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2019.03.15
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カテゴリ: アート
図書館で『井伏鱒二(群像日本の作家)』というムック本を、手にしたのです。
ちょっと古い(群像日本の作家)シリーズであるが、写真も多く、切り口も多彩であり、なかなかのシリーズである。





ムック、小学館、1990年刊

<「BOOK」データベース>より
青春の孤独と苦悩の果てに獲得した冷厳な人間観察を通して、ユーモアとエスプリとみずみずしい感覚によって開花した井伏文学―大正・昭和・平成、三代を市井人として生きぬく現文壇の巨匠の全容に初めて総合的に迫る。

<読む前の大使寸評>
ちょっと古い(群像日本の作家)シリーズであるが、写真も多く、切り口も多彩であり、なかなかのシリーズである。

amazon 井伏鱒二(群像日本の作家)



安岡章太郎氏との交友を、見てみましょう。

<井伏鱒二:安岡章太郎>
《私にはこういう気持がある。早く田舎へ帰りたいと思う半面に、最後まで東京に執着していたいと思う気持ちがある》

 井伏鱒二全集の随筆をあつめた一巻を、手当り次第にひらくと、こんな書き出しが目についた。早く田舎へ帰りたいという思う半面、最後まで東京に執着していたい、何か面白くないことが起こるたびに、こんな気持ちになるという、・・・これは漱石の「三四郎」以来、笈を負うて東京へ出て来た学生に共通した心情であろう。

 いや何も田舎から出て来た学生だけには限るまい。げんに私自身、二日酔いの朝、厠の中などで、「ああ田舎へかえりたい」ふと、そんなことをつぶやいたりすることがある。ただ私には帰るべき田舎は、現実には存在していないというまでだ。

 漱石が、熊本から出て来た大学生の三四郎におこなった感情移入の源は、或いはロンドン留学時代の体験からだろうが、いまアメリカやヨーロッパの各地に散らばっている日本人留学生の心境も、大方はこれに似たものがあるだろう。いや異境は何も外国にだけあるのではなく、三四郎にとっては東京という都会が異境であり、現代にいたってはもはや日本という国の全体が東京と同様、異境になりつつあるともいえる。
「学モシナラズンバ」という悲愴な決意は持たなくとも、知らず知らず私たちは、揃ってストレイ・シープにはなっている。

 あれは私が芥川賞をもらって間もなくのことだから、昭和28年、いまから十何年も前のことだが、はじめて井伏さんにお目にかかり、清水町のお宅でお酒を御馳走になったとき、何かのはずみで、
「結婚の相手は、どんな女性を選ぶべきでしょうか」
 とうかがうと、井伏さんは盃を置いて、
「さアね、ぼくなら故郷の町を持っているひとが好いと思うね」
 とこたえられた。あるいは「故郷に家のあるひと」であったかもしれない。

 どっちにしても私は、この言葉から即座に現在自分が女房にしている女のことを憶い浮かべ、はたして彼女には故郷といえるようなものが、あるかどうかと疑った。そして一種不安な、やるせない気持ちに陥った。すると井伏さんは、また追い駆けるようにして、
「といっても、いまどき田舎の町が焼けずに残っているということは、めずらしいだろうがね」
 とも言われた。そして話は、猫にマタタビを嗅がせると、どんな症状をていするものかというようなことに移って行った。

・・・そのころ井伏さんはガラス瓶の中に青いマタタビの実をたくわえて、酒のさかなに用いておられたのだが、井伏さんがマタタビに慕いよる猫の真似をされると、顔つきから手つきまですっかり猫のようになってしまうのである。そして私が、その苦味のある青い実を噛んでいると、「あ、君は独身だったね。これはウッカリしていた。こんなものをすすめるんじゃなかった」
 とガラス瓶をかかえて、さも大切そうに押入れの中へしまい込み、「君が猫的にならないうちに、そのへんを散歩しよう」と阿佐ヶ谷駅の近所の飲み屋へ案内に立たれた。


『井伏鱒二(群像日本の作家)』1 :へんろう宿

この本も (群像日本の作家)シリーズ に収めておくものとします。





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Last updated  2019.03.15 21:53:49
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