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2020.10.20
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カテゴリ: 気になる本
図書館で『トモスイ』という文庫本を手にしたのです。
パラパラとめくってみると、10の短編小説集になっています。
冒頭に「トモスイ」が載っていて、気軽に読めそうなのがええでぇ♪





高樹のぶ子著、新潮社、2011年刊

<「BOOK」データベース>より
タイ訪問を機に執筆され、選考委員に絶賛された川端賞受賞作「トモスイ」ほか、アジア10カ国との交流から生まれた10の短篇。台湾の小さな島から上海の路地裏へ、そしてモンゴルの荒野、インドネシアの密林まで。それぞれの土地に息づく瑞々しい匂いとやるせない思いを吸い込み、論理を超えた熱をはこぶ、アジアをめぐる物語たち。第36回川端康成文学賞受賞。
【目次】
トモスイ/四時五分の天気図/天の穴/どしゃぶり麻玲/唐辛子姉妹/投/モンゴリアン飛行/ジャスミンホテル/ニーム/芳香日記

<読む前の大使寸評>
パラパラとめくってみると、10の短編小説集になっています。
冒頭に「トモスイ」が載っていて、気軽に読めそうなのがええでぇ♪

rakuten トモスイ



冒頭の作品が「トモスイ」だが、その語り口を見てみましょう。
p9~11
 春まだ浅きころ、ユヒラさんと夜釣りに出た。花芽の港から底が平たい舟でこぎだしたが、思ったほど寒くはない。

 底にはガラスが張ってあって、暗い海中がよく見える。この舟の格好が、夜釣りには最適ばのだとユヒラさんは言う。なぜなら、ほら、かがり火が船底から海中にまでとどくでしょう?

 それはそうだけど、とわたしはそっぽを向いた。魚屋さんで刺身を盛り合わせる発泡スチロールの器に、二人で乗っているみたいな気がする。
「でもかがり火がない」
「今夜は月が出てますから、かがり火は要りません。月光がかがり火のかわりです」

 わたしより年若いくせに、ユヒラさんは物言うとき、唇の上にシワが寄る。強く言うときは、深いシワになる。そのあたりに本能が溜まっている気がする。月の光でも、シワが寄るのがわかる。一瞬おばあさんに見える。

 そもそもユヒラさんは男らしくない。髪もふんわり丸く刈っていて、身体は小さいくせに手足の末端ばかりごつごつと大きく、けれど胸のあたりや下腹部は女のように肉付きが良い。
 ときどき花芽の港から夜釣りに出て、旨いもので腹を満たす、というので、舟の上でコンロとか使って新鮮な魚を料理するのかと思ったら、生が一番だそうだ。魚を生で食べるのかとぞっとしたら、魚みたいなものだけど、魚ではないという。

 いつか連れていってあげる、としきりに言うので、ではお願いします、という話になった。これまではいつだって一人で舟を出した。女性を誘うのはわたしが初めてだと聞いて鬱陶しくもなり嬉しくもなる。こういうことは思い立ったが吉日、花芽の港で合流し、平たい舟で漕ぎだした。

 オールを使うのはユヒラさんで、中天にかかった月を目指してざぶんざぶんと行く。ときどき飛沫がかかるが、何となく生ぬるい水で、手のひらに落ちたしずくを舐めると塩辛かった。安堵した。

 月夜というのは、案外暗いものだ。海面の一部が光っているだけで、他は色もない。ユヒラさんの顔も見えない。見えないということはあれこれと表情を想像することが出来ていい。ときどき月の光が斜めに当たり、なんだ、いつものユヒラさんじゃないのと、がっかりする。

ウーム 薄気味の悪いというか、不穏なテイストを感じるのだが・・・
この手のテイストなら最近の漫画家にザラザラいるじゃないですか。

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Last updated  2020.10.20 00:14:10
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