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2020年06月19日

シェンゲン復活近し(六月十六日)





 黄色信号の国はベルギーとイギリスで、この二カ国からの入国で、隔離も陰性の証明が不要なのはチェコ人とチェコの長期滞在許可を有する人だけである。つまり、ベルギー、イギリスに在住するチェコ人以外の人には、チェコに入国する際に14日間の隔離か、陰性の証明書の提示が求められるということである。
 赤信号の国はポルトガルとスウェーデン、それにポーランドのシレジアが指定されている。これらの国からの入国に際してはチェコ人も14日間の隔離か、陰性の証明書の提示が求められる。不思議なのは、ポーランドは国としては青信号なのに、一地域だけ赤信号で出入国を制限するのは可能なのかどうかということである。ポーランド領のシレジアと直接接しているところの国境でチェックするのは可能なのだろうけど、迂回されたらチェックの使用はない。そのシレジアの国境の通過点でも検問はすでに緩くなっているらしいし。


 飛行機の便も、プラハからヨーロッパ内の都市への便はかなり運行の再開が進んでいるようだ。各国の出入国制限で需要と供給の関係がどうなっているかよくわからないので、チケットの値段がどうなっているかも予想できないのだけど、武漢風邪以前に比べると手間が大幅に増えているだろうというのは想像に難くない。

 とまあ、チェコの出入国制限の現状について、普通の真っ当なことを書いたわけだが、このニュースを聞いて一番気になったのは、実は規制がどうこうという部分ではなく、ポーランド領シレジアの呼称である。日本大使館からきたお知らせのメールには「シレジア・ヴォイヴォデシップ地方」と書いてあって、これにもちょっと驚いたのだが、最初に驚いたのはニュースで聞いた「スレスケー・ベーボツトビー」である。

 チェコ語では、国王が治める領域、つまり王国を、「král(王)」から「království」という。同様に、「kní?etství(侯爵領)」「hrabství(伯爵領)」なんて言葉も存在する。だからニュースを聞いたときに、「vévodství」だと判断して、「公爵領」のことなのだろうと理解し、チェコとポーランドに分割されたかつてのシレジアのポーランド側全体が、「スレスケー・ベーボツトビー」にまとめられていると考えた。
 そして、ポーランドではすでに王政が存在しなくなって久しいにもかかわらず、行政単位としては、過去の貴族領を基準にしているのかと、ドイツの州も諸侯領が規準になって分かれているところがあるわけだし、そして名称としても、貴族の爵位を基にした言葉を使っているのだろうと考えた。もしかしたら、地方行政の長の呼称もかつての貴族の爵位を思わせるものかもしれない。

 ポーランドという国は、共産党支配が終わったあと、共和国なのに国旗に王冠をつけるかどうかを真剣に国会で議論したと言われる国である。熱狂的なキリスト教信者だけでなく、貴族性にノスタルジーを感じる人が多かったとしても不思議はない。などと考えて、一人で納得していたのである。それが念のために確認してみたら……。
 そもそも、「vévodství」ではなく、「vojvodství」だった。さらに歴史的なことを考えると、シレジアの領主の爵位は「vévoda」ではなく、「kní?e」である。チェコ語のウィキペディアには、「vojvodství」は現在のポーランドの地方行政単位だと書かれていた。つまり前身が伯爵領だろうが王領だろうが、教会領だろうが、すべて「vojvodství」になっているということなのだろう。そして、「スレスケー・ベーボツトビー」ではなく、「slezské vojvodství」はポーランド領シレジア全域ではなく、その一部分に過ぎないことがわかった。思い込みとは恐ろしいものである。

 しかし、とさらに考える。ポーランドの「vojvodství」という言葉も、もしかしたら「vojvoda」という封建領主を指す言葉からできているのかもしれない。同じスラブのユーゴスラビアにボイボディナというよく似た地名があったし、スロバキアの地方区分に使われている「?upa」ももともとはハンガリー王国時代の地方領主だったか、代官だったかを語源にしているというからさ。人を表すのは現在地方知事を意味する「?upan」だったかな。この言葉、チェコ語では パジャマ ガウンとかバスローブ を意味するので、はじめて何も知らずにスロバキアの地方選挙のニュースを見たときには、わけがわからず頭を抱えたものである。
2020年6月16日24時。



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