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VAMPIREEYE125「対決グレイビースト」 「(晴明神社……碁盤の目町の入口に通じる隠し地下通路がある所……グレイビーストは私たちの作戦に気が付いている?)」 冬華はネットワーク通信で都メタルにメッセージを送信する。 『晴明神社周囲の監視をお願いします、グレイビースト出現の可能性が高いです』 『了解冬華ちゃん。むしろ良かった、グレイビーストがそこに現れるのなら都合がいい』 勝田は監視カメラドローンを晴明神社に数十台向かわせる。 10分と経たずに晴明神社近くの建物の屋上に終結する冬華と星熊たち。異常なまでの静けさが辺りを包んでいた。 「静かすぎる……」 星熊が警戒しながらあたりを見渡す。 「ん?」 はるか前方の建物で大きな爆発。後方、左右もほぼ同時に火柱が上がった。 京都市内が燃えている。 「何だ?」 全員が周囲を警戒、晴明神社への注意が一瞬逸れる。 晴明神社の境内に五芒星の陣が浮かび上がりそこからグレイビースト・神名L咲夜が飛び出した。手には巨大な錫杖。 「危ない!」 一番最初に気が付いたのは佐久間であった。傭兵時代に培われた危険察知能力と吸血の鬼の知覚が合わさり体が動いた。 尻尾と獣の足でロケットめいた跳躍で一気距離を詰めるグレイビースト。錫杖は4枚の金属刃が取り付けられており西洋のメイスを思わせた構造。人の倍ほどもある凶悪な錫杖メイスを振りかぶる。 「グッ……!!」 ナイフを持った両腕をゴリラに変えて受け止める佐久間。受け止めきれずに錫杖の刃が両腕に食い込む。そこで全員が気が付いた。 「爆!!」 グレイビーストが叫ぶと佐久間と錫杖メイスが触れた箇所が爆発を起こす。佐久間の両腕は千切れ飛びビルから吹き飛ばされ落下していった。 「佐久間さん!!」 蓮也は飛び込んで横薙ぎの刀を振るう。佐久間に追撃の構えを取っていたグレイビーストの動き止め錫杖メイスで受け止めさせた。 「アハハ!いい反応ですね、ですがまずは一人……!」 「クソッ」 「テメェ!!」 横から肉迫し金棒を振る星熊。グレイビーストは錫杖メイスを離して回避。飛び上がり際に尻尾を伸ばし星熊の顔面を狙う。 頭を振って避ける星熊。一本角の先が触れ火花を散らせた。 「アハハハハハ……このメンバーで私を討伐しようってんです?出来ますかね??長門顕彰を斃した黒谷月を連れてきたほうがいいのでは?」 錫杖メイスを引き寄せ電信柱の先に着地するグレイビースト。 「ここのメンバーは長門顕彰も相手にできますよ」 冬華が言い放つ。 「早速一人脱落したようですが?まぁまぁそれなりの者でしょう、一番に反応し私の爆砕呪で原型を留めているんですから。そうそう、今しがた市内で起きた爆発は灰色の軍勢の仕業です、本格的にこの街を落としにかかります」 「やはりそうですか」 「その気になれば一日で数千人単位で灰色の軍勢に出来るのですけど、雑な仕事になるのでそういうのは明後日以降します。とりあえず陰陽師団10名を獣化して放ちました。彼らは邪魔な妖やサイバネを駆除し街の人々を襲い屍人化して回るでしょう」 「テメェ……今までそうやってこなかったのは遊んでやがったのか?」 星熊は金棒を向けて言った。 「そういう訳では無いですよ。ちゃんと見極めて立派な獣にする者を選別したかったのです。雑な仕事でみんな犬猫獣化とかつまらないでしょう?この私グレイビーストはこの街を自分の獣園にするつもりですから、バラエティ豊かな愛すべき獣たちで揃えたいじゃないですか。ライオンとかパンダとかはまだまだ慎重に選びたいですしね」 「ふざけやがって……」 「アハハハハハ!獣化したほうが幸せだと気付くのは全て終わった後ですからね。【彼ら】に意味も無く生かされて労働力として死んでいくよりいいでしょう?愛玩動物として私の軍勢に加わりなさい。それが賢明です」 「訳分かんねぇこと言いやがって!」 「おや?センジョーは私と金熊童子とのやり取りやホテルでの会話を盗聴していたはずでしょう?それなら理解できてると思ってたのですが。【彼ら】が来てからが本当の地獄なのに。万が一にも私を斃せたとしても【彼ら】の襲来を止めることは不可能です」 「【彼ら】とは何者ですか?」 グレイビースト咲夜に砲身を向けたまま冬華が言う。 「地球人が大体想像する存在。インベーダーだとか宇宙からの来訪者だとか邪神だとかそういった存在です。合衆国はかなり前から彼らとコンタクトを取っていたのですよ?」 「地球外生命体……」 「まぁ……色んな所からこの地球に調査に来てたのでどれがどれとは言えないですが、所謂【グレイ】と呼ばれている存在の先兵こそがグレイマンですね」 「……グレイ」 「他の連中に比べグレイは穏健派ですよ?調和の為の支配ですから。この星のパワーバランスは崩れています。彼らは悪性腫瘍やウィルスの蔓延など色々と試してきたのですがしぶとく人類は生き残り増え続け星を穢してきた。そしてついにしびれを切らしたのです」 「……」 「他の宇宙来訪者の過激派なんて超巨大隕石を落として終わりですよ?恐竜を絶滅させたアレを喰らいたくないでしょう?人類はもう滅びるか隷属するかの二択しかないんですよ」 「貴女は彼ら(グレイ)と戦う気は最初からなかったのですか?」 「戦う気は……無かったですね。利用できるかどうかの興味しかなかったので。私にとっても人類と妖は邪魔なので利害一致と言った所でしょうか。私の興味は人類と妖の消えた先の未来。どの生物が次の頂点に立つのかそれこそが私の好奇心を搔き立てるものなのです。なので彼ら(グレイ)はそれを見守りますよ。この星を資源確保と開拓地に考えているので壊しはしません。人類を除く他の生物に敵対理由は何も無いです。私が懸念するのは他のグレイマンとの闘争ですよグレイマンはお互い対立しているので」 「グレイマンとの闘争?他にどのくらいこの星で活動してるのですか?」 「教えた所であなた達には何もできないでしょうからまぁいいですか。グレイマンは全員で5人。うち一人は消えました、グレイストームですね。一番最初に私の障害となりえる存在でしたがグレイストームとその勢力は完全に消滅しました。最近の事ですよ」 「グレイストーム……」 グレイビースト咲夜と冬華の会話に釘付けになる一同。蓮也だけは佐久間の救出に向かっていた。 「グレイマンは世界各地で活動しているというのに暢気なものですね。私の活動の場がこの国この街であったというだけ。グレイストームは主に合衆国で活動してました。彼の爪痕は今も合衆国を混乱に陥れてますね。それに乗じて動いてる者もいますよ?」 「合衆国の連続テロや変異モンスター騒ぎ……あれはグレイストームの仕業だと?」 「ええ。正確にはグレイストームとその協力者である念爆者とその関係者ですね。グレイストームは途中までは見事でしたよ。この星最大の先進国で活動を開始、恐らく世界で一番破壊活動が出来る念爆者&取り巻きを引き入れ、世界最高峰の頭脳を持つ科学者も手に入れたのですから。グレイストームの目的は人類の新たなステージ。超人類の誕生、【グレイ】も認める知的生命体の誕生を目論んでいました。まぁ失敗したわけですが」 「念爆者……?」 「フフフ……知らなかったのも無理はないですよ。私が一枚嚙んでいますからね。念爆者を認識できないように呪をかけていましたから。グレイストームに借りを作っておく為でしたが結局意味は無くなってしまいましたがね。今、私にとっての脅威はあなたたちではなく、異能者特務機関なんです。あの組織は念爆者とグレイストームを破るんですからね、警戒しますよ。白魔団も力を貸していたでしょうしね」 「???(白魔団?)」 冬華は自分のデータベースと照合するも咲夜の発言と殆ど一致しない。 「アハハハハ……面白いくらいなにも知らないのですね。あなたたちが後手後手に回るのも無理はないです。さぁて……おしゃべりはここまでにしますか。私と戦うか街を守るかそれとも【グレイ】の襲来の備えるか」 「……全てこちらが後手に回っていると考えているのなら間違いですよ。足元をすくわれるのはそちらでは?」 冬華は都メタルから碁盤の目町侵入作戦が決行されたことを通信で知らされた。 *** ―都メタル 「作戦を開始します!」 勝田の号令で全員が作業を開始する。 HKFに似た装置をセットする二郎、吹雪、刀耶。 勝田の助手とオペレーターは装置と端末に集中する。 「……なるほどなるほど。厄介ですが解けない結界ではないですね」 リティーシャはガスマスクデバイスを装着、目の前のタブレット、横にある大型モニターをマニュピレーターアームを使って操作。 「速い……タイピング速度もそうだけどプログラムの構築が速すぎる……スパコン並だよこりゃあ」 勝田はリティーシャから送られてくるデータを処理しながら呟く。 「魔法による思考加速、演算処理。プログラム構築はルーンを利用、多次元的組み合わせで1から10の処理、10から100、100から1000の試行回数を毎秒ごとに」 リティーシャはボトルのミルクを飲みながら作業する。 「トーヤ!こちらは順調ですからそっちで躓かないで下さいよ!!」 「わかってらぁ!!」 敵対プログラムを排除していく二郎、吹雪、刀耶のアバター。 「凄いな刀耶君……ちょっと練習しただけなのに俺たちの誰よりも上手い」 「そうね」 「HKFと似てるからなー……次の門が開いたぞ」 勝田は現実の碁盤の目町の隔壁が一つ開いたのをモニターで確認。 「第一隔壁突破!この調子だと最終隔壁に1時間で到達できそうだよ!!」 「最終隔壁突破後はこの私にお任せを」 黒谷ジークベルトが胸に手を当てる。 「華月様!京都市内が燃えてるとの報告が!!灰色の獣人が各地で屍人を増やしているとの事です!!」 水元が叫んだ。街に放ったドローンの映像とセンジョーからのメッセージを確認する。 「センジョー側の動きは?」 「上京区、西京区に向かったと。下京区、東山区は任せるとの事です」 「冬華たちはグレイビーストと交戦中……」 華月は冬華と通信をして状況を確認している。 「近藤さんがいれば警察を動かして市民を誘導できたのですが……」 黒谷は眉をひそめてタブレットを操作する。 「華月様、私と谷川先生が下京区に向かいます。」 茉白が手を上げた。 「じゃああたしと須原、吉良で東山区に行く!いいですよね?先代!」 霞が名乗りを上げる。須原、吉良も頷く。 「よし、谷川茉白組は下京区、霞須原吉良組は東山区の灰色の軍勢に向かえ」 「それならば私のゲートをお使い下さい。下京区、東山区にも座標を取ってありますので」 左手から黒い渦を出現させる黒谷ジークベルト。銃火器を満載した茉白と百足アームを装着した谷川が飛び込む。続いて出現させた黒い渦に霞、須原、吉良が飛び込む。 「ふぅ……流石に疲れますね」 「黒谷」 「ご心配なく華月様。碁盤の目町突入の時には回復していますよ」 「そうか」 華月は冬華の通信に耳を澄ませながら足を組みなおして言った。 *** ―センジョー 「黒谷達の目的はエクレシア日本支部のある地下都市への突入というのは間違いではなかったようですね」 茨木童子・真柴樹里は目の前の手術台に横たわる全身を切断されワイヤーだけで繋がれた状態の烏天狗・飯田迦楼羅を弄りながら言った。 「俺たちには知られたくなかったようだが……邪魔する気は無い。エクレシアを潰してくれるならそれでいい。それよりも気になるのがグレイビーストの発言だ」 仙丈隼磨は星熊童子に持たせた通信機からの映像音声を拾いながら言った。 「宇宙人(グレイ)の襲来ですか。グレイマンとはエイリアンの手下の事だったとは」 「これから益々忙しくなりそうだな」 「……そうですね。ところでこの烏天狗はどうしましょうか?」 「これ以上エクレシアの情報を引き出せねぇのなら酒に変えちまうとするか。で、灰色の軍勢の方はどうだ?」 「灰色の軍勢討伐に出したヴァルキリー4名+2名現場に到着しました」 茨木のタブレットの表示は燿子、妃羅莉、壁山が上京区。舞子、萌絵、美古都が西京極。 「センジョーの特殊部隊の動きは?」 「市民の避難誘導を警察と連携して行っています。屍人の侵攻を食い止めています」 「それでいい。センジョーは一般市民の味方って認識だからなぁ。ヴァルキリーに獣化した灰色の軍勢に容赦はしなくていいと伝えろ」 「ではそのように」 *** ―碁盤の目町中央塔 「馬鹿な!結界隔壁をあり得ないスピードで解除しているだと!?」 葛野忍は式神隠形鬼に向かって叫んだ。 「咲夜は何をしているのです!」 「晴明神社前にて交戦中との事です」 「ええい……後ほんの少しで全てが決まるというのに……隠形鬼、結界隔壁が全て破られるまでどのくらいですか?」 「この速度でいけば一時(いっとき)程で完全解除されるかと」 「そんなに速く!?……仕方ありません、予備の生命石を使います。隠形鬼、準備を」 「御意」 「主殿!!」 部屋に飛び込んでくる水の塊。人型に変化する。 「どうしました水鬼」 「白峰雪名の様子が……」 「どうしたの言うのです!!」 「彼女の部屋の温度が急激に下がっています、現在-200℃にも……」 「碁盤の目町の住民全てが人質なのです、白峰雪名には何もできないはず。余計な事すれば一人ずつ殺すと言って彼女の部屋に施した結界を更に強めなさい」 「御意」 「(あの女……小生の準備が全て整った後の事を察知しているのか?成す術もなく蹂躙され次代の白峰家は小生の子に移ると読んでいるのか?)」 目の前の装置に取り付けられた純白の左腕と生体ポッドに入れられた九尾の骸を眺める葛野忍。 「(急がなければ……小生は安倍晴明をも超える……史上最高の陰陽師だ!!)」 続く
