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「この人知らんな。」 読んで驚きました。不思議なことに、とにかく涙が出て止まらないのです。音楽の話だから?少年の成長物語だから?そうかもしれない。
「『岳』描いた人や。」
「それも知らん。椎名誠とはちゃうんやろ。」
「ちやう。それは『岳物語』やろ。石塚真一いうマンガ家のマンガであんねん。山の話や。これはジャズのはなしや。」
「はあー?あんた、ジャズとか知ってるの?」
うーん、若者でも、老人でも泣けるマンガか。 15歳 の 少年 が ジャズ という音楽の中に 「ほんとうのこと」 があることに、偶然、気づきます。彼はそれを手に入れるために、来る日も来る日も楽器を吹きつづけるのです。
ぼくが真実を口にするとほとんど全世界を凍らせるだろうという妄想によって ぼくは廃人であるそうだ おうこの夕ぐれ時の街の風景は 無数の休暇でたてこんでいる 街は喧噪と無関心によってぼくの友である 苦悩の広場はぼくがひとりで地ならしをして ちょうどぼくがはいるにふさわしいビルディングを建てよう
詩人の 吉本隆明
の 「転移のための10篇」
という詩集の中にある 「廃人の歌」
の一節です。まあ、このマンガの主人公 宮本大君
が故郷を出発した年齢とちょうど同じだったころ、繰り返し繰り返し口にした詩の一節です。
吉本隆明
の 真実
は 「全世界を凍らせる」
のですが、 宮本少年
の演奏は 「全世界の心揺さぶる」
はずなのです。
しかし、 この国
というような狭い世界ではなく、 全世界
という、口に出して言ってしまうと、ほとんど妄想と受け取られかねない 世界
を夢見たり信じたりする人間は、いずれにしても社会からは 「廃人」
と呼ばれ、 「不毛の国の花々」
や 「ぼくの愛した女たち」
とは別れていくほかないのかもしませんね。
若い読者が、このマンガを読んで涙を流すのは、 全世界
という途轍もなさの向こうにしか 「ほんとうのこと」
は見つけられないということに、無意識のうちに恐怖している自分を感じさせてくれるからではないでしょうか。まあ、出発がついにやってこなかったまま年を取ってしまったことを、出発する宮本大君に思い知らされて、思わず涙する老人の繰り言ですね(笑)。
で、 第二部
「BLUE GIANT SUPREME」(小学館)
で少年は世界に飛び出していくようです。彼は、はたして、 「ほんとうのこと」
を手に入れることが出来るのでしょうか。
ガンバレ宮本大!
2018年7月
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