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2016.04.05
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カテゴリ: 歴史
図書館で『昭和30年代演習』という硬いタイトルの本を手にしたのだが…
パラパラとめくると『キュ-ポラのある街』、『ALWAYS 3丁目の夕日』、『パッチギ!』が見えるので…おお 団塊の本やないけ♪ということで借りたのです。



30年代

関川夏央著、岩波書店、2013年刊

<「BOOK」データベース>より
昭和三十年代とは、どのような時代だったのだろう。明るく輝き、誰もが希望に胸をふくらませていた時代だったのだろうか。貧乏くさくて、可憐で、恨みがましい―そんな複雑でおもしろい当時の実相を、回顧とは異なる、具体的な作品と事象の読み解きを通して浮き彫りにする。歴史はどのようにつくられ、伝えられてゆくのか。歴史的誤解と時代の誤読を批判的に検討する。

<読む前の大使寸評>
パラパラとめくると『キュ-ポラのある街』、『ALWAYS 3丁目の夕日』、『パッチギ!』が見えるので…おお 団塊の本やないけ♪ということで借りたのです。

shogakukan 昭和30年代演習


関川さんが、昭和三十年代の陰謀史観、ナショナリズムを語っています。
なお大使にとっては、懐かしいが、とにかく貧乏くさい時代でした。
p4~6
<貧乏くさくて、可憐で、恨みがましい時代> より
 松本清張は1章を設けて考えてみる価値のある作家ですが、彼の『日本の黒い霧』(昭和35年)などは、他責論をさらに発展させた「陰謀史観」だといえるでしょう。一般人はもちろん、「進歩的」マスコミも含め、政治と経済は巨大組織の手のひらの上で踊らされているのだ、とする考え方です。

 「陰謀史観」は、世界中どこにもあって、定期的に流行します。
 西欧では、古くは旧教と新教の血なまぐさい争いの背後にそれはあり、さらにはユダヤ人やフリーメイソンの陰謀論、少しトーンは違うものの19世紀末に流行した黄渦論がそうです。中国人と日本人、とくに日本人に対する過剰な警戒心が発動された結果の黄渦論ですが、なんら根拠のあることではありません。

 普通このような現象は、おもに不況下で、自分が不当に損をしている、自分の地位が不当におびやかされている、と集団的な被害者意識が広がったときに起こります。事態の責任者を見つけたい、誰でもいいから「犯人」を探したい。「悪いやつ」に責任をとらせたいという衝動が、集団を動かすのです。

 第二次世界大戦後の日本では、はなはだしい勢いで経済が成長し、分けるべきパイが日に日に拡大していきました。そんな時期なのに「陰謀史観」が流行したのは不思議なことです。松本清張は「陰謀」の企図者を、占領軍、または占領軍と結託した勢力だとしました。占領軍と結託した勢力とは、高級官僚と保守党政治家、およびその周辺の「右翼」の巨頭などです。

 つまり「陰謀史観」への情動の根底にあるものは、必ずしも不況とか失業問題ではなかったのです。自分の能力への低い評価とその結果の貧しさへの怒り、いわゆる「自己実現」を阻害された恨みだけでもなさそうで、より大きな情動は民族主義ではないかと思われます。

 こういう動きは、実はいつの時代にもあります。2010年前後の一時、奇怪な行動と暴力的言辞で耳目をひいた集団「在日特権を許さない市民の会」(在特会)などもそのひとつです。在日コリアンが「不当に優遇」されていると叫ぶ集団の背後にあるものは、日本社会の21世紀的貧困と、ネット上の情報のみが現実と信じる青年たちのセンスです。そしてそれは過剰な民族主義の色彩を帯び、在日コリアンや中国人の「陰謀観」を警告するのです。

 昭和30年代の場合、敗戦後占領軍に禁じられ、また日本人が自主的に禁忌とした民族主義、その解放への強い希求が、大衆的文芸表現、とくに松本清張のそれには野太く底流していたのだと思われます。占領が終わったのは昭和27年4月ですけれども、それがすぐには民族主義的気分の解放衝動とは結びつかず、まず占領軍の「陰謀」という表現としてあらわれたのは、日本が再独立したので、もはや検閲はなく、逮捕される心配もなくなったからでしょう。
(中略)

 その一方で昭和30年代は、フランソワーズ・サガンの翻訳小説が流行した時代として記憶されます。早熟なフランス人少女の生意気な書きぶりが尊重され、遠くてとても行けないけれど、南フランス地中海岸の「バカンス」が夢想され、また流行歌中の常套句となる「小麦色の肌」が女性美の肯定的形容となったのもこの時期からでした。

 昭和30年代とは、貧乏くさくて、可憐で、恨みがましい、そんな複雑でおもしろい時代だったといえます。


在日コリアンを描いた2005年公開の『パッチギ!』を、大使は高く評価するのだが・・・関川さんが、この映画の背景を語っています。
パッチギパッチギ

p18~21
<『パッチギ!』が語る「歴史」>
 『ALWAYS 3丁目の夕日』はよいとして、では在日コリアン高校生の物語ではどうでしょうか。『パッチギ!』(2005年)という映画がありました。昭和43年の京都を舞台に、朝鮮高校の生徒たちをえがきました。彼らは「差別」に苦しむあまり暴力的になったり、「祖国」へ帰ってサッカーの国家代表選手になろうと考えたりします。