Dec 30, 2021
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VAMPIREEYE124「決戦開始」 ―センジョービルの屋上にヘリコプターが着陸した。 降りてきたのはボサボサ髪の安いスーツを着た男。陰陽師・土御門道鳴であった。 「ヘリコプターってのはどうも好きになれないね。速いのはいいんだけど」 「土御門道鳴様、こちらです」 出迎えたのは茨木童子・真柴樹里。 「どーも土御門道鳴です。いやぁこの前異能者組織のデカい仕事片付けたからしばらくは何もしない気でいたのになぁ」 「貴方が土御門道鳴である以上、今の世の中には必要とする者は絶えないですよ」 「はぁ……大昔のご先祖様みたいにお国の為に身を粉にして働くなんて向いてないんですよ……適当にやって適当に生きられれば結構。忍とか咲夜みたいに野心剥き出しで何かしようって気になんてとてもならない」 「私どものような妖の依頼を引き受けてくださってありがとうございます」 真柴樹里は土御門道鳴が全身に呪をかけ張り巡らせいつでも何が起きても備えられる状態であることを感じ取っていた。 「着いたとたん罠にかけられて爆発とか無くて良かったです。たまーにそういうのあるんですよ、3年前廃墟でそれやられて瓦礫の下敷きになりまして……」 「そんなことがあっても貴方は生き延びてここにいるとは。頼もしい限りです」 「はは……」 土御門は連れられ社長室に。既に仙丈隼磨は待機していた。筋肉隆々の星熊童子、全身刺青ピアスで細身の虎熊童子、袈裟を着た熊童子が横に控えている。 「みなさんお揃いで……土御門道鳴です」 「ほう、これ程の妖圧の中平然と挨拶できるとは。噂以上の男のようだ。備えも大したものだ……これが日本三本指陰陽師の実力か」 仙丈隼磨は土御門が全身呪と武器防具で覆っている事を瞬時に見抜く。 「皆さん……伝説の鬼ですからね。ガチの備えで来てますそこはご了承願いたいです」 「ハハハ、逆に無防備で来られた方が信用できないってもの。ビジネスってのは緊張感がなくちゃあな。まぁかけてくれ早速仕事の話をしようじゃないか」 「では……」 仙丈隼磨は陰陽師団の対抗策を土御門に提案する。それに対し土御門は思いもよらない対抗策をもちかけた。 「……そいつは面白い。常にこちらが先手を打てる」 「料金は……一人こんなもので――」 「構わん、10人分頼めるか」 「確認します……本当に10人で宜しいですか」 土御門の質問に「ああ」と返事をする仙丈隼磨。控えている鬼衆も頷いている。 「一つ注意が。この呪、高位の陰陽師である咲夜や忍には見破られる可能性が高いです。一度見破られるとかけ直しはできませんが大丈夫ですか?」 「グレイビーストと葛野には通じないか……まぁいい、葛野は『あっち(黒谷)』の奴らに期待だな」 「では契約完了という訳ですね。こちらにサインを」 *** 刀耶とリティーシャを乗せた車が都メタルに到着する。 二郎は水元と一緒にリティーシャ・ヴァン・ヴァスベルゲと宗像刀耶を地下シェルターに案内する。 「ようこそ!リティーシャ・ヴァン・ヴァスベルゲ!!僕がハルこと勝田波留夫だよ!」 わざとらしく白衣を着た勝田が出迎える。後ろのロビーには黒谷、華月、吹雪がソファに座っている。 「握手はしませんよ。男に触れるなんて絶対にしませんから」 リティーシャは勝田の目の前で首を振った。すぐに華月の存在に気が付きガスマスクでサーチする。 「あの方がここのリーダーですかね?ということはこの国のトップの吸血鬼と言うのはあの方で間違いないですか?」 リティーシャは水元に質問する。 「ええと……華月様はこのグループのリーダーなのは間違いないですが、この国のトップ吸血鬼は白峰家『現』当主の白峰雪名様です。例の碁盤の目町の中で待っておられます」 水元は黒谷と勝田の視線を気にせず言い切った。華月の反応はない。 「ほうほう……」 ゆっくりと華月に近づいていくリティーシャ。ガスマスクをとり素顔をさらけ出した。 「ジーニアスレイジの一員にして七大魔女レヴィの弟子、天才エンジニアのリティーシャ・ヴァン・ヴァスベルゲです。お見知りおきを」 「白峰華月だ。よろしく頼む」 華月は立ち上がってリティーシャを見つめる。黒谷も立ち上がる。 「フワフワの金髪に整った人形のような顔立ち。幼い印象を受けますが気品がある。ヴァンの一族にふさわしいお方ですね」 黒谷はいつでも動ける準備をしながら言った。 「ヴァンの名は両親がつけたものです。私は一族と関りありませんしヴァンの一族はもう存在しません。私は血を断ちヴァンの宿命に引っ張られないように生きてきました。ヴァンパイアではなく、エンジニアとして魔女の弟子としてこれからも生きていくつもりです」 リティーシャの金色の目が輝く。有無を言わせない圧を受ける黒谷。 「……血を断ってこの圧ですか。いやはやヴァンの一族とは恐ろしい」 「そういう貴方も真祖の気配がします。ヨーロッパの系譜ですね」 「そんなところです」 「トーヤ、どうやらここはとんでもない城のようですよ。吸血魔城ミヤコメタルといったところです」 後ろにいる宗像刀耶に声かける。 「だな、すっげぇぞわぞわするわ。敵じゃなくて良かったぜ」 「なんて暢気な、もっと警戒してください!」 「つってもよ~二郎の居場所なんだろ?二郎と話してすぐわかった、悪い奴となんかとつるまないだろう。ここの人たちは大丈夫だって、リティーシャがとんでもねー事しない限りな」 「解ってるのですかトーヤ!オーグル化したあの時のホフよりも強大な存在が目の前にいるのに!!」 リティーシャはむっとした表情で刀耶を睨みつける。 「あのなぁ……この人たちは味方だろうが。ヤバい敵は他にいるって聞いたぞ?味方なら頼もしいじゃんか。俺たちが何しに来たきたか思い出せよ、地下都市の侵入作戦を手伝いに来たんだろ?細かい事は気にするなよ」 「な……」 呆れた顔をするリティーシャ。 「すんませんウチのリティーシャが……コイツ優秀なんですけどクセが強くて。仕事はキッチリこなしますので」 リティーシャの前に立って黒谷と華月に頭を下げる刀耶。 「フッ……いいコンビだねぇ君たちは」 横の勝田が言った。 「私は最初から乗り気じゃなかったんですよ師匠の頼みで仕方なく……まぁハルの発明品にもつられましたが」 「リティーシャ、ミルクでも飲んで落ち着けよ」 「ダメですミルクはさっき飲んだばかりなのでペースを守らないと在庫が……」 「買ってきてやるから飲んどけって。ロビーの自販機にいつものミルク置いてあったぞ」 「ホントですか!素晴らしいですねここの会社は!!分かってますねー他のミルクではなくモーモーミルクを置くとは。賞味期限が短く生産数もそれほど多くないのに!」 「お、おう後で買えるだけ買っとこうぜ(ちょろいなー)」 「では早速手持ちのミルクを……ぷはー!」 カバンから取り出したミルクを一気にストローで吸い上げるリティーシャ。 「このように私は血への欲求は完全に抑え込んでいます。モーモーミルクのおかげですね」 「……」 その様子を見て黒谷は微笑む。 「気に入って頂けましたか。華月様も大変お気に入りのミルクです。モーモーミルク牧場のソフトクリームもありますのでよければどうぞ」 「なんですと!!あの北海道ご当地限定生産販売のモーモーミルクソフトですって!!」 「はい。都メタルは牧場と契約しておりますので。実はソフトクリームのマシーンは都メタル製なのですよ」 「そうでしたかなるほど……これは私としては都メタルと太いパイプを持っておきたいですね」 「(リティーシャちょろすぎんぜ~……)」 呆れながら刀耶は少し微笑んでやり取りを聞いていた。 リティーシャと刀耶は水元に案内されて部屋に。二郎と吹雪もついていく。 「あの男の子が刀耶くん、HKFが上手いTOYAなのね」 「そうだよ。体調が治りきってない恭一の代わりに作戦に参加してくれるんだ」 「……あのアタッシュケースとリティーシャさんのカバン不思議な感じ」 「そう?確かに変わってたけど……俺にはわかんないや」 「吸血鬼の気配をほんのりと感じた。二郎くんの腕とはまた違うけど似たような感じ方。上手く説明できないけど」 「へぇ……不思議なパワーのアイテムなんだなきっと」 「二郎くんは怖くないの?つい先月まで普通の高校生だったのに」 「それが驚くほど受け入れられてるんだ。こんな風に闇の住人の人たちと関わったりするの当然のように思えるんだ。知らなかっただけで家族みんな関わってたし知らない間に慣れたのかも?」 「凄いわ。わたしの家みたいに小さい時から色々知らされていないのにこんな状況に飛び込んでいけるなんて。なにがきっかけだったの?」 「それは……」 二郎はとっさに口にはできなかった。『君に一目ぼれしたからだよ』と心の中だけで言った。目線が吹雪と数秒あって恥ずかしくて逸らせた。 「……??」 「守りたいものが……出来たんだ。夢で何度も何度も守れなくて諦めたくなくてそれで……かな。ゴメン上手く言えなくて」 「ううん、いいわ。わたしも人に言葉で伝えるの苦手だもの。そのせいで姉さんと喧嘩になったりしたし」 「そっか……」 リティーシャと刀耶に部屋を案内し終えた水元は廊下で話す二郎と吹雪を見てニヤニヤする。 「(青春だなぁ~)」 *** ―京都地下都市碁盤の目町 就業時間が終わりそれぞれの宿舎に戻っていくエクレシアの職員、妖の従業員たち。中央にそびえ立つ塔からまばゆい光が放たれているのを見た。 光源は純白の左腕。全身に赤い紋様を浮かばせた葛野忍が自身の腕に装着して上に掲げていた。 「解る……解るぞ……これがアレイスター・クロウリーの見た景色……」 上に掲げた腕を下ろす葛野忍。光は収まりうっすらと光を放つ状態に。 「この全能感……小生が絶対的な存在となると確信できる!!」 葛野忍はコンピューターを操作してモニターを映し出す。そこには巨大な岩。 「門の準備は出来た。後は九尾の骸との同化……」 *** 山科区にある廃ビルに神名L咲夜は居る。そこには返り討ちに会い捕らえられた陰陽師たち十名。 「勘違いも甚だしいですよ皆さん。どうして二流の皆さんが超一流の私に勝てる気でいたのか。数で押せばどうにかなるとでも?」 「馬鹿な……退魔に特化した一番隊がこんな……」 「だから勘違いなんですよ。単純に陰陽師としての力が違うんです。私と対等に戦いたければ一個大隊の戦力か異能者カテゴリー4もしくはカテゴリー5を数人。Aランク以上の妖を複数混ぜてぶつける事ですよ。いつまでも私を甘く見ているからそんな様なんです」 「バケモノめ……そんなもの……用意できるものか」 「既にセンジョーの特殊部隊が失敗してるのに何を考えてるんでしょうか葛野忍は」 「違う……違うぞグレイビースト。