オロモウツからモラバ川の支流、ビストジツェ川沿いのサイクリングロードを東に遡って行くと、最初に出会う集落が、ビストロバニという村である。何の変哲もない小さな村で、もうひとつ先のベルカー・ビストジツェには、昔の貴族の城館が残っていてホテルになっているから、それ目当てで出かける人もいるだろうけど、ビストロバニを目的地として出かけるのは、村に親戚や友人知人が住んでいる人ぐらいだろう。
夕食をとりながチェコテレビのニュースをぼんやり眺めていたら、そんなせいぜい人口1000人ほどの小さな村の名前が突然登場した。何事かと思って注意して見ると、行なわれる予定だったノハビツァのコンサートが行なわれず、警察では詐欺として主催者でチケットの販売をしていた飲み屋の主人を捜索しているということだった。
そのチケットというのがまたすごいもので、ビロード革命以前にはよく使われていた汎用のもので、ノハビツァのコンサートだということは印刷されておらず、値段も日付も手書きで書かれているというものだった。いや、お金と引き換えにこんなチケットをもらったときに怪しいと思わなかったのだろうか。今週行なわれるはずだったのは、ノハビツァのコンサートだが、来年初頭に予定されたクリシュトフというグループのコンサートのチケットも販売していたらしい。
いやいや、ノハビツァとか、クリシュトフのコンサートなんてオロモウツでもしょっちゅうあるわけじゃないんだよ。それがどうしてビストロバニなんていう小村で行われると信じられたのだろうか。そもそも、ふさわしい会場はあるのかなんて考えていたのだが、会場は詐欺師が経営する飲み屋の奥にあるイベントホールみたいな部屋だった。かつて飲み屋が文化の中心だった時代の名残で、田舎の飲み屋の中には、普段は使わない多目的ホールとも呼べる大きな部屋があるところがある。この飲み屋もその類の飲み屋で、これまでも演劇やコンサートなどが開催されていたようである。
今回詐欺を働いた人物は、二年前から飲み屋の経営に当たっていて、これまで数回、何の問題もなく文化行事を実行してきたらしい。だから信じてしまったというのだけど、この人物が実現したのは自身が主催するバンドのコンサートや、地元の劇団の公演のようで、いってみればローカルな地元の人による地元の人のためのイベントだったようだ。それができたからって、いきなりノハビツァやクリシュトフなんて大物を呼び寄せられるなんて信じてしまう人が、いるんだろうなあ。
実は、その信頼できそうな人物が、ふたを開けてみたら詐欺師で、ただ単に今回ビストロバニで詐欺を働いたというだけでなく、警察の発表では、過去の詐欺などの疑いで指名手配されている人物だったというのだ。それも国外逃亡が予想されたからか、ヨーロッパ全域を対象にした逮捕状が出された人物なのだそうだ。逃亡生活の果てにオロモウツの近くの村を潜伏先に選んだのか、何らかの地縁があったのかはわからないが、警察の想定できない場所だったのだろう。
とまれ、二年の潜伏を経て再び詐欺に手を染めた人物は、すでに行方をくらまし連絡がつかなくなっているという。ニュースでは、今回の事件で手に入れられた額が、発覚して警察に捕まる可能性があることを考えると割に合わないから、急にお金の必要な事情でも発生したのではないかという推測も語られていたが、この詐欺をやらかすのにも結構準備に時間と手間をかけているようにも見える。そうすると、生来の詐欺の虫が動き始めたというのが正しいかもしれない。
信じやすい田舎の人たちをカモにする詐欺師は、できるだけ早く捕まってほしいものである。
2018年11月30日9時15分。
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