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2015.10.16
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カテゴリ: 気になる本
図書館で『かくて老兵は消えてゆく』という本を手にしたが・・・・
かねてより、著者の強情で頑固なキャラクターに一目置いているわけで、借りたのでおま♪


【かくて老兵は消えてゆく】
佐藤

佐藤愛子著、文藝春秋、2013年刊

<「BOOK」データベース>より
孤軍奮闘・七転八倒の日々の果て、ついに九十歳を迎える佐藤愛子!『ゆうゆう』連載の人気エッセイ、待望の単行本化。

<読む前の大使寸評>
瀬戸内寂聴さんより1歳ほど若い佐藤さんである。
ま~今でも現役ばりばりのご老人と言えるので・・・消えゆく年代ではないでえ。

rakuten かくて老兵は消えてゆく


「佐藤さんの常識」あたりを覗いてみましょう。

<独特の常識>よりp176~181
 「佐藤愛子は独特の常識の持主だから気をつけろと編集長にいわれて来ました」
 某女性誌から若い女性のインタビュアが来て、そう言った。
 聞いて、思わず私は笑った。「独特の常識」とは編集長もうまいことをいう。それをハッキリいうと、佐藤愛子は「常識なし」「偏屈」「何かとうるさい奴」ということになる。しかしそれではあからさまな悪口になると彼の「常識」が働いて、「独特の」という言葉を考え出したのだろう。

 なかなかの「常識家」だと思うが、それを無邪気なニコニコ顔で私に向かっていうこの部下は、上司の心知らず、常識不足といえるのではないか。生真面目な人ならそういわれると、
 「独特の常識? どういうイミかしら?」
 キッとなって反問するところだろうが、「独特の常識」の持主である私は、キッとならずに笑ってしまう。

 常識とは、
 「普通一般人が持ち、また、持っているべき標準知力。一般知識と共に理解力、判断力、思慮分別などを含む」
 と広辞苑は教えている。「常識」と並んで「情識」という項目があって、
 「情識―勝手な考え。わがまま。一説に争う心とし、また強情、頑固の意ともいう」
 とある。私はどうやら同じジョウシキでも情識家の方であるらしい。

 ところでこの春頃のことだ。ある週刊誌が天皇皇后両陛下が葉山御用邸で静養しておられるご様子をグラビアで紹介していた。
 散策の途中で両陛下は相模原から来たという40代女性とにこやかに話をされ、その時のやりとりを紹介している。女性曰く、

 「離れた場所から会釈や手を振ったりしましたら、歩く方向を私たちの方に向けて下さいました。陛下に『お身体は大丈夫ですか?』と尋ねますと、『大丈夫です。ありがとう』とおっしゃいました。最後に握手をお願いしましたら、わざわざ手袋を脱いで握手して下さいました。お二人の手は、柔らかくて温かかったです・・・」

 ここまで読んで私は心底驚いた。
 天皇陛下に握手を求める!
 そこいらの、どこの何者ともわからぬおばちゃんの分際で!
 何という非礼、非常識だろう。

 そもそも握手というのは、目上の人が目下の者に向かって手をさしのべるものだ。それが常識というものではないか。そんじょそこいらのおばちゃんが、畏れ多くも・・・
(えんえんと続くが、中略)

 災害を受けた人々を慰め励まそうとお考えになって天皇皇后両陛下が被災地に行幸行啓なされた時の様子がテレビで流されることがある。両陛下は床に膝をつかれ、上半身をさしのべて被災者の人たちをねぎらっておられる。そのお姿に向かって立ったまま携帯電話を掲げて、上から撮影しているバカ者たちを見るのは一度や二度ではない。(なぜか女が多い)

 聞いた話だが、そのバカ女の一人が陛下に向かってこういったという。
 「陛下、こっち向いて下さい」
 私は反射的に「うぬッ」と唸ったきり、次の言葉が出なかった。すべてに我慢強くいらっしゃる両陛下はその非礼に対して何ら不快感をお見せになることはない。そのお心のうちはいかばかりか。その非礼を制止する人間が一人もいないことに私はもう一度、「うぬッ」と唸る。こういう手合にはどんな言葉でわからせればいいのか・・・・もはや唸るしかないのである。


大使の夢は、佐藤さんと同じで楽隠居なのだが・・・そのあたりを見てみましょう。

<夢は楽隠居>よりp7~13
 考えてみると、『ゆうゆう』とも長いつき合いになる。最初「老兵の進軍ラッパ」というタイトルで書き出したのは2006年、私が82歳の時のことだ。その第一回目に私は「ラッパ吹く前に」という小見出しでこんなことを書いている。

 「いやもう、この世の移り変わりの目ざましいこと。この50年間の日本人の変わりようは価値観だけでなく、感性にも及んでしまった。大正生まれ、80を越えた私のいい分など、一生懸命になればなるほど空を斬るばかりである。『老兵は死なずただ消えゆくのみ』と去り際にいったマッカーサーの言葉をしみじみ噛みしめる今日この頃なのである・・・・」

 そんなことをいいながら、それでも2年間書きつづけていたのだが、そろそろ進軍ラッパも息切れして掠れがちになってきた。そこで、2ヶ月の休憩をもらった後、もう「進軍ラッパ」を吹く元気はないので、「消燈ラッパ」と題して1年半ばかり吹き鳴らしているうちに、気がつくと私は85歳になっていた。