我々は葛野忍の命令で動いてはいない。エクレシアのエージェントして正しく動いただけだ。お前を闇の住人として殲滅執行したまで」 苦悶の表情を浮かべる陰陽師。茨のような肉の鎖が体に食い込む。 「まぁエクレシアも一枚岩ではないですしね、それはそれはご苦労様。その献身的な働きに免じて殺しません。その仕事熱心さは利用させて貰いますよ」 「な、なにを」 「獣になるんですよ。解放されますよ?さぁさぁさぁ灰色の軍勢にようこそ」 咲夜から灰色の煙が噴出され陰陽師たちを包み込む。 「ぐわああああああああああああっ!!」 「あははははははは!」 【スペースグレイパワー】 煙に包まれた陰陽師たちは次々と犬型の獣人に変化。 「さぁーて、京都の街を地獄に変えましょうかー!私と一緒に!!」 「WAOOOOOOOOOOOOOOOON!!」 獣化する咲夜、廃ビルから跳躍。それに続く獣人達。 *** ―円山公園 顔合わせをするセンジョー側と都メタル側の総勢10名。 「このチームに参加するという意味は解ってるんだろうな?」 星熊童子の手にはいつもは持ち歩いていない超合金の金棒を思わせるバットが。 「サーチ&デストロイでOKですよね?」 冬華は右腕を砲身に変形させて空の月に向かって撃つ真似をする。 「その通り。そして叩く相手には人間も含まれてるって事だ。覚悟が出来て無い奴は帰ってくれないか?足手まといだ」 星熊童子は霄の姿を一瞬見る。一番人間に対し躊躇すると考えたからだ。 「こっちは荒事をやってきた連中ばかりで問題無し、そちらは?」 超合金金棒バットを一振りして聞く星熊童子。 センジョー側は 星熊童子、虎熊童子、夜叉童子、八瀬童子(サイバネ)、黄蜂業助(魔蟲族)。 都メタル側は 冬華、霄、蓮也、斎藤、佐久間。 「問題ないです。霄の事でしたら大丈夫、この子は上手くやれるわ」 冬華は真っすぐ星熊を見据えて言い放った。 「……いいだろう。我々のやることは単純。各々に手渡した札が反応する奴に攻撃を仕掛ける。死んでも構わない、こちらも大勢やられてるんだ容赦はしない」 「この札に込められた『呪』が敵の察知から誤魔化し『呪』もある程度無効化するという認識でよろしいのですね?」 「大体そんな感じだ」 「それで敵の出現場所に心当たりは?」 「晴明神社……と社長は言っていた。あの人は未来が予測できるっぽいのでな」 「……では晴明神社に向かいましょう。私と霄、佐久間は飛べますので蓮也と斎藤は運べますがそちらは?」 「建物の屋根をパルクールで追いかける。鬼の身体能力なら車で行くより速い」 「先に行ってます」 飛び上がる冬華。霄は蓮也の手を引き、佐久間は両腕を翼に変え斎藤は足を掴む。 続く
Dec 29, 2021
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VAMPIREEYE123「決戦準備」 「ヌガアアアアアアアアアッ!!」 沼化した床の上で寝そべって転がる魔獣太郎。 「ほう、底なし沼の脱出方法を知ってる」 「シネエエエエエエエエエ!!!」 祢々切丸を投げつける魔獣太郎。自らの細胞を纏わせ念動力で自在に操り、木戸を切り裂く回転刃となり飛翔する。 しかし木戸の前に突如現れた黒い渦に祢々切丸は吸い込まれ、次の瞬間、魔獣太郎は背から胸にかけて串刺しとなった。 「ハ??」 理解が追い付かない魔獣太郎。 「木戸さん沖田さん、わたくし達も参戦します」「戦闘モード起動」 そこに白いゴシックドレスのサイボーグの冬華。白いモダンドレスの自動人形の茉白が現れた。黒い渦は冬華の発生させたものだった。 「何だオマエ等……祢々切丸が何故俺の背中に……」 魔獣太郎はゆっくりと祢々切丸を引き抜く。 「それはこの私、白峰冬華の仕業。よろしく、そしてさようなら」 「茉白です。魔獣の貴方、谷川先生と私の愛の邪魔です消えてください」 冬華と茉白は魔獣太郎を睨みつける。 「この魔獣太郎相手によくも舐めた口を!!」 魔獣太郎は調子に乗っていた。以前、白峰霄と木城蓮也を相手にして優位だった、そのことが慢心させ油断を招いた。 この場にいる木戸、沖田、冬華、茉白は魔獣太郎には相性の良くない者。 木戸の能力は魔獣太郎を翻弄、沖田の術は力を吸収、冬華と茉白の攻撃は中距離遠距離で行える。 魔獣太郎は誤った。都メタルが敵のアジトだと気付いたのなら屍人を集め咲夜に知らせ、更には陰陽師団を加えて総攻撃を仕掛けるべきだった。 個としての強さは木戸や沖田らを上回っていても魔獣太郎に都メタルは落とせない。 「ンギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」 獣の咆哮を上げる魔獣太郎。 沖田らは総攻撃を仕掛ける。沖田の術で力を吸われながら動きを阻害され、木戸の重い打撃が炸裂し冬華の斬撃、茉白の銃弾。統率の取れた連携に魔獣太郎は動けない。 「この魔獣太郎が――!三獣合体の魔獣太郎が……!!」 魔獣太郎は成す術もなく命を削られる― 「オノレオノレオノレェェェェェ!まずは、まずはお前から始末してやる魔獣流斬鋼剣!」 迎え撃つのは冬華。 「月光剣オーバードライブ!!」 右手に宿した光の剣。大上段から振り下ろされる魔獣太郎の魔獣流斬鋼剣に対し下からの斬り上げを合わせる。 「ガアッ!?」 魔獣太郎の想像の上を行く速度で斬りつける冬華。魔獣太郎の両手首は宙を舞った。「莫迦な!この魔獣太郎の肉体は最強のはずだ!!お前などに……!!」 「次期白峰家当主の力甘く見ないことです」 すれ違いざまに首を斬りつける冬華、魔獣太郎の首は半分ほど切り裂かれる。 「グオオオオオ……」 「TMDM(谷川茉白ドリルミサイル)発射!」 茉白の両腕が展開し2基のミサイルが放たれる。魔獣太郎の体に突き刺さり激しく錐もみ回転。 「スパーク!」 深々と突き刺さったドリルミサイルが爆裂。魔獣太郎の肩と脇腹を抉り散らせた。 「グギャアアアアアッ!!」 「硬いのなら内部から破壊するまでです」 「オノレオノレ……」 「止めは僕がやらせてもらうよいいね?」 木戸が前に出る。 「エキスパンドナパームパンチ」 激突の瞬間だけ拳を巨大化して収縮猛連打パンチを打ち込む。壁に貼り付けになった魔獣太郎は背部のコンクリート壁が崩壊していくも木戸は手を休めずに打ち込み続ける。 「ガ……ハ……」 肉片を飛び散らせる魔獣太郎、さらに追い打ちで沖田が手をかざし光の帯でエネジードレインを仕掛ける。「……」 ボロクズ同然の肉体は灰となって消えていく。その生命力は沖田の術で華月に送られた。 「迎撃完了です。皆さん戻りましょう」 「愛の巣は守られました」 「いやはや皆さんが無事で私は嬉しい」 「ふぅ~慣れない事をすると疲れるねぇ~」 ゆっくりと戻っていく4人。 冬華らが去っていくのを確認する屍人の首があった。魔獣太郎よりも先に偵察に出して始末された屍人の首。転がって都メタルの敷地を出ていく。 「この魔獣太郎ただでは死なん……」 屍人の目玉の一つが飛び出して手足を生やす。最後の力を振り絞り屍人の首に細胞を飛ばして意識を移していた。 「大将に知らせなくては……」 手始めに近くの人間に憑りついて――そう考え通りすがりの白いパーカーの少年に飛び掛かる。少年まであと1mの所で目玉は爆発炎上。黒焦げとなって地面に落ちる。 「気持ち悪……目玉のモンスター……か」 イグネイシャス・ファイマンは念入りに炎で焼きながら踏みつぶして灰にした。 *** 夜中、二郎の携帯電話が鳴った。リティーシャ・ヴァン・ヴァスベルゲが京都に到着したという。 「それじゃ行ってきます」 二郎は水元来海と一緒に車に乗り込む。リティーシャ・ヴァン・ヴァスベルゲと助手は京都駅近くの小さな公園で待っているとの事。 数時間前、魔獣太郎の襲撃があった都メタルの敷地内はすっかり片付いていた。 正面ゲートを通り抜け車は京都駅に向かって走る。 「さっきの襲撃、敵に都メタルの事知られましたね……」 二郎はいつか知られると考えながらも碁盤の目町侵入作戦の前には何も起きないで欲しかった。 「想定の範囲内ですよいつまでも隠しきれるものでは無いですし、しかし単騎突入とは敵も余裕が無くなってきたんでしょうね。あと数日で勝ち確定と高をくくっていたのですから。どうせ何もできないとナメていたんでしょう。葛野忍は長門顕彰が斃されるなんて考えてなかったし、グレイビーストの方も圧倒的に蹂躙できるとか思ってたんじゃないですかね」 水元はあまり良い顔をしていない。眉間に皺を寄せたままである。 「水元さん?」 「この作戦が上手くいけば京都の混乱は解消されると思います」 「そう……ですね。あの、水元さん何か不安な事でも?」 「……私は雪名様派だと前に言いましたよね?だから今の状況はそんなに良いと思ってないんです。華月様が悪いとかそういう事じゃなくて……作戦が成功した後、白峰家は二つに分かれるんじゃないかと心配なんです」 「あ……」 二郎は何も言えなかった。 「碁盤の目町に居る白峰家に仕える家の妖たちも雪名様派でしょう。今の状況だと華月様の復活は知る由も無いですし、当主が雪名様に決まった時に分家も仕える家も雪名様の体制で動いてましたし、グレイビーストさえ来なければいずれ雪名様は反撃の狼煙を上げたはずです。ええ、雪名様はじっと霄様達三姉妹が成人されるのを待ってらした」 「そうなんですね……」 「これはここだけの話でお願いしますね二郎君」 「ええ、勿論です」 「華月様は優秀な方です。歴代白峰家最強と言われているのも分かります。ですが……あの方はホトトギスを鳴かないのなら殺す選択をするでしょう。雪名様は鳴くまで待つ方です……例えに出てきた戦国武将、どちらが歴史上成功したかは言うまでも無いですよね」 「でも……そのホトトギスの話は違っていたとの説もありますし……」 「例え話ですよ二郎君。華月様は平和になった後は治めるのにあまり向いてないと思います。当主を華月様に戻す話は賛成できません。碁盤の目町の同志もそうでしょう」 「……俺はどうにか話し合いで解決して欲しいと願っています。どちらが当主にふさわしいかなんて俺には判断できません」 「雪名様はただじっとしている方では無いです。碁盤の目町が閉鎖された事について疑問を持ってらっしゃるはずです。葛野忍の言いなりになるなどあり得ないです」 水元は唇をかみしめる。 「優しいお方ですが、優しいだけではありません。二郎君、白峰家の姉妹を見れば解るのでは?」 「それは……はい」 華月曰く――霄は華月に似ており、吹雪は雪名に似ていて霞は華月の母に似ているとの事。 「君が吹雪ちゃんの事を好いているのは態度を見れば分かりますよ。でも別に霄ちゃんの事は嫌いでは無いですよね?私もそうなんです、雪名様LOVEですが華月様を嫌いなわけでは無いのです」 「はい……」 「余計な事を言いましたね……今現在の問題を解決していないのに未来の事で悩んで君を困らせるなんて……この話はここまでにしましょう」 水元は話を止めた。二郎も黙って助手席で風景を眺めていた。 吹雪を守れれば……白峰家を外敵から守れればそれで解決すると考えていた。 白峰家の事に部外者の自分は口をはさめない。でも吹雪は何としても守りたいそう考えている。 彼女が吸血鬼である必要はないと思うし白峰家から離れたって良いとさえ考えている。 ―彼女自身が何を望むのか。彼女に寄り添えるのか。それだけが不安であった。 まだはっきりと想いを告げていない。タイミングを量っている。もし上手くいかなかったら……そんな事を考えるとこの状況で言えるはずもなかった。 しばらくして車は待ち合わせの公園の横に到着する。 そこに居たのは――ガスマスクフードの小柄な女性と全身青銀の鎧騎士。 「……二郎君、いつでも戦える準備を。あの二人……警戒体勢ですので」 「え……分かりました」 車から降りる水元と二郎。水元は特殊魔力銃を手にして後ろ手に。二郎はバックル剣をベルトからは外して構える。 「そこの少年、その右手から良くないものを感じますよ」 「この女の言う通りだぜ。動くなよ?動いたらこっちも動くしかないからな?」 小柄な女と鎧騎士が言った。 