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VAMPIREEYE107「蔵と過去」 強烈な衝撃で脳が揺れたのが分かる。ただのHKFでは無い事が一瞬で理解できた。 「いつの間に……」 「とっくに始まってるんだよガキ!試合開始のゴングと俺の気配、消させてもらったぜ」 目の前に赤われるぬうりひょん、二郎を蹴りつける。だが二郎は右手の義手でしっかりとガードした。 「そうこなくっちゃな!すぐにノビてもらっちゃあ練習になんねえからよ!!」 ぬうりひょんの足が伸び関節が無いかのような動きを見せる。二郎はガードが間に合わず脇腹に蹴りを受けた。 「なんだ……この動き……」 「ヌハハハハハ!反撃して見ろよ!!」 殴りかかる二郎、目の前のぬうりひょんは消え背後からの肘をこめかみに受けた。 「ぐぅ……」 「どうしたどうした!」 連打を浴びせかけるぬうりひょん。二郎の目には変幻自在に曲がる蛇のような打撃。 「(動きが見えない……だけど……それほど重くない)」 「俺がドス持ってなくて良かったな?本当なら最初の一撃で死んでるぞ」 「……(確かにそうかもしれない。訓練だと思って油断していたのは俺だ)」 二郎は義手のパワーを解放する。HKFは瞬時に二郎の力を読み込みアバターに反映させる。二郎の右手から漆黒が広がって全身を包み込む。漆黒は硬質化し外骨格と変わる。 二郎は無意識に好きな漫画の主人公の姿を思い浮かべていた。 「ヌハハハ!いいじゃねえか!!来いやぁ!!」 体を沈み込んで突撃する二郎。HKFは二郎の思考そのままにアバターを動かす。左右の拳の連打からローキックを放つ。格闘技の経験のない二郎は恭一の動きを真似る。 「(恭一の動き、親父の動き、兄貴の動き、吹雪さんの動きを思い出せ)」 「いいぞ!もっとだ!」 二郎の攻撃は躱されぬうりひょんの打撃は命中。 「クソッ(化け猫のように速いわけじゃない、どうして当たらない)」 「ヌハハハハ!これが俺が最強たるゆえんよ!」 二郎の攻撃は一度も当たらず2分が経過。終了となった。 「はぁはぁはぁ……」 息を切らせ汗だくになってステージを降りる二郎。 「ほう……圧倒的差を見せつけられたてのに心は折れてないか」 星熊童子は腕を組んだまま二郎を見て言った。 「次は人造人間のお前だな。相手も巨漢の蟹坊主。コイツは勝つ相手には圧勝するが苦手な相手にはボロ負けする、だが休場するほどの怪我を負ったことがないタフな奴だ」 「やりまショウ」 赤い肌の髭面の男がモニターに映し出される。ステージに入りスキャンすると全身を棘状の殻に覆われた人型蟹に変形する。続いて須原がステージに。 「始め!」 ハサミ攻撃を仕掛ける蟹坊主。須原は腕を叩いて弾き、ストレートを打ち込んだ。仰け反る蟹坊主。須原は背後に回り腕と首の関節を極めた。 「人造人間やるな!蟹坊主はそういう攻撃に弱い!!」 須原を振りほどけない蟹坊主はそのまま締め落とされ泡を吹いて倒れた。 「さて最後は目つきの悪い小僧。相手は魔蟲属・蜂系の男、黄蜂業助。宇治市を根城としている魔蟲属の代表として闘技場に参加している」 「魔蟲属か……基本的に争いは好まないが縄張り仲間意識が強くそれらを守る為なら容赦をしない連中」 「その通り。黄蜂がここで戦うのは一族の金を稼ぐ為。『不器用な自分が出来る事はこんな程度』とな。一族の連中が得意としてる細工や工芸品は黄蜂は苦手だったそうだ」 モニターに黄蜂の姿が映し出される。無駄な贅肉を全てそぎ落としたかのような肉体、鋭い目つき。外骨格が徐々に形成され蜂人間の姿へと変化した。 蓮也と黄蜂は各ステージに上がる。 「準備はいいか?始め!」 開始と同時に構えたまま軽い動きでソロソロと接近する黄蜂。蓮也は半歩下がりカウンターを入れるタイミングを計る。それを察した黄蜂はそれ以上接近せずに様子見のジャブを打つ。届かない間合いと分かっていた蓮也はほんの僅か動き体の中心である正中線から打撃の軌道から外す。 「(妙な間合いだ……ステップも独特で間合いが掴みにくい)」 軽いステップで付かず離れずを続ける黄蜂。蓮也は相手の誘いに乗って迂闊な攻撃を仕掛けなようにじっと観察を続ける。 「シシッ!」 黄蜂の二連爪先蹴り。蓮也の股間と喉を狙って来る。蹴り足を下ろして構えをスイッチ、指を広げ顔を狙って右手を振る。蓮也は爪先蹴りを下がって回避、続いて放たれた指の攻撃は左手でガードした。 「(中国武術か?佐久間さんのCQCに似てもいる)」 近距離から離れようとする黄蜂に対し蓮也は下段蹴りから追い突き正拳、顔面を狙っての二連突き、膝蹴りのコンビネーション。黄蜂は肘と膝を使ってガードする。 「ほう、目つきの悪いガキは空手か。伝統系でありながらも下段蹴りあり、そしてコンビネーションはフルコンタクトを思わせる」 星熊童子は嬉しそうにモニターを眺める。 お互い有効打の無いまま2分が過ぎる。 「オマエ、やるな」 黄蜂が口を開いた。 「あんたもな、その武術はなんなんだ?」 「これも空手だ」 「そうか……それも空手か」 「オマエは試合に出ないのか?」 「そのつもりはない」 「そうなのか、また来るのか?」 