日本ではチェコの映画監督というと、「アマデウス」のミロシュ・フォルマン、「ひなぎく」のビェラ・ヒティロバー、「つながれたヒバリ」のイジー・メンツルあたりが特に有名なのだけど、チェコでの一般の人たちの間での人気というと、作品がテレビで放送される回数から考えても、このバーツラフ・ボルリーチェクと「レモネードのヨエ」のオルドジフ・リプスキーのほうが上なんじゃないかと思われる。
特に、ボルリーチェクは大人向けの映画だけではなく、子供向けの(とはいっても大人も見ているのだけど)童話映画の傑作もたくさん撮っているから、チェコの人でボルリーチェクの映画を見たことがないという人は、まずいないと言っていい。その筆頭が、すでにこのブログでも触れたシンデレラ物の「ポペルカ」である。撮影の都合で珍しく冬を舞台にした童話映画になったため、毎年クリスマスの時期になると、くじ引きでどこかのテレビ局が放送している。最近はイースターや夏休みなんかにも放送するから目にする機会は多い。
ちなみにアラベラは、童話の世界のお姫さまの名前で、演じたのはスロバキア出身の女優だったけど、チェコ語があれだったらしく声はリブシェ・シャフラーンコバーあてている。これもドイツの出資で撮影されたものなので、最初から「吹き替え」は必須だったのかな。他は役者本人が声を当てているけどさ。革命後に撮影された続編では、シャフラーンコバーの妹のミロスラバが演じているのだが、最初の女優にギャラを吹っ掛けられて、ドイツの資金でも賄いきれなかったかららしい。
この童話、昔話的な世界と現実世界を結びつけるというのは他の作品でも試みられていて、もう少し年上の子供たち向けの「箒に乗った女の子(Dívka na košt?ti)」では、地獄から『魔術大全』とでもいうべき大部の本を盗んで人間世界に逃げ込んできた魔女の女の子が引き起こすドタバタが描かれる。確か何の変哲もない井戸の底が地獄につながっていたと記憶するのだけど、この辺りもボルリーチェクの作品らしくていいのである。この作品は撮影技術の面でもなかなか見るものがあるらしいけど、それについて語るのは我が任にあらずである。
プラハのブルタバ川の川底のカッパの世界と現実のプラハを結び付けてしまったのが、「いかにムラーチェク博士を溺れさせるか(Jak utopit dr. Mrá?ka)」で、この作品にもリブシェ・シャフラーンコバーが主役で登場する。人間を魚にして水の中でも生きられるようにする薬とか、現実側でもちょっとマッドなぶっ飛んだ設定が出てくるけど、カッパの側でも国境を越えた国際会議とか妙に現実側に引きずられた設定が出てきて楽しい。悪いおっさんを演じさせたら最高のミロシュ・コペツキーの存在感も大きいし。日本の生け花の師匠の魂が出てくるのもこの映画だったかな。
この二つの若者向けの作品、上に書いた簡単な説明からもわかるように、コメディーである。中心となるストーリーもないわけではないけど、それよりもあちこちに仕掛けられた笑えるシーンのほうが頭に残っていて、どう始まってどう終わったのかあまり印象に残っていない。だから、たまにテレビで見かけてこんな話だったっけと驚くこともある。そのくせ妙に細かい、本筋とかかわらないところを覚えていたりもするのである。
ビロード革命後も、ドイツからの依頼で童話映画を何作か撮影していて、ボルリーチェクの作品、特に子供向けの童話異映画はチェコだけでなくドイツでも高く評価されているようである。他の国であまり知られていないのは、子供向けの童話映画となるとアニメにしてしまうからだろうか。それに一般向けの作品はあまりにチェコ的な滅茶苦茶コメディーで、吹き替えや字幕の作成が大変そうだしなあ。というところで一般向けの作品についてはまた明日。
2019年2月8日21時30分。
タグ: チェコ映画
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