「リティーシャ・ヴァン・ヴァスベルゲさんとお連れの方ですか?私は水元来海、勝田波留夫の使いで来た者です。こちらは木城二郎君」 「木城二郎です……」 「ええ、私が超天才エンジニアにして魔女の弟子にして美少女ヴァンパイアのリティーシャ・ヴァン・ヴァスベルゲですが何か?」 「……自画自賛がすごいなオイ」 「事実!事実を述べたまでですよトーヤ!!……こほん、クルミとジロウの本人はデータ照合で確認できました。しかしジロウの右腕、それはすぐにでも外すべきかと」 リティーシャ・ヴァン・ヴァスベルゲを名乗る少女はガスマスクに搭載されたデバイスを操作してそう言った。 「この右腕はもう俺と一体化してて……外せないんだ」 「一体化して外せないと……ジーニアスレイジのサーバーにアップされたデータにはそのような記述はありませんでしたが……やはりオーグルと似た性質があるのですね」 「オーグル?何言ってんだリティーシャ、確認とれたならもういいだろ。こんなところで立ち話してないで連れてって貰おうぜ」 鎧騎士は装甲を解除する。一瞬にして装甲はチップ状に変化。魚群のように蠢いてアタッシュケースの形に。現れたのは派手な柄のシャツを着た茶髪の少年。 「オレは宗像刀耶。このちっこいのの相棒って奴さ」 「宗像刀耶さん……もしかしてHKFのTOYAでは!?」 「ん?ああ、確かにHKFやってるけど……何?」 「俺、アカウント名JIROでやってる者です」 「は!?マジかよ!!そっかキミがJIROだったんだな!!そっかそっか、近々京都に行くってメッセ送ってたもんな。そうかこんな繋がりだったとはなー」 「驚いてます」 「はは、JIROはもっとオタクっぽい子供だと思ってたぜ。がっちりしてるなーなんかスポーツとかしてんのか?」 「特にスポーツとかは……ちょっと自主トレしてるくらいです」 「へぇ~……あ、敬語とかいいから。オレ大学生で年上だけどタメ口で良いから。刀耶って呼んでくれていいぜ」 「あ、はい……じゃあ刀耶君で」 「おう!よろしくな二郎!!」 がっちり握手する二人。 「いいですねー男は単純で。とりあえず移動しましょうか。ジロウの右腕の事は着いてから調べさせてくださいね」 リティーシャは座っていた椅子から飛び降りる。椅子はピンクのトランクに変わり車に飛び込んだ。「ソレは私の荷物なので気にしないでいいですよ」とさっさと車に乗り込んだ。 「……大変個性的なお方ですね」 「すみません……ちょっと……いや、かなり常識がない変人ちびっ子ヴァンパイアなんす」 刀耶は申し訳なさそうに水元に言うと自分のアタッシュケースをもって車に乗り込む。 「では都メタルに戻りましょう」 「はい」 ―都メタル センジョーからメッセージが入った。『こちらで陰陽師団を抑える』 黒谷はすぐに返信をする。『承知致しました。グレイビースト討伐の助力の件は?』 数秒後センジョーから、『こちらは精鋭5人を用意できる。そちらからも5人選出してもらいたい』 黒谷は少し考え返信する。『こちらからも5人選びます。メンバー決定次第そちらに向かわせたい』 センジョーから。『では零時、円山公園でメンバーの顔合わせとしたい』 黒谷。『了解。その時間に5人を送ります』 やり取りを後ろから眺めている華月。 「我がグレイビーストを始末してやってもいいのだが?」 「いえ、華月様は碁盤の目町に突入して雪名様との交渉がありますので。ここは我々にお任せを。それに碁盤の目町にはあの葛野忍も控えております、抵抗するエクレシアの者も多数いるはず」 「そうか。それで、グレイビースト討伐五人の成員はどうする?」 華月は机に手をついてモニターを眺める。 「そうですね……ここの防衛もありますからね」 黒谷は華月の横顔を眺めながら言った。 「斎藤は入れてやれ。近藤の事もあるからな」 「分かりました、一人目は斎藤さん。佐久間さんに……蓮也君と霄様。あと一人……」 「私が出ます、お父様、お母様」 冬華が現れた。手には魔獣太郎から奪い浄化された大太刀祢々切丸。 「では冬華を」 「ここで力を示し白峰家次期当主としての存在感を見せつけますとも!」 「よくぞ言った冬華。ならば餞別をくれてやろう」 祢々切丸を手に取る華月。魔力を込めた自らの血を垂らす。それを見た黒谷は同じように祢々切丸に血を垂らす。 「これは……祢々切丸が……私の一部に……!?」 「我と黒谷の血の契約により、その大太刀は冬華の一部となった。失われることのないお前だけの宝刀だ」 「嬉しいです!この太刀でグレイビーストの首、取ってきます!」 血液状に変化する祢々切丸。冬華の掌に吸い込まれていく。 続く
Dec 26, 2021
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VAMPIREEYE122「反撃開始」 「ねぇマネージャー、動画の続き無いの~?」 頬をふくらましていう萌絵。 「残念ながらありませんが、その後の詳細を知ることはできますよ。皆さんにも関係ある事なのでお連れします」 「ふぅ~ん……次の仕事の話は?」 「勿論します。大阪での撮影の件です」 萌絵はそれを聞いて大人しく車のシートに身を預ける。 「マネージャー、動画に映ってはった一人は警察官では?ウチ、見た事あります」 燿子は運転席の横に設置されたモニターの画像を扇子で差して言った。 「そうです、斎藤勇雷警部。少し前まではただの人間でしたが今は違うようです」 「こっちの可愛らしい女の子はどなたですの?」 「詳細は調査中ですが……黒谷月と名乗っていました。横にいる金髪の男性、黒谷ジークベルトの関係者かと」 「へぇ……黒谷」 燿子は興味深そうに目を細める。 「知ってるの燿子?」 舞子はチューインガムを口に放り込みながらいった。 「白峰家に仕える隠密集団を輩出している家です。といっても表向きは調査会社。滋賀県甲賀市にあります。忍者の里のスタッフとして働いてる者もいるとか」 「忍者……白峰家を支える何でも屋ってやつなのかな?その人間が二人、梅小路のバトルに参加してたわけね。それにしてもこの黒谷ジークベルトっての本当に忍者?戦い方忍術っぽくないんだけど」 「どうなんでしょうねぇ」 「私も現代忍者の事知らないし何とも言えないけど」 「詳しい事はセンジョーに着いてから知ることになるでしょう」 茨木は淡々と言い放った。 重装警備兵の立っているセンジョーのゲートを通り抜け駐車場に入るワゴン車。壁の一画が開きそこに侵入する。そのままワゴン車はエレベーターで引き上げられ最上階へ。 「スゴイです舞子さん!」「すっげー……秘密基地じゃん」 「鬱陶しいパパラッチとか待ち伏せを防ぐために事務所のある階には車ごと行けるの」 「こちらです」 茨木童子についていく六人。大型モニターのある会議室に通される。 会議室の席に着く六人。しばらくすると茨木童子が扉を開ける。そこから現れたのは大柄で体にジャストサイズの高級オーダーメイドスーツを着たオールバックの男。 酒呑童子・仙丈隼磨であった。 「社長!?」「社長だ……」「お久しぶりです」「生で会うの久しぶりっ」 ヴァルキリーの四人が声を上げた。 「元気そうで何よりだな、そちらの二人は初めまして。センジョーグループ代表取締役社長の仙丈隼磨だ」 「は、はじめましてっ!周防美古都です!」 「壁山颯真といいますっ!」 慌てて立ち上がって挨拶をする二人。 「どうぞ座ってくれたまえ」 そう言うと仙丈隼磨は腰を下ろし茨木童子・真柴樹里に目で合図する。 「では……始めます」 茨木童子はこれまでの事をまとめた資料を動画で大型スクリーンで流す。 「……これがこの街の現状。つまり戦争中って事だ。と言ってもセンジョーVS灰色の軍勢じゃない。この街を守る為には人間の協力も必要不可欠、連合に属さない連中とも力を合わさなければならない」 仙丈隼磨はリモコンを操作して梅小路公園でのバトル映像に持っていく。 「ここに映っている黒谷ジークベルト、黒谷月、斎藤勇雷らとコンタクトを取った。奴らも灰色の軍勢とやりあっている。人間の味方であるはずのエクレシアは裏で灰色の軍勢と繋がっている事が判明している。人間の犠牲者だけでなく、妖の犠牲者も増え続けている。で、連合は黒谷らと組む事にした。灰色の連中を排除するまでの間の関係だ」 仙丈隼磨はリモコンを操作して動画を停止させる。 「黒谷らは旧白峰家派だ。エクレシアやセンジョーが現れる前にこの街を統治していた連中だ。エクレシアと灰色の軍勢を追い出した後は昔のようにこの街を支配するつもりだろう。連合とは戦争にはならないとは思うが……」 仙丈隼磨は白峰家の事はセンジョーを成長させた時から考えていた。だからこそ裏人間社会を壊滅させた後は表人間に進出し白峰家とは違い表社会での権力を拡大させてきた。 白峰家と全面衝突する気は無い、白峰家が復興するなら裏社会に入らせればいい。争うのではなく誘導し監視する。小競り合いは起きるだろうがそれは適度なガス抜きだと考える。お互いの役割がハッキリすれば必要以上に争う理由など無い。 「まぁ、ややこしい事はこっちで処理しておく。ヴァルキリーはこれまでどおり仕事をこなしてもらう。そっちの二人は連合に所属してゆくゆくは仕事もしてもらう。いいかな?」 良く通る声で仙丈隼磨は言う。 頷くヴァルキリーの四人。美古都と壁山は目を白黒させながら茨木童子の用意した契約書を受け取る。 「難しく考える事は無い。野球チームだとか、町内会だとかそういうもんだと考えてくれ。ヴァルキリーのように仕事をするようになったらまた話をしよう」 「は、はい!」「おおお、オッケーっす!」 「美古都、壁山君、タブーさえ侵さなきゃ一杯得する事あるから」 「舞子さんタブーってのは?」 「同じ連合所属の者とモメない事。何か不満や相談事があるなら連合の相談窓口に連絡する事。守れない者はキツイペナルティが課せられる、あんまり酷いと最終的には処分ね。詳しい事はその貰った紙に書いてあるから」 とはいうものの、舞子らヴァルキリーは連合の者とは知らずに喧嘩したことが何度があった。 しばらく契約書に目を通す美古都と壁山。 「将来的にはセンジョーのコネで就職できたりするんですね……なるほど」 「就活しなくていいのはありがたいっすね。ハンドボールに専念できるし」 ヴァルキリーの四人は送信された資料に目を通している。 「あの社長……黒谷についてなんですけど」 燿子が静かに言った。 「なんだ?緋川」 「動画で見る限り人間が出来る範囲を超えていると思うのですけど……これが現代忍者なのですか?」 「忍者ではないな……二人とも妖の者だ。黒谷ジークベルトの方は西欧の魔法使いを思わせる。もう一人の黒谷月は……魔力の質的に鬼だな」 「鬼ですか……」 「黒谷ジークベルトの素性はハッキリしてなくてな。黒谷月にしてもそうだ。それと……」 仙丈隼磨は別の資料をヴァルキリーのメンバーに送信する。 「大天狗・長門顕彰は倒れた。そいつらの手によってな。日本最強の妖とも言われていた存在をやりやがった」 「!?」「えっ!?」「嘘……」「マジですか!!」 送信された資料にはボロボロに拷問された烏天狗の飯田迦楼羅が映っていた。 「こいつが全部吐いた。エクレシアの戦力は半減したといってもいい」 「大天狗を斃せるほどの力を持つ連中なんて……」 「そんな力を持つ存在は多くない。映像から見るに黒谷月ってのは白峰家の関係者だろうよ、白峰家の連中に似ている。黒谷の里は代々白峰家に仕えてきた。エクレシアに懐柔された現当主白峰雪名に見切りをつけ分家から血をひくものを覚醒させた――と考えてもおかしく無い」 「では突然旧白峰派が動き出したのは」 「この黒谷月の存在が関係しているのは間違いない。俺たち連合としては厄介な大天狗を消してくれてありがたいと思っている。エクレシアの妖メンバーを仕切っていたのは長門顕彰だったのでな。ナンバー2の飯田迦楼羅もこちらの手に落ちた。残るは陰陽師・葛野忍だが……正直長門顕彰よりも厄介だと俺は考えている」 「最強の陰陽師・葛野忍……」 「奴と奴ら陰陽師団は退魔のエキスパートだ。連合とは相性が悪い。これまで何度も苦汁を飲まされてきた。何人もエクレシアに捕らえられ碁盤の目町の収容所行きにされている」 全員がため息をつく。 