「また来るかもしれない」 「楽しみにしているぞ」 人型に戻った黄蜂は嬉しそうにステージを降りてログアウトした。 「ハッハッハ!良いもの見せてもらったぜ!!よしよし、大体お前らがどんな奴か分かってきた、社長には俺から言っておく。今日はもう帰ってもいいぞ、闘技場の試合を見ていくも良し、上でセンジョーの施設で遊ぶも良しだ。ああそれと、ここの事は他言無用だが、闘技場に参加する意思があるなら俺に連絡しろ。これが番号だ」 星熊童子は名刺を渡す。 「どうする兄貴、須原さん?」 「俺はちょっと試合を見て行きたい」「自分は車に戻ります」 「そっかじゃあ俺は上の施設に寄ってくよ」 二郎は特別仕様HKFで疲れていたがTOYAと明珠香を探す為に施設に寄っていく事に。 「帰りはこっちのエレベーターだ、警備員が案内する」 エレベーターに乗り込む二郎と須原、到着すると駐車場の非常口の横に出た。エレベーターの扉が締められると見た目にはそこに何があるかなど疑いようがないコンクリート壁と同化した。 「兄貴大丈夫かな」 「蓮也サンなら平気でしょう。自分は車で待機していますので何かあればすぐに連絡を」 「分かりました」 二郎は休憩がてらTOYAと明珠香を探す為にセンジョーの施設に入る。施設の中の警備員の数はいつもの倍以上に増えていた。 フードコーナーのカウンターで乳酸菌ドリンクとエビホットドッグを受け取りHKFのモニターに視線を移す。 「あれ?HKF明後日に突然のアップデート!?サバイバルモード実装と一人用モードのストーリー更新に、アバターパーツ新たに追加……」 HKFの筐体の周りにいるプレイヤーからもどよめきが起こる。 「は?いきなりアプデ!?」「公式の告知突然すぎんよ!」「あーこれ開発は勧めてたっぽな噂されてたし」「うおおおお!追加パーツ50種類!!」「拙者対戦苦手なので一人用充実嬉しすぎぃ」「サバイバルモードなら俺にもワンチャンあるな!!」 「ん?TOYAがログインした」 TOYAはログインと同時に二郎にメッセを送ってきた。 『ジロウ、来週に用事でそちらに行くことになった。センジョーで会おうぜ』 「『分かった、時間は正午くらいでいいかな?』」 『10時に京都着だから大丈夫だ』 「『それまでできるだけHKF練習しておくよ』」 『おう!アプデ楽しみだな!じゃあまたな』 ログアウトするTOYA、二郎はHKFのアプデ情報をダウンロードして見ていく。 「サバイバルモードはバトルロイヤルにタワーディフェンスか。一人用モードには……異世界MAPと新たなストーリー。追加パーツはこの新MAPか対戦で得たポイントで交換……なるほど」 二郎は碁盤の目町攻略に生かせそうなサバイバルモードに注目する。 「これいいな、明後日までに吹雪さんと恭一が治ったら一緒にやりたいな」 「二郎」 後ろから声をかけたのは深緑のパーカーを来た明珠香だった。 「明珠香さん」 「もう堅苦しいな、明珠香でいいって」 フライドポテトを持った明珠香はカウンターの二郎の隣に着く。 「一人で来てるの?」 「兄貴と知り合いの須原さんって人と三人でだよ。二人はここにはいないけど」 「ふ~ん……あの色白の女の子とスポーツマンの男の子は?」 「具合が悪くて来れなかったんだ」 「あぁ~……猫田の時の。早くよくなるといいね」 「うん」 ゆっくりと乳酸菌ドリンクとエビドッグを口に運ぶ二郎。明珠香もポテトを口に運ぶ。 「あのさ、あたし来週に日本出る事になったんだ。予定決まったから来週まではゆっくりできるし時間はあるんだ……」 「そうなんだ、決まったんだね」 「帰って来るのはビザの切れる半年後かなー嫌になってそのまま日本にいるかもだけど」 「学校は行かないの?」 「う~ん……高校は今更行く気しないし大学受験目指すかな。それよりも働く方があたしには向いてるかもしれない」 「どんな仕事したいの?」 「デザイン系の仕事に就きたいかな。でもまぁそれが無理でも趣味でやりながら飲食店で働くとか。こう見えても料理は得意なんだよ小さい時からずっと作ってきたからね」 「明珠香……は、英語できるの?」 「上手くはないけど一応はね、家族にあっちの人もいるし。でも今時は自動翻訳イヤホンで大体いけるから二郎でも大丈夫かも」 「高いけどインプラントで同時翻訳機能もあるって聞いたよ。サポートAIと思考を連動させて情報処理させるとか」 「へぇ……詳しいんだね。あたしの義足と同じようなものかな?」 明珠香は片足を腰まで上げて撫でる。 「食べ終わったらどうする?」 「えっとどうしようかな、HKFをまずはやって……」 「いいよ、その後はカラオケいい?」 「え、ああ……うん。やろう」 二郎は明珠香の義手に気配を感じながらも『最新のAIは高度だからかな』くらいに考え気にしないことにした。 *** 白峰邸の焼け跡を見つめる吹雪、霄、霞。吉良は三人の後ろに待機している。 「本当に全部……焼けちゃった……」 霞は涙を浮かべてまだくすぶっている真っ黒な焼け跡を眺めながら言った。 「改装を繰り返してたとはいえ平安時代から受け継いできた家が……」 霄は立ち入り禁止テープの前まで行って静かに呟いた。 「蔵だけは残ったのね、でも中は……」 蔵の壁面は黒い煤で覆われ金属製のドアは変色している。