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2016.09.24
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図書館で『樹木の文化史』という本を手にしたのです。

この本では第2部の樹木譜(バオバブ/カバノキ/カジノキ/ツゲ/シーダー ほか)が、画像にあふれ充実している。『沙漠の事典』という本でアフリカビャクシンの話を読んだ後なので、借りた次第でおます。


【樹木の文化史】
樹木

フランシス・ケアリー著、柊風舎、2016年刊

<「BOOK」データベース>より
樹木は人間と、自然、神とを結びつけるものであった。世界最古の文学『ギルガメシュ叙事詩』には天を衝き抜くようなレバノン杉の森が神々の世界とされ、ウェルギリウスの『アエネーイス』の主人公も森の不思議な力に魅了され、南アジアの叙事詩『ラーマーヤナ』でも森が重要な空間となっている。大英博物館所蔵の樹木の標本帳や標本箱、スケッチ、水彩画、工芸品などを通して、われわれの歴史に樹木がいかに重要な意味を持ってきたのか、科学と芸術、旅行と交易、詩文と散文、神話や宗教など、裾野の広い文化史の一部として読み解く。

<読む前の大使寸評>
この本では第2部の樹木譜(バオバブ/カバノキ/カジノキ/ツゲ/シーダー ほか)が、画像にあふれ充実している。『沙漠の事典』という本でアフリカビャクシンの話を読んだ後なので、借りた次第でおます。

 著者は大英博物館の幹部だったことだから、イギリス人が描く文化史ということになります。

rakuten 樹木の文化史

オークヨーロッパナラ(オーク)

イギリス人にもっとも親しまれているオークを、見てみましょう。
p246~252
【オーク(Quercus)】
 常緑樹と落葉樹、合わせて9百種を超えるオークが、ヨーロッパ、アジア、南北アメリカに分布している。強さと忍耐の象徴として、この木は地域や民族や帝国のアイデンティティーに関わる神話の数々を支え、ギリシャ神話の主神ゼウスや北欧神話の雷神トールをはじめとする神々の聖樹だった。

 ギリシャ北西部ドドナにあったゼウスの聖域(ギリシャ最古の神託所とされている)の中心にはオークの古木があった。ヘロドトスによると、エジプトのテーベから黒い鳩が飛んできて、この場所にゼオスの神託所を作るようにと人間の声で言ったという伝説があった。ホメロスの『オデュッセイア』の中で、主人公オデュッセウスは「長い留守の後に、イタケーの緑豊かな地にどのようにして帰るべきか、ゼウスの考えを高く茂った樫の木の葉擦れから聞こう」と、ドドナへ行く。

 金で作られたオークのリースはギリシャの神殿や聖地の財宝目録に掲載され、マケドニア、イタリア南部、小アジア、黒海北部地方では副葬品として知られている。その一例が古代マケドニアの首都アイガイで最近発掘された紀元前4世紀のものだ。
(中略)

 ドングリは象徴としてだけではなく、経済的にも重要性をもっていた。プリニウスによると、特に現在のスペインにあたる地方ではドングリを乾燥させて粉に挽き、パンを焼いて食卓に供していたという。「ドングリは多くの民族にとって、平和を享受している現在もなお、財産の一部である」。

 プリニウスが名を挙げた「ヘルキュニアのオークの森」は、現在のドイツ南部に、西はシュバルツヴァルトから、東はカルパティア山脈までを覆っていた。しかしこれは、18世紀から19世紀にかけてドイツの文化的民族的アイデンティティーの要となった古代の森のほんの一部にすぎない。

 このアイデンティティー形成の中心的人物が、この森で紀元9年にローマ軍を破ったゲルマンの族長ヘルマンである。歴史家タキトゥスの記述を下敷きに、詩人のF・G・クロブシュトックは三篇の領歌を書いた。中でいちばんよく知られているのは1767年作の「ヘルマンの戦い」だろう。プロイセンがオーストリアやロシアとともに1813年にライプツィヒの戦いでナポレオンを破ったとき、ヘルマンの勝利との類似が即座に喚起され、ヨーロッパ解放戦争の戦中戦後に、この森は自由と団結の象徴となった。
(中略)

 イギリスに目を向けると、ウィリアム・ブレイクの詩『エルサレム』が記憶を呼び覚ました「アルビオンのオーク林」には、主にヨーロッパナラやフユナラが生えていた。17世紀の末にアメリカ北東部から新種のチェスナットオークとスカーレットオークが持ち込まれたが、それらは「地元」の仲間たちが背負っていた象徴性を引き受けなかった。ロバート・ヘリックの誌「アンシアに捧げる」は古くからの慣習である教区の「境界検分」に触れている。もしオークの木が境界になっていたら、その木に向かって福音書を読み上げる習わしだった(ロンドン市内の地名「ゴスペルオーク」はここから来ている)。
(中略)

