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2019.01.14

『日本の景観』1

カテゴリ：気になる本

図書館で『日本の景観』という本を、手にしたのです。
先日、『思考としてのランドスケープ地上学への誘い』という本を読んだところだが・・・
その勢いでこの本を読む気になったわけです。

樋口忠彦著、筑摩書房、1993年刊

＜「BOOK」データベース＞より
どの人にも共通して好ましいと感じられる日本の風景を「水の辺」と「山の辺」、さらに「八葉蓮華」型景観、「隠国」型景観、「蔵風得水」型景観などいくつかの典型にさかのぼり、風景が包含する精神的また空間的な特性を、文学作品や絵画を引用しつつ細かく考察する。さらに日本の景観とヨーロッパの景観を比較検討するとともに、日々変化し続ける現代の都市に生き生きとした棲息地景観を作っていくための道を探る、景観工学の代表作。サントリー学芸賞受賞作。

＜読む前の大使寸評＞
先日、『思考としてのランドスケープ地上学への誘い』という本を読んだところだが・・・
その勢いでこの本を読む気になったわけです。

rakuten 日本の景観

古代の治水技術を、見てみましょう。

p33～35
＜自然流の日本の技術＞
　自然の個々の出来事や物と、しみじみとした情感でもって一体化していくという日本人の自然観は、感性的であるとともに受身的であるといえよう。自然の中に働いている普遍的な法則を導き出し、それにもとづいて自然に働きかけ、自然を切り拓き、自然を統御していくという能動的な態度とは大いに異なるのである。

　しかし、人間がこの自然の中で生きていくためには、自然に能動的に働きかけていく態度も必要であることはいうまでもない。この自然に対する能動的な態度は、自然に対して働きかける技術によく表現されているはずである。そこで次に、日本人がどのように自然に働きかけ、自分たちの環境をつくり出していたかを簡単に振り返ってみよう。

　縄文時代以降、日本人は農耕技術を中心に徐々に技術を発展させていく。しかし、古代の農耕地は、もともと水稲に適した山の辺や小河川沿いの湿地に営まれた天水田が中心であった。そして、水のコントロールが容易な小河川の上流・支流の小川や谷川から水を引く小水路をつくる技術を発展させながら、山の辺や自然堤防周辺の半湿地に、小規模な水田を広げていったといわれる。この小水路も、かつて水の流れていた自然の流路を復原する程度のものであった。

　古代農耕技術において画期的といわれるのは溜池である。山から流れ出す小川の水を、丘陵などの背後の凹地に貯え、山の辺の緩傾斜を利用して田に水を引くものである。急流河川や平野を流れる大河川の水を堰き止めるためには、よほどの技術が必要である。山から流れ出る小水量の小川を、自然丘陵を巧みに利用して貯え、山の辺の緩傾斜を生かしながら田に水を導くという、このミニダム方式は、山国でたくさんの山の辺がある日本の自然地形をきわめてうまく生かした技術といえる。
　日本最大の盆地といえる大和盆地の山の辺が古代日本の中心になっていったのも、この技術に適合した自然地形があったからと考えられるのである。

　戦国時代に入って、急流大河川をもつ山岳地内の盆地が開発されていく。ここでとられた技術は、乱流する河道を安定化し、洪水の危険をできるだけ少なくする治水技術と、水ののらなかった扇状地に水路をめぐらす利水技術であった。この時代の代表的治水技術は、武田信玄の甲州流技術であった。

　それは、現在のように高い堤防を連続的に設けるのではなく、洪水で氾濫しやすい部分のみに、流路に平行に雁行するように断続的な堤防を設ける方法であった。これにより河道は安定化する。

　大増水の場合には、洪水は、雁行する堤防のすき間から上流側にゆるやかに溢れ出る。溢れ出ても水の勢いはゆるやかである。水が引けば肥沃な土が残る。連続高堤防でガッチリとおさえるわけではない。不連続な堤防であるから破堤は計算ずみで、その時の被害を最小限にすればよいという考え方である。洪水という一過性の災害にマッチした自然流の技術である。一時的な自然の威力をなだめたり、すかしたりできればよいという考え方である。

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