戦闘機の爆撃にも耐えると両親から聞いていた吹雪は中を確かめたいと近くの警官に申し出た。 「気を付けてください」 三姉妹と吉良は蔵に向かう。監視カメラや電子ロックは壊れていたが扉の変形は無く、ダイヤルも正常に動いた。吉良はダイヤルを回し暗証番号を入れていく。 「開きました」 分厚い金属製の扉が開かれる。中から少しかび臭い冷気を感じる風が出てきた。 「すごい……全然無事だぁ……」 霞は中に入り壁の両側の棚を眺める。大小さまざまな箱、刀剣、鎧、書などが置かれている。中央には木製と思われる囲いがありその中心には床下へ続く扉が見える。 「あの扉の中は知らない」「わたしも」「あたしも」 「私も開いているのは見た事ありませんね。最後に開けたのは雪名様だと聞いていますが」 「お母さんから開けてはいけないと聞いていたし、開けようとしても開かなかった」 霄は幼少の頃に吉良に蔵を開けさせ目を離したすきに床下を開けようとしたことを思い出した。 「滅多に怒らないお母さんが怒ったのを覚えている」 「私も覚えてますよ霄お嬢様」 「お母さんが開けたと知って自分も開けたいと思ったのだ。先代と似ている似ていると周囲から言われてたのでな、自分にも出来ると思ってしまったのだ」 「小さい頃の霄お嬢様はとても活発でまだ未成年だった私や須原は大分振り回されましたね。小学校に上がられてからは模範的な優等生になられましたが」 「なんとなく覚えてる小さい頃の姉さんは暴れん坊だった」 「霄お姉ちゃんはやんちゃだったよねあたしは楽しかったよ」 「私の昔話はもういいだろう」霄は少し顔を赤くして「それよりも床下だ」と床の扉に近づく。 「む……あの時は気が付かなかったが魔力の鎖で封印がされている」 床下の扉に指をかける霄。力を込めるも微動だにしない。 「姉さん、わたしも手伝う」「あたしもー!」 魔力の鎖が軋みだした。 「単純な力ではなく魔力で開けるのか」 霄は銀髪紅目になり魔力を全開。それに合わせて吹雪と霞も魔力を全開にする。 「吹雪、無理をするな。この扉は魔力を吸っている……」 「大丈夫、魔力は回復して充実しているから」 三人の魔力で徐々に魔力の鎖にひびが入り始める。 「そうか、お母さんは小さい時の私が魔力を吸い切られてしまうのを恐れてあんなに怒ったのだ」 「この下に何があるのかしら」「封印されしヤバイ化物とか?」 続く
Jul 22, 2021
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VAMPIREEYE106「闘技と特別製HKF」 「吹雪、寝てなくていいのか?」「吹雪おねえちゃん!」 駆け寄る霄と霞。吹雪の顔色は悪い。 火事にあった白峰の家に向かう準備をしているところであった。 「来海の薬とお父さんの札でなんとか。寝てるだけというのも辛いから……」 「吹雪さん……」 二郎は顔色の悪い吹雪を見て目を閉じる。 「大丈夫、見に行くだけだから。大人しくしてる」 「わかった……止めても無駄なのは知っているからな」 「吹雪お姉ちゃんはあたしが守る!」 霞は空手の正拳突きの動作をして言った。 「では行きましょう」 吉良についていく三人。 「自分たちも行きましょう」 須原についていく二郎と蓮也。 都メタルの地下駐車場から出る車二台。二郎たちの車は北西に、吹雪たちの車は北に向かう。 「兄貴、俺昨日の夜色々考えてたんだ……これまでの事」 「そうか……」 「俺だけ知らなかったんだよな。木城家の事や白峰家との関係、エクレシア(教会)との事……」 「仕方ない、親父もお袋も二郎には普通の生き方をして欲しいと考えてたからな。お前の性格的に知れば家族の誰よりも突き進むだろうからな。それが辛い道であってもだ。結果お前を巻き込んでこうなってしまったのだが。お前が成人して社会に出るまでは何事にも巻き込まれずに過ごして欲しかったがな。俺たちのせいだ」 蓮也は車の窓からまだ開店準備中の店らを眺めながら言った。 「何も知らずに平和に暮らせる事は本当に紙一重だったんだんだなって思うよ。親父たちを責める気持ちなんてないむしろ感謝してる」 これまで危険とはほぼ無縁の生活を送ってきた二郎。精々サイバネ者に絡まれかけたくらいだったことを義手を眺めながら思い出していた。 「エクレシアの大天狗・長門顕彰と陰陽師・葛野忍が作った歪みがこの街がおかしくなり始めた原因だ。20年ほど前、親父の時代から奴らは計画していたのだろう。白峰家を潰しエクレシアとこの街を支配し更に何か大きな何かを企んでいる」 「源藤高雅の言っていた二週間後の世界と何か関係してる……?」 「奴らが白峰家を潰す所から計画を練っていたとすると、華月さんの復活とお前の存在はイレギュラーのはずだ。消えたはずの華月さん、取るに足らないはずの高校生の二郎。奴は二人の存在を知らず計画を進めている、俺は二人の存在が奴らの計画を潰す鍵になると思っている」 「そんな大層な……兄貴と違って俺は大したことはできないよ」 「そんなことはない、お前が大したことはないと思っている行動が流れを作っている。あの時お前が義手を見つけていなければ華月さんの復活ももっと遅かったはずだ。