 この作品の世評はとても高かったのですが、私は強烈な違和感を覚えました。
 昭和43年には北系コリアンに北朝鮮の実情は広く知れわたっていました。昭和34年の暮れに始まった「帰国運動」は昭和35年に高潮、36年には衰えはじめて昭和37年以降、急速に退潮しました。

 帰国者から物資援助をもとめ、けっして「帰国」しないよう日本の家族に謎をかけたような不可解な手紙が届くようになっていたからです。やがて各県支部に「帰国者」の数をそろえるようにという通達が下され、また総連内部の権力闘争に敗れた者への「懲罰」としての「帰国」が行われたりもします。

 「帰国事業」はやがて、帰国希望者の払底と北朝鮮の内部事情のため、昭和42年に中断されます。北朝鮮の内部事情とは、文化大革命下の中国に「修正主義者」として厳しい批判にさらされた金日成が、強烈な危機意識のもとに、北朝鮮を「金日成主義」を掲げる新興宗教国家に再編成したことです。その結果『パッチギ!』の現在形である昭和43年には「帰国船」は出ていませんでした。

 「北朝鮮に帰る」…といっても在日コリアンのうち北部朝鮮出身者の血筋の人びとは1パーセントにも満ちません。出稼ぎや学業のために戦後も日本にとどまった多数派、慶尚南道や済州島からの移住者にしても、一世以外はみな日本生まれ日本育ちで、コリアに行ったことがある人自体がほとんどいませんでした。戦後帰国したものの、朝鮮戦争の惨禍から逃れて「密航」で再来日した人びとにしても、みな南部出身でした。

 「帰国運動」は、民族主義の一時的な狂熱がもたらした悲劇でした。それを好意的に眺めたり、ときには支援したりした日本人は、やや酷ないいかたをすると「人を死に至らしめる善意」を発揮したことになります。

 北に「帰った」在日コリアンは多く、飢えと不条理な迫害によって命を落としました。さらに昭和50年代後半以降、北朝鮮自身が招いた経済の著しい停滞の末に、北朝鮮は「帰国者」を日本に在住するコリアンから莫大な金銭を搾り取る「人質」として扱いました。朝鮮総連と北系コリアンは、そのような事情を知りながら、日本人に対してはまったく別のことを口にしていましたから、昭和が終わって平成となって久しい時期に至っても、北朝鮮の肩を持つ「進歩的」日本人があとを絶たなかったのです。

<善意による「誤読」>
 この映画の中でたびたび歌われたのは「イムジン河」というフォークソングで、昭和41年に京都のグループ、ザ・フォーク・クルセーダーズがはじめて歌いました。グループの作詞を多く担当した松山猛が松山猛が京都朝鮮学校を訪れた折に耳にした曲を加藤和彦が採譜、「水鳥は自由に越えるあの川を、人間はなぜ渡れないのか」という一番は朝鮮語歌詞の不完全な翻訳ですが、二番と三番は松山猛があらたに書きました。

 漢字では「臨津江」と書くイムジン江は、南北軍事境界線付近を黄海へ流れる小川です。韓国音では「イムジンガン」、語頭のLを発音する北朝鮮音では「リムジンガン」となります。そこにかかった「帰らざる橋」を渡って少し北上すると板門店です。

 映画『パッチギ!』の主人公の高校生は、朝鮮学校にサッカーの試合を申し込みに行ったのですが、ほんとうの動機は街で見かけたチマ・チョゴリの制服の美少女に惹かれたからでした。主人公は朝鮮語を読まないので気にならなかったでしょうが、朝鮮学校の校内は戦闘的なスローガンであふれています。映画の現在形である昭和43年は金日成が「主体思想」の名のもとに自分と自分の一族を「聖家族化」、すなわちカルト化した2年目でした。

 ザ・フォーク・クルセーダーズがはじめて「イムジン河」を歌ったのは昭和41年4月ですが、その年10月、メンバーの留学でグループは一度解散しました。12月、同志社の学生であったはしだのりひこを加えて1年間だけの約束で再結成した彼らが遊びながらつくったコミックソング「帰って来たヨッパライ」が大ヒット、合計で280万枚を売りました。

 その勢いをかって昭和43年3月、メジャー・レイベルの東芝から「イムジン河」が出ることになったのですが、発売記念パーティの翌日、「政治的配慮」を理由に、突然発売中止になりました。またこの歌は永く「放送自粛歌」ともなったのです。

 南北統一を祈念する北朝鮮の歌だとされる「イムジン河」への「政治的配慮」とは、実は右翼や当局からの圧力ではありませんでした。朝鮮総連からの強硬な抗議に対するものでした。






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Last updated  2016.04.05 00:08:57
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