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2017.01.28
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カテゴリ: アート
図書館で『日本人の美意識』という本を手にしたのです。
キーンさんは、日清戦争をどのように見ているのか・・・興味深いのです。
借りたのは1990年刊のハードカバーです。




日本人

ドナルド・キーン著、中央公論社、1999年刊

<「BOOK」データベース>より
枯枝に鳥のとまりけり秋の暮ー芭蕉の句の鳥は単数か複数か、その曖昧性にひそむ日本の美学。無個性な日本の肖像画の中で一休像だけがなぜ生きているのか。日清戦争の及ぼした文化的影響など、鋭い分析による独創的日本論。

<読む前の大使寸評>
キーンさんは、日清戦争をどのように見ているのか・・・興味深いのです。
借りたのは1990年刊のハードカバーです。

rakuten 日本人の美意識


日清戦争当時の日本と中国を、キーンさんはどのように見ているのでしょう。
p116~120
<明治初年における日本と中国>
 この戦争に、いわばその文化的特徴を提供したのは、敵…すなわち中国であった。それまで日本が、ずっとその模範、もしくは張り合う相手にしていた国に他ならない。なるほど18世紀以後、国学者が、神国日本の霊的優位を唱えて、中国軽視の態度を取ってきたのは確かである。

 また蘭学を修めた学者は、ヨーロッパ文明への熱中のあまり、中国人の化学精神の欠如をしばしば批判した。例えば中国の解剖学者にによる記述の出鱈目さを言うのに、オランダ医学書の正確さを持ち出したり、また「霊的な」喚起力を持つ中国画家による風景画をおとしめようとして、ヨーロッパ風の写実主義を持ち上げたりしたのである。

 とはいえ中国からの文化的影響は、19世紀の日本においても、依然として、きわめてあなどりがたいものがあった。西欧文物の盲目的摸倣時代を招来したとはいえ、明治維新は、その中国文化の威信を、基本的に変えることはなかったのである。明治天皇がどこか神道の社に参詣したならば、それを記念する石碑には、漢文で銘文が刻まれた。また徳川家の支配者が奉じていた儒学思想は、ある程度の修正は加えられたとしても、「純粋に」日本的、あるいは西洋的思想体系によって、取って代わられたわけではなかった。

 中国文化はさておき、中国という国に対する日本人の感情には、もっと曖昧なところがあった。すでに18世紀、林子平は、中国のことを、日本の安全に対する潜在的脅威として説明しており、国土防衛をやかましく言うものの中には、子平のこの見解を真面目に信じるものもいた。

 阿片戦争で中国が敗北を喫したことは、例えばイギリスのようなヨーロッパの諸国に比べて、中国が、軍事的にはいかに弱いかという事実を、勿論日本人に見せつけた。と言って日本人の中国崇拝の伝統は、そうたやすく崩れ去るものではなかった。1890年に生きていた大方の日本人は、中国が強国だということを、信じて疑わなかった。

 1883年から85年にかけて起ったフランスとの要領を得ない戦争は、日本でも、細大洩らさず報道され、錦絵にさえ描かれたが、それによって中国の威信は、日本人の心の中で、少なからず回復されていた。その上、中国海軍が、日本が持っていたものより、はるかに優秀な戦艦を増強したことに、日本人はすでに肝をつぶしていたのだ。

 1890年、中国の艦隊が日本を訪れた時、『国民新聞』の見出し記者は、つぎのような戯詩を書いたという。「チヤンチヤン坊頭は意張りけり、世の弱虫はおそれけり」。東大総長をしたこともあり、指導的な教育者、その上作家でもあった外山正一は、中国艦隊の旗艦定遠号を訪れた時の印象を、次のように書いている。
「私は過日支邦北洋艦隊提督丁汝昌閣下から貴族院議員の一人としてお招きに預りました。支邦の軍艦即彼の定遠号と申しまするのは実に立派なる軍艦で御座りまする。其堅牢なることに於きましては東洋にある色々の艦隊の中には是に匹敵するものは殆ど無いと云うやうな雷名がありまするやうであります。(中略)然るに此時少し遺憾に思ひましたのは其水夫の有様であります水夫は大概はどうも其人に充分気力がないやうに見えます、色は充分能くなく、肉は充分付いて居らぬ様に思はれました」