黒谷も手段を選ばないで華月さんを復活させようとしたんじゃないか?」 「そう……なのかな……どうなんだろう」 「ちょっとしたきっかけを作ってくれたのはお前だ。その小さなきっかけが奴らの壮大な計画を崩壊させるかもしれない」 「……だったらいいけど」 「碁盤の目町の壁攻略もそうだ。お前がきっかけで奴らは慌てて封鎖することになった。今入られては困る状態にあるって事だ。二週間後の世界とやらまで封鎖を解く気はなさそうだ」 「碁盤の目町には……吹雪さんのお母さんの雪名さん。それと元白峰家の妖たち、陰陽師・葛野忍、エクレシアのエージェントが居る……」 「二週間後の計画を阻止する為にも碁盤の目町の壁攻略はなるべく急がないとな」 「それが俺が出来る今一番の行動かな……」 二郎たちの乗る車は京都中心街へと入って行く。何度かパトカーとすれ違う。 「パトカーが多いのは近藤さんの件かな?」 二郎はパトカーを目で追いながら言った。 「だろうな。警察は身内がやられると敵をとことん追い詰める。京都には無いが東京には凶悪犯罪者を取り締まる特殊部隊がいると親父から聞いた」 「そうなんだ、何で京都にはないのかな?大阪はあるのかな?」 「京都の特殊部隊事情は人口の数とあとは日本のエクレシア本部と白峰家の影響だ。大阪は世界一高いビルのある大企業の神名、そこの施設部隊が世界最高峰だと言われてる。そいつらが幅を利かせていて警察とも連携している為特殊部隊は無い」 蓮也は携帯端末から光ネットに繋ぎ神名の私設部隊の画像を二郎に見せる。 「……これってセンジョーの警備パワードスーツに似てる」 「センジョーの警備のものは恐らく神名製だろう。つまり世界最高峰の戦力を持っている企業なんだセンジョーは」 「だからセンジョーの施設はあんなに安全で安心して遊べるんだ」 「そうだな。一般人にも分かりやすく、サイバネ者らの牽制にもなるからな。実際は妖怪連合の連中を警備に置いておけばサイバネ者やアウトロー程度どうにでもなる。だがあえてしない、オープンに力を見せつけられる物を表に出し支持を得ているのさ。昔、華月さんが消えた後京都は混乱期に入ったと聞いたが、センジョーが出てきたとたん前以上の活気が京都に戻ってきたのだという。……恐ろしいやり手だぞセンジョーの社長は」 蓮也はセンジョーのHPに載っている社長・千丈隼磨(酒呑童子)の写真を二郎に見せる。 千丈隼磨の顔写真は自然な金色の髪をオールバックに、ほりの深く鋭い目つき、少し赤みを帯びた皮膚、自然でリラックスした笑顔のものであった。 「千丈隼磨はカリスマだ。華月さんとはまた違うタイプのカリスマなんだ」 「なるほど……良く調べてるね兄貴」 「二郎はまだ中立の立場だが……俺はもう白峰家華月派の者だ。エクレシアと灰色の問題がが片付いた後はセンジョーと付き合っていかなくてはならない」 「そうか……そうだよな……」 二郎はエクレシアと灰色の問題が片付いた後の事を考えたことはなかった。ただ吹雪や家族友人が無事に過ごせればとおぼろげに思っていただけであった。 「兄貴は……大学に入った後どうしようと考えてたんだ?」 「エクレシアのエージェントをやりながら京都で就職。木城家は白峰家と縁があるから繋がりのある会社に入るつもりだった。都メタル、平安新聞社、京都府警、佐久間さん所のタクシー会社とかな。でも今はもうエクレシアは信用できない、華月派の者として闇の住人として社会に紛れ込んで活動するつもりだ。おまえはどうするんだ二郎?」 「俺は……サイバネ技師になろうかと考えてたんだけど……今はよく分からないんだ」 「今はゴタゴタしてる、落ち着いてから考えるのがいいさ」 車がセンジョーの駐車場に到着する。入場ゲートには監視カメラの他にタレットのようなものが設置されているのが見えた。ゲートに近づくと先ほど携帯見てた神名製パワードスーツの警備員が二人柱の影から出てきた。 「窓を開けて会員証を見せてください」 警備員の手には合金盾、背中には電磁刺叉、アサルトライフルを装備していた。 「ハイ」 須原は自分と、二郎、蓮也の会員証を見せる。顔と会員証のIDを確認した警備員が下がるとゲートが開いた。 「いつもより厳重だな……駐車場のゲートまで武装警備員とは」 「店の出入口にはいつもの武装警備員と……あそこにもタレットか」 「オソラクあれは神名の防犯タレット。追跡弾、電撃弾、麻酔弾を状況に応じてAIが判断して撃ち分けるものデスね。白峰家にも導入するか検討していた時期がありました」 「そうなんですね須原さん……そういえば兄貴、華月さんの居たマンションのタレットは違ったような?」 二郎は蓮也に視線を向ける。 「あのマンションのは勝田さんが取りつけたものだから神名製ではないだろう『神名製はどうも好きになれなくてね』と言ってたからな」 「須原登流様、木城蓮也様、二郎様。こちらに」 車を停車させるとパワードスーツ警備員が近づいてそう言った。 「どういうことデスか?」 須原が聞くと、 「社長の指示によりVIPゾーンへ案内いたします。付いてきてください」と答えた。 三人は警備員に付いていく。駐車場の端にある一見壁にしか見えない一角が開き扉が現れる。