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2019.01.02
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カテゴリ: アート
図書館で『いしいしんじの本』という本を、手にしたのです。
巻末の著者略歴を見ると、京大仏文科卒で、織田作之助賞を受賞しているということで、変り者なんでしょう・・・ということで借りたのです。

図書館が正月休みに入るので、年越し本として追加して借りたのです。




いしいしんじ著、白水社、2013年刊

<商品の説明>より
小説家いしいしんじは読む。とにかく読む。青年時代に没入した漱石や宮沢賢治、ブラッドベリから、小川洋子、小島信夫、辻原登、莫言、グレアム・スウィフト、ゼーバルト、マンガレリといった古今東西の作家たちまで。ジャンルの分け隔てなく読むのも、いしい流読書の魅力。写真家鬼海弘雄や絵本作家荒井良二、現代美術家大竹伸朗、漫画家ほしよりこなど、著者が語る本は、どれもみななんと面白そうであることか。なにより読んでいる本人が心の底から、身体の底から、本の時間を味わい、楽しみ、生きている。

<読む前の大使寸評>
巻末の著者略歴を見ると、京大仏文科卒で、織田作之助賞を受賞しているということで、変り者なんでしょう・・・ということで借りたのです。

amazon いしいしんじの本


冒頭のエッセイを、見てみましょう。
p7~10
<ティーンエイジャーのいしいしんじ>
 1999年半ば、地球が終わるとささやかれていたころ、僕はそんな外部世界のことなどどうでもよう、このまま俺は終わる、というかもう終わってる、と部屋で寝転んではうそぶき、ただ、ドアをあけ外をみわたすと、なんだかまだ終わってない、書き割りの薄っぺらな風景がつづいている、けどそんなものにごmかされてたまるかと冷笑しながら、やっていることは朝から酒をのんでいるくらいだった。仕事はできなくうなっていた。人と会えないんだからどうしようもない。

 その頃までの仕事というのは、人にあって興味深いその人物記を書いたり、赤塚不二夫やきんさんぎんさんと対談したり、抱腹絶倒の爆笑エッセイを書いたり、アクロバティックな短篇、息をとめて突っ走るような掌編、外国と日本の比較文化論や、科学読み物、絵本、四コマ漫画まで書いていた。つまり、なんでもありのライター稼業、注文があったなら、ぜったいに締切には遅れず、注文したその編集者の予想をこえる完成度の原稿をわたすこと。どんな分野の、どんなレベルの原稿でも、まる一日集中しさえすれば、「完璧に」書きあげる自信があった。

 春先から、へんだ、という予兆はあった。まわりの建物がぐんとせりあがり、僕のほうへ先端からなだれかかってくる気配がしてしょうがない。原稿の注文がどれもこれも似通ってきた。かとおもえば、千本ノックのようにばらばらの注文がきた。居酒屋で8時間近くしゃべりつづけ、トイレに立って鏡をみたら、勢い余って唇をかんだらしく顎が血まみれになっていたり、寝ていても、眠っている自分をみながら、起きているもうひとりがあらわれ、僕に話しかけるのだが、その話しかけられえている僕自身ははたして眠っているのか、それともめざめているのだろうか。

 そのうち注文がとだえ、頭がぐるぐるまわりながらそのど真ん中でからだが動かない感覚におそわれつつ、僕はこのときはじめて、それまで自分が、どんな内容の原稿だって「完璧に」書ける、万能の書き手、と思いこんでいたことを、寝ていても起きている例のもうひとりの口から、ねっとりした声でささやかれた。そして、その思いこみが、まったく見当ちがいだったことも。
(中略)

 年末、東京でひとりで暮らすのが、精神的にも肉体的にも金銭的にもきびしくなり、うまれそだった大阪の実家に、いったん身を寄せることにあった。といって、新幹線の乗車賃などもっていない。JR神田駅を徒歩でたずね、駅長に「なんとかならないでしょうか」と相談した。大阪の天王寺駅の駅長室に、先に帰省していた兄に来ておいてもらう。神田駅と天王寺駅を電話でつなぎ、駅員同士で会話がなされ、僕は神田駅の駅長から、黄ばんだ書類を1枚わたされ、「これがあなたの切符になる。車掌にみせても、若い職員だと手続きを知らない場合が多いから、相手によく読んでもらいなさい」。そうして東京駅から新幹線に乗りかえて大阪にいった。この出来事はもうひとりの自分が、耳の底にささやいたエピソードなどではなく、神田の駅長も「20年ぶりくらいに書いたなあ」となつかしんでいたように、刑事が逃走中の犯人を捕らえ、連れ帰るときに駅でとる、昔ながらの手続きである。

 実家にもどった僕は、祖母が向かい住んでいた四畳半で、腹ばいになったり古い「婦人画報」をひらいたりしてごろごろして過ごした。
 僕は母に、こどものころ、僕がこの部屋でなにかを書いたことがあったかたずねてみた。母は、4歳から6歳までかよった幼児生活団にもっていくため、ずっと「お話」を書いていた、とこたえた。「ふうん、そういうの、とってあったら、いまどんな風に読めるやろ」僕がいうと、母は妙な顔をし、「なにゆうてんのん、ぜんぶとったあるがな。二階の六畳間の袋棚の、つづらのなかに残してあるがな」

 自分のうちに「つづら」がある、というインパクトも相当大きかったが、ともかく六畳間にあがり、踏み台にのぼって袋棚をあけると、兄のぶん、ふたごの弟のぶんにはさまれ、飴色の藤であまれた僕のつづらがひっそりと置かれている。ふたをとってみると、半ばで折られた茶封筒がみえ、あ、これだなと一目で直感した。封筒のなかには折り紙サイズの正方形に整えられた画用紙の束がはいっていた。なんだか、ここでずっと待ち伏せしていたようにもみえた。いちばん上の青い表紙には、おぼえたての平仮名で、このように書かれていた。「たいふう いしいしんじ」。これがまさしく、四歳半の僕が書いた、いちばんさいしょの「お話」だった。

ウン 切符のエピソードがええやんけ・・・やっぱりかなり、変り者である。

『いしいしんじの本』5 :シンジさんの読書遍歴
『いしいしんじの本』4 :吉幾三と太宰治のつながり
『いしいしんじの本』3 :いしいさんの読書歴
『いしいしんじの本』2 :中国という感覚
『いしいしんじの本』1





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Last updated  2019.01.02 00:16:13
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