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2011.04.27
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カテゴリ: 気になる本
NHK-BSの若冲4夜特集に福岡博士がゲスト出演していました。
「若冲の絵が草木国土悉皆成仏(ソウモクコクドシッカイジョウブツ)を彷彿とさせる」だって・・・・
福岡博士は自然に寄り添う若冲を評価するが、投資家におもねて自然を塗り替えようとするアメリカ主導の科学がクローズアップされるわけです(大使の場合)
博士がカルトがかった一神教の国からカミングアウトしたのも、わかるような気がします。

虻に双鶏図
虻に双鶏図( 若冲ミラクルワールド より)

冗談はさておいて、この本のさわりを紹介します。
「動的平衡」福岡伸一著、木楽舎、2009年刊

p110~113
<現代人の栄養失調>
 飽食の時代に生きる現代人は、常時、オーバーカロリーの危険性にさらされることはあっても栄養素が欠乏することはほとんどありえない。それは糖質、タンパク質、脂肪の三大基本栄養素はもちろん、身体が作り出すことのできないビタミンとミネラルでもそうである。
 これは毎年、厚生労働省が行う栄養調査でも明らかになっていることで、少なくとも普通の食生活をしている日本人であれば、不足する栄養素は一つとしてない。
 逆に、日本人の栄養所要量を数年ごとに定める研究会は、ビタミンやミネラルの摂取上限を策定する作業を進めているくらいである。
 つまり、私たちが、どこか身体の調子が悪い、なぜか疲れが取れない、お肌の調子がおかしい、そんなふうに感じた時に「きっとこれは何らかの栄養素が不足しているからだ」と思うのは幻覚なのであり、サプリメエントを欠かさず飲んで、不足がちな栄養素を補うという行為は、栄養障害でもなんでもなく、むしろ脅迫的な神経障害に近いと言える。
 栄養所要量は、たとえばカロリーベースなら1日あたり2000キロカロリー、カルシウムなら600ミリグラム、ビタミンAは・・・・・、という具合に定められている。私は先に「普通の食生活をしている日本人であれば、不足する栄養素は一つとしてない」と記した。しかし、この事実の別の一面にまったく無自覚であるというわけではない。
 栄養所要量はあくまで「1日あたり」の摂取の目安である。ほとんどの栄養素は程度の差こそあれ貯蔵できる。だから、たとえ多い日、少ない日があったとしても平均してだいたい所要量に見合った摂取が行われている限り、収支は維持されうる。しかし、貯蔵することのできない栄養素であれば?ここに問題の所在がある。
 タンパク質は貯蔵できない。なぜならタンパク質(正確に言えばその構成要素であるアミノ酸)の流れ、すなわち動的平衡こそが「生きている」ということと同義語だからである。タンパク質の合成と分解のサイクルはとどめることができず、この回転を維持するために、外部から常にタンパク質の補給をしなければならない。
 成人の一日あたりのタンパク質所要量は60グラム(乾燥重量)だ。だから、私たちは何も毎日、血の滴る何百グラムものプライムリブを常食する必要はもちろんない。しかし、一日に60グラムのタンパク質は、身体の代謝回転を駆動するためにいつも必要とされているのである。
(中略)
 私たちの身体の中でタンパク質の代謝回転が最も早い臓器はどこか?それは膵臓である。膵臓は常時、大量の消化酵素を合成し分泌するため、高速度のタンパク質代謝を行っている。
 私自身もともとは膵臓の生化学的メカニズムを研究することから科学の世界に入った。実験動物を絶食させると、短時間であってもたちまち膵臓のチモーゲン顆粒という酵素を貯める細胞内小器官に異常が認められる。
 現代人がこれと同じ状態にあるとしたら?私は21世紀に新しい栄養失調(マル・ニュートリション)の研究が必要だと思い至り、現在、研究を進めている。