扉を開け細い通路を進んでいくと電子ロックの先にある2重扉の大層な扉を抜けると空港さながらの検査ゲートが待っていた。壁際には戦闘機に搭載されてるような機関銃のタレットが見える。持ち物検査を受けてからゲートをくぐり生体IDを登録するそこからエレベーターに乗り込む。 「VIPゾーンとは……」 「見れば分かります」 耳に感じる気圧からかなり深い地下まで降りた事を感じた二郎たち。エレベーターを出ると大柄長髪のタンクトップの男が腕を組んで立っていた。 「来たか!俺様は星熊童子!!地下闘技場のチャンピオンだ!!」 「地下闘技場!?」 二郎は思わず声が裏返りそうになって叫んだ。 「説明するより見る方が早え、ついてこい」 二郎は蓮也と顔を見合わせた後、後ろのエレベーターを見る。警備員の姿は無くエレベーターのボタンは消えている。進むしかないと思わせた。 「ついていくしかないデスね」 須原が先頭を歩き星熊童子についていく。案内されたのは絨毯の敷かれた落ち着いた部屋。正面の壁はすべてガラス張りに見える。 「見てみな」 三人はガラスに寄る。そこに広がっていた景色は……円形すり鉢状に配置された観客席。中央には水が張ってあり、そこに木製の舞台が設置されてあった。 舞台には筋骨隆々の爪と牙を生やした人外男と両手両腕をサイバネ改造した痩せた男が向かい合っていた。 「ルールは基本的に何でもあり。勝敗は意識を失うか堀に落ちるか降参するかだ。後は戦闘続行不可能と判断した場合だな」 「これは……賭けているのか」 蓮也が言った。 「ああ、完全会員制のな。今戦っているのはワーベアの熊田泰示、試合中に7人殺してる。それと超新星のサイバネ男、八瀬童子。7連勝中だ」 「どっちが勝つと思う?俺は八瀬童子だ」 星熊童子は鋭い犬歯が見える刃を剥き出しにして言った。 「……あのワーベアは体格もスピードもあって手足の鋭い爪も持ってる。対して八瀬童子はただのサイバネ……試合になるのかと思うほどの差があるように見えるが?」 蓮也は闘技場の二人を見て言った。 「始まるぞ……」 ブザーが鳴り試合が開始。ワーベアの熊田は猛然と突進。丸太のような腕を振り回し鋭い爪で八瀬童子を引き裂かんとする。涼しい顔で回避する八瀬童子。3回目の爪攻撃を行った直後、熊田の動きが止まった。 「ふふ……やるな!」 熊田は顔面と股間を押さえてダウン。ゆっくりと迫る八瀬童子。 熊田は八瀬童子の接近を察して左手の爪攻撃を繰り出す、だが瞬時に捕らえられ肘、肩、手首を極められて地面に叩きつけられ、あらぬ方向に肩、肘、手首を折り曲げる。そしてサッカーボールを蹴るように熊田の頭部を蹴り上げ無理やり膝立ちの状態に持っていく。 「強い……」 八瀬童子の弾丸のような貫手は熊田の目鼻喉を砕き顔面を崩壊させる。そしてもはや抵抗すらできなくなった熊田に回し蹴りを入れ堀に叩き落した。 試合終了のブザーが鳴り、歓声が上がる。八瀬童子は右手を上げて観客に応えた。 「予想通り八瀬童子が勝ったな。これで奴は8連勝、近いうちに俺様とやりあう事になるだろうな」 「八瀬童子のアレは……空手か」 蓮也が呟いた。 「ほう、分かるのか。少しは齧っているようだな。奴は空手をベースした闘技を使う。格闘技と言うにはあまりにも苛烈、暗殺拳と言うべきものだ。過激な闘技を期待する客に人気がある。瞬殺すぎて盛り上がりには欠けるがな」 「八瀬童子は人間ですよね?」 二郎は余りにも人間離れした動きの八瀬童子を見て尚そう言った。 「ああそうだ、例の腫瘍病によって両手足を失いサイバネ化しただけの人間だ。闘技ネームは社長が付けた、鬼っぽい名前の方が売れるってな」 「そうでしたか」 「ただの人間であの動きか……」 蓮也は小さくため息をついた。 「……」 「須原さん……?」 黙ったままの須原に声をかける二郎。 「イエ、なんでもありません。昔見た、吉良のお父上の客人に動きが似ていたものですから……それだけです。その客人も病気で少し前に亡くなられたと聞きました」 「そうですか……」 「関係者かと思いますが、それほど気にすることでもありまセン」 「さて、何故お前たちをここを連れてきたかと言うとだな……こっちに来い」 星熊童子は隣の部屋に案内する。そこには二郎が良く知った筐体が置かれていた。 「HKF……!」 「そうだ、センジョーにも置いてある世界的にヒットしている体感型戦闘シミュレーションゲームHKFだ。だがこれはただのHKFじゃあない、軍事用に開発されたものだ」 「軍事用?何が違うって言うのです?」 一見普通のHKFの筐体に見える。違うといえばプレイヤーの乗るステージが金属製になっている所だけであった。 「軍事用はマジでキツイ体感が出来るんだよ。殴られたらリアルに近い衝撃を受ける。動きもリアルだ、一般用のHKFのように補正された派手な動きは出来ない本人が可能な範囲でしか動けない」 「……なるほど、戦闘訓練用のHKFか。これを使うことにより場所と時間に融通が利き実戦経験を積めると」 蓮也が言った。 「そうだ、これで闘技場の戦士たちは訓練をしている。おまえたちにはこのHKFで戦士たちの訓練に付き合ってもらいたい。それが社長の指示だ」 「なんだって!?」 