 日本人を感心させるための、多分に示威運動だったと思われるこの丁汝昌提督の訪問にによって、外山やその朋輩は、少なからずの恐慌を感じさせられたはずである。だがそうした心理のさなかにあっても、彼らは中国の文化に対する敬意を表明するのにやぶさかではなかった。

 丁提督と中国海軍士官たちは亜細亜協会に招かれて、東京の紅葉館での饗宴に出席している。この席で主客互に漢詩を作って交換しあったが、中国側の詩の大方は、日本の景色の美しさや、提供されたもてなしに対する丁重な讃辞を連ねたものであった。
(中略)

 これを読むと、この日亜細亜協会の会員たちが、それより千年前の日本人と同じように、なんとか中国人に好印象を与えようとして、いかに懸命であったかが、分かるのである。日清戦争以前の日本に居住したさまざまな中国使節たちは、ヨーロッパやアメリカから訪れる高官たちへのもっと贅沢だがいかにもあからさまなもてなしより、もっと懇篤なもてなしを受けていた。

 ところが日本人で中国を訪問するものは、必ずしもそのような好遇を受けるとはかぎらなかった。すでにその頃日本は、物質面での進歩では中国を追い越していたのに、まだ多くの中国人が、日本人のことを「東夷」だと見なしていた。したがって日本人の賞讃を、無理してかちとることもない、と見ていたのである。しかし日本に来た中国の文人たちは、行くところどこででも賓客扱いを受け、しかもヨーロッパ人ではとてもそうはいかないやり方で、日本的状景にぴったりとはまっていた。日本の学者文人が、王〇のような学者や、黄遵憲のような外交官と、詩を交換することから得た喜びは、漢字の世界でこそ享受しうるものであった。漢字は、国境を越えることができたのだ。


ウン 漢字文化圏がキーワードになるんだろうね♪

更に読み進めてみましょう。
p138~139
<敵意の創造>
 日本人の反中国感情は、とりわけ李鴻章に向けられた。しかしこの政治家は、とくに1879年、アメリカのグラント将軍が、李は世界の三大政治家の一人だと褒め上げたこともあって、以前は日本でも高く評価されていた。事実李鴻章は、東洋のビスマルクだと言われたことさえあったのだ。しかし日清戦争の勃発とともに、彼は急に嘲弄の的となってしまったのである。だから錦絵の絵師は、常に珍妙きわまる服を着ていて、なにかにびっくりしているか、それともおびえているか、いずれにしてもまことに無様な姿の李を描いた。講和談判の席上、こぶしで机を叩きながら、決然として要求を提示する日本側に相対した時の李、あるいはいずれかの戦闘で、中国軍惨敗のニュースを聞かされた時の李、そうした時の李の周章狼狽ぶりは、常に滑稽に描かれている。
(中略)
 李鴻章の日本での悪評は、ようやく戦争の終結後に回復されることになる。すなわち講和条約を結ぶために全権として、李が下関に来ていた時、日本の過激な愛国者によってピストルで撃たれ、傷を受けた際である。折角戦争中、細心に育て上げた日本の評判が、この無謀なテロ行為のおかげで、海外で失墜することを恐れた日本は、和平条約の条件を思いきって和らげた。そして皇后自身、傷ついてベッドに横たわる李のために包帯を作ったという。とはいえ、こうした寛大な出方も、中日間の、新しい関係を変えることは出来なかった。

 錦絵、流行歌、戦争劇など、どれも、今の中国人がいかにおくれていて、卑怯未練、そして軽蔑にさえ値するか、したがって栄光ある過去の文化伝統を受け継ぐに値しない連中であるか、ということを、日本人に信じこまそうとしたのである。


なお、中国人が日清戦争をどのように見ているのかは、 『日本にとって中国とは何か』2 にも、述べられています。





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Last updated  2017.01.29 23:04:20
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