 ある日、私は思った。85といえば昔なら「楽隠居」の身である。息子や娘、その連れ合いや孫たちに囲まれ、万事万端若い者が知らないことなどを教えてやって、おばあちゃんは何でも知っている、わからないことはおばあちゃんに聞けばいい、おばあちゃんおばあちゃんと尊敬され大切にされる日々を送っているところである。

 「昔」とはいわず今でも私の友達の中には日々の糧や仕事に追われることなく、穏やかに長い人生の疲れを休めている人もいるが、中にはいやもう、腰は痛いし血圧は高いし、めまいはするし・・・・、とボヤいている人もいれば、アルツハイマーで彷徨するご亭主を追いかけるのにヘトヘトになって隠居どころではない人もいる。

 「あの人どうやらボケがきているんじゃないかしら」といわれるている人や、そういっている彼女こそホントはボケているのだという人がいたりして、日向ぼっこの隠居暮らしはむつかしい時代になった。あーあ、長生きは昔はめでたいことだったのに、長生きもし過ぎるとおめでたくなくなってしまう。

 過ぎたるは及ばざるが如しとはこういうことなのね、と憮然と独り合点する日々がきて意気阻喪し、2009年12月「消燈ラッパ」を終わりにした。私は楽隠居を目ざそうとしたのだった。

 それから1年。楽隠居になったかといえば「楽」のつかないただのばあさんになった。しかし私がただのばあさんになっても、世の中は当然のことながら目まぐるしく動いているので、その動きは新聞やテレビ、訪問客らによっていやでも目や耳に入ってくる。

 かつて楽隠居が存在していた時代にはテレビはなかった。目がかすんでくればかすみっ放し、耳が聞こえなくなればそれを仕方がないこととして受け容れるだけだった。
 だから自然に楽隠居になることが出来た。楽隠居とは心身の衰えのおかげで手に入れることが出来る境地だったのである。それが今になってわかった。

 心身が衰えるということは欲望がなくなっていくことであるから、だから何もかも忘れて倅や娘任せにして、縁側で日向ぼっこしていられるのであろう。温泉に行きたい、おいしいものが食べたい、もっともっと楽しみたい、あれがしたい、これが欲しいと思い煩うのは老い切っていないからで、だから「あんなに働いたのに年金はこれっぽっち」と思ったり、「散々苦労してきたんだからこれからうんと楽しむわ・・・」とはり切ったり、「これからの老人はいかに生きるべきか」を考えて新聞に投稿したり、若者のあれこれに文句をつけたくなったりする。楽隠居になるにはエネルギーが涸れる必要があるのだ。

 しみじみそんな述懐を洩らしていると、
 「結構じゃないの。老人が若々しく元気でいられる社会は成熟している証拠ですよ」
 と70代の女性論客からいわれ、
 「はァ、確かにね・・・・」
 と答えないわけにはいかないような気持ちになってしまう自信のなさ。成熟?成熟とは何ぞや。

 ある日の新聞で、私は天皇陛下が中国の習近平副主席との面談に応じられたという記事を読んだ。天皇が外国の首脳や高官とお会いになる場合は、確か1ヵ月(か3ヶ月)前に申込みを受け、さまざまな調査調整の上で受諾が決まるのだと聞く。だがこの時は従来のしきたりが無視された。中国が求めるままに早速、面談が実現した。それは小沢一郎民主党幹事長が強引な力をふるったからだということだった。

 その記事を読んで私は「?」と思った。この「?」は、どうも釈然としない、いったいなんで?という疑問の「?」に加えていささか憤慨の気がある。以前なら、みるみるトサカを紅潮させて、地面を踏みしめる闘鶏のシャモになっていただろうが、その「?」でとどまった。楽隠居を志向する身としては、こういうところでトサカを紅潮させたりしてはいけないのである。
(中略)

 なにゆえ、小沢一郎氏はそんな権力を振るえるのか?どういう魂胆から百何十人もの議員と胡錦濤と握手させ、一緒に写真に写ってもらって喜々として帰ってきたのだろう?
 中国と仲よくするためなのか、それとも私なんぞにはわからぬ複雑な外交上の理由があったとでもいうのか?

 私の老いた胸に暗雲が湧いた。その黒い雲は「これで中国と日本は対等ではなくなっていくのでは?」という心配を孕んでいる。これによって中国は「これで日本はわが国にひざまづいた」と確信したに違いない。かつては世界に比類のない国のありようを誇った日本。「万世一系、神の御末のお方」とすべての日本人が仰ぎ見、尊敬し、「天皇陛下のおん為には命も惜しまじ」と思い決めて戦場に赴き、命を落とした日本男子の膨大な人数を思っただけで世界の国々は肝を潰し、かつ天皇陛下という存在の重さ、大きさ、厳かさに敬意を払ってきたのだ。テンノウ?なんでエライ?と心中ひそかに思っていたとしても、だ。


当時85歳の佐藤さんはかくも意気軒昂だったわけである。楽隠居はまだ早いで(笑)





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Last updated  2015.10.16 16:23:15
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