 このように特別な地位を与えられているにもかかわらず、オークは他の木々と同じように多種多様な用途の犠牲になってきた。オークの利用は、内陸の水路を往き来するために幹をくりぬいて丸木舟が作られた青銅器時代や、造船に使う木材と金属精錬に使う木炭を供給するために南イングランドのオークの森を消耗させたローマ人の時代までさかのぼることができる。イーブリンが1664年に「樹林誌」で嘆いた状況は国家の非常事態だった。(中略)

 イギリス諸島のアイデンティティーをローマ人やそれに続くノルマン人による征服以前の時代に求めて19世紀以前に盛んになったケルト民俗学では、オーク、トネリコ、それにソーンが三大聖樹とされた。このロマンティックな考えがラドヤード・キプリングの子ども向け歴史小説『プークが丘の妖精パック』冒頭の「木の歌」の下敷きになっている。

 古きイングランドを彩って
 美しく繁る木々のうち
 天下に並ぶものがない
 オーク、トネリコ、そしてソーン


実質的に日本特産のようになったイチョウを、見てみましょう。
p171~174
【イチョウ(Ginkgo biloba)】
 Ginkgo(イチョウ属)は「生きた化石」で、bilobaは約二千万年をさかのぼる化石記録から判明している多くの中からたった一つ残った種である。中国が原産で、未来仏弥勒菩薩や孔子と特に深いつながりがある。そこから、中国、韓国、日本で寺社に植えられるようになった。

 イチョウは、ドイツ人植物学者エンゲルベルト・ケンペルがヨーロッパ人に紹介した中でいちばん有名になった植物である。1691年に長崎で初めてイチョウを目にしたケンペルは、こう書き記した。「もう一種、ギンナンというナッツがあって、大きなビスタチオナッツの形をしている。これはこの国のいたるところで穫れ、ホウライシダに似た形をした葉をもつ。美しくて信じられないほどの大木になる。この木はイチョウノキと呼ばれ、油が多くの用途に供されている」さらに重要なことに、ケンペルは1683年から1693年まで、ロシア、ペルシャ、アラビア、日本をめぐった旅で目にした、イチョウやカジノキを初めとする植物について、豊富な挿絵の入った本を1712年に出版した。

 この『廻国奇観』はサー・ハンス・スローンの興味をひき、ケンペルが1712年に亡くなると、ハノーファーにいたジョージ一世の侍医をケンペルの故郷レムゴーに派遣して、原稿や「天然および人工の珍品多数」というコレクションを買い取った。この品々は1753年にスローンのコレクションの一部として大英博物館に収蔵され、現在は自然史博物館、大英博物館、大英図書館に分割されている。さらに、スローンはケンペルの未刊の原稿『今日の日本』を翻訳させ、それが1727年に「日本誌」として刊行された。

 ヨーロッパでは早くも1750年代にはイチョウが植えられていたようで、ロンドン東部でマイルエンド種苗園を営んでいたジェイムズ・ゴードンが栽培していたという記録がある。もしかすると、キュー植物園に今も生えている、イギリス最古のイチョウは、ここから来たものかも知れない。

 ゲーテはイチョウに魅せられた多くの文筆家や芸術家の一人だった。その詩『イチョウ』は、当時ゲーテが夢中になっていた女性、マリアンネ・フォン・ヴィレマーに捧げられている。
(中略)

 日本の美術や意匠は19世紀後半のヨーロッパにとても大きな影響を与えた。イチョウはフランスの装飾様式アール・ヌーヴォーや、そのドイツ版ユーゲント・シュティールで、印象的なフォルムの一つとして、写実的にも幾何学的にも利用された。イチョウの木は今も園芸家のみならず、芸術家をも引きつけてやまない。

 2005年にギルバート・アンド・ジョージはヴェネツィア・ビエンナーレのイギリス館のために25点の新作を制作したが、そのすべてにイチョウの葉の形が取り込まれている。イチョウは補完医療に広く使われ、大気汚染に強いことから、あらゆる逆境に耐えて生き残ることの象徴と見られるようになった。広島では、1945年に原子爆弾が投下された爆心地に、今も4本のイチョウが枯れずに残っている。


ところで、ギンコー(ginkgo)という奇妙な綴りについては イチョウ 奇跡の2億年史(3) で謎明かししています。

『樹木の文化史』1





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Last updated  2016.09.24 14:25:00
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ご紹介感謝  
まろ0301  さん
 うーん、これは読んでみたい本ですね。「ギンコー」の本も。ある「モノ」を取り上げて、深く掘り下げていきますと、人類の歴史のプラス面、マイナス面と必ず接点があります。さらに「考証」というのは、該博な知識と何よりも語学の才が必要ですから、憧れます。 (2016.09.24 11:23:01)

Re:ご紹介感謝(09/24)  
Mドングリ  さん
<イギリス人は、イングリリッシュガーデンなど園芸好きで知られるが、自らの手で森林を破壊したことに悔悟の思いが強いようです。それから、プラント・ハンターとしても卓越しているわけで、勘定高い面も秀でています。

それから、帝国主義では、歴史といい、実績といい・・・押しも押されもしないほどぶっちぎりの国でしたね。 (2016.09.24 15:56:31)

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