「そして最新情報だが……俺の直属の部下、金熊童子・金河潤美が死んだ。グレイビーストの手によってな。グレイビーストは元人間の陰陽師。超常的な力に加え陰陽術も操る」 「社長その情報は……」 茨木童子が慌てて言った。 「いいんだ真柴。グレイビーストの情報は連合全員が知っておくべきだ。金河の率いてた部隊はただの妖なら成す術もなく制圧できるだけの力は持っていた。それを突破した、それがどういう意味を持つか理解する必要がある。これ以上犠牲者を出さない為にもな」 仙丈隼磨はヴァルキリーに視線を向ける。四人はその意味を理解した。むやみにグレイビーストに挑むべきではないと仙丈隼磨の目は言っていた。 「センジョーは人間側とも良い関係を築いている。一部の退魔の専門家とも繋がりを持っている。例えばこの男、土御門道鳴(つちみかどみちなり)」 仙丈隼磨は男のプロフィールをスクリーンに映し出す。 「この男は葛野忍率いる陰陽師団、そして神名L咲夜と同門。現在フリーとして活動している。センジョーはこの男に仕事を依頼した。専門家には専門家をってやつだ」 「信用できるんですか?その人」 燿子はスクリーンの土御門道鳴の画像を睨みながら言った。 「フリーってのは信用第一だ。それをなくちまえば生きてはいけない。人間だけを相手にするのならインチキ退魔師であろうが詐欺師であろうが通じるだろうがな」 「確かに……そうですね」 「土御門道鳴は『反社会的活動だけは断る』が絶対条件。後は金さえ出せば動く、上手く使えばいい」 「土御門道鳴はいつ頃来はりますの?」 「今夜到着の予定だ。それまでお前たちは大人しくしておけ」 *** 日が落ちすっかり夜の気配を感じるようになった時間。 国道沿いにある大型電化製品店の屋上から先にある都メタルを見つめる男。 「間違いねぇ……間違いねぇよなー……じっくりと観察した。試しに高機能のバレにくい屍人も送ってみた……あのビルは当たりだぁ」 三人の妖の男を合成された魔獣太郎。つぎはぎだらけの全身はスポーツウェアで隠している。 「生意気にも半径一キロ圏内の動きを察知してやがる……上から行くか下から行くか」 魔獣太郎は手を双眼鏡のように当て都メタルを観察する。 「下から行くするか……へへ、大将この魔獣太郎敵陣に一番槍で突撃しますぜ!!」 独り言を発し、爆発的な跳躍で大型電化製品店から飛び降りる。建物の屋根を飛び移り都メタルの前の通りに降り立った。 「やってやる……やってやるぞー!!」 背負った大太刀祢々切丸を抜き、正面門に進む。警備のロボット犬が立ちふさがった。光を発し魔獣太郎をサーチする。 「サイバードッグごときがこの俺を止められるものか」 大上段から袈裟切りを放つ。鋼鉄製の門とロボット犬を一撃の元に切断する。 「グハハハハハハ!!名付けて魔獣流斬鋼剣!!」 ゆっくりと大股で侵入する魔獣太郎。数十機のロボット犬が現れる。 「無駄だというのに……おんや?」 魔獣太郎は足元が赤く光っていることに気が付いた。途端に体に凄まじい重力を感じる。 「ヌウ!」 「……流石に気付くのが早いな」 影から現れたのは右手をかざした沖田実満、肩を回す木戸剛照。 「黒谷一党の吸血鬼どもか」 「ふん……旧白峰派と呼べケダモノ」「さぁ~てやりましょうか沖田さん」 次の瞬間強烈な打撃が魔獣太郎の顔面を捉えた。キックボクシングのような構えをしている木戸は5mは離れていた。 「ちっ……」 魔獣太郎は見た。一瞬にして木戸の手が伸びてすぐに縮んだ。 「あら?いまいち?今の一撃結構本気でやったのにねぇ……」 木戸がつぶやいた。 「それじゃ倒れるまでやるしかないよねぇ」 超高速の伸縮打撃が魔獣太郎を打つ。大太刀を構える隙も無く連続で放たれる。 「エキスパンドバルカンパンチ。僕はねぇ自分を含め色んなものの硬さを変えられるんだ。だからこんなこともできるのさ。それとここは僕が社長を勤めてる会社だし僕が守らなきゃねぇ」 「木戸さん……戦いは得意じゃないとおっしゃっててこれとはいやはや恐ろしい」 「ははは、このくらいやりませんと皆さんの足を引っ張ってしまいますから」 「ズエェェェイ!!」 打撃を撃ち込まれながら接近し力任せに大太刀を振るう魔獣太郎。木戸は体を半分に折り曲げて回避する。魔獣太郎は走り抜けた後、標的を沖田に変え大太刀を振り上げる。 「!?」 膝から力が抜け転倒する魔獣太郎。地面から伸びる赤い光が全身に纏わりついている。沖田は指を動かして魔獣太郎に更に赤い光を絡ませる。 「なんだこの光は……」 「私のエナジードレインと魔力操作術を組み合わせたもの。あのお方に血を頂いたおかげでこれまでとは比べものにならない速度で術を発動できるようになったので貴様で試させてもらった。私はうれしい」 「けっ……そうかこの光はテメェの術か……だがこんなものは!」 地面を殴りつけて自分の魔力を爆発させる魔獣太郎。自分自身にも衝撃を受けたが魔獣太郎は沖田の捕縛から脱出した。 「魔獣よ、貴様は屍人を作るだけでなく人間の首をむざぼり力を増しているのだったな。この街の人間から得た力は奪わせてもらう、そしてこの街を統治するにふさわしいあのお方へ献上する。犠牲者も貴様などの力となるより、あのお方の力となる方が嬉しいに決まっている」 壁、オブジェクトの柱、地面から赤い光の帯が伸びて魔獣太郎を捕らえる。 「グッ……この光……力が抜かれる、コノ!」 「触れないであろう?物質では無いエナジードレインの光の力は引力に近い」 沖田の術で動きが鈍る魔獣太郎に木戸の拳が炸裂した。今度は拳を巨大化させ車並の大きさにして打ち込んだ。 「エキスパンドミサイルパンチ……ノコノコと都メタルに来てくれるなんてねぇ。ここはありとあらゆるトラップ、術が仕掛けられてるし警備だって固いんだよ」 「ヌグ……」 撥ね飛ばされた魔獣太郎はコンクリートの壁に激突。 「ヌググググ……三獣合体魔獣太郎を……見くびるな!」 体が盛り上がり巨大化する魔獣太郎。ため込んだクビ団子パワーを全開にする。 「力こそ強さ!!パワーで粉砕してくれる!!」 獣のように腕を地面に着け四つ足のステップで迫る。口にくわえた祢々切丸で沖田を狙う。だが沖田は既にその場には居らず、切り裂いたのは紙で出来た人型の束であった。 「ドコダァ!!」 叫ぶ魔獣太郎、足元から体が沈んでいく。 「地面を柔らかくしておいたよ」 木戸は七三分けの髪を撫でつけながら言った。 「魔獣、貴様はちょうどいい、対グレイビーストの模擬戦にな」 上から降りてきた沖田はふわりとオブジェクトに着地する。 続
Dec 18, 2021
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VAMPIREEYE121「反撃の準備」 二郎は携帯を取り出して番号を入力した。すると3回コールの後、携帯の画面にプログラムを思わせるルーンの羅列が表示。 『……京都の都メタルからですか。誰です?』 「木城二郎と言います……立花冥珂さんの紹介で……」 『あーはいはい、師匠と話した少年ですね。それで私に仕事の依頼だとか?』 「リティーシャ・ヴァン・ヴァスベルゲさんで間違いないですよね?」 『そうです。あ、もうその携帯は私がハッキングしてデータは抜き出しました。妙なアプリがあったのですが隔離してブロックしてあります』 「え?」 『無償で私が引き受けるとは思ってないでしょうね?お金か、もしくはそれに見合う何かを用意しなければ仕事はしませんよ。暇じゃないんですから』 困った表情の二郎を横で見ていた勝田が携帯に話かける。 「もしもしーリティーシャ・ヴァン・ヴァスベルゲ。こうして直に話すのは初めてだね。ハルこと勝田波留夫だよー」 『む……』 数秒の沈黙。 『キシロジローの通話履歴に【勝田さん】とありますね。なるほど、ハル貴方でしたか。ええと……ジーニアスレイジの一員でありながら解決できない問題が発生して私を頼ることになったんですか』 「恥ずかしながらそうなんだよね。時間を掛ければ出来ないことも無いんだけど今は人手も時間も足りなくてね。優秀でやり遂げられそうな君に白羽の矢が立ったという訳さ」 『私ほど優秀な者はジーニアスレイジと言えどもそうそういないですからね!で、ハル。報酬は?』 「開発中の最新鋭装備が完成したら君に一つ譲るよ、それでどうだい?」 『ジーニアスレイジのネットワークにデータを上げるのではなく、実物をですか。ふむふむ……再現するのも材料コスト大変ですからね、ハルの武器は信頼性が高いので私のナイトケースシリーズにも流用してますし……いいでしょうそれで手を打ちます』 「では契約は成立だね。僕としては明日にでもこちらに来て欲しいのだけど」 『明日……ですか。夜で良いのなら行けます』 「じゃあまた連絡してよ、迎えを寄こすからさ。大丈夫ちゃんと女性を向かわせる」 『わかりました。迎えの者と一緒にキシロジローも来るようにお願いします』 「OKそれじゃまた明日」 勝田とリティーシャの通話が終わる。二郎は小さくため息を付いた。 「なんとか来てくれそうで良かったです。勝田さん新兵器の開発進めてたんですね」 「義手の解析前に進めていたのがあってね。丁度良かったよ……」 ―都メタルシェルター奥の部屋 「リティーシャ・ヴァン・ヴァスベルゲ……んんー……」 黒谷ジークベルトはでワインを片手に目を瞑る。 「ヴァンの名を継ぐ者か名乗っているだけのか果たして……」 「気になるのか?」 天蓋のベッドから華月の声がした。 「華月様、もうよろしいので?」 「ああ、長門顕彰との戦闘での疲労はもう無い。やはり当主の力無しでは回復に時間がかかるな……」 黒谷は血のワインをグラスに注ぎ華月に持っていく。 「碁盤の目町攻略後は速やかに雪名様から当主の力を返していただきましょう」 「簡単にはいかんと思うがな。特に力づくとなると」 華月は体を起こしベッドに腰をかける。黒谷の趣味でレースの付いたワンピースの寝巻を着ている。ワインを受け取ると滑らかな仕草で口に運んだ。 「勿論ですとも。私とて穏便に進めとうございます」 「先ほどの話だが、リティーシャ・ヴァン・ヴァスベルゲなる者が気になるのか?」 「ええ少し。ヴァンの名は西欧では真祖に連なる一族が名乗るものなのです。しかしヴァンの一族はヴァンパイアハンターやエクレシア、その他の勢力に追い詰められ少し前に滅んだはずなのです」 「そうなのか……そういえば黒谷、お前は西欧で契約によって吸血鬼となったと言ったな?ヴァンの一族と関係あるのか?」 「関係あると言えばあるでしょうね。彼らの残した古い魔法書の封印を解き異次元の者との契約で真祖となったのですから、ヴァンの初代真祖と同じようなものですね」 「異次元の者との契約か。魔法師や魔女なども神や悪魔と呼ばれる存在との契約によって成るとされている。吸血鬼の特性を与える異次元の存在が真祖を作るという事か。白峰家は初代から跡継ぎを産むことで次代へと繋げるがヴァンの一族はどうなのだ?他の西欧の真祖のように血を与え契約を結ばせるのか?」 「そこまではわかりません……ヴァンの一族はどのような契約をしていたのか今となっては知る術が無いので」 「そうか」 「この私、黒谷は華月様の為に真祖契約を致しました。そして華月派の人間たちをこの国の白峰家に関係性のある吸血鬼へと」 「我は強い従者を作る能力は低い。母曰く我は戦闘特化型だそうだ。だが黒谷のおかげで白峰家に仕える人間の家から従者を作ることが出来た。今や従者全員に血を与え我との繋がりはより強固になっておる……近藤も生きておればもっと与えてやれたものを」 ワインを飲み干して華月は足を組んだ。 「近藤さんは残念でした……完全復活された華月様の血を頂ければどれほどの幸福感と力を得られたかを考えると……」 「前にも言ったが黒谷、お前はそのままでいいのか?我の横にいるのなら西欧の真祖のままというのは不便であろう?太陽の光のある所では活動できまい」 「そう考えた時期もありましたが、華月様が完全復活され、私と貴方の細胞で産み出された冬華にも恵まれ満足しております。不便な事もありますがヴァンパイア・ウィザードというのも悪くありません七大魔女に匹敵する魔法力を身に着けたのですから。