るような爆発的な踏み込みで間合いを詰める吹雪。静燕の腕を狙って振り下ろす。次の瞬間、吹雪の愛刀は弾かれ胸元と右大腿から鮮血が噴出した。 「え……」 倒れる吹雪。すぐに瞬間移動で元の位置に戻される。傷は塞がっている。 『甘すぎるぞ吹雪。速いが見切るのは簡単すぎる』 「それなら……」 平正眼に構える吹雪。今度はゆっくりと間合いを詰めていく。吹雪は刀身を氷で覆って長くしようと試みたが能力は発動せず出来なかった。 『おっと、ここは剣でしか戦えないぞ』 「……そうですか」 『不満か?お前が求めたのは此れであろう?自分自身で制約をつけているはずだ』 「わたしは……わたしにしかできない戦い方で大切な人を守りたい、そう考えてる」 『違うな、剣の腕が未熟だから妥協で他の道を選んだ。そしてお前はそれを悔いている』 「そんな……うっ……」 下から襲い掛かる静燕の斬撃は突如消え吹雪の左肩を上から切り裂いた。 倒れる吹雪、元の位置に瞬間移動する。 『時間を無駄にするな吹雪。己と対峙できる時間は長くない。貪欲に夢中にこの状況から得ようとしろ。あの男のように』 「あの男?」 『己に一太刀でも入れればその問いに答えてやる』 *** ―霄は竹林に立っていた。 目の前には十二単の女性。目は閉じられ大きな扇子で顔の半分を隠している。 「貴女は誰ですか?」 『妾は輝夜』 「かぐや……?」 『一族の祖である』 「まさか初代様!?」 『これまで妾を呼んだ者はそなたを含め三人。紅葉、華月、霄』 「貴女は本当に初代様……?」 『ふふふ……お前は素直だな。紅葉、華月は問答無用で仕掛けてきたというのに』 「ここはどのような場所ですか?」 『記憶の楼。妾が一族の為に記憶を残したのが始まり。何故か子々孫々続けておるが』 「紅葉様というのは確か……二代目」 『うむ、実際【白峰】の姓を得たのは紅葉の代からだ。あの娘が白峰の家を築いたと言っても良い』 「初代様、先ほど私が貴女様を呼んだと言われましたがそれはどうして?そもそもこの記憶の楼を知らなかったわけですが」 『運命というものだろうな。紅葉も華月も妾を呼んだ時、追い詰められておった。自身のあり方に思う所があるのだろう?紅葉も華月もそうだった』 「運命……?私が追い詰められているとおっしゃるのですか?」 『そなたの目には余裕がない。紅葉のように迷いでもなく華月のように闘争心という訳でもない。紅葉は器用であったが精神的に不安定でな、華月は強さを求めておった』 「私は……白峰にふさわしい力を持てる自信がない。でも妹たちに重責を背負わせたくないのです」 『……そういうことか。そなたは考えすぎだ白峰が何だというのだ、そなたは自分らしくあれ。歴代の者や周囲の事など気にするな時代がそなたを選んだのなら自分らしくあり続けるのだ。それこそが求められるもの』 「でも……そんな簡単には」 『ごくまれに他の歴代の記憶の楼の者とも対話をするが、皆白峰の名を重く考えすぎだ今の時代の事も歴代の者からある程度は聞いている。誰かの真似事などする必要は無い、もし自分の生き方を通しそれで白峰が終わるのならそれも仕方が無い事なのだ』 「初代様はそれでいいと?」 『良い、そもそも妾が暗い世の中を照らす役割を引き受けたのは偶々そういう力があったから、それだけだ。霄、覚えておいて欲しいのは、白峰は白峰だけにあらず。だ』 「え?」 『かぐや姫の物語知っているのであろう?』 「はい、一応は」 『結局は周囲の者が決める事、なのだ。妾は病から人々を救い邪なる者を退けた。この世界に生を受け大事にしてもらった恩を返したにすぎないが、それがきっかけで様々な諍いを生むことになった。