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2021.07.01
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カテゴリ: 気になる本
図書館の本を手当たり次第に、借りている大使であるが・・・・
なんか慌しいので、この際、積読状態の蔵書を再読しようと思い立ったのです。
で、再読シリーズ#42として『マイ・ロスト・シティー』を取り上げてみます。

この古い文庫本がどういう経緯で本棚に乗っていたかはわからないが、村上春樹訳のこの本が気になっていたので・・・読むことにしたのです。


【マイ・ロスト・シティー】


スコット・フィッツジェラルド著・村上春樹訳、中央公論新社、1984年刊

<商品のレヴュー>より
訳者の想いが冒頭にあるため、必然的に村上春樹の世界に引きずられてしまうような気が、、、
それはともかくどの短編も諦めと言いましょうか、静かな悲しさに包まれた雰囲気を纏っている。
狂騒的な時代に嫌悪感を感じつつ、それに合わせていかないと様々な意味で生きていけない自己および市井の人々の悲哀をこの作家は本能的に嗅ぎつけ、かつ意図して淡々と描き出して見せた気がする。
今回の読書後の一番の好みは『残り火』かな。

<読む前の大使寸評>
この古い文庫本がどういう経緯で本棚に乗っていたかはわからないが、村上春樹訳のこの本が気になっていたので・・・読むことにしたのです。

rakuten マイ・ロスト・シティー


冒頭の「残り火」の語り口を、見てみましょう。

<Ⅰ>p37~40
 今世紀初めの何年かのあいだに発行された雑誌の綴じ込みに目を通すと、リチャード・ハーディング・デイヴィスやフランク・ノリス等々の、すでに物故してしまった作家たちにまじって、ジェフリイ・カーテンなる人物の作品にぶつかるはずだ。小説が1、2本、それに3、4ダースの短篇というところである。もし興味をそそらえたなら、作品群を年代順に辿ってみることもできる。そう、1908年まで。そこでその姿は忽然と消え失せてしまう。

 そのことごとくを読み終えた後にわかることは、名作と呼ぶべき作品なんてただのひとつもないという歴然たる事実である。暇つぶしの娯楽小説というところ。今となっては少々時代遅れですらある。しかしながら、歯医者の待合室での退屈な30分を共に過ごすには確かにうってつけであったはずだ。

 これを書いた人物は教養も才能もありそうだし、なかなかどうして回転も早そうである。そして若くもあったのだろう。それらの作品はあなたの胸を揺り動かすといった代物ではない。人生の気まぐれにふと心を引かれる、とまあその程度のものだ。奥深い内面的なおかしみも、無力感も、悲劇への予感も、まるで何もない。

 読み終えた後、あなたは欠伸をひとつして、その雑誌をファイルに戻すだろう。そして、もしあなたの座っている場所が図書館の閲覧室であるとすれば、あるいはあなたは気分転換にその時代の新聞を一部手に取り、どれ、ひとつ日本軍が旅順を陥落させたかどうか眺めてみるか、ということになるやもしれぬ。

 しかしながら、あなたの新聞の選び方が良く、ばさりと開いたそのページがうまい具合に演劇欄であったとすれば、あなたの目はそこに吸い寄せられ、第一次大戦の激戦地シャトーティエリのことをあっさり忘れてしまったように、旅順のことなど、なあ少なくとも1分間くらいはどこかに吹き飛んでしまうことだろう。幸運とも呼ぶべきこの偶然によって、あなたは息を呑むばかりに美しい一人の女性の写真をじっくり眺めることになるだろうから。

 それは例のフロロドーラ・ガールズとセクステット・コーラスの時代、ぎゅっと締めつけたウェストと膨らんだ袖口の時代、古風な腰当てに近いものとバレエ・ダンサーのッスカートそのものが存在していた時代のことである。

 だが、かくの如き格式ばった、今は見られぬ大時代な衣装に包まれてはいても、彼女の比類なき美しさは見紛うべくもない。彼女こそは時代の輝きである。淡き葡萄酒の如き瞳、心ときめく歌、乾杯と花束、ダンスと夕食会。二輪馬車のヴィーナス、花咲けるギブソン・ガール。彼女こそは・・・、

 ・・・彼女こそはロクサンヌ・ミルバンク、と写真の下に説明がある。彼女は「デイジー・チェーン」のコーラス・ガール兼代役を勤めていたのだが、主演女優が病気で倒れた折りに見せた卓抜な演技によって、主役に抜擢された、とある。

 あなたはもう一度写真を眺め、そしていぶかるかもしれない。何故これまでに彼女の名前を耳にしたことがなかったのだろうか、何故、はやり唄の文句やボードビルのジョークや葉巻の紙帯や陽気な叔父の思い出話の中に、リリアン・ラッセルやステラ。メイヒューやアンナ・ヘルドと並んで、彼女の名前が登場しなかったのだろうか、と。

 ロクサンヌ・ミルバンク、彼女はどこに消えてしまったのだろう? どのような暗い隠し戸がその口を開けて彼女を呑み込んでしまったのか? たしか、先日の日曜版にあった英国貴族と結婚した女優リストの追補版の中にも、彼女の名は見当たらなかった。きっと彼女は夭折し、そして忘れられてしまったのだろう。そうに違いない。こんなに若くて美しい人なのに、気の毒に。

 さて、ジェフリイ・カーテンの短篇とロクサンヌ・ミルバンクの写真をうまく結びつけてくれれば、というのが私の虫のいい希望なのだが、あなたがその6ヵ月後の新聞紙面に、「デイジー・チェーン」を巡業中のロクサンヌ・ミルバンク嬢と流行作家ジェフリイ・カーテン氏との婚約が発表されたという1段組みの目立たぬ記事を見つけるところまでは、まず望むべくもなかろう。「カーテン夫人は」と記事は淡々とこう結んでいる、「芸能界から引退する見込み」



(追って記入予定)





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Last updated  2021.07.01 12:58:38
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