何れ太陽も克服して見せますよ」 「そうか、それならいい」 「この身滅びる時まで華月様に仕えますとも。リティーシャ・ヴァン・ヴァスベルゲは警戒いたします」 *** 「グレイビーストには逃げられました……申し訳ございません」 タブレットの通話で金熊童子は茨木童子に報告する。大通りから外れた裏通り、一般人が足を踏み入れないシャッターの閉まっている薄暗い通りの一室。 「被害は少なく無かったですが……敵はこちらの予想を上回っていたのです次で仕留めましょうデータは取れました」 「茨木、そのことで社長に話があるのですけど……会えませんか?」 「??珍しいですね、金熊、貴女が社長に会いたいだなんて」 「グレイビーストの事はデータだけでは伝えきれません」 「そうですか、社長には伝えておきます折り返し連絡いたしますので貴女は次の作戦の準備をお願いしますね」 「了解」 タブレットを置く金熊童子。その横には神名L咲夜が立っている。 「ふふふ、貴女は既に灰色の軍勢。何の抵抗もできないでしょう?世界が灰色に染まったのならどんなに素晴らしいか理解出来るでしょう?」 「お前に……など……」 「自我が残ってるなんて……苦しいだけですよ?ぬうりひょんのように受け入れては?ぬうりひょん、金熊と一緒に行動してください。酒呑童子を始末するのです」 「へへ、成功するかどうか怪しいが……まぁやってやるよ」 襤褸切れを纏った獣顔のぬうりひょんの横には濁った瞳の金熊童子。 「……(クソ……体がいうことをきかない)」 「頭では理解していても抗えない、いっそ狂ってしまえば楽になるのにと考えていますね金熊童子?」 「(反吐が出る……)」 灰色の髪をなびかせながら金熊童子に近づいて囁く咲夜。 「殺せ……」 「ダメですね。正気を保ったまま貴女は操り人形として利用し尽くして捨てることにします。尊厳も何もかも踏みにじってやりますよ。私は鬼が嫌いなんです」 咲夜は右手を獣に変化させ金熊童子の腹に指を突き刺す。 「ぐふっ……」 「呪(しゅ)を仕込んでおきます。酒呑童子暗殺が失敗してもその場で爆発四散するようにね……アハハハハハハッ!アハハハハハハハハハッ!!」 「えげつないねぇ~……」 ぬうりひょんはそりの少ない特殊合金刀を杖のようについて呟いた。 「何を言うのです?妖の方が酷いでしょう?私はエクレシア所属時代世界中で見てきましたよ。人間も同じくらい酷いのですが、なので村自体を消したこともありましたね」 「……お前さんが一番のバケモノだよ」 「いやいやいや、私は世界平和の為に一生懸命活動していただけです。村が消えたことにより自然は戻っていき動物たちも追われることはなくなったのです」 咲夜はとある赤道に近い村での事を思い出していた。 「話はもういいでしょう、ふたりとも早く行きなさい」 咲夜は扉を開けて通りへと姿を消した。 *** 咲夜の式神アンドロイド梨花の運転でぬうりひょんと金熊童子は桂駅前のビルに到着。 襤褸切れをビジネススーツに変化させ顔は人間の中年男に変えるぬうりひょん。後部座席から降りる派手なレディースジャケットを羽織った金熊童子。 二人はビルの正面口を通り抜け噴水のある中庭に出た。奥のカフェの椅子には星熊童子が座っていた。 「星熊、社長は?」 「すぐに来るさ」 「うっ……」「こ、これは……」 眩暈を起こすぬうりひょんと金熊童子。 「しまった……罠……か……あの噴水の水全て……妖酒だ……」 「社長の……酒……」 慌てて振り返るぬうりひょん、中庭全体に分厚い壁の結界が施されていた。 「すまぬ金熊……こうするしかないのだ」 結界を張ったのは熊童子・大熊我們。 「せめて苦しまずに……酔いながら逝くがよい」 「ありがとう……ございます……社長……皆……」 倒れる金熊童子。眠るように息を引き取るとどす黒い波動が体から迸った。 「喝ーっ!!」 大熊我們の術が発動。結界の立方体に包まれる金熊童子の体。どす黒い波動は閉じ込められる。その横では刀を杖代わりして立つ呼吸困難状態のぬうりひょん。 「ぜぇぜぇ……全て承知の上か……罠にかけられたのはこっちだったってか」 「金熊童子の事は残念だった。社長も心を痛めてる。ぬうりひょん、お前は既に灰色の軍勢に成ってしまっている。慈悲はねえぞ」 噴水から酒が飛び出し人型に代わる。 「よぉーぬうりひょん」 酒で出来た酒呑童子仙丈隼磨の分身が言った。 「酒呑童子……」 刀を構えるぬうりひょん。 「お前は自分の仕事をしただけだよなぁ?何も悪くねぇ……」 「あ、ああ……そうだ」 「ただ運が悪かっただけだ」 「そ、そうかもしれねぇ」 一言一言発する度に体が重くなり全身が痛み出すぬうりひょん。 「だが……ケジメってのはとらなきゃならねえよな?失敗はしかたねぇ挽回すりゃあいい。しかし裏切りってのは許されねぇんだ」 「う、裏切ったんじゃない。どうしようもなかったんだ!【スレートグレイパワー】」 スレートグレイパワーを絞り出すように発動し斬りつけるぬうりひょん。刀は酒しぶきを上げ通り抜けただけであった。 「なあに安心しろ。酒になるだけだ、役に立てるぞ?まぁー酒に変わる間地獄の苦しみを味わう事になるがな」 ぬうりひょんの全身を酒が包み込む。 「ガボボボボボボ……」 ぬうりひょんの全身を、内外両方から溶かしていく。 「ゴボボボボボボボ……」 骨まで溶かし尽くされ酒となったぬうりひょんは空中にとどまり星熊童子の用意した酒樽に吸い込まれるように入っていった。 「後は任せるぞ」 酒呑童子の分身は噴水へと消える。同時に酒は全て水に戻り中庭全体を覆っていた酒気も消滅する。 結界が解除される。星熊童子は酒樽を回収、熊童子と共に裏口から立ち去る。中庭は何も無かったかのように日常に戻っていった。 *** ―翌日 退院したヴァルキリーの四人、燿子、萌絵、舞子、妃羅莉と美古都と壁山。 「マネージャーが迎えの車に美古都と壁山君も乗せてくれるように頼んだから」 舞子は携帯を操作しながら言った。 「センジョーでヴァルキリーの次の仕事の打ち合わせがあるの。二人はセンジョーから出てる送迎バスに乗って駅まで行くか、遊んでいくか寮に帰るか好きにしたらいいから」 「私は……一度寮に戻ってまたセンジョーに来ます!そしてセンジョーのホテルに泊まります!!」 美古都は力強く言った。 「俺は……家に戻るよ。何かあったら呼んでくれ、力になる」 壁山は少しだけ照れながら言った。 「マネージャー忙しいのにスケジュール調整してくれてはったんやね」 「この前の~アクション動画撮影の事とか?じっとしてたから動きたいなぁ~」 「あー早くセンジョーのパフェ食べたい~」 燿子は扇子を広げ、萌絵は自撮り、妃羅莉はセンジョーのクーポン券を見ている。 「気になるのは……烏天狗らがあれから姿を見せなくなった事ですね」 「梅小路公園でドンパチやりあったとか~?見たかったなぁ~」 「梅小路公園て言えば最近来てるキッチンカーのハンバーガー美味しいんだよねー」 「ちょっと!みんなマネージャーからのメッセ見て!」 グループ宛に送信された動画の添付ファイル。そこには梅小路公園の闘争が映っていた。 動画を覗き込む美古都と壁山。マネージャーの茨木童子・真柴樹里が来るまで六人は動画を繰り返し見ていた。 「これ途中で終わってるの惜しいよねぇ~」 萌絵は体をくねらせて言った。 「この後気になるねー」「確かに」 「車が来たわよ」 ワゴン車に乗り込む六人。 続く
Dec 15, 2021
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VAMPIREEYE120「センジョーVSグレイビースト」 「咲夜さま、完璧です」 ペディキュアの仕上がりをチェックしていた梨花が言った。これはただの塗りではない、咲夜の力に反応し呪(しゅ)を高めるものである。禹歩(うほ)と呼ばれる呪法に用いる舞踏の足使い。それを普段の歩法に変換する為の術式を仕込んだ塗料であった。 ベッドから飛び降りる咲夜。直立不動から流れるように足を踏み出す。緩急織り交ぜ見る者を圧倒する禹歩を踏む。ペディキュアは輝きゆっくりと光は消えていく。 「お見事な禹歩でございます。ペディキュアに仕込まれました」 「さて、今日はもう休むわね梨花。明日はセンジョーに乗り込むのだから」 「はい、おやすみなさい咲夜さま」 *** 咲夜の泊まっているホテルの一般客は既におらず、今や連合の息のかかったならず者(半妖サイバネ者)や傭兵(裏社会の半妖)で埋め尽くされていた。彼らは脳に小型爆弾のチップを埋め込まれ逃亡や裏切りは処刑される存在。 ぬうりひょんを討たれたセンジョーはすでに次の手を打っていた。 「全員配置につきました」 プラズマライフルを構えた男が専用の無線で話す。 『0:00丁度に開始だ』 そう言ったのは全身を神名製のパワースーツに身を包んだ金熊童子・金河潤美。 このホテルはセンジョーの系列会社であり、従業員はすべて連合の者。圧倒的な連携力と行動の速さ。長門顕彰が消えた事によってエクレシアの力は弱まり、連合は動きやすくなっていた。 一斉退去を命じられて出た客の中にはTMIのイグネイシャス・ファイマンが居た。 「映画の撮影が始まるからっていきなり夜に出て行けってなぁ……代わりのホテル用意してくれたけど何か妙だ」 ボストンバッグを手にしたイグネイシャスはタクシーを呼んで乗り込んだ。 「まーいっか……亀ちゃんに話聞きに行く所だったし」 イグネイシャスは『亀姫』と表示された連絡先にメッセージを送る。 タクシーは交通量の多い大通りに入って行った。 仙丈隼磨はその昔センジョーを立ち上げる前、徹底的に京都の人間裏社会組織を叩いた。人間には真似のできない方法で関係者家族老若男女全てを始末した。有無を言わさず取引も無く害虫を駆除するかのように一人残らず。逃げた者は何処に居ても探し出し、かくまった者も知る者も人間は全て消した。大した騒ぎにならなかったのは、代わりに連合の妖を人間になりすませたからである。周囲から運よく生き延びたとされる者は実は全てセンジョーの息のかかった妖たちのなりすまし。そしてその事を探る者や反抗的な半妖には脳にチップを埋め込んで監視した。当時の警察に捕まるのは既に入れ替わったなりすましのセンジョーの息のかかった妖たち。前に逮捕され塀の中に居る裏社会の者達は事故や病気を装って全て塀の中で始末した。 エクレシアが気付き動き出した時には全てが終わっていた。連合は強引な勧誘をしない代わりに所属しない妖らを突き放し、人間になりすましての社会の居場所も仕事も得られないようにした。結果犯罪に走りエクレシアに処される。 徐々に街でセンジョーに歯向かう妖はいなくなり、裏社会から完全に人間は排除され京都の裏社会組織はサイバネ者のSSSのみとなっていた。それも都合よく利用する為に存在しているに過ぎない。 仙丈隼磨はセンジョーを立ち上げた後は表人間社会に進出。完全に溶け込み、やり手の青年実業家となっていた。次の知事候補で当選確実と言われている。 突如現れた灰色の軍勢は目障りだった。 むやみやたらと武力を使うのではなく、首謀者を探し出し始末することに決めた。 博打は打たずに一手ずつ確かめながら策を講じた。 神名L咲夜を追い詰めるべく、仙丈隼磨は包囲網を敷いた。 仙丈隼磨の敷いた包囲網は想定できるほぼ完璧なもので相手が【グレイビースト】で無ければ王手をかけていた状態であった。 ―失敗すれば後が無い。 そう言った心配は無用であった。作戦の失敗をも視野に入れて動いている。 仙丈隼磨=酒呑童子は、源頼光一党に敗北してから慢心や驕りといったものを捨て、予言めいた未来予測にて行動していた。 条件さえ整えれば望む未来をつかみ取ることが出来る。未来を確定することは困難だが最悪の未来は避けることが出来る。勝てる確証はないが負ける事はない。 仙丈隼磨は今世に転生してまずこの能力に気が付いた。源頼光一党に首を切られる前は、無かった能力。これまでの業を悔いた自分、次こそは失敗しないと誓った自分、様々な思いが交差し転生した時、能力を身に着けていた。 「作戦開始まで5、4、3、2、1、作戦開始」 仙丈隼磨から作戦指揮を任された金熊童子・金河潤美が通信で告げる。ホテルに配置されたセンジョーの戦闘員が一斉に動き出す。