妾はそんな事は望んでいなかったのにだ』 「でも、私は周囲の期待に応えなければ……」 『応えようとすることは悪い事ではない、だが自分を偽る必要などない』 「……」 霄は華月の事を考えていた。自分を貫き歴代最強とまで言われた華月は支持していたはずの者らの罠にかかり更に実の娘の手によって滅ぼされたことを。 『何を考えている?聞かせて見よ』 「初代様、実は……」 霄は華月の事、雪名の事を輝夜に話した。 『そういう事であったか。ならばそなたはそなた道を行く為に模索するが良い。そしてみつけたのならそれを貫け。歴代の一族は皆そうしてきた』 「皆そうしてきたのですか……」 『ホッホッホ、妾も一族の者も多くを救ってきたが自分が望まない状況に振り回されてきた。そういう存在なのだ妾たちは』 輝夜は扇を動かす。二人の周囲の空間に窓が開き白峰一族の姿が映し出された。 『断片的ではあるが一族の生き様を見ていくが良い』 「はい」 *** ―霞は船に居た。砲を積んだガレオン船を思わせる構造をしている。霞の目の前には霄に似た海賊帽子の少女、須原に似た大柄な男、吉良に似たスマートな男が見える。 「ここはどこ?あなたたちは誰?」 「え?嘘!?わたしの記憶の楼に来る一族とか珍しい!!」 海賊帽子の少女は驚いて声を上げる。大柄な男とスマートな男も振り返る。 「白峰霞といいます!あなたたちは?」 お辞儀をして大きな声でハッキリと挨拶する霞。 「わたしは船長の白峰杏月(あづき)、デッカイのは須原凱、シュッとしてるのは吉良斬蔵……なんだけど、二人はわたしの記憶から作り出した存在でね。君とは会話できないの」 「そーなんだ……それでここはどこ?」 「わたしの記憶の楼の領域。死んだあとの魂がここにいるわけじゃないんだけど……生前のわたしが記憶を記録しておいた存在的なものかな。君の体の中にも流れてる血の記録にわたしのものも含まれててね、それが反応してこうして会話出来てるんだ……多分」 「杏月さんはご先祖様でいいのかな?」 「そうだよ、霞。それにしてもわたしみたいな一族の異端者に会いに来るとはね」 杏月はマスケット銃を弄びながら言った。 「異端者ってどういうこと?なんで海賊っぽい恰好なの?」 「国を飛び出し白峰家と離れて海賊をしてたんだよわたしは」 「ええ~っ!何でそんな事に?」 「よく聞いてくれた!」 杏月はコートを翻して飛び上がり木箱の上に立った。 「このわたし杏月には双子の姉が居た。名前は桃月(とうげつ)わたしと姉は杏、桃と呼び合って子供の頃は仲良くしてたんだよ。当時の白峰家は海外の技術や学問を学ぶことに力を注いでいてね、たびたび長崎にまで行ったりしてたんだ」 「ほうほう」 「貿易の船が度々正体不明の海賊に襲われるってことで長崎奉行からの命令で船に乗ることになってね、優秀で聡明な桃が同行する事になった。忌み嫌われる白峰家の双子、桃は皆の期待を受け次期当主は間違いないとされてたんだ。一方わたしは分家に引き取られることがほぼ決まっていて、桃の影武者として存在してた」 杏月は木箱に座り足をぶらぶらさせながら霞を見ている。 「……桃は帰って来なかった。船も行方不明、何の成果も無いということは許されない状況だった。長崎奉行に知られる前に繋がりのあった地下役人に頼んで密かにわたし、須原、吉良で出航した。術を施した船で数日後に問題の海域にたどり着いた。そこで見たものは……浮島だった。その浮島は高速で航行し潜って進み視界だけでなく音で周囲の状況を把握するものだった」 「それって……潜水艦!?その時代に!?」 「そう、潜水艦。あの時代そんな船あるわけないしね、只々驚いたよ。そしてその浮島潜水艦に桃は居た。妙な連中とね」 「妙な連中?」 「人魚って奴。マーマンとか海の賢者とか何とか。