「話が見えてこない」 「もう少し説明をお願いシマス」 三人の言葉を受け、星熊童子は面倒くさそうに頭を搔いてソファに腰を下ろす。 「フゥ~……社長はな、お前たちの事を大体は知ってるんだ。灰色の連中とドンパチしたりエクレシアと協力関係なはずの白峰家とその関係各者が動いてるって事をな。そこに黒谷って胡散臭い男から話し合いの場を設けようって接触があった。黒谷と繋がりがありそうでセンジョーでHKFをプレイしているそこの小僧に目を付けたって訳だ。要するに、見極められようとしてんだ。この地下に来た時からの動き言動、この申し出にどう答え何を話すかをな」 「えっと……」 「そりゃそうか、連合側からすれば俺たちが何をしているのか知りたいところだろうよ」 「そういう事でしたカ」 「社長や茨木みたいに俺は口がうまくねえからよ、まぁあれだとりあえずその軍事用HKFでちょっくら見せてみろやって事。戦い方や動きを見ればおれば何となくソイツが理解できる。お前らのメリットは一流の戦士たちとただで軍用HKFがプレイできるって事」 「いや……色々もっと聞かないんですか?社長さんが知りたいような事」 二郎は軍事用HKFに視線を向けた後言った。 「まずはHKFだ。話はそれからにしようじゃないか。断ればもう二度とこんなチャンスはないからな?」 「分かりました……兄貴、須原さんは?」 「やるしかないだろうよ」 「やりまショウ」 「よし!じゃあ順番を決めろ、一人ずつだ」 先鋒は二郎、次に須原、最後に蓮也の順に決まる。 「最初は小僧か、相手はぬうりひょん」 「!?」 「自称最強・妖の総大将らしい。だが、ただのビッグマウスじゃあ無い。八瀬童子に次ぐ連勝記録保持者で6連勝中の強者だ」 二郎はHKFの準備をしてステージに上がる。シミュレーション空間は先ほど見た闘技場の舞台と同じ。正面には白のバギーパンツを履いたガリガリの男が立っていた。 「あれが……ぬうりひょん」 そう二郎が考えた瞬間。頭部に強烈な衝撃を受けて地面に叩きつけられた。 続く。
Jul 11, 2021
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VAMPIREEYE105「近藤肇」 「駐車場で襲われてる人を見つけて、助けに入ったのにやられて……舞子さんがいなかったら私と壁山君はどうなっていた事か……助けるどころか邪魔してしまってすみません」 美古都は何度も須原に頭を下げる。 「いえ助かりました、あの時貴女と少年が来なければ霞お嬢様は誘拐されていたかも知れまセン」 頭を下げる須原、上着を拾いアスカロンをトランクに入れ、後部座席に寝ている霞の様子を確認する。風迅剣の傷の他は無く、寝息を立てている霞。 「霞お嬢様は無事、車もボディに多少傷はつきましたが動作に問題はありません」 「良かったぁ~……」 へたりこむ美古都。 「周防さん、あそこの壁山くんを連れて病院に戻るわよ、今度はあなたたちが治療する側。念のため今日は入院させてもらって様子を見た方がいい。私と妃羅莉、交代で病院にいるから安心しなさい」 「ありがとうございます~舞子さ~ん……こんなぽっと出の私と壁山君にまで優しくしていただいて~」 涙を流し顔をぐしゃぐしゃにしている美古都。 「はいはい……泣かない泣かない」 「うわぁぁぁ~ん……ヴァルキリーの映像コンテンツ、グッズ全部買います~」 「うんうん」 手を引いて美古都を立ち上がらせる。舞子はスイングで壁山に近寄り蜘蛛糸で担架を作って乗せるとソリのように引いて歩き出す。 「私がやります舞子さん!」 「あんた怪我してるし」 「やります!」 「あっそ、じゃあお願い」 舞子はソリの糸を渡すと須原と霞の車に近づいていく。 「須原さん……だっけ?霞が無事で良かった」 「このご恩は忘れません、土蜘蛛・奥寺舞子サン」 「多分だけど、近いうちセンジョー側からそっちの者とコンタクトを取るはず。エクレシア(教会)の事や灰色の事で、だから……」 舞子は気まずそうに頬に指を当てて視線を動かす。 「……吹雪お嬢様に伝えておきます。二郎君や恭一君にも」 「ええ、頼んだわよ。それじゃ……」 舞子は霞を乗せた須原の車が見えなくなるまで見送る。メッセージで二郎に色々情報を流すことはできたが、連合の者という立場を考えてやめておいた。須原に伝言を頼むだけに留めた。 「けほっ……」 口から黒紫の毒の塊を吐き出す。橡の呪を毒として排出を続け凌いでるが体力の消耗は避けられない。 「早くあの猿を始末しないと……萌絵と燿子の為にも……」 *** ―白峰邸 見た目は純日本家屋、実際は最新設備、魔術セキュリティを施した要塞ともいえる白峰の家は炎に包まれていた。 その中心に獣が立っていた。 曲がりくねった角、灰色の鬣、鋭い目、肉食獣を思わせる牙、強靭は腕に熊のような爪、長くしなやかで先には刃のついた尾、バネのような脚部は足甲の長いつま先立ち。所謂逆関節足。 「……外れですか。まさか誰一人居ないとは」 獣は流暢な言葉を発す。 「そろそろ野次馬が消防を呼ぶ頃ですね。そして一瞬感じた気配は今は無い……こちらではなく、やはりセンジョーに行くべきでしたか」 体を大きく沈め飛び上がる獣。