フロアー上下エレベーターシャフトに屋上は封鎖、外壁は戦闘ステルスドローン。咲夜のスイートルームからはアリ一匹も逃さない構えであった。 「……」 咲夜は気配を察知する。梨花はスリープモードから覚醒。 「咲夜さま」「敵ね」 スイートルームの扉が開いたと同時にゴロゴロと突起物の付いたボールが複数投げ込まれる。神名製のプラズマスタングレネード。 青緑の爆光を放ちスイートルームを包み込む。音と光だけでなく強烈な電場を発生させ機械類にもダメージを与えるグレネード。咲夜は吹き飛ばされ、梨花は体の制御を失いそのまま壁に激突後沈黙。 続いてレールガンを構えたアーマー兵が突入。特殊なサイバーゴーグルを装着したアーマー兵は光と煙の中、咲夜を見つけレールガンを一斉掃射。厚さ1mのコンクリートを軽々と貫通する弾丸が次々と放たれ咲夜に命中。通常の人体なら一撃で爆散する威力を持っていたが咲夜は鮮血を飛び散らせるのみであった。 「撃て撃て!効いてるぞ!!」 「グラアアアアアアッ!!」 咆哮をあげ前方回転跳躍する咲夜。一瞬で全身にダークグレイの体毛が生え回転しながら鋭い体毛針を連続発射、レールガン兵達に襲い掛かった。 「ガアッ……」「ぐふ………」 アサルトライフルを防弾する装甲を咲夜の体毛針は容易く貫いた。 「何っ!?」「ひるむな!!」 負傷したレールガン兵たちを退かせ、前に出る盾を構えたレーザー銃兵達。手にしている高密度のシャワー状のレーザー銃を構える。しかしトリガーを引くよりも速く、咲夜の咆哮が襲い掛かった。 「グガアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」 空気を引き裂き劈く轟音は兵士らの生身にダメージを与えた。ヘルメットの中で目鼻口耳から血を噴き出して膝から崩れ落ちる。呪(しゅ)を乗せた破壊の咆哮は恐怖と爆音の衝撃で体を硬直させ無防備な内蔵に呪(しゅ)を叩き込む。強力な耐性や術を持つ者でなければ防ぐことは不可能。 「ガアアアアウッ!!」 残る目の前の六人のアーマー兵を爪と尻尾で引き裂きながら廊下に出る咲夜。そこには冷凍放射兵が三人構えていた。 「は、速いっ!」「撃て!!」 冷凍放射で咲夜の足元の床が凍結する。足の凍結が始まるよりも速く咲夜は跳躍、天井に爪を突き刺しスイング、尻尾で冷凍兵の首を撥ね飛ばした。 「グルルルルルル……」 咲夜は非常階段から屋上に出る。そこには金熊童子率いるアーマー兵はプラズマライフルなどの銃火器を構えていた。 「グルルルルル……高火力の銃火器を使い数で押す。成程理にかなった戦術ですね」 「もう逃げ場はないぞグレイビースト」 「それはどうですかね?捨て身になってかかって来るのならどうぞ。皆殺しにしてしまうかも」 「ここでお前を仕留めれば新たな犠牲者も出ずに済む。その為にここにいる全員が決死の覚悟で挑んでいる」 「はは~ん……決死の覚悟ですか。流石に私も無傷では済みそうにないですね」 邪悪な笑みを浮かべる咲夜。 右手の指をスナップさせて鳴らすと先ほど蹴散らしたアーマー兵が屍人兵となって屋上に上がって来る。 「さてどうします?」 「……貴様」 金熊童子はアーマーヘルメットの中で歯を食いしばる。 「私を相手にするという事は灰色の軍勢を相手にするという事。そしてそれは私さえいればいくらでも兵を増やせるという事。更に更に」 『スレートグレイパワー』 咲夜の背後からくすんだ藍灰色の襤褸切れを纏った男が現れた。 「さぁぬうりひょん、最強とやらを見せてください」 「アア、とても気分がいい……やってやるさ」 襤褸切れのフードからイタチのような獣の顔を覗かせるぬうりひょん。 「ぬうりひょん!貴方は連合を裏切ったのですか!!」 「ハハ、ちげーよ。だがこれはどうにもならない。グレイビーストの灰色獣の力で絶対支配されてる。ここにいる俺は前の俺とは違う、グレイビーストによって生み出された獣の一体なのさ金熊」 「それならば、グレイビーストを斃せば支配から解き放たれるという事!」 腕を前に突き出して合図する金熊童子。プラズマライフルの一斉掃射、青白い閃光が迸り、咲夜に命中。 「何だ?何かおかしい……」 プラズマ弾は咲夜に命中しているものの。表面を滑り弾いている。先ほどまで咲夜の全身を包んでいたダークグレイの体毛はアルマジロめいた鱗に変化、鏡面構造の全身はプラズマを弾く事になった。 「それならっ!近接装備で!!」 金熊童子の兵全員が超合金バトンやミニチェンソー、パイルバンカーを構える。 「アハハハハハ……いいですね!ですが、私一人に集中しても大丈夫なのですか?ぬうりひょんや屍人は待ってくれませんが?」 咲夜の後ろに控えていたぬうりひょん、屍人が一斉に突進を開始。 「私を包囲していい気になっていたようですが、罠にかかったのはそちらですよ金熊童子。本当はもっと連れてくると思ったのですが」 咲夜は獣の手で印を結んだ。 「急急如律令!」 ホテル建物全体が黒い波動に飲み込まれる。包み込まれた内部の空間は新月の夜のような闇に包まれた。 「私がただの暴力を振るう獣だと?そう考えていたのならあまりにも浅慮。最強最高の陰陽師にして道摩法師でもあるこの私が、この私が妖などに負けるはずがないでしょう!」 「体が重い……熱い……」 「アハハハ!この暗黒の帳は全ての魔力を持つ者に影響する。息をするだけでも毒。殺虫剤で満たした箱で、もがき苦しむ虫のように、のたうち回りなさい」 「ぐ……う……」 次々と倒れ伏す金熊の兵たち。 「この中では光伝送通信すらできませんよ?詰みましたね?体は動かない助けは来ない、残された道は虫のように死ぬか、灰色の軍勢になるかです」 「誰が……貴様などに……」 膝を突きながら睨みつける金熊童子。 「いいですねその反応!エクレシアの源藤高雅も同じような反応でしたよ。でも結局はグレイパワーに支配されたのです!」 ゆっくりと近づき頭を踏みつける咲夜。 「ただ支配するだけでは面白みがない、ですので……」 咲夜は乱杭歯を覗かせて笑みを浮かべた。 *** ファストフード店 冥珂は昔話を二郎に聞かせ、二郎は相槌を打ちながら真剣に聞いていた。 その後話題は現在の京都と二郎自身の事に。 「フゥー」と大きく煙草の煙を噴き出した後、窓の外を眺める冥珂。 「あの立花さん?」 目の前の二郎が言った。 「ん?どないしたん?話は聞いとったよ」 「いえ、何か辛そうでしたので」 「なんでもないよ、ちょっと昔の事思い出しただけ。君の話に戻ろっか……」 「はい」 「君は色んな者に関わってかなりややこしい事になってるね。せやけど目的はシンプルや。好きな子と家族を守りたい」 「そ、そうです」 「君の守りたい子のお母さん。その人にアタシが会うのはかなり難しいね。でも……アタシの弟子ならいけると思うねん」 「はぁ……」 「というのも、アタシの弟子は君のいう『教会』って組織の人間と知り合いなんよ」 「そうなんですか!」 「弟子の電話番号教えとくわ。今は東京におるけど近いうちに京都に来るんよ……そいつの名前はね……リティーシャ・ヴァン・ヴァスベルゲ」 冥珂はメモと弐千円札を置くと煙草を消して立ち上がった。 「じゃあね少年、後はそいつと話してな」 「あ、ちょっと立花さん」 冥珂は振り返らずに手を振ってその後、煙のように姿を消した。 二郎はすぐに立ち上がって周囲を観察。特殊レンズで見てみたが何の痕跡もなかった。 「とりあえず……メモは貰ったし勝田さん達の所に戻ろうかな」 二郎は念のためにメモを携帯の写真で取り、メモはボタンの付いたポケットにしまった。 大通りに出てタクシーを携帯で呼び、シェルターに向かう。 ―都メタル 二郎がシェルターに戻るとラウンジには黒谷ジークベルト、勝田波留夫、自動人形の茉白、サイボーグ吸血鬼の冬華、そのマスターの谷川克政が待機していた。 「よくやった二郎君!まさか魔女に会えるとはね!!それで話はどうなった?」 「それが……」 メモを勝田に渡す。 「ふぅん?電話番号?」 「魔女立花さんのお弟子さんの番号とか名前はえっと……」 「えー……じゃあこの番号がリティーシャ・ヴァン・ヴァスベルゲの連絡先ねぇ」 「??」 全員が勝田に視線を向ける。 「あーーー……その、なんだ、リティーシャ・ヴァン・ヴァスベルゲってのは僕と同じジーニアスレイジのメンバーでね。七大魔女レヴィ(立花冥珂)の弟子なんだよ」 「立花さんはそのお弟子さんに全て任せればいいとか」 「なるほどねぇ……リティーシャ・ヴァン・ヴァスベルゲがいれば碁盤の目町を攻略できるだろうね……師匠のいう事は聞くだろうから必ず来てくれるよ」 「どんな人物なのですか?」 黒谷が言った。 「黒谷氏と似た性質を持つ吸血鬼であり魔術と科学を合わせて使いこなすエンジニアであり魔術師の女さ。実際には会ったことが無いんだけどね」 ホログラムを出現させる勝田。フードにガスマスク姿の小柄な女性。 「素顔は親しい者にしか見せないそうだよ。問題は……彼女が極度の男性嫌いな所でね……普通の会話すら拒否するほどだ。だからここに来た際には水元か冬華ちゃんに案内お願いすることになるね」 「癖の強そうな人ですね」 「根は善良だと思うから扱いさえ注意すれば大丈夫なはず。それじゃまぁ……早速連絡を取ってみようか……二郎君、キミがかけるかい?」 「はい、俺が立花さんに紹介されたのでそうします」 続く
Dec 11, 2021
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VAMPIREEYE119「二郎と占い師」 ―1日前 碁盤の目町中央塔 壁一面に取り付けられた無数のモニター。葛野忍は黒谷月の姿を探していた。 「んん……?」 明命館高校の映像を確認中、二郎の姿に目が止まった。 「この少年は木城二郎……何だ右腕が何か気になる……無視していいものではないと小生は感じる……」 二郎の画像を拡大する。 「……ただの偶然とは思うが」 そして画像を切り抜き空中で葛野忍が所有する純白の左腕の画像を横に並べる。 「……似すぎている」 二郎の右腕義手の画像と葛野忍の純白左腕は左右と色を反転させたかのように瓜二つであった。 「サイバネアームが偶然似ていただけに過ぎないとは思うが……何か気になる」 二郎の過去の画像を浮かび上がらせる葛野忍。 「半年前、まだ右腕は生身……いつからあの少年はあの腕を……」 塔のスーパーコンピューターに検索をかけさせる。 「これは……小生が鍵(左腕)の封印を解いた日と同じ……」 ―現在 「確信めいた予感がする。あの少年の右腕とこの左腕を近づけてはならないと」 葛野忍は順調だった計画に僅かな不安要素を見つけた事に苛立ちを覚える。 「今すぐあの少年を始末するか……いや、少年を始末した事であの右腕が他の者に移る可能性も無いとは言えない。それに昨日調べた限りあの少年を取り巻く環境は複雑。何か予想だにしない事態を引き起こすかもしれん。今は計画を進める事こそが最優先、監視は続けなければならないが」 結界の中で浮いている純白の左腕を眺める葛野忍。 「鍵に必要な力はあと少しで溜まる。邪魔な妖、人間どもを始末し、ようやくここまで来たのだ【彼ら】もその日の為にグレイマンを用意した」 「忍様」 部屋の隅から染み出るように現れた長身の男。 「怨京鬼、何事です?」 「白峰雪名がまた……」 「ふん、あの女も何かを感じ動かずにはいられないのか。良いでしょうすぐに行きます」 葛野忍と長身の男は扉の無い部屋から壁をすり抜けるようにして出ていく。 *** 二郎は時々特殊サングラスをかけて周囲を観察しながら義手の反応にも気を付けて探索を続ける。 「う~ん……こんなんで見つかるのかな不安だ」 碁盤の目町突入作戦まであと三日弱。 吹雪を白峰家を守ると誓った二郎。どうすれば守れるのか危機は去るのかずっと考えていた。いつの間にか事件に巻き込まれ変わっていく状況。 「グレイマンと宇宙からの侵略者……エクレシア(教会)とグレイマンは協力関係にあることは解ったんだけど……そんなのから吹雪さんたちを守り切れるだろうか」 華月の強さや、その周囲の者達の優秀さは二郎も驚くばかりであったがそれでも不安はぬぐえない。本当に義手さえ完成させれば好転するのかも解らない。 二郎は携帯でMAPを見ながら探索を続ける。近代的な地区を抜け旧時代の建物が多く残る住宅街へと足を踏み入れる。 「なんか落ち着くなぁこの辺」 観光客向けに外見的には昔ながらの建築様式を思わせその実ハイテクな市街地とは違い昔からの建物が残っている地区はドローンも少なくパトロールロボドッグも見かけない。 二郎は公園に入り一番高い遊具に上って特殊サングラスをかけてみる。住宅街の中にほんの少し光っている建物を見つけた。 「ここからだと結構遠いな……迷わないようにしないと」 二郎は携帯で地図を見ながら光っている建物を目指す。入り組んだ路地を通り周囲の住民に聞きながら進み屋根のある通りを抜けた先に目的の建物はあった。 「銀色の……猫……か?」 猫と呼ぶには少し違和感があった。横にある電動自転車と大きさがほぼ変わらない。 「デカすぎる……でもそんな猛獣がこんなところにいるはずないし」 特殊サングラスをかけてみる二郎。 三階建ての古いビルはうっすらと光っていた。気が付くと巨大な猫は消えていた。 「何だったんだろう?」 建物に近づく二郎。特殊サングラスをかけて再度見てみるが今度は何も変化は起きない。 「あれ?光ってない……なんでだろう」 建物の周囲を探索する二郎。 「(何か手がかりになりそうだったのにな。魔女のタチバナメイカさんと関係してるかもと思ったけど)」 他にあてはない。とりあえず二郎はこの場所を携帯でマーキングして周囲を更に探索する。二郎は先ほどとは違い人通りがほとんどない事に気が付いた。 「わからないけど何かありそうなのに」 二郎はいったん離れて建物を特殊サングラスで見てみる。するとほんのりと光っている。 「うーん……やっぱりあの建物何かある」 再び建物に接近し義手で触れてみようと考えた時、ビルのシャッターが空いた。 一瞬身構えたが、出てきたのは髪にメッシュを入れた派手なメイクのスタイルの良い女性だった。革のジャケットにタイトなボトム、ヒールの高いブーツを履いていて。アクセサリーは多かった。 「(あ、ここのお店の人?かな)」 「こんにちは、ここで何してるの?」 二郎の右腕義手に一瞬視線を向けた女性。 「この辺ウロウロしてたみたいやけどどうしたん?迷った?」 「いえ、人を探してまして……タチバナメイカさんて人に会いたくて」 二郎は正直に言ってみた。この人が探している魔女の関係者なら嘘をついて後々問題になる事は避けたかった。 「へぇ……その人この辺にいるの?」 驚くほど姿勢が良く通る声。目を合わせられると見透かされてる気がした。 「それがハッキリしなくて……この辺にいるってのは聞いたんですけど」 「ふ~ん……誰に聞いたん?」 女性は煙草に火をつけ指輪の宝石を気にしている様子だった。二郎の義手が少し反応した。 「それは教えることはできないんです、名前も知らない者で……でも信用はできるんです。その者のいう事に従わなければいけないって……すみません意味わからないですよね」 実際黒い影の男達は名前も知らなかったし、勝田の事はうかつに名前を出さない方がいいと考えた。 「うーん……」 考えている女性。二郎の義手は反応し僅かに振動している。 「(この人もただの女性じゃない……勝田さんに相談して出直そうかな)」 頭を下げ「すみません」と立ち去ろうとする二郎。それに対し女性は、 「ちょい待ち」 「はい?」 「アタシ占い師やねん。せやからそのタチバナメイカさんの居場所占ってあげるわ。キャンペーン中で先着3名様無料や。君が3人目よ」 女性はシャッターを開けて店から小さなテーブルと折り畳み椅子を出した。 「さ、座って」 「はい……」 女性はタロットを使って占いを始める。 少し話をした後、二郎と占い師の女性は近くのファストフード店に移動する。 その様子を離れて眺めている男。葛野忍の部下であった。二郎に気付かれず追跡していたのであった。 「コルルルルルル……」 獣唸り声が聞こえたかと思うと突如眠気に襲われ気を失った。気が付くと全裸で路地のボミ捨て場に転がっていた。 「俺は一体……ここはどこだ?」 フラフラと歩きはじめる男。自身が全裸だと気付かずに通りに出たところでパトロールロボドッグに見つかり逮捕となった。 ファストフード店で注文をする二郎と占い師。 「あの……何とお呼びしたら」 「ああ、アタシは立花冥珂。アンタの探してる者やっちゅうことや」 「えっ……!?」 「ゴメンゴメン、騙すつもり無かったんやけどこの街はけったいな連中が多いし用心に越したことはないからねぇ」 パトカーのサイレンが外から聞こえる。 「あっちの壁際の席いこか喫煙席やけど匂い大丈夫?」 「大丈夫です、父も吸っていたので」 「さて……アタシに会いたかった理由とアタシの事教えた連中は気になるけど、アンタもアタシが本当に本物の立花冥珂か気になるやろ?」 「その……」 「ええよええよ、質問に答えてくれるだけで。嘘ついてるかどうかはアタシ解るしねぇ」 二郎は言葉の一つ一つが頭に響くようだった。会話のノリは昔ながらの大阪の女性ではあったが、仕草も姿勢もまるで隙が無いように感じた。 「(義手がずっと反応している……これは立花さんが常に何かしているって事なのか?)」 「その腕、見たことないもんやわ。アンタが純朴な少年やなかったら義手が勝手に反応してるって思わんと対処してたところやな」 「す、すみません。この所制御できない時がありまして……」 「で、その腕の事でアタシを探してたん?」 「いえ、実は……」 二郎は出来るだけ人物の名前を出さずに自分の起きている状況、何が目的で立花冥珂を探していたかを丁寧に話した。 「ははぁ~そういうことねー……大体解ったわ。やっぱり虹色のほうき星の暗示はそういう事かぁ」 魔女は煙草に火をつけて煙をゆっくりと吐き出す。煙はネコの形になりテーブルで耳をかいた。 「こんなマジックみたいなんで信用はできひんやろうけど……」 「俺には十分スゴイ魔法に見えますけど」 「ふふふ……アタシが悪い魔女やったらどうする?」 「悪い魔女さんならこの店には来ないと思います」 「……アハハ、そうかもねぇ。アンタをつけとった男は知ってる?ウロチョロしとったから記憶消してほっぽり出してやったけど。ほれ、こんなん持っとったで」 冥珂はテーブルの上に壊れたイヤホン、破れた呪符を置いた。彼女の左手にはいつの間にかタロットカードが一枚出現していた。 「付けられてたんですね俺……(エクレシアの仕業かな)」 「商店街とその周辺はアタシの領域にしてあるし変なんきたら一発でわかるで。面倒やけどまぁまぁ穏便に出てってもらってる」 「この辺に妖の気配がないのもサイバネ者を全く見ないのも立花さんの影響ですか?」 「まぁそうかな。ごく自然に拒絶する形で近寄らせへん方法やね。でも完全に隠れてるわけでもないねん、一般の無害な人らとはアタシは占いのおばちゃんとして近所付き合いしてるんやで」 「おまたせしましたー」 店員がハンバーガーセットを二つ運んでくる。「ごゆっくりー」笑顔でトレーを置いて去っていく。 「あの子はマチコちゃん、サイバネDV彼氏に付きまとわれて泣いてたからちょちょいと二人に暗示をかけて別れさせた。男は警察に自首させてマチコちゃんの傷は治してあげた」 「へぇ……」 「あっちに居るタブレット触ってる眼鏡のおっちゃんはタクヤくん。失業のショックからアル中になって家族を困らせてたからアルコールを飲みたく無くしてあげた。仕事も見つかったみたいやね」 「はぁ……」 「そっちのすみっこの男の子は窃盗団のメンバーに……っと話が脱線したね。まぁまぁこんな感じでお節介焼きながら調査を兼ねてこの街に滞在してるんやけども」 「あの、立花さん。厄介な事をお願いしてすみません……」 「フフッでも例の女の子と家族どうしても助けたいやろ?」 「はい、でも頼むだけなんて虫の良い話……何か俺にできる事があればいいのですが」 「良い子やねぇ、そしたらお代変わりにアタシの話聞いてくれる?ちょっと長くなるけど」 冥珂は自分の過去を語り始めた。 *** 葛野忍は神名L咲夜と紙人型で連絡を取っていた。 「咲夜、あの少年の右腕の事、小生に黙っていましたね?」 「ああ~……あの腕。面白いでしょう?でもそれが何です?貴方には関係ないのでは?」 咲夜はベッドで黒いペディキュアを塗りながら言った。式神の梨花が塗りを確認する。 「しらばっくれるのはおよしなさい。あの右手は小生の所持する鍵の左腕にあまりに似すぎています。まるで鏡映し、白と黒の陰陽、対となる存在なのではと考えています」 「グレイマンにとって鍵は重要ではないのですよ。それと対になる腕が存在しててもそれが何だというのです?しょせんはこの惑星の都合ですよね?」 「重要でしょう、鍵の腕で門を開き【あの者達】を呼び込むのですから」 「鍵で開く門、そんなものはただの抜け道ですよ。過去にアレイスター・クロウリーがプラチナキーで開いた時、彼らは最終実験をしました。それまではグレイマンを使い、アバターを通じてしか調査活動してなかった彼らはついにこの惑星を開拓する価値があると判断し本格的に乗り出したのです。だから抜け道など必要ありません。直接来る事になれば少し時間が伸びるだけですよ」 「な……んだと?必要ない……!?」 「残念でしたね元師匠。門を使いこなし彼らとの交渉材料に使おうと考えていました?」 「咲夜……貴女は……!」 「あら、怒りました?少しキツイ言い方をしましたね。でも元師匠、安心していいですよ、貴方はグレイマンに任命されるでしょう、丁度グレイマンは今空席がありますしね」 「―それはいい事を聞きました。それならば貴女を始末して小生がグレイマンに成る事も可能なのでは?」 「あはははははは……!それは無駄な事ですよ。どの道グレイマン同士はこの惑星の支配権領域を巡って争うのですからここで私と貴方が争う意味はありませんよ。やりたければその時にしません?」 「……ふむ、ここで貴女を潰すより、同等の立場になった後叩きのめす方が楽しそうですね。ところでこの場に長門顕彰がいて聞いていればどうなっていたと思います?」 「それは愚問ですよ。どのような反応をするかは明白、言いたいように言わせておくだけです。ああいった輩はグレイマンに向かないのでいずれ【彼ら】が始末するでしょうしね。黒谷月にやられてなかったとしても先はないですよ。元師匠もどこかで長門顕彰を始末する算段を立てていたのでしょう?」 「流石は元弟子、小生の事を解っていますねぇ。何の為に碁盤の目町に小生がいるのか本当の目的を長門顕彰は知らないままです。その昔、白峰華月を葬ったあの時から小生は備えているのです」 「備え……白峰華月が討った九尾の骸……ですよね?」 「一度アレを見せただけで理解できてしまうとは、優秀ですね元弟子。優秀過ぎるほどですよ。才のある者でも十年かかるものを貴女はたった1ヶ月で出来るようになってしまった。小生が嫉妬するほどの逸材でしたよ貴女は」 「誉めるなどらしくないですね」 「誇らしいのですよ、物心つく頃から見ている者として」 「不意に見せる兄貴面、変わってませんね……でも、私にとっては神名の家の者よりは貴方の方が家族と言える存在だったでしょうね」 「ふふふ……」 人型が咲夜の横に移動する。 「九尾の骸を使って貴方は長門顕彰、白峰華月を超える存在へと成るその為に左腕と門が必要なんですね」 「門を開いた時に発生する虹色の光のエネルギーの研究はしてきましたからね」 「アレイスター・クロウリーの二の舞にならない事を祈りますよ」 「さて話を戻しますが、あの少年の右腕の事ですが……」 「分かりました部下には生け捕りにするようにいっておきますよ。【彼ら】が来た時調べてもらいましょう。そちらは大丈夫なんですか?白峰雪名の事は」 「ええ、説得して静かになりました。あと三日大人しくさせていればいいので」 「そうですか、それではまた」 人型は力を失いベッドから滑り落ちる。咲夜はそれを尾で突き刺して灰にした。薄ら笑みを浮かべる咲夜の口からは獣めいた伸びた牙が覗いていた。 続く
Dec 5, 2021
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