戻りたくないって言う桃を何とか説得しなきゃいけなくて、わたしが桃として長崎に戻ることにしたんだ。影武者杏月は行方不明になっても問題ないからね」 「マーマン……って!水元来海ちゃんの先祖!?」 「そう、白峰家にマーマンが入り込んだのはコレがきっかけ。向こうの使者の一人が私と一緒に白峰家に戻った。まぁ父上母上には当然わたし杏月と見破られるわけで、事情を話して当主の座を譲る時まではわたしが桃として過ごす事を許してくれたんだ。んで、数年後。桃が当主になる時が来てわたしが交代でマーマンの船に乗ることになった。その後世界中の海を渡り歩いて幽霊船と戦ったり深海の邪悪な一族と戦ったり、海賊と戦ったりね。数十年くらい経ってコッソリ白峰家の様子見に行ったんだけど、父上母上は既に亡くなって、桃もすっかり弱って桃の娘が家の中心となってたんだ。桃の最後の頼みでわたしが当主になったけど桃は三日後に亡くなり、四十九日が終わって桃の娘に当主を譲ってまたマーマンの所に戻っちゃったんだ」 「ええ~……」 「白峰の家は居心地悪かったんだよ……マーマンらと一緒に船に乗ってる方が楽しかった。たった52日間だけの当主、それがわたし」 「確かに異端者ですね……杏月さん。その後桃月さんの娘さんは?」 「静燕という名前でね。剣術家として生きたんだと。桃とは似ても似つかない野蛮で攻撃的な子で52日間だけ一緒に過ごしたけどあのままじゃわたし斬られてたかもね……」 「ええええ~……」 「わたしはその後、結構長い間海で過ごして最後は海賊との戦いで命を落としたんだ。当主の力を受け継いでないから白峰の血の力もその頃には大分失って殆ど人間と変わらなかったし普通に撃たれて死んじゃった訳。でも悔いはなかったよ」 「だと思います!杏月さんの表情見てれば分かります!!」 霞は杏月の話を聞いて不思議に思う事があった。 「あれ?杏月さん52日間しか白峰当主じゃなかったのに記憶の楼にそれ以降の事記録されてるのおかしくないですか?」 「それなんだけどね……よく分かんない。霞が当主になったら死ぬまでの記憶がここに残る可能性はあるね。時間とかそういう概念ここにはないから」 「えええ~なんかこわいここ……」 「初代様が作ったらしいよ。何か難しいこと一杯言ってたけどわたしに理解できる内容じゃないし忘れた、あはは……」 「あはは……」 二人は向かい合って笑う。 「ねぇ杏月さん、また会えるかな?」 「どーだろ?一日でも霞が当主したらここで会えるんじゃない?52日のわたしがここにいるんだし」 「おお!成程!!あたし思ったんですけど、双子や姉妹が白峰家に居ても気軽に当主交代したらいいんじゃないかなーって思うんです。4年に一度とか交代で。何かあった時お互い支えあえるし」 「うっわ!霞ちゃんスゴイ事言うね!!わたしの時代じゃ絶対許されないよ、そんな事口に出す事さえ無理無理……でも今の時代ならありなのかなー?」 「もっと自由でいいと思うんです。華月さんもお母さんももっと自由にできたらもっと楽しそうに生きれるのにって。あたしはお姉ちゃんたちにも楽しく生きて欲しいしあたし自身も楽しく生きたい!白峰家も守りたい!!」 「あ~……なるほどね、霞ちゃんがわたしの所に来た訳だ。君も歴代白峰一族からしたら異端者だよ。わたし以上の存在になるかも?好きにやっちゃえ!!」 「えへへ……色々頑張ってみます。杏月さん、また会えるといいですねー!桃月さん、静燕さんとも会って話したいです」 「わたしも楽しみにしてるよーここは時間概念ないから待ってて退屈なんかしないし」 続く
Aug 9, 2021
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