蝙蝠を思わせる翼を広げ飛び去った。 その様子を華月配下吸血鬼の警察署長・近藤肇は透明化気配遮断透視を使って見ていた。 「異質だ……あのような魔力の質の獣……妖でもなければ人間でもない……華月様に報告しなければ」 近藤は都メタルに向かう。路地を抜け能力を解除、大通り手前の住宅街の空地を通る。そこに灰色の狩衣を着た女性が立っていた。 「(夜中に狩衣の女性?一人で?)」 不審に思いながら近藤は警察官の名刺を出して女性に近づく。 「あのー警察です、こういう者でして……こんな時間にこんな場所で一体何を?」 次の瞬間女性の背後から何かが伸び近藤の胸を貫いた。 「ガハッ……」 近藤を貫いたのは女性から伸びた尾。しなやかで刃の付いた尾であった。 「白峰の家の外で感じた気配はお前でしたのね。何者か?と問いたいところですがお前自身に興味はありません、だから、メッセンジャーに、なりなさい!」 尾を突き刺したまま接近する女性、近藤に連続打撃を叩き込む。 「アガッ……ゲホッ……」 「さぁ解放してあげます。アジトへとお戻りなさい、私は【グレイビースト】」 見る見るうちに獣へと変化する女性。近藤が白峰邸で見た獣であった。 「グレイ……ビースト……」 「すぐには、死なないように、術を設定しました。さぁ行きなさい……アハハハハ」 倒れた近藤はグレイビーストに突き刺された傷が再生しない事に気が付いた。そして打撃を受けた箇所から徐々に熱くなっていくの感じる。 「しくじった……だが、このまま終わる訳には……」 力を振り絞り携帯のカメラで去っていく灰色狩衣の女性を撮影する。 「(奴はアジトに戻れと言った……メッセンジャーだと……つまり私を時限爆弾のような状態でアジトに帰らせて仕掛けた術を発動するつもりだろう)」 近藤は出来る限り知りえた情報を携帯に入力し、同僚の警察官であり華月配下の斎藤に送った。そして携帯を空地の地面に埋めゆっくりと立ち上がった。 「この体どのくらい持つのか……時限爆弾だとすればできるだけ人気のない場所に移動しなければ……川がいいか一番近い川は……」 地理に明るい近藤は一番近い川、天神川を思い浮かべる。 「あの場所なら爆裂しても……支障は無いはず……」 気配遮断透明化の能力を使い通行人に気付かれずに天神川に飛び込む近藤。 「短い間でも……白峰家に華月様に仕えられて良かった……」 爆発する近藤の肉体。赤い光に包まれた心臓の形をした光が空高く上がっていく。 *** シャワー室から出てきた神名L咲夜はベッドに腰を下ろして携帯端末を手に取りニュースをチェックしていた。 「アハハハハハハハッ!!あ~はっははははははははははっ!!」 日本列島に迫っていた史上最大最高風速の台風は太平洋上で突如消滅した事を確認し大笑いをした。 「幻赫敗北!!あははははははははは!!」 咲夜は携帯端末をベッドの上に投げる。 「二週間後の世界で一番の障害になるはずだった幻赫が消えた!!TMI(異能者特務機関Talent's secret military institutions)の他に敵を作りすぎたな……十数年前にTMIに敗北したにも関わらず、ナメてかかり、異能者を利用しようとした結果だ!!幻赫が消えたという事はグレイストームも退場という事。白魔団に敗北したグレイマンの恥さらしが」 「咲夜さま、京都にも白魔団が来ているのでしょうか?」 お付きの式神アンドロイド梨花が言った。 「グレイマンのある所、白魔団の姿あり。今はまだこの地に居なくとも、この私グレイビーストに対抗する白魔団の者が、必ず現れる」 「梨花はグレイマンの勝利を切に願っております。今の世界はあまりにも人類に傾きすぎています。白(人)にも黒(魔)にも染まり切ってはいけない、灰色こそが世界の調和」 「そうだ梨花、グレイマンこそが世界の調和。この星を統治しなければならない、二週間後の世界を先導するのはグレイマンなのだ!!」 「咲夜さま、梨花は幻赫を倒した存在が気になります。咲夜さまの最大の障害であった幻赫を倒した存在は咲夜さまの新たな障害になるのではと」 「案ずるな梨花、TMIとその他の勢力は幻赫の残党狩りに追われる。日本の、一都市に過ぎないこの街の出来事に関わって来る事など無い。気付いた時には時すでに遅し、二週間後にはTMIなどには止められぬ世界に変わっている」 「なるほど、楽しみです」 「先ほども吸血の鬼を一人狩ってやった。三獣はまだ成果を上げてはおらんようだが」 「早速敵を仕留めるとは流石です咲夜さま。三獣の方々ですが、橡さまは怪我をされましたが順調に呪(しゅ)をばら撒かれ、皀さまは撃退されたものの、その後連合所属の妖の狩りを続け、青鈍さまは妖の拠点である学校を一つ崩壊させました。そして源藤さまは生死行方不明です」 「がっかりさせてくれますね、あの三獣は。まぁでも、名古屋と違い京都は妖たちの数が違う、なまじ今まで勝ち続けたせいか驕りと油断があったのでしょう、仕置きは止めておきますか。後六日で結果が出せなければ三獣は解散させます」 「咲夜さま、その旨、三獣の皆様にメッセージで送っておきますね」 「ええ、お願い。今会って話すと、どうしても感情が高ぶって、グレイビーストの力であの獣たちに何するかわからないので」 「承知致しました、咲夜さま明日のご予定は?」 「センジョーに行きます。そして酒呑童子配下の鬼を一人でも殺せればいいですかね」 「分かりました」 その時咲夜のカバンが振るえ出した。二本指をかざす咲夜、カバンから飛び出したのは紙の人型であった。 『神名L咲夜……白峰邸襲撃はどういうことなのかな?』 落ち着いた低い声。人を惑わす色気を含んでいた。 「葛野忍……レディの部屋に突然何の用かと思えばそんな事」 『弟子の動きを気にするのは当然の事でしょう?』 葛野忍。日本のエクレシア(教会)のトップにして最強の陰陽師団を束ねる存在。 「弟子ね……元です。道摩法師を名乗った時から私と貴方は師弟関係ではない」 『おやおや、グレイマンになってから貴女は傲慢に磨きをかけたようだ。だが不毛な言い争いをしに来たわけではありません』 「報告でしょう?白峰邸の襲撃は1週間予定をずらしただけです。先に白峰サイドを叩いておいた方がいい予感がしたのです。何か、ほころびを生みかねない存在を潰す為に」 『……なるほど』 「成果は殆どなかった。偵察に来ていた吸血の鬼を一人始末してやった。上手くいけばアジトが分かると思ったけど馬鹿ではなかった、警察官の吸血の鬼でしたよ」 『ほう……エクレシア(教会)のデータにそんな者は居ない、最近現れた者ですね。こちらは碁盤の目町に閉じこもっているので外の妖の情報など集めてませんでした。計画通り進めば地上の妖など小生と長門顕彰、貴女が居れば全て駆逐できるのでね』 「ああ、そうそう。杉田幻赫が消えたわ」 『それはそれは……杉田幻赫は小生にとって最大の障害に成り得る存在でしたからね。と、いう事はあちらのグレイマン・グレイストームも?』 「消えました」 『【あの存在】の先兵であるグレイマンの数が減るのは構わないのですか?』 「世界が変わった後、統治を任される人数が減るだけの事。それにグレイストームは気に入らなかったので消えてくれて清々したほどですよ」 『いい報告をありがとう元・弟子。こちらの準備も捗りそうだ。最近虫がうるさくてストレスを溜めていたのだが解消された』 「虫?」 『取るに足らない虫。碁盤の目町に侵入しようとする虫ですよ』 「どうしてもと言うのなら、私が、虫を駆除しても、いいのですが?」 『心配無用、既に陰陽師団と大天狗には指示を出してあります。貴女はセンジョーを』 「分かっています、じゃあまた」 人型はただの紙切れとなり床に落ちる。 「はぁ……いつも嫌なタイミングであの男は連絡を取って来る。梨花、三獣にセンジョー連合の奴らを集中的に狙えと、伝えておいて」 「承知しました」 *** ―都メタル・シェルター 「近藤さんが逝きました……」 黒谷が呟いた。それを聞いた華月は目を閉じる。 黒谷は目の前に発生させた黒い渦から心臓の形のエネルギー体を取り出す。 「華月様、近藤さんの遺した魔力です。お受け取り下さい」 「ああ」 近藤のエネルギー体を受け取る華月。 「灰色狩衣の女……奴が灰色共の頭グレイビーストか」 近藤のエネルギー体を吸収し最後の記憶を読み取る華月。 「斎藤さんは近藤さんの携帯端末を回収に行きました」 「黒谷、近藤の事は夜が明けてから皆に知らせよ」 「はい、昨日今日で色々ありすぎましたからね」 「ああ」 近藤のエネルギーを吸収する華月、更に少し大人に近づいた。 「大天狗、陰陽師団、ついに動き出しました。どうされますか?」 「教会勢は警察との繋がりもある、表立っての抗争は仕掛けてこない。それを利用するのだ、警察の捜査力を使い斎藤に奴らを追わせる」 「そして見つけ次第始末……ですね。野盗を装って闇討ちを仕掛けてくるのならこちらもそうしましょう。容赦無く」 「徹底的にやれ黒谷。そして大天狗を炙りだすのだ。我が奴を始末してやる」 「この話は私たち華月派だけの耳に入れます。霄様たちや蓮也君たちには時期を見て話を」 「ああ、人間との抗争はまだあの子らにはできまい。陰陽師団は人間が殆どだからな」 「霄様らには灰色の方に集中してもらいましょう」 「そうだな……だが黒谷、あのグレイビースト……強いぞ、なめて良い相手ではない」 「華月様が強いと言われるとは……近藤さんの記憶からでもそう感じられましたか」 「異質なものを感じた。妖とはまた違う奇妙な何かがある」 「十分警戒しましょう」 黒谷は腕を組んで頷いた。 「連合の動きにも注意しておけ。今は敵を増やしている場合では無いからな」 「はい」 ―翌朝 黒谷の口から近藤の死亡が全員に伝えられた。 その後それぞれのチームに分かれ動き出す。二郎は蓮也とセンジョーに行くことに。 「HKFの練習と……明珠香とTOYAの協力を説得」 確認するように二郎が呟く。 「自分が送りマス。車の修理は昨晩終わらせましたので」 アスカロンを担いだ須原が声をかけてきた。 「私と霄様、霞様は火事にあった白峰の家に向かいます」 吉良は車のキーを見せて言った。 「……わたしも連れて行って」 そこに顔色の悪い吹雪が現れた。 続く
Jul 4, 2021
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