胃を全摘した大使にとって、胃とともに排除したガン細胞は切実な題材である。


p154~156
<ガン細胞とES細胞の共通点>
 ES細胞は万能細胞と呼ばれている。しかしES細胞だけから一つの固体は決してできない。一つの細胞から一つの固体を生み出せるのは受精卵だけである。その意味で真の万能細胞は受精卵しかない。ES細胞は全体を作ることはできないが、その一部とはなりうる。だから正確には多機能性細胞と呼ぶべきである。

 実は、ES細胞にそっくりの特徴を持つもう一つの細胞を、私たちはずっと昔から知っていた。ガン細胞である。ガン細胞はいったんは分化を果たして、生体内での自分の天命を知った細胞である。身体の一部として、その役割を果たしてきた。
 ところが、偶然が重なって、分化の過程を逆戻りし、未分化段階に戻ってしまった。それでいて分裂と増殖をやめることがない。
 このような暴走細胞が身体の様々な場所に散らばり、他の細胞の秩序を撹乱するのが、とりもなおさずガンの正体である。
 自分の分際を見失って、しかし無限に増殖することはやめない細胞。この点において、ガン細胞はES細胞と極めて似通った、おそらく表裏一体の関係にある。
 私たちがもし、ガン細胞に再び正気を取り戻させ、人体組織の一部に分化することを思い出させることができたなら、私たちはガンを制御することができるはずである。
 しかし、長年の研究を経ても、未だガン細胞に再び「空気を読ませる」ことに誰も成功していない。おそらく、現段階では、私たちはガン細胞を制御するのとほとんど同じ程度にしか、ES細胞やiPS細胞(ES細胞と同質で、より簡単に胚以外の細胞から作りだせる)を制御できないだろう。
 それは分化をコントロールすることに関して、同じ科学と同じ技術を必要とするからである。つまり過去、何度も何度も喧伝されたガン征圧の勇ましいプロミスが「果たされた」のと同じ程度にしか、再生医療へのバラ色のプロミスも果たされることはないだろう。私にはそう思える。 



p231~233
<「動的な平衡」とは何か>
 生体を構成している分子は、すべて高速で分解され、食物として摂取した分子と置き換えられている。身体のあらゆる組織や細胞の中身はこうして常に作り変えられ、更新され続けているのである。
 だから、私たちの身体は分子的な実体としては、数ヶ月前の自分とはまったく別物になっている。分子は環境からやってきて、一時、淀みとして私たちを作り出し、次の瞬間にはまた環境へと解き放たれていく。
 つまり、環境は私たちの身体の中を通り抜けている。いや「通り抜ける」という表現も正確ではない。なぜなら、そこには分子が「通り過ぎる」べき容れ物があったわけではなく、ここで容れ物と呼んでいる私たちの身体自体も「通り過ぎつつある」分子が、一時的に形作っているにすぎないからである。
 つまり、そこにあるのは、流れそのものでしかない。その流れの中で、私たちの身体は変わりつつ、かろうじて一定の状態を保っている。その流れ自体が「生きている」ということなのである。シェーンマイヤーは、この生命の特異的なありように「動的な平衡」という素敵な名前をつけた。
 ここで私たちは改めて「生命とは何か?」という問いに答えることができる。「生命とは動的な平衡状態にあるシステムである」という回答である。
 そして、ここにはもう一つの重要な啓示がある。それは可変的でサスティナブルを特徴とする生命というシステムは、その物質的構造基盤、つまり構成分子そのものに依存しているのではなく、その流れがもたらす「効果」であるということだ。生命現象とは構造でなく「効果」なのである。
(中略)
 このように考えると、サスティナブルであることは、何かを物質的・制度的に保存したり、死守したりすることではないのがおのずと知れる。
 サスティナブルなものは、一見、不変のように見えて、実は常に動きながら平衡を保ち、かつわずかながら変化し続けている。その軌跡と運動のあり方を、ずっと後になって「進化」と呼べることに、私たちは気づくのだ。 





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Last updated  2011.04.27 10:34:00
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