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2019.01.15
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カテゴリ: 自然・環境
図書館で『日本の景観』という本を、手にしたのです。
先日、『思考としてのランドスケープ地上学への誘い』という本を読んだところだが・・・
その勢いでこの本を読む気になったわけです。



宇太水分神社

樋口忠彦著、筑摩書房、1993年刊

<「BOOK」データベース>より
どの人にも共通して好ましいと感じられる日本の風景を「水の辺」と「山の辺」、さらに「八葉蓮華」型景観、「隠国」型景観、「蔵風得水」型景観などいくつかの典型にさかのぼり、風景が包含する精神的また空間的な特性を、文学作品や絵画を引用しつつ細かく考察する。さらに日本の景観とヨーロッパの景観を比較検討するとともに、日々変化し続ける現代の都市に生き生きとした棲息地景観を作っていくための道を探る、景観工学の代表作。サントリー学芸賞受賞作。

<読む前の大使寸評>
先日、『思考としてのランドスケープ地上学への誘い』という本を読んだところだが・・・
その勢いでこの本を読む気になったわけです。

rakuten 日本の景観

宇太水分神社

水分(みまくり)神社を、見てみましょう。
p86~89
<「水分神社」型景観>
 農耕民族にとって、水は死活にかかわる重要性をもつ。谷川の水を利用する弥生時代以降の農耕民族は、谷神を思い描き、水分神として祭った。農耕民たちが、水を豊かに分かち与えたまう流水の疎通分配を掌る神として、水分神を考えたことには何の不思議もない。

 老子は、汲めどもつきぬ水の流れ出る谷の景観を見て、そこに、天と地の生命力の根源・谷の神をみている。そしてそこに、神秘な牝・女性の象徴を見ている。これは私たち日本人にもよく分かる感覚である。

谷神は死せず、是れを玄牝という。玄牝の門、是れを天地の根という。綿綿として存するがごとし。之を用うれどもつきず

 小川環樹氏の訳をあげておきたい。
谷の神は決して死なない。それは神秘な牝と名づけられる。神秘な牝の入り口、そこが天と地の根源である。それは細々とつづいて、いつまでも残り、そこから汲み出しても、決して尽きはてることがない。

 老子は別の章で、最高の善とは水のごときものであり、水は万物に利を与えながら、争うことをせず、人々のきらう低いところにいる、あるいは、天下でもっとも柔弱なものは水であるが、堅強なものを攻めるにはこれに勝るものはない、水は傷つけることができないからであるなどと述べている。水は彼の思想の中核をなすキイ・ワードであり、すべての水が集中する水の源泉である谷は、天地の根源である神を象徴するものであった。

 谷の奥に神を見るという感覚は、老子のみならず、私達日本人のものでもあった。山から水が流れ出てくる水口のある、ころあいな広がりをもつ谷の奥の緩傾斜の山の辺の地は、もっとも安定した水源が得られる玄牝の地・谷神の棲む地である。
(中略)
 ごくわずかな傾斜をもって裾を引く水田の扇の要に位置する谷口、山から山麓の緩斜地にうつる勾配変換の地に、水分神の祭場、神社が営まれた。

 ここに生れたのが、小山田あるいは山田といわれる景観で、日本人の心のふるさと、心象風景として、今でも人々の心の中に行きつづけている景観である。柳田国男は、「古い土着の名残を留めた昔なつかしい好風景の地」と形容している。この山田の田園風景の一番奥まったところの山の辺に水分神の祭場が営まれていた。

 水分神社について柳田は、次のように述べている。
大和のいはゆる青垣山の傾斜面に、程よく分配せられた八所の水分神社なども、恐らくは今でも地形の比較によって、以前のもっと単純な営田組織と、その中心を為した田水分配の信仰を、想ひ浮かべることが出来るであらう。広大な埋立開墾地の付加があるまでは、かういふ小規模な緩傾斜の谷あひが、個々の生産単位として緊密に結合して、水を豊かに分かち与へたまふ神を、年毎に祭り続けて行くことが、全国普通の例であつた云々。(「田社考大要」)

 私は、ここでいう大和の水分神社のいくつかを訪ねてみた。『延喜式』の神名張は、大和の水分神社として、葛木水分神社、吉野水分神社、宇太水分神社、都祁水分神社の四社をのせている。柳田国男は八所の水分神社としているが、他の四社はどれをさすのかよく分からない。

 私は、最初に宇太水分神社を訪ねてみた。近鉄線の長谷寺駅と室生口大野駅のちょうど中間にある榛原という駅を下りると、そこは小野というか小盆地になっている。北から流れてくる芳野川と西から流れてくる宇陀川が合流する所で、榛原の少し下流のところが狭窄部になっている。ここは、たびたび洪水に見舞われたところではないかと思う。

 もともと、「ウダ」は「ヌタ」「ニタ」と同じく湿地を意味する言葉である。そうした湿地は反面、肥沃であるため稲作の適地であった。その周辺の台地、山沿いのところに古代の農耕集落は営まれていた。そして、この低湿地に突き出した丘陵に下井足の水分神社=宇太水分神社がある。この丘陵の下は、「落合」という地名のとおり、宇陀川と芳野川が合流している。


『日本の景観』1





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Last updated